かしましくかがやいて

優蘭みこ

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愛・響き合う

16.莉子の決心

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「……証…って」
「必ず迎えに来るって言う約束の証明よ」
「約束は証明できるものじゃないと思う…けど」
「でも、それが出来れば安心できるでしょ」
「う、ん、まぁ、ねぇ」
「やり様はあるわよ」
「え?」

少し驚きが滲む紗久良の表情に莉子は意味深な笑顔を見せただけでそれ以上言葉を発する事は無かった。ステージ上では演奏に合わせてサンタとトナカイがラインダンスを踊っていたりする。そして爆笑に包まれながら二組目の演奏は終了した。

★★★

「さて、それで各々方おのおのがた、参るでござるぞ」

自分達の出番の二つ前のチームが楽屋に戻って来ると今野の宣言で、迫る出番に備え楽器と譜面台を持って椅子から立ち上がると、凜達は全員で視線を交わしてから楽屋を後にして上手の舞台袖に向かって移動を始める。この瞬間が一番緊張する場面で、凜は何故かトイレに行きたくなったりすることが多かったりしたりするのだが、そんな事を言っている場合では無く、只管勇気を奮わせるのだ。

★★★

舞台袖からちらりと客席を覗くと眩しいライトに照らされた檀上とは相反してクラヤ闇に包まれた客席がほぼ満席な様子が伺えた。

「いっぱいだね」

横から同じく除き込む摩耶の声が聞こえて凜はこくんと頷いて見せる。同時に再び摩耶が一言。

「なんか、燃えるよね」

再び凜はこくんと頷いて見せてから何か思い返すような表情を作って見せると摩耶の方にゆっくりと顔を向けて苦笑いを浮かべなて見せながら少し躊躇しつつも今の心境を言葉にしてみる。

「も、燃えるかどうかはちょっと……」
「え、そ、そうかな。私、人前に出ると燃えるけど」
「あ、成程ね……」

凜は摩耶が可愛い衣装に身を包みステージの上で歌い踊る姿を思い浮かべて見たりした。そして、漆黒の闇に包まれて見える客席と、乱反射する眩しいライトのコントラストは言われてみれば確かに心を燃やすのかも知れないとも思った。

そして前のチームの演奏が終了し、凜達の出番がやって来る。皆で一度目配めくばせをした後それぞれ楽器と譜面台を持ちステージ中央に進み出る。するとまるでレーザービームの様な照明に各々が持つ楽器に反射して命を与えられ生き物の様に輝きを放つ。

「お、凜君出て来たぞ」

口元に右手の人差し指を当てながら嬉しそうに微笑みながら呟いた莉子の声が紗久良に届き、笑みの中にも少し不安そうな表情の紗久良は心の中で大きな声で『頑張れ~~~』と叫ぶと同時に凜が着ているワインレッドのドレスになぜか胸がきゅんと締め付けられて、初めてドレスアップしてステージに立つ彼女の姿に変な感動が沸き上がり目頭が熱くなる。

「何よ紗久良、あんた泣いてるの」
「そ、そんな事は」

瞳が潤み体が少し震えているのが恥ずかしくて紗久良は思わず頬を染め、ほんのちょっとぞんざいさを混ぜながらそう答えては見た物のステージ上の凜の姿の眩しさに胸が締め付けらた感情は押し隠すことは出来なかった。

「紗久良、本気で惚れたんだね」
「え?」

その言葉に見せてしまった恥じらいとときめきに紗久良の頬は紅色に染まる。

「よし、分かった。凜君は紗久良にあげる」
「……は?」
「私は今野と付き合ってみる。そして幸せになるのだよ」
「莉子……」

そう言って弾ける様な微笑ほほえみを見せる莉子が眩しく輝いて見えたのはステージに降り注ぐ照明が乱反射ししているからだけではない、莉子の交じりっ気の無い本気が彼女を輝かせているのだ。それを察した時、紗久良の瞳から熱くて爽やかでそして祝福の思いが詰まった涙が零れ落ちる。

「泣くな紗久良、私の為の涙ならまだ早いぞ」
「そ、そうだね、まだまだこれから先の、まだまだ未来の話だもんね」

はにかみながら大きく頷く莉子の姿に再び大粒に涙が零れるが紗久良はそれを拭おうともしないから、莉子はバッグからハンカチを取り出して彼女の目元をそっと拭いながら彼女の耳元で小さな声で囁いた。

「さて、次はホントに紗久良の番だからね」
「私の?」

まだ乾ききらない頬で莉子に向けた視線は彼女の言葉の真意が分かっていない様だった。勿論これから起こる事も紗久良には想像出来ていなかった。一瞬ぽかんとした合間に凜達のチームの演奏は無事に終了し、メンバーが立ち上がって一礼すると同時に場内は大きな拍手に包まれる。二人はそれに合わせて慌てて拍手を送る、しかし紗久良は莉子の決意を聞いていたが為に凜の演奏をしっかりと効く事が出来なかったことが少し残念に感じられた。しかし、彼女のワインレッドのドレス姿はおそらく一生忘れる事は無いと思った。

ステージからの去り際に紗久良は凜に向けて小さく手を振って見せたがその姿が見えたかどうかは定かではない。ただ、客席に向けて微笑んで見せたその面差しは自分に向けられている様に感じられたのは莉子の本気で惚れたねと言う言葉に共鳴したからかも知れなかった。

★★★

「いやいやいやいやどうもどうもお疲れ様」

楽屋に戻り満面の笑みを浮かべ、この一年で一番上機嫌な表情を見せながら今野はメンバーに謝辞を告げる。メンバーの中で誰がリーダーかと言う明確な定義は無いのだが一応宇丁と言う立場であり、これまでの練習の中である程度中心人物的な立ち位置にいたから一言述べる事に違和感は無い。ただ、摩耶はちょっと悔しそうな面持ちを今野に向けている。

何故か?実は演奏中に『キィィッ』と言う音を意図せず出してしまう『スクリーチング』をやってしまったのだ。勿論今野はその表情の意味を理解出来ていたから優しく微笑みながらこう言った。

「しょうがないよ、プロでもやるんだから。これは木管の宿命だよ」

泣きそうだった摩耶の表情が少しずつ緩みゆっくりと笑顔に変わって行く。その様子を見ながら今野は最後に一言こう言った。

「さて、最後の演奏が残ってるから、それでびしっと〆ましょう」

メンバーの元気な返事が楽屋に響く。そして、皆の笑顔の裏に隠された企みを凜はまだ知らなかった。
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