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1.不機嫌なわたしとご機嫌な先輩
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ガチャンッと脚立が後ろに倒れた。
足を踏み外した私は、存外しっかりした筋肉を持っていた先輩に抱きとめられ無事だった。
「もう少しで『女子高生が脚立から落ちて死亡』って、夕方のニュースになるところでしたよ」
「そう簡単には死なない」
「わかんないじゃないですか!打ち所が悪かったらー」
「死なない。おれが受け止めるから」
(なんなんだこの人!人の気も知らないで…)
そこではたと数秒前を思い出す。
足を踏み外した原因の先輩の発言だ。
「だいたい!…先輩が変な事言うからじゃないですか」
真意を問おうと見つめ返せば、きょとんとした顔で首を傾げられる。
美形がすると破壊力抜群だ。
これで私のHPゲージは赤く点滅している。
「だってよく褒めてくれるだろ。緋山はおれの作品だけじゃなくて、あり方?を肯定してくれる。だから何でだろうと思って」
「ああ、そういう」
ほっとしたような、どこか残念なような気持ちになる。
確かに憧れが過ぎて、割と先輩贔屓な発言をしているかもしれない。
先輩がそんな風に私の言動をとらえていたという事を、初めて知った。
「きっかけは先輩の植物の写真ですかね。ここのオープンキャンパスで、コンテストの大賞受賞記念のブースがあったんです。そこに飾ってあった、ハコベラの…」
「ああ、地面からアオリで撮ったやつ」
「それです」
いいかげん腕も疲れるだろうにと、降ろして欲しいと軽く先輩の腕を叩く。
先輩は頷いて、私を抱きかかえたまま紫陽花の隣に腰をおろした。
(ちがう、そうじゃない!)
体育座りで膝の間に囲われた状態は、明らかにさっきの態勢より状態が悪化しているといえる。
悪化とは私の精神衛生上の話だ。
「それで?」
ちょっと、と声を出そうとして、先輩に先を促される。
有無を言わせぬ雰囲気に、ため息をついて話を続ける。
「雑草のハコベラが主役になってることにまず驚きました。水滴がついた白い小さな花と、日に当たった葉の繊毛が、キラキラ光っててすごい奇麗で…。宮沢賢治が撮った写真かと思ったんです」
「っはは!なるほど」
宮沢賢治という表現で、言わんとしたことが、先輩には伝わったようだ。
「丁度スケートをやめた頃だったんです。練習ばっかりして来たから何していいかわからなくて、よく本を読んでたんです」
「急に純文学?」
「家にあったので、短編だし読んでみようかなって……そしたらあの人って、植物の描写が本当にすごいじゃないですか。あれを初めて読んだときの感動と一緒だったんです」
「もやもやした時って、そういう本よみたくなるよな」
その言葉に、思わず肩が揺れた。
これだけの会話で、先輩は気づいたのかもしれない。
私が本意でスケートをやめたのではないと言う事に。
先輩の言葉は、『何をやっていいかわからなくてもやもや』、とも『やめたことに対してもやもや』ともとれる。
私の話し方や雰囲気から察して、どのようにも捉えられるようにしてくれた。
後者の場合、やめた原因を口にしなくていい逃げ道をくれたのだ。
「蒼井先輩の思慮深いところ、本当に尊敬します」
「おおげさ」
「いいえ、表現し足りないぐらいです」
首だけ振り向いてお礼を言えば、柔和な笑顔が返ってくる。
菩薩みたいな表情だ。
「スケートは、割とできるほうだったんです。ノービス…えっと小学生くらいの頃は、地方大会で優勝とかもして」
「へえ、すごいな」
「でも中学になる頃に急にめきめき背が伸びてしまって。ジャンプが全然跳べなくなって、跳び方もわからなくなったんです。成績は低迷し、高校受験を機にやめることになって」
「かなり金のかかるスポーツらしいしな」
「で、わりと早めの人生の絶望期に差した光が先輩だったわけです」
目をふせて、先輩から視線をそらす。
面と向かって好意を伝えられる程、純粋な好意は持ち合わせていない。
下心がはみだしたら、感性の電波受信期である先輩にはすぐ気づかれてしまいそうだ。
足を踏み外した私は、存外しっかりした筋肉を持っていた先輩に抱きとめられ無事だった。
「もう少しで『女子高生が脚立から落ちて死亡』って、夕方のニュースになるところでしたよ」
「そう簡単には死なない」
「わかんないじゃないですか!打ち所が悪かったらー」
「死なない。おれが受け止めるから」
(なんなんだこの人!人の気も知らないで…)
そこではたと数秒前を思い出す。
足を踏み外した原因の先輩の発言だ。
「だいたい!…先輩が変な事言うからじゃないですか」
真意を問おうと見つめ返せば、きょとんとした顔で首を傾げられる。
美形がすると破壊力抜群だ。
これで私のHPゲージは赤く点滅している。
「だってよく褒めてくれるだろ。緋山はおれの作品だけじゃなくて、あり方?を肯定してくれる。だから何でだろうと思って」
「ああ、そういう」
ほっとしたような、どこか残念なような気持ちになる。
確かに憧れが過ぎて、割と先輩贔屓な発言をしているかもしれない。
先輩がそんな風に私の言動をとらえていたという事を、初めて知った。
「きっかけは先輩の植物の写真ですかね。ここのオープンキャンパスで、コンテストの大賞受賞記念のブースがあったんです。そこに飾ってあった、ハコベラの…」
「ああ、地面からアオリで撮ったやつ」
「それです」
いいかげん腕も疲れるだろうにと、降ろして欲しいと軽く先輩の腕を叩く。
先輩は頷いて、私を抱きかかえたまま紫陽花の隣に腰をおろした。
(ちがう、そうじゃない!)
体育座りで膝の間に囲われた状態は、明らかにさっきの態勢より状態が悪化しているといえる。
悪化とは私の精神衛生上の話だ。
「それで?」
ちょっと、と声を出そうとして、先輩に先を促される。
有無を言わせぬ雰囲気に、ため息をついて話を続ける。
「雑草のハコベラが主役になってることにまず驚きました。水滴がついた白い小さな花と、日に当たった葉の繊毛が、キラキラ光っててすごい奇麗で…。宮沢賢治が撮った写真かと思ったんです」
「っはは!なるほど」
宮沢賢治という表現で、言わんとしたことが、先輩には伝わったようだ。
「丁度スケートをやめた頃だったんです。練習ばっかりして来たから何していいかわからなくて、よく本を読んでたんです」
「急に純文学?」
「家にあったので、短編だし読んでみようかなって……そしたらあの人って、植物の描写が本当にすごいじゃないですか。あれを初めて読んだときの感動と一緒だったんです」
「もやもやした時って、そういう本よみたくなるよな」
その言葉に、思わず肩が揺れた。
これだけの会話で、先輩は気づいたのかもしれない。
私が本意でスケートをやめたのではないと言う事に。
先輩の言葉は、『何をやっていいかわからなくてもやもや』、とも『やめたことに対してもやもや』ともとれる。
私の話し方や雰囲気から察して、どのようにも捉えられるようにしてくれた。
後者の場合、やめた原因を口にしなくていい逃げ道をくれたのだ。
「蒼井先輩の思慮深いところ、本当に尊敬します」
「おおげさ」
「いいえ、表現し足りないぐらいです」
首だけ振り向いてお礼を言えば、柔和な笑顔が返ってくる。
菩薩みたいな表情だ。
「スケートは、割とできるほうだったんです。ノービス…えっと小学生くらいの頃は、地方大会で優勝とかもして」
「へえ、すごいな」
「でも中学になる頃に急にめきめき背が伸びてしまって。ジャンプが全然跳べなくなって、跳び方もわからなくなったんです。成績は低迷し、高校受験を機にやめることになって」
「かなり金のかかるスポーツらしいしな」
「で、わりと早めの人生の絶望期に差した光が先輩だったわけです」
目をふせて、先輩から視線をそらす。
面と向かって好意を伝えられる程、純粋な好意は持ち合わせていない。
下心がはみだしたら、感性の電波受信期である先輩にはすぐ気づかれてしまいそうだ。
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