不定形な愛と花達(仮)

八六 一

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1.不機嫌なわたしとご機嫌な先輩

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部室まで連れてこられ、やっと先輩は手を離した。

「先輩、なんか怒ってます?」
「なんでだろうな」
「質問に質問で返さないでくださいよ…」

おそるおそる訪ねてみれば、先輩はやはり怒っていた。

「緋山の美しさを共有をしたいのに、世間がその魅力に気づき始めていることにジレンマを感じているのが一つだ」
「先輩の美醜感覚はさておき、追っかけてたバンドがメジャーいって嬉しいけど寂しいみたいなこと言ってます?」
「言い得て妙だな」

こちらに向き腕を組んだ先輩は、ふー、と一つ息を吐いた。

「もう一つはお前がおれを神聖視しんせいしし過ぎてることに腹が立ってる」
「え?」

そのまま窓際に追いつめられる。
美形の真顔は心底怖い。

「おれは聖人君子ではないし、ちょっと稼ぎが良くて受賞歴が多くカメラの腕が良いただの男子高校生だ」
「そんな男子高校生そうそういませんが」
「聞け。だから好きな女によこしまな感情も抱くし、かまい倒しもする。それがどれだけ自己評価低い妄信的自分の信者でもな」

待ってくれ。
一瞬待ってくれ。
先輩の言葉を思考力が落ちた脳内で整理するとおかしな結果が成り立つ。

「先輩それ告ってるみたいですよ」
「特異な感性を持ったおまえが理解してるみたいでよかった」

先輩が私の発言を肯定している。

「…え?まじでいってます?」
「おれは緋山に嘘をついたことはない」
「いやだってなんでですか!?好きになる要素が―」
「ここの窓から緋山をみかけたのが最初だ」

私の背後、校庭の見える窓を顎でしゃくった。

「入学式の次の日、校庭の方をあのなんとも言えない顔で見ていた緋山に思わずシャッターを切った」
「悟った野良猫みたいな顔ですか」

先輩の言葉を思い返し問い返せば、そう、と頷かれた。
あのとき野球部が校庭で練習していた風景を、今でも鮮明に覚えている。

「野球部をみていたんです。彼らは甲子園目指したり、プロになりたいって人もいるわけじゃないですか」
「早めの挫折を味わう未来に同情したか?」
「先輩察しがよすぎます」

中3のとき、今まで深く考えて見ていなかった甲子園で負けた人たちの姿に、自分が重なった。
彼らも早い段階で夢が終わる。
甲子園に立つ事すらできずに終わった人もたくさんいる。

「たぶん仲間意識みたいなものを、勝手に感じてたんです」
「でも緋山はそのときすでに、おれの好む姿を体現してた」

窓から先輩に目を向ければ、とても真剣な顔をしていた。

「朽ちた雰囲気の中に再生がみえた」
「それは…先輩のおかげです」
「うん、知ってる」

先輩の手が私の頬にふれた。

「その強さに惹かれたし、話してみたら独特のセンスがあって面白いから、よけい惹かれた」
「先輩今すごい事言ってますよ…後悔先にたたずですよ」
「その上、おれに憧れて立ち直ったなんて聞かされたらもう戻れないだろ」
「どこからですか」
「恋心っていうのは一方通行だから、進むばっかで戻れない仕様になってる」
「ほんとそういう独自理論作るの得意ですよね」

先輩の不機嫌さはどこへやら。
いつもの先輩どころかご機嫌な様子に一気に力が抜ける。
思わず口元を緩めれば、先輩も嬉しそうな顔をした。

「それで?緋山がおれを好きなのは純然たる事実だけど、改めて聞いていいか?」
「なんで決めつけるんですか」
「憧れが恋に変わるのなんて、有精卵をあっためたらふ化するのと一緒だろ」
「必ずではないけど確率は高いってことですが」
「俺の発言への解像度が高いな」
「人の恋心を鶏と一緒にしないでください!」

その後マントルまで落ちた私の機嫌をとるため、また先輩は980円を払うことになった。
もちろん私は付加価値付きのクレープ一つでご機嫌になった。
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