【完結】傷アリ令嬢と馬鹿にされてきましたが、真の価値には気づいていないみたいですね

早乙女らいか

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5話 父にも捨てられまして

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「その書類はなんだ……そのサインは!!」
「見ての通り、私とマゼンの婚約破棄を証明する誓約書です」

 急に書斎へ入り、父上が小言を言う前に目の前へ突き出した一枚の紙。
 そこに記された私とマゼンの婚約破棄が成立したという内容に父上の表情が鬼気迫るものへと変化する。

「勝手な事をして……我がヴァーレイン家がどうなってもいいというのか!?」
「えぇ、お母様のいないヴァーレイン家に元より価値などありませんから」
「ロゼッタは関係ないだろう!! あいつはもういないんだ!!」

 お母様、という単語へ不快感をあらわにしている。
 
 無理もない。
 お父様はロゼッタお母様の事が嫌いなのだから。

 元々ヴァーレイン家はロゼッタお母様が管理していた。
 土地に経営に人間関係まで。
 お父様はお金だけはあるボンボン伯爵の生まれで、優秀なお母様と婚約関係を結ぶことで今の地位を得ることが出来た。
 
 でも才能はない。

 お母様が死んで家を引き継ぐことになったけど、いきなりヴァーレイン家の全てを任されても安定させる事なんて不可能。
 一人、また一人と去っていき、お金も無くなり、地位だって過去の栄光にすがっているだけのお飾りだ。

 そんなお母様と比べられ続けたら、嫌になるわよね。

「ですがマゼンとの婚約関係で得た支援金はまだ残っていますよね」
「……何が言いたい」
「私よりも美しい養子なんて、いかがです?」

 更にエサを垂らしていく。
 
 私という存在が必要ないと。
 私の代わりは広い世界に存在すると。

 私が引き起こした婚約破棄で全てを失いかけ、冷静さを失っているお父様にとって、私が与えた提案はまさに天啓だろう。

「勝手な事をいいおって!!」
「っ!!」

 バチン!! と強く頬を叩かれる。

 ヒリヒリとした焼けるような痛み。
 女性の顔に手をあげるなど、貴族の男としてマナーがなっていない。
 
 けど、今まで受けた心の痛みに比べたらなんてことないわ。

「前にも言ったな……余計な事をすればお前をこの家から追放すると」
「どうぞ? お好きになさってください」
「この小娘……!!」
 
 再び振り下ろされる手。
 二度も平手打ちを喰らってもなお表情を崩さない私に、お父様は動揺を隠さない。
 
「猶予など与えん!! 今すぐこの家から出ていけ!!」

 私を書斎から追い出し、バタンと強く扉が閉められる。
 直後、中からいくつもの本が倒されるような激しい音が聞こえ、お父様は相当お怒りなのだろうと私は理解した。

「ふふっ……」

 けど残念。
 もうとっくに家を出る準備はしているのよ。

 家にある物は全ていらないし、必要な物とお金は全て商人に預けてある。
 更にはマゼンとお父様が更に追い込まれるような仕掛けも……ふふっ。

 っと、ちょうど窓の向こうで商人の馬車が見えた。
 さっさと向かいましょう。

 ◇◇◇

「その様子では随分と言い争ったようで」
「えぇ、今更傷が増えた所で問題はないわ」

 商人に軽く会釈をした後、馬車に乗り込む。
 向かう先は私が買い上げた土地にある一軒家。

 そこでとある物の生成を続けながら静かに暮らそうと思っている。
 勿論、マゼンとお父様の今後を楽しみながらね。

「家に向かわれる前に顔を合わせていただきたいお方がいるのですが、よろしいでしょうか?」
「いいけど……誰?」

 未だヒリヒリと痛む頬を撫でながら商人の話を聞く。
 
 私と会ってほしい人?
 色々とお世話になった商人さんの頼みを聞き入れない理由はないけど、誰なのかは気になる。

 だが、その人物と言うのが私にとっては少し意外な方で、

「ディゼ・ファニング……侯爵家の当主です」
「えっ」

 追放された私が会っていいお方なのかと、私は馬車に揺られながら別の悩み事を抱えてしまった。
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