不定形な愛と花達(仮)

八六 一

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2.虫取菫とキューピッド

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翌日の放課後、私は佐藤くんに呼び出されて体育館裏の倉庫の影に身を潜めていた。
運動部のランニング中のかけ声や、部員達の談笑などが聞こえてわりと騒がしい。

因縁いんねんつけられる場所第一位じゃないここ?」
「でも今日ここでみいちゃんの告白は行われるんです!」

そう必死な形相で訴えてくる佐藤君にそうかい、としか返せなかった。
みいちゃんとは鈴木さんのことらしい。
鈴木さんと同じクラスの佐藤くんは、鈴木さんと友人の会話が『たまたま』耳に入ったそうだ。
明日の放課後、体育館裏に陽次郎を呼び出し告白すると話していたという。
そして彼はもんもんと悩んだ挙げ句、あの深夜の迷惑行為を起こす事となった。

「佐藤君、大丈夫?君なんかストーカーちっくになってない?」
「いいんです!それでもあの男の毒牙から守れるなら!」
「君がよくても周りはどうかな……で、どうするの?」
「告白の瞬間に割って入ってみいちゃんをさらっていきます」
「私を呼んだ意味は?」
「キューピッドと言われる山吹先輩がいてくれるだけでお守り的に心強いんですが、もし若竹先輩が追ってこようとしたら身をていして足止めしてください」
「わかりやすくお守りを建前にがっつり身体張った酷なことさせようとしてくるじゃん」
「あ!みいちゃんの足音が聞こえます!静かに!」
「え?足音聞き分けてんの?前世犬?」

相変わらず佐藤くんは話を聞いてくれない。
相手の話を聞かない奴が1番強い、と有名MCバトラーが言っていたのを思い出し怒りを散らした。
誰がくるかわからないだろとため息をつきながらもそっと覗き見れば、十数メートル程先に彼の言う通りくだんの二人の姿が見えた。
佐藤くんが前世は犬だったことが証明されてしまった。
視線の先の二人はもそもそと話していて言葉がよく聞き取れない。

(こんなとこ初めて見るな)

今まで実際に陽次郎が女子と接している所をきちんと見た事が無かった。
告白で呼び出されたとか、メッセージのやり取りをしている等間接的にしか知らなかった。
あとは人の口からその様子を伝え聞く程度で、リアリティが無かったのだ。
なんとなく重い気分で二人の様子を眺めていれば、はっきりとは見えないが雰囲気で陽次郎が笑ったのが分かる。
そのまま彼女の耳もとに顔を寄せた。

(うわ、すごいやだ)

私は佐藤君の「ちょっとまったー!」という叫び声を聞きながら、いつの間にやら駆け出していた。
先ほどまで覗き見ていた二人が驚いた顔でこちらを返り見た。
走り込んだ先、勢いのまま手を伸ばして陽次郎の口を塞ぎ、鈴木さんから引き離す。

「だめ!」

とっさにその言葉しか出ず、ただただ陽次郎を睨む。
後から来た佐藤くんも、「みいちゃん!」と鈴木さんを抱き寄せていた。

「ふっ!ははは!あーだめだ鈴木さん、予想外。でもちゃんと彼氏きたね」
「……はい」

笑い出す幼なじみと真っ赤になった鈴木さんの図に、佐藤君と顔を見合わせる。

「あとはお互い素直になってね。じゃあ俺らはこれで」

お邪魔になるからと肩を叩かれ、分けも分からず先を行く陽次郎を追ってその場を後にした。
最近こんなことばかりだ。
何もかもわからないまま、ただ足を動かしている。


校門へ続く銀杏いちょう並木に差し掛かった頃、陽次郎がちらりとこちらをふり向いた。

「なんでだめだったの?」
「……え?」
「さっき言ったっしょ、『だめ』って」

そう言われて少し前の自分の行動を思い出す。
人の告白に割って入ってしまったのだ。

「ごめん…その……」

なんと言い訳をしたものか。
そもそもなんで走ってまで止めに入ったんだったか。
大きな理由があった、ああそうだ。

「キスするかと思ったから」

足元に広がる黄色い絨毯の上、目の端に映るローファーの踵動いてつま先がこちらを向いた。
銀杏の葉を踏みしめて、その足が近づいてきた。
しまった。
口からこぼれた言葉は二度と戻りはしない。

「キスするのだめだった?」
「だめっていうか──」

最悪だ。
顔なんて上げなければよかった。
眼の前にいる幼なじみはうっそりと悪魔的な微笑みを浮かべていた。
うっかり悪魔の誘導尋問にひっかかってしまった。
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