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第5章
第102話 彩る
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美癒がジンの補佐役に就いて1ヶ月以上が経っていた。
ジンは思ったよりも人使いが荒く、飛ぶことのできない美癒は日々あちこち走り回っている。
それは忙しさを求める美癒にとって本望であった。
そして時は遡るが
補佐役に就く直前、美癒は琉緒に会いに行くことができたのだ。
・・・そう、琉緒の壊れた箱を使うことによって。
美癒が【この世】に行く直前、ジンが行きたい場所があると言った。
ジンの行きたい場所・・・それは心花の花畑だった。
「どうしてここに・・・?」
「ははは、妖精たちが騒がしいね。美癒ちゃんの心の声がよく聞こえる。」
ジンは耳に手を添えながら耳を澄ます。
りんごのように真っ赤になった美癒は、慌ててジンの両耳をふさいだ。
「や、やめて下さいよ~!!」
一方ジンの心の声は、美癒には全く聞こえない。
静寂に包まれ、時折風の吹く音がする。
「私には妖精たちの声が聞こえません。なんで・・・?」
「ははは、僕の心を聞こうだなんて100年早いよ。」
「100年後は生きていませんって~。」
ジンは笑いながらその場にしゃがんで、足元の心花を摘んだ。
そしてそれを美癒の前へと差し出す。
立っている美癒に向かって上目遣いで見上げるジン。
美癒は状況が理解できずに3秒ほど瞬きすると、唾を飲み込んでこう言った。
「ありがとうございます。嬉しいですけど30分で枯れますよ。」
ジンは噴き出して笑い、否定した。
「もしかして見惚れてたのかな?僕は花をプレゼントするような格好いい男じゃないんだ。さあ琉緒の箱を開けよう・・・この心花を持っていきな。」
「え!?」
美癒が自分の勘違いに恥じる暇もなく、ジンが箱を開いた。
「でも”自らの痕跡を残してはいけない”ってーーー!!!」
あっという間に箱の中へと吸い込まれていった。
取り残されたジンは箱を持ち、満足そうに微笑みながら歩き進めた。
「いくら心花とはいえ、花なんてそこら中に咲いてるんだ。”痕跡”には引っかからないでしょー。」
ジンは呑気に呟いていた。
美癒にはもう聞こえていないというのに・・・。
「ーーーーきゃああああああああ!!!」
ドスン!
と、鈍い音をたてて美癒は【この世】へと到着した。
「痛っっったあぁ・・・。もう!本ッ当にジン様ったら突然なんだから!!」
腰に手を当てながら心花の無事を確認する。
「だ・・・大丈夫なのかな?」
とにかく時間がない、そう思い辺りを見渡すとここは高校だった。
もちろん美癒の姿は誰にも見えていない。
慌てて琉緒のクラスへと駆け込むが、琉緒は休みのようだ。
(どうして学校に来てないんだろう?琉緒の家に行けばいいのかしら・・・?)
そう思ったとき、通り過ぎる女子の会話が耳に入った。
「あそこに鍵落ちてない?拾って職員室に持っていく?」
「探しに戻ってきたらかわいそうじゃん?学校終わるまで残ってたら職員室に持っていこうよ。」
時間がない・・・分かっているのに、自然と視線が鍵へと向かう。
(あ・・・あの鍵!!)
美癒は一目で琉偉の鍵だと分かった。
それは自分がプレゼントしたペアのキーホルダーが付いていたから。
美癒は女子たちが通り過ぎると、手に力を込めて鍵をそっと拾い駐輪場へと向かった。
琉緒に直接渡すわけにはいかないので、琉緒の自転車に置いておこうと思ったのだ。
学校の駐輪場なので鍵を戻しても盗難の心配は少ないだろう。
だが駐輪場についた瞬間、絶望感により目の前が真っ暗になった。
「も、もー!!!琉緒の自転車どれよ!?」
探している時間は無い。
・・・琉緒の自転車を見つけるのは困難だと思い、すぐに諦めた。
ひとまず後回しだ。
また後で戻って来ても遅くはないだろう。
少しでも時間を短縮するために、美癒は神様の翼を手にした。
さあ飛ぼう・・・と思った瞬間、誰かが駐輪場へと入ってきた。
そこで聞き覚えのある声が聞こえてくる。
(この声・・・る・・・お?・・・琉緒だ!それに・・・琉偉もいる!)
美癒は咄嗟に柱の陰に隠れた。
姿が見えるはずはないだろうが、近藤君のように一度死にかけた2人には姿が見えるかもしれない、そう考えたのだ。
(そうだ、鍵!琉偉の鍵どうしよう!!もうー!!鍵が琉偉の自転車に勝手に飛んで行ってくれたらいいのに!!!)
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