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犬子鬼

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生体機械の脳は・・・と云うか脳は無い!『能無し』である!!
・・・スイマセン、盛大にスベりました。あぁっ、お客さんっ見棄てないでっ、これからが面白くなる・・・わけがある筈無いYO!(風切り音

―――少々お待ち下さい、猫叉の殺死体処理ちう―――

とは言え生体機械は首が飛んだ位では死なないのデース・・・。
連続体虹の糸を伸ばして首を戻し再結合、ネットワーク正常、意識&無意識も問題無し、他の意識野共有化身アバターが居るなら尚良し。
在るのは原初の多細胞生物から連綿と続く―――捕食、消化、吸収、排泄のシステム。臓器は無い、管が一本在る様なモノである。それに寄り添い連続体が構成する生命の樹に似たネットワーク網が在り、ソレに繋がる幾千幾万それ以上のヘキサグラムの連なり、その中心に有るリンパ液の様なモノが蓄積し、トリニティユニットを活動させる。細胞一個が生体データを暗号遺伝子化して日々更新しているが、魂と呼ばれるモノは個体を構成していると云う情報全て、其のネットワークの統合意識に宿る―――
基本構成数を下回ると、魂の器たり得なく為るのか崩壊が始まる。AIプログラムを走らせるなら連続体から元に戻せる。が『魂』は二度と戻らない、『死』ぬのだ。AIは学習して限り無く人に近いナニか、双子の別人と成る。

因みにハムスター達は普段は個別端末プログラム、みたらしの統合人格で一つの意識野と為る。そこにメインサーバ×3のサポートで『ノルニル』・・・いや、一つの神格として『ノルン』と喚ぶべきか。

死んだ魂とは何か。死んだら身体が軽く為る現象が有るが、生体機械の場合、量子反応を起こす凝縮された情報粒子が観測されなくなる―――まるで周りを巻き込んで虚無の向こう側に消えた―――事が有って、もしかすると生身の死滅する細胞の中でも同じ事がと観測されたが殆どは酵素に拠るもので微かな―――観測、認識不可(極小世界での可能性の枝分かれ)―――量子反応が。

『分け御霊キューブ』それは対象の全生体データ、転写コピーした魂の容れ物である。
遺伝子データは勿論、ネットワーク(脳全体と脊髄神経、他の各内臓神経は原始の脳とも言える)×暗号遺伝子化、そして生身の量子反応をキューブのトリニティユニットに同調させる。これを以って分け御霊とする。
兄妹の兄の分け御霊だが、全体の10%以上が欠損している。主に記憶関連と内臓だ。空腹と関連付けた出来事、あの映像で視た『ほっこり』するやり取り、妹の事が思い出せないかも知れない。
兄妹の妹は髪の毛に残る遺伝子データしか無い。それでも自分の我儘でしか無いが、兄妹は一緒に居させて遣りたい。

しらたま(小鬼類妖型化身アバタータイプ『コボルト』で)
樹精端末『欠損が或ります、矛盾解消補正して精神再構成致しますか?』
しらたま(いや、その儘で良い、こいつなら自力で自分を取り返す)
樹精端末『解りました、キューブ解放、並列処理を開始致します』
しらたま(この毛髪と映像データで、こいつの『妹』を頼めないだろうか?)
樹精端末『・・・管理分析特化メインサーバ『ウルズ』未来予測特化メインサーバ『スクルド』に協力要請、受諾されました。スクルド様より返信有り『全力で協力します』だそうです』

え、と驚いた。今迄様々な人に願いを託され、何か感じ想う処が遇ったのだろう。感謝し続けてもし切れなかった。
ウルズから映像データを元に最適な過去の生体候補が抽出され、スクルドが生体ネットワーク成長過程をシュミレーション・・・心配に為る程の結果が表れ、遂に最適解とキューブ(!)が生成された。兄の情報粒子が量子干渉―同調される。

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黒い焦げ茶で長めの体毛、直立する幼犬と云った姿、黒目がちな茶色い瞳、尻尾はふさふさでぱたぱたと、80cmと60cm位の二体が上着と帽子を着けている。
そんな『可愛いは正義!』を体現したコボルト兄妹は現在―――

しらたま(待てや、みたらしゴルァあぁぁ!この幼児誘拐犯がぁ!!)
みたらし「私がママ、わたしはママ!うへへへへぇ~」

―――ナニをトチ狂ったのか分からん、みたらしおねーさんに攫われていた。・・・コンナノ『ノルン』ジャナイ、ダメ、ゼッタイ・・・子供に見せちゃな!!

ハムスター(ナンか、ホントスミマセン・・・しらたま様)

いや、アンタも吾輩に交換条件でこんな姿にさせといて・・・断れるかよ、恩が在る。そのスクルド(ハムスター)は肩の上で恥ずかしさに赤くした顔を両前足で隠して謝罪している。
ふと視線を感じると、おねーさんの肩越しに兄妹が眼をキラキラさせて吾輩を視て興奮気味。恐らく、あの世界的に有名な欧州民話を貰うか拾って読んだコトが有るのだろう。
羽飾りの付いた帽子、短めのマント、腰のベルトに差したレイピア、そして代名詞とも云うべき長靴!・・・『長靴を履いた猫(叉、伊国では狐)』・・・ダヨorz

スクルド(ゴメンナサイ、姉様達止める気が無いドコロか悪ノリしてるの・・・凍結フリーズコードお預けしますので、私の制御領域だけでも止めて下さい。お願いします、しらたま様)
しらたま(苦労してそうですね・・・元より其の積もりです、コードお預かりしますよ、スクルド様。力に成らせて頂きます、その人柄(神柄?)に惚れましたしね!では・・・いざ!)
スクルド(え、な・・・)
しらたま(参る!!)

スクルド(ハムスター)を宙に残し、瞬時にみたらしの頭上で『尻尾落とし』を喰らわせ、回転しながら着地し倒れて来る胴体にバネの様に肘打ち、浮かせつつ肉球を当てコード発動ガードキャンセル、震脚踏み込み波動を拳に収束、ゼロ距離で―――猫パンチ?籠められた力に反して音は全くせずに対象のみを歪みが―――

しらたま(・・・弾けろ)

本能(煩悩?)に負けたみたらしおねーさんなど敵ですら無い。数千体のハムスターが降り注ぐ中、尻尾で落ちるコボルト兄妹を確保、其の儘引き寄せて・・・背が足りないので尻尾で(良し良し怖かった・・・様では無いな)と頭を撫でた。

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未緒「イヌのおまわりさんにつかまったの?・・・ついにっ、ごよぉーだぁーーっ?!」

心配して居たのだろう、勢い良く開いた扉からシーツを被った寝間着姿で飛び出して来た未緒が吾輩を視て開口一番見栄を切り?そう宣った。
吾輩はまるで―――コートを着込んだ軍人さんに両手を捕まれ連行される宇宙人グレイ。コボルト兄妹が離してくれず、胴を伸ばして長靴を地面に擦らせていた。
てか未緒よ、ついにって、御用って何だ。吾輩悲しい。

未緒「えへへ、わんちゃんおいでー、きゃー小っこいほぅげんきー」

妹が直ぐに未緒に戯れ付き、兄はオドオドして妹が失礼をしたんじゃないかと吾輩と未緒を交互に見遣る。妹はともかく、兄は人格がしっかりしている様だ。
妹と一緒に生活出来る事に恩義など感じんでも良いのだが・・・更にこの衣装でみたらしをノシた時、英雄視でもしたのか『長靴のアニキ!』『あにきー』とか呼び出す始末。
因みにみたらし(ハムちゃんず)はスクルドに拘束コードを掛けられ、拷も・・・げふげふん、反省ちうで在る。スクルドの姉様達は我間せずと逃げたらしい。
結局兄妹共々、座り込んだ未緒に首に腕を廻され抱かれている。未緒の身長は10Xcm位だから、流石に振り回す訳にもいくまい。兄妹の後ろ頭を看て『ポン』と手を打つ未緒。

未緒「おにいちゃんが『こしあん』ちゃんでー、いもうとちゃんが『つぶあん』ちゃんね!」

毎度の台詞を唱え、可愛いお腹を豪快に鳴らす未緒。
我慢し切れず兄妹のパタモフ尻尾を猫パンチしていた吾輩に、兄妹は血の気が引いた涙目でガクガクブルブルしながら(アニキ~)(あに~)と救いを求めるのだった。はいはい、ごはんですよー。カンカンカンカンッ(柏木打ち

しらたま(大きいフライヤーが有るのは素晴らしいネ!)

欠食児童がカウンター席に並んで居る。左手にご飯、右手に箸か先割れスプーン(笑)、目の前には天つゆと粗塩の器、皿の上に編み草の敷物、さっぱりお吸い物である。
天つゆで判るだろうが、今日の品目は用意さえすれば手早くご馳走出来る『海鮮天麩羅』である。出汁を合わせて溶いた衣、ソレを落とし油の温度を見、様々な材料に衣を着け次々に揚げ、油と熱が落ちるのを待つ。

しらたま(へい、お待ち!)

欠食児童の待つ敷物の上に載せていく。おさかなの切り身、海老の剥き身、烏賊の切り身、大蟹の剥き脚、大貝の貝柱、野菜は小物と一緒にかき揚げで纏めてある。
こしあんつぶあん兄妹が目を見開き(ホントに食べてもイイの?)と不安げにして居たので笑顔で優しく頷いて次々に追加を載せ続けると『いただきます!』をする未緒を見倣って食べ始めた。
甘めにした天つゆにくぐらせて一口、身体を震わせると次々に口に入れ始める。やがて涙を流し始めた。

つぶあん(おいしーね!にいちゃ!)
こしあん(うん、美味い、美味い・・・よ・・・っ、皆にも食わせて・・・やりたかったよ・・・っ)

吾輩は自分の賄い用に揚げた貝の紐ワタ天と芋焼酎(サツマイモ!飛行艇の積み荷?が流れ着いてたのを殖やして醸造、海の中で熟成)にイカの塩辛を肴に、こしあんに向かって供養だと云う。

しらたま(死んだ仲間の分まで喰ってやれ・・・手前の気が済むまでな)
こしあん(アニキ・・・はい・・・っ)

自分が言えた義理じゃ無いが・・・兄の前に熱い湯呑みを置き、嗚咽に背中を向けて揚げ続けた。

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玉子、牛乳、バター、チーズ・・・鶏さん牛さん、ありがとおうっ!豚さんは・・・デキた子供を無菌豚育成スペースに!すまん、美味しい生ハムとか追求したいのだっ・・・そんな粒らな瞳で見ないでっ!?

未緒「んしょ、か~わい~いこぶたさんぅ、裡れてゆぅ~くぅ~YO!っとぉ」
しらたま(・・・・・・(汗&ナンか違う汗)・・・・・・)

吾輩がおニクの美味しさを力説したせいか、親豚から嬉々として仔豚を連れ去る防疫服姿の未緒が女前?に『ドナドナ子豚ver.』を唄う。チョット未緒さん?・・・コボルト兄妹を見ると未緒のリズムにウズウズ、踊り手伝い始める。って、キミ達?・・・やがてノッてキタのか共に大合唱!「((どなどなど~なぁど~なー、かぁとがスベってこーなりんぐっ!」))・・・集めた仔豚を載せたカートが車輪を軋ませ隔離部屋に飛び込んで逝った。
吾輩は顔に親豚の蹄を喰らい呆け?っ)゚д゚ )彡そう!・・・いや、ナニこの置いてけぼり感、ナンでこうなった?!

しらたま(切羽詰ん?だ時は吾輩も『不思議空間ドナドナ』されかねん・・・三味線の材料として売られ無い様に精進しよう)

ポツンと一人(一匹?)淋しく残され呟いた独り言に、背すじから尻尾まで震えた猫叉だった。・・・ん、本来の目的を忘れちゃいかん。・・・一人だし、バターを造ろう!言っとくが、吾輩が木の周りをグルグル廻るワケじゃ無いよっ!

屋外オーブンから芳ばしく甘い香りが漂い、鼻をくすぐる。一回目はお試しで焼いている。ホントはバニラ豆とかシナモンとかカカオ豆とかアーモンドとか抹茶とかドライフルーツとか・・・無いモノねだりだと判っちゃあ要るが諦め切れない。シンプルに出来上がった無塩バターと鶏さんの生みたて玉子、小麦粉、砂糖のみで。あ、黒胡麻有るからプレーンと黒胡麻クッキーの二種類出来るな。

未緒「しらたまちゃーん」
餡粉兄妹(アニキー)(あにー)

ふふふ、甘い匂いに釣られて来た様だな。お試しが焼けた処だ、味見して貰おうか・・・その前に。バターの余り、搾り立ての牛乳を飲ませてあげよう。

未緒「・・・」
餡粉兄妹(・・・)(・・・)

一口、無言・・・いや、其の儘一気飲み。口の周りに白いヒゲが出来上がる。眼をキラキラさせて『もっと飲みたい』とせがまれるが、試作クッキーも味見して貰わなければと差し出した。

未緒「あまーくてサクサクしておいしい!」
餡粉兄妹(こんなのあるんだ・・・)(んうー、ん~!)

次々に口の中に消えてゆく、喉が渇くだろう追加のミルクを注いでやる。笑顔が吾輩のココロをこの上無くほっこりさせる。焼き菓子は計量や時間を間違え無ければ、余程の事が無い限り失敗する事は無い。材料も新鮮そのもの劣化無しだしな。

未緒&つぶ「しらたまちゃん・・・」(あにー・・・)

失くなってしまったのだろう絶望的な顔をする。苦笑しつつ『手伝ってくれるかな?』と提案した。

未緒「ぽんぽんっ、かたぬきおもしろーい」
つぶあん(にゃん!・・・わん!・・・)
こしあん(兵隊さん、飛行機とか)

欲しい抜き型を生成して未緒達に与え、延ばしたペースト二種類を抜いて貰う。陶器製のトレイに並べて貰い、温めて有るオーブンに個別にセット、焼いていった。

未緒「つぶあんちゃんのかわいい!う~、たべるのもったいないよぅ」
つぶあん(ほし、つき、みおちゃ、にいちゃ、あにきー)
こしあん(どうですか?アニキ!)

食べ切れない程出来た、三人共楽しそうだ。少し分けておく、袋に容れ未緒も使っているリボンで結ぶ。・・・後でみたらし達に差し入れとして持って行こう、スクルド&姉様達も食べるだろうか?
自分用に煎れた昆布茶を喉に流す。やはり茶葉が欲しいな・・・日本茶だよな~・・・はぁ、ため息が出る。
静かに為っていたので見ると三人共夢の中だった。

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しらたま(・・・失礼します、みたらし達居るかー?)

あの後、飼育試験所の仮眠室らしき処に三人を運びシーツを掛けておいた。
其れから聞いていた拷も・・・げふげふん、反省室に足を運んで観たのだが・・・其処には―――白く燃え尽きたハムちゃんずが居た。

しらたま(おーい、生きてるかー?みたらしー?)

・・・返事が無い、只の屍の様だな。他の数千体居るハムスター達は此処に来る事が出来ないらしい、スクルドの制御下に或るのだろうか?・・・いや、触らぬ神に祟り無しってトコロか?

スクルド「しらたま様!いらっしゃって居たのですか?」
しらたま(スクルドさ―――ぶはっ?!)

シャワーでも浴びて居たのだろう―――人型は未緒より五つ六つ上だろうか?―――肩から掛けたバスタオル一枚だった。絹を裂く様な悲鳴が上がった。

―――30分後―――

しらたま(スクルド様ー?いい加減に出て来て下さいよー?)
スクルド「うぅ~、もう私お嫁に行けません」

お嫁って・・・アンタ、生体メインサーバでしょうが・・・みたらしといい、人型だと結婚願望が芽生えるモンなのか?

スクルド「でも、しらたま様は私に惚れたと言って下さいました。このまま―――」
しらたま(えーと、スクルド様?吾輩は人柄に―――)

何時の間にかクッキーの入った袋を落としていた。其のリボンがハムちゃんずの死んだ魚の様な目に―――

みたらし(((未緒様マスター~!!)))
しらたま(うおっ?!活き還った?!)
みたらし(((未緒様、未緒様、未緒様~!!)))

ハム顔を涙と鼻水で大変な事にしたハムちゃんずが、クッキー袋に頬摺りしまくる。おい、中の未緒達に手伝って貰って造ったクッキーが―――

スクルド「み~た~ら~し~?調きょ・・・けふっ、お仕置きが足りない様ですね?」

ハムちゃんずは死んだ。

―――更に30分後―――

しらたま(えーと、それ位で・・・未緒達と一緒に造ったクッキーと搾り立ての牛乳が有るのでおやつタイムと行きませんか?)

テーブルを囲んで・・・みたらしは一部制限解除して貰ってスクルドと同じ位の人型と成り、未緒の型であろうクッキーを涙を浮かべてカリカリしている。スクルドはミルクを口に含んでほわっとした後、クッキーを口にし味わい呑み込むなり宣った。

スクルド「お嫁に来て下さい」

スルーして質問を口にする。あ、泣きそう。

しらたま(今は西暦で何年なんでしょうか?)





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伍話了。
ここ迄読んで下さり本当に有り難う御座います。
本土に往く予定が延びまくってます、でわまた。
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