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番外編
現実で出逢う③
しおりを挟む次の日の夕方、琉緒は琉偉を連れて一緒に帰ってきた。
「ただいまー。」
「お邪魔しま~す。」
玄関で琉偉の声がすると、美癒は大喜びだ。
4歳だというのに鏡の前へと走り出し、髪を整えてから玄関に駆けつける。
ドスドスと響き渡る足音が、かつての菜都の足音と被ってしまい
琉緒はひとり思い出し笑いをしていた。
「ルイー!ミユに会いにきてくれたの?」
琉緒が玄関に上がったところで、美癒が足元に抱き着く。
一緒にいる父親には、全く目もくれない。
「絵本を買うって約束しただろ。遅くなるといけないから行こう。」
「ヤッター!!ねぇねぇ、今日泊まっていくでしょ!?」
「え・・・っと~、オジちゃん明日もオシゴトだからなぁ~。」
「ヤダヤダ、ルイと一緒に寝たい!!」
台所仕事を終えた菜都が玄関へと現れ、暴走する美癒を抑制する。
「琉偉おじちゃんを困らせたら、もう遊びに来てくれなくなるわよ~。」
「それもイヤ!!」
「はははっ、週末にまた遊びに来るから風邪ひくなよ。」
「次のお休み?ミユのサッカークラブについて来てくれるの!?」
「そうだな~、久しぶりにアイツにも会いたいし。」
「ヤッター!!ミユ頑張るからね!!」
靴を履いて大はしゃぎで琉緒の手をとり、ギュッと強く握る。
繋いだ手をブンブンと振りながら玄関を出て、すぐ近くの本屋まで歩いた。
菜都と琉緒も2人の後ろをゆっくり歩いている。
「美癒は本当に琉偉が好きだよね。私が小さい頃は”パパと結婚する”って言ってたけどなぁ~。」
「琉偉は姪っ子を甘やかし過ぎなんだよ。」
「ふふっ、ホントだよね。・・・美癒が本当に美癒の生まれ変わりだったら良いのにー・・・。」
短い間、2人の間に沈黙が流れた。
目の前にいる美癒の笑い声が響き渡る。
「・・・アイツは女の子らしかった、美癒の性格は母親そっくりだ。」
2人は顔を見合わせて笑った。
そして愛おしそうに、前を歩く美癒を見つめる。
あっという間に本屋に着いた。
入り口に入った途端、美癒が急に立ち止まって振り返る。
「ルイとのデートなんだから、ママとパパはアッチいっててね!」
「で・・・デートぉ!?」
菜都と琉緒は呆れた表情で、「はいはい」と軽い返事をしたあと2人から少し距離をとった。
琉緒に向かって”ごめん”とジェスチャーしたが、琉緒は嬉しそうに美癒の頭を撫でていた。
「「・・・ダメダコリャ・・・。」」
ため息交じりの2人の声はかさなった。
つい心の声が出てしまう。
絵本以外に用事がなかった菜都と琉緒は、話題の本が並んだ棚の前をとりあえず歩いた。
そこで目につく位置に置かれている、ある本が目に入った。
「こ・・・これ?」
表紙に移る男性を指さすと、琉緒もあることに気付く。
「ッ!!あぁ・・・カンナの父親だな・・・。」
カンナの父親は、大企業の社長だった。
菜都と琉緒が【水の世界】にいたころに
一度【あの世】へ逝きかけた人物だ。
本の帯にはこのように書かれている。
”私は一度死んだ。その時に会ったのは、生まれることができなかった我らの娘だったーーー”
「・・・か、買う?」
目を輝かせながら菜都は琉緒を見上げる。
「・・・何を期待してるんだ?」
「私のことを書いてくれてるかも!」
琉緒は、ヤレヤレと言わんばかりに目を細める。
「・・・好きにしろ。」
菜都はニヤけきった顔で、本を手に取った。
(カンナ・・・どうしてるかな。楽しく子供たちと遊んでるかな?・・・まさかもう生まれ変わったのかな?会いたいなぁ・・・。)
もう二度と会うことのできない友を思いながら、上を見上げて潤いかけた瞳を乾かした。
その後、美癒と琉偉も選んだ絵本を買って家に帰った。
美癒は喜びのあまり、買った絵本を早速開封して、琉偉にサインを書いてもらっていた。
作者でもない琉偉のサイン。
・・・全く持って意味不明だ。
菜都が購入した本にも書かれているが、カンナの父親は命を吹き返したあと
身体に障害は残ったものの、企業のトップとして再び社会に貢献していた。
数年経った現在は会長となり、身内に会社のことを任せた。
個人的に児童養護施設などにも積極的に寄付をしたり、夫婦でボランティアも行っているようだ。
そして・・・今でも夫婦の間に子供は生まれていない。
2人の子供は”カンナ”だけだからーーー。
夫婦は一日たりとも娘の存在を忘れることはなかった。
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