かしましくかがやいて

優蘭みこ

文字の大きさ
70 / 77
愛・響き合う

17.本気でオンリーユー

しおりを挟む
演目は進んで最後のグループの演奏も終盤に入り楽しい時間は間も無く終わりを告げようとしていた。

小グループでの演奏が終了した吹奏楽部のメンバーは最終曲の全体演奏準備の為に舞台袖に集合し皆それぞれの表情を見せる。うまく演奏で着た者は満面の笑みを湛え、ちょっと悔いが残るもの表情は少し暗かったりす。しかし、それぞれに満足感と課題を見つけて次に繋げようとする気合は十分の様だった。

間もなく最後のグループの演奏が終了し、舞台の照明が少し落とされるのを見計らって、皆が協力して素早くステージ上の椅子の配置を慌ただしく変更する。そして、体制が整ったところで、それぞれが着席し直し、再び照明が灯されると場内は拍手喝采に包まれた。

その日最後の演目は顧問のスローなタクトで始まった。

曲はクリスマスと言うイベントにふさわしいロマンティックでメロディアスでちょっと瞳が潤んでしまいそうな『Leroy Anderson』作曲『A Christmas Festival』。会場は優しくて少し胸がきゅんとする雰囲気に満たされて、心が乗った演奏は進んで行く。顧問の吉川は少し大袈裟なタクトの振り方を見せているがコンサートの時にはいつもそうだから皆はそれを気にする事も無い。少し長めではあるが、演目はクライマックスの重厚な和音と共に劇的にエンディングを迎え終了した。

吉川は指揮台を降りて客席に向かって一礼してから吹奏楽部のメンバーを紹介する様に皆を手で指示して見せる。それに合わせて拍手の渦は激しくなりそれが段々と『アンコール』に変わって行く。吉川は頃合いを見計らって再び指揮台に上ると笑顔で部員一度見まわしてから再びタクトを上げる。それと同時に拍手は止み静けさが戻る。

凜は譜面台の楽譜を捲り、アンコール用に用意された曲の譜面を用意する。アンコールが有れば演奏する予定の曲は『STAR WARS EpisodeⅣ』のエンディングテーマ『Throne Room/End Title(玉座の間/エンドタイトル)』。クリスマスに関係無いじゃんと言う意見も出たのだが勇壮でノリが良くて気持ちよく終われるからと言う理由と個人的な嗜好で今野がゴリ押ししたのだ。

そして蘇った静寂の中、吉川のタクトが降られ演奏が始まると、凜もユーホニアムを構えて出番を待ちながら譜面とタクトを交互に見ながらタイミングを計る……しかし、始まった曲に凜は激しい違和感を覚えた。

なぜならば始まった曲が予定とは全く違う『メンデルスゾーン』の『結婚ウェディング行進曲マーチ』だったからだ。しかも、オリジナルの楽曲とはかなりアレンジが違っていてシンセサイザーで作られた重厚なパイプオルガンの音色が流れゆっくりと旋律で奏でられ、更にメロディの後半に入るとドラムとベースギターが乗り厚いテンポを刻んで行くと、凜はこれがとあるポップスのイントロである事に気が付いた。

そしてイントロが終わる直前、摩耶が徐に立ち上がるとマイクを構えその曲を歌いながら凜に向かって近づくと彼女の横で立ち止まり、楽器を置く様に促した。

摩耶が歌っているのはは80年代のヒット曲で『竹内まりや』作詞作曲の『本気でオンリーユー』。全編英語歌詞の曲だが摩耶はそつなく歌い熟|《こな》し、ほんのちょっと潤んだ瞳を凜に向ける。しかし当然ながら凜にはその意味が分からないからきょとんとした表情で彼女の顔を見詰めるしかなかった。そして、それを合図に今度は客席の莉子が立ち上がると紗久良の手を取り彼女にも立ち上がる様に促した。もちろん彼女も何が起こっているのか全く理解出来ないまま無意識にそれに従い莉子に手を引かれて通路に出るとステージに向かって歩き出す。

その姿を後ろからピンスポットが追いかける。

莉子と紗久良が舞台横の階段からステージに上り中央まで来たのを確認すると摩耶は凜の手を取りその場所まで誘導し二人を対面させた。

「……え?」

なにがなんだか全く訳が分からない展開に凜は只管ひたすら狼狽ろうばいするが摩耶は凜に小さなベルベットの指輪入れを渡し、それを開ける様に目で合図する。凜はそれに従ってその箱を開けてみると中には小さなダイヤモンドがあしらわれた銀色の指輪が収められていた。それを不思議そうに凜が見詰めていると摩耶は彼女の肩を押さえて無理矢理ひざまずかせた。意味不明の展開で凜の頭の中は激しいパニック状態だったが紗久良の横に移動した麻耶がちょこんとウィンクして見せた時、やっと全ての意味を理解してびっきりの笑顔を作って見せると跪いたまま両手でリングケースを紗久良に向けて掲げて見せた。

しかし、今度は紗久良はその意味を理解せず、かなり慌てた様子で左右に立っている麻耶と莉子を交互にきょときょとと見つめるが、二人は微笑んでいるだけで、何も語ろうとしなかった。だが、このままでは話が先に進まないと思った莉子は紗久良の身も下で小さな声で呟いた。

「もう、良いからまず一歩前に進みなさい、そんで、凜君の指をを受け取るの」
「……え、どうして」
「凜君の眼を見なさい、何か言いたそうでしょ?」
「何か……って」

紗久良は凜の瞳をじっと見つめた。降りそそぐスポットライトの反射なのかもしれないが彼女の瞳は清々しくそして極めて真剣な輝きを見せていた。

「あ……」

その輝きが何を表しているのかに気が付いた時、紗久良は小さく声を上げ、同時に自然に頬が緩み、感動と溢れ出る思いで胸が激しく締め付けられるのを感じた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。 「再婚するから」 そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。 次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。 それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。 ※他サイトにも掲載しております

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

せんせいとおばさん

悠生ゆう
恋愛
創作百合 樹梨は小学校の教師をしている。今年になりはじめてクラス担任を持つことになった。毎日張り詰めている中、クラスの児童の流里が怪我をした。母親に連絡をしたところ、引き取りに現れたのは流里の叔母のすみ枝だった。樹梨は、飄々としたすみ枝に惹かれていく。 ※学校の先生のお仕事の実情は知りませんので、間違っている部分がっあたらすみません。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

春に狂(くる)う

転生新語
恋愛
 先輩と後輩、というだけの関係。後輩の少女の体を、私はホテルで時間を掛けて味わう。  小説家になろう、カクヨムに投稿しています。  小説家になろう→https://ncode.syosetu.com/n5251id/  カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330654752443761

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

小さくなって寝ている先輩にキスをしようとしたら、バレて逆にキスをされてしまった話

穂鈴 えい
恋愛
ある日の放課後、部室に入ったわたしは、普段しっかりとした先輩が無防備な姿で眠っているのに気がついた。ひっそりと片思いを抱いている先輩にキスがしたくて縮小薬を飲んで100分の1サイズで近づくのだが、途中で気づかれてしまったわたしは、逆に先輩に弄ばれてしまい……。

処理中です...