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番外編
現実で出逢う④
しおりを挟む土曜日。
美癒は両親と叔父の琉偉と共に、通っているサッカー教室へと向かった。
今日はとても風が強い。
追い風に乗って歩いていく。
大好きな琉偉がいて嬉しい美癒は、手を繋いで満足そう。
運動場に着くと子供たちが集まっていた。
その中心には、コーチがいる。
サッカー教室のコーチは子供たちに大人気だった。
「ジン先生~~~!!」
パァッと笑顔になった美癒は、パッと琉偉とつなぐ手を離してコーチの元へと駆けていく。
琉偉は・・・少し寂しそうだ。
菜都たちは、その場に立ち止まって美癒のことを目で追うと、遠目から美癒がコーチに挨拶する仕草が確認できた。
コーチはクシャッとした笑顔を向けて美癒の頭を撫でると、サッカーボールを渡してその場から離れた。
菜都たちの存在に気付いて駆け足で近寄ってきたのだ。
「菜都先輩、琉緒先輩、こんにちは。」
「近藤君、こんにちは。」
「よっ!」
「俺もいるぜ~!!」
サッカー教室のコーチは、近藤君だった。
ずっと”プロになる”と目標を公言していた彼は、新たな道に進んでいた。
「琉偉先輩も久しぶりですね。今日は風が強いから建物の近くにいた方が良いですよ。」
「ありがとう。今日もお世話になります。」
菜都はペコリと頭を下げると、美癒に向かって手を振り3人で建物の近くへと移動した。
琉偉はガッツポーズを向けて「頑張れよ!頑張れよ!」と何度も美癒に声掛けをしていた。
***
練習が終わると子供たちは帰っていき、美癒たちだけになった。
美癒は自称”婚約者”の琉偉を呼んで、自主練に付き合ってもらっている。
「さすが菜都先輩と琉緒先輩の子供、美癒は運動神経が良い。」
サッカーボールを手に持ったまま近藤君が菜都と琉緒に話しかける。
「楽しそうだったら何でも良い。」
「私もそう思う~!本当に楽しそう。近藤君ありがとね!」
「いえいえ。菜都先輩みたいな子になると良いですね。」
3人はクスクスと小さく笑った。
「それより、近藤が普通に敬語使ってるのが慣れねぇ。」
「だよねー、あんなにいい加減な敬語だったのに。コーチになって何年かぶりに会ったら急に大人びてるんだもん。見た目も中身もね。」
「あはは、最初は気付かずに他人行儀でしたもんね。」
近藤君の言う通り、最初見学に来たときに菜都と琉緒は近藤君だと気付かなかったのだ。
「だ、だって~!!みんなに”ジン先生”って呼ばれてたから、まさか近藤君だとは思わなかった。」
「そもそも俺は近藤の名前が”ジン”だなんて知らなかった。」
「私も私も~!学年違うから余計にねぇ~。みんな”近藤”って呼んでたし。」
「ちょっと、何回その話をするんですか~。もう聞き飽きましたよ。」
旧友と会うと必ず思い出話で盛り上がる。
今のように、同じ話を何度もしてしまうことも多い。
呆れ口調の近藤君だが、本当は彼も楽しんでいた。
楽しい思いでがあるから、人は前に進める。
大人になると、昔のような行動はできないから、思い出すだけでもいい。
何度だって同じ話を繰り返しながら、懐かしい気持ちを呼び戻したい。
あまりの居心地の良さに、菜都は空を見上げる。
「葉っぱが飛んでる~。」
琉緒も菜都の視線の先を見る。
琉緒は、自身を通り抜ける風がとても心地よかった。
”葉っぱも同じ気持ちだろうか?”そう考えていると、自然と人差し指がクルクルと動きだす。
琉緒の様子を見て、近藤君はずっと気になっていたことを訊ねた。
「琉緒先輩の”それ”・・・癖ですよね。」
「え?」
無意識の行動だった琉緒は驚いて、身体はそのままの状態で視線だけを空から近藤君へと移す。
「ほら、その人差し指。」
漸く言っている意味が分かった琉緒は、視線を下げてフッと笑った。
「確かに癖みたいだ。俺なー、”アッチの世界”では空も飛べたし、人差し指だけで何でも動かせたんだ。」
「え!?超能力じゃないですか!?今は出来ないんですか?」
「ああ。こっちの世界では何にも出来ねぇ。ただの人間だ。」
いたずらっ子のような瞳を菜都に向ける。
「ちょっとー!別に私のせいじゃないでしょ!?」
「何も言ってねぇだろ。」
「目が言ってた!!」
「目は喋らねぇぞ。」
再び2人のくだらない喧嘩が始まった。
それにすら慣れている近藤君は、視線を美癒と琉偉に移す。
「・・・ずっと思ってました。琉偉先輩には琉緒先輩っていうお兄さんがいる。”兄弟”って良いっすよね。俺も本当はいたはずなのに・・・。」
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