夢で出逢う - meet in a dream -

LikuHa

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第4章

第90話 アイリス

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琉緒はしばらくその場から動けないでいた。

・・・いや、足が動かなかった。

(俺の記憶では確かに菜都が言った言葉だ。しかも校庭の花壇の前で言っていた・・・だが俺はその場にはいなかったはず。やっぱり俺の妄想なのか?)

琉緒は成績も良く、学校をサボったことなんて一度もなかった。

そんな琉緒が、今日は高校へ行くことができずに立ちすくんでいた。

そこへ、中学校のチャイムが聞こえて我に返る。

全身に鳥肌が立った。

心の奥底から正体不明な何かが込み上げてきて、目の奥が熱くなる。

「なんなんだよ・・・。」

切ない声で呟く彼の瞳から一筋の涙が零れ落ちた。


琉緒はその足で公会堂に向かい、何をするでもなくベンチに座っていた。

考え込んでいるうちに、ふと近藤君の言葉を思い出す。

”本当に別人なんで。本物の土田先輩は・・・死んじゃったのかもしれないっス”

聞いた時は腹が立ってしまったが、己の悩みとなにか関係していたのかもしれない。

琉緒は近藤君に詳しく話を聞かなかったことを今になって後悔した。

(ーーーまぁ近藤には今日も会えるだろう。)

何気なく人差し指をクルクルと回しながら空を飛ぶ鳥を見ていた。

そこへ・・・
 ドン!
と、誰かが背中を叩いた。

「痛って・・・。」

顔を歪めながら振り返ると、そこには弟の琉偉が息を切らして立っていた。

ずっと考え込んでた琉緒は、琉偉が近付いてきていることにも気付かなかったのだ。


「あれ?琉偉・・・学校は?何でここに・・・?」

「ったく!それは俺が聞きてぇよ。兄貴の担任から、無断欠席で親とも本人とも連絡がつかねぇって言われたんだよ。親は・・・まあ仕事だろうけど、兄貴がサボるとは思えなくてこっちはかなり心配したんだ!なのに俺は自転車の鍵を失くすし・・・くっそーツイてねぇ!!」

まだ息を切らせながら話す弟を見ると、学校からずっと走ってきたのだと分かる。

「わ・・・悪い。なんか気分悪くてここで休んでた。」

「はあー?気分悪いなら家帰って寝てればいいのに。」

「身体は大丈夫だから。それに何だかここにいたくて・・・毎日呼び出されて来てる場所なのにな。」

「確かに・・・調子は悪くなさそうだ。それなら電話くらい出ろよ。」

「え?」と言いながら慌てて携帯電話を取り出すと、電源が切れていた。

「昨日充電するの忘れてたわー・・・。」

琉偉は大きくため息をつくと、琉緒の隣に座った。

本当に心配していた琉偉だったが、兄の無事を確認すると心の中では安心していて、しばらく無言になる。

平日の昼間ということもあり、辺りはとても静かだった。

琉緒は引き続き、空を見上げて鳥を眺める。

琉偉も兄の視線の先を辿って遠くを見上げる。

雲一つない青空を飛ぶ鳥達は、まるで飛べることを自慢しているようだった・・・。


そして先に沈黙を破ったのは琉緒だ。

「もう菜都に会ったか?」

「あ?・・・あぁ会ったけど。」

「今の菜都は・・・一体誰だ?」

聞く相手が間違ってないか不安に思いながらも今一番気になることを訪ねてみた。

弟の彼女について、こんな馬鹿げた質問・・・。

真実を知りたい、だが自分の勘違いであって欲しい。

”兄貴、何おかしなこと言ってるんだ?”
そう笑って答えてくれたらどんなに良いか・・・。

そう。
普通に考えたらおかしな質問だが、弟の琉偉にはその意味が分かっている。

そして琉偉はこの時を待っていた。

お互いの鼓動が速くなる。


琉偉はスゥーッと息を吸って話し出す。

「美癒のことは・・・知ってるか?」

これは、もともと琉偉が今日新たに質問する予定だった。

琉緒は意外な名前を耳にして戸惑う。

今日まさに夢で見た少女の名だったからだ。


「みゆ・・・なぜお前がその名前を知ってるんだ!?」

寝言でも聞こえてしまったのか?

まるで自分の夢を覗かれているような恥ずかしさに顔が赤くなる。

「あの晩の記憶はないのに美癒のことは知ってるんだな。
あの晩・・・美癒が”兄貴とさっきまで一緒にいた”って言ってたからずっと気になってたんだ。」

(よ、良かった、俺の夢のことじゃない・・・。それに美癒が俺と一緒にいただって!?)

話が食い違っていることよりも、
美癒という少女が実在するという事実に驚く。

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