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番外編
現実で出逢う⑤
しおりを挟むーーー風が止んだ。
「本当は・・・いた?」
兄弟がいないことを知っていたからこそ、2人は近藤君の言葉に引っかかったが、先に琉緒が反応した。
以前、近藤君に中学校へ連れて行かれた時
”兄弟がいない”とハッキリ言っていたからだ。
心臓がドクドクと高鳴り、自然と琉緒の目つきは鋭くなる。
「へー、近藤君って一人っ子だと思ってた~!」
ただただ驚いているだけの菜都を見て、近藤君はフッと笑う。
「その通り、一人っ子ですけど本当は兄がいたそうです。死産だったんですけどね。でもやっぱり兄には憧れてて・・・たまに兄がいる夢を見ちゃいます。」
「それで過去形だったのか~。」
呑気に返す菜都の言葉に被せて、琉緒が早口で訊ねる。
「母親から聞いたのか?他には?他に何か言ってなかったか?」
納得してない琉緒の目つきは鋭いままだ。
妙な質問だったが、ここに来て漸く菜都にも琉緒の質問の意味が理解できた。
「え?他に・・・?うーん・・・。」
近藤君は首を傾けながら少し戸惑っていたが、考え込んだあとに答える。
「あ!確か”ジン”って名前、本当は兄に付けようとしてたって言ってました。子供の名前は絶対に”ジン”って決めてたらしくて、兄に名付けることが出来なかったから俺がジンになりました。
あとは・・・子供は2人欲しかったけど、俺を生んだ後に病気で子宮を取ったから俺は一人っ子って。それ以外は・・・何も聞いてないと思います。」
菜都と琉緒は、近藤君の話を前半聞いだけで納得した。
そしてお互い顔を見合わせたあと、声を出して笑った。
「そういうことだったんだー。」
「それであの時は焦ってんだな。」
「近藤君の名前が”ジン”って知った時は、すごい偶然だなって思ってたの!」
「あいつも本物の兄貴だったんだな。」
先程までの張り詰めた雰囲気が無かったかのように明るくなる。
近藤君は、菜都と琉緒の会話についていけなかった。
「え?どういう・・・?」
再び強い風が吹き始めた。
菜都はなびく髪の毛を片手で束ねながら答える。
「ごめんごめん。私たちね、近藤君のお兄さんと”あっちの世界”で一緒にいたよ。近藤君が死にかけた時に私と会えたのは、お兄さんが連れて行ってくれたから。離れた所で私達を見守ってたんだよ。」
「は?」
「そうだ。お前のこと”助かって欲しい”ってハッキリ言ってたぞ。」
「え?」
「かなり有名な人でね、優秀だからお偉いさんなんだよ。」
知らないところで兄に守られていた。
それはどれだけ幸せなことだろうか?
近藤君の思考は一時停止したあと、瞳がどんどん潤いはじめる。
「あ・・・会いたかった・・・ーーーッ」
素直な言葉が勝手に出てくる。
菜都が姉のようで、琉緒が兄のような存在ではあるが、生きていたら本物の兄がいたはずだった。
だからこそ、一目でも会ってみたかった。
「アイツ、あっちで”すべきことがある”って言ってた。生涯神様の側にいるつもりだ。だからきっと・・・ずっと見守ってくれてるだろ。」
「そうだよ、それにさっきお兄さんの夢を見るって言ってたよね?あながち本当にお兄さんかもしれないよ。ジン様そういうこともできるみたいだし。」
とうとう近藤君の瞳から涙が溢れてしまった。
本当に会いに来てくれるのなら夢でも良いと思う。
言葉も出さず、必死に腕で涙を拭う。
「ふふっ、男の涙って可愛いよねぇ~。」
「今それを言うな。」
「ごめんごめん。ね、近藤君。うちの子は本当に美癒の生まれ変わりのような気がするの。」
「・・・はい、美癒先輩の生まれ変わりで間違いないです。」
「だよね~!ジン様が言ってた。魂が引き寄せ合うから来世でも会える・・・って。だから、いつかお兄さんに会える時が来るって信じようよ。」
菜都と琉緒は、美癒と琉偉を見て微笑む。
近藤君は何も言わずに、何度も何度も頷いた。
ーーーそう、いつかはこの世から皆いなくなるだろう。
でも来世でも会える。
それがどんな形なのかは分からないが、きっとまた好きになる。
記憶がなくたって、今周りにいるみんなを来世でも好きになる。
そうやって続いていくんだ。
だから今を精一杯生きよう。
来世でも再び会えるように・・・ーーーー
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