この恋に殉ずる

冷暖房完備

文字の大きさ
19 / 76
接近ちゅ

No.11 私の過去

しおりを挟む
真っ暗な道をテールランプが赤く続いている。

なんとなく気まずくて新垣さんと会話ができない。
鏡越しに映る横顔を盗み見る。
無表情な その顔から何を考えているかは計り知れなかった。



車が門の前で停まる。
「お疲れさん」
新垣さんからの一言。
「…新垣さん、ちょっとウチに寄ってください」
「はっ?」
「コーヒー出しますから」
「…コーヒーはいらんが、こんな時間まで外出させたんだから一応 親御さんに挨拶するのは礼儀だよな」
そう言うと車を路肩に停めた。
カンカンカンと安っぽい音を立てながら階段を上がる。
二回の奥が私の家だ。
鍵を差し込み、ガチャリとドアを開けた。
「どうぞ…」
ドアノブを持ったまま、中に入るように片手をスッと動かした。
「ん?玄関先でイイぞ…」
長身を屈めて顔だけ中に入れて、動きを止めた。
「…え?」



「立ち話もなんですから、中に入ってください」
「え?あ、でも…」
「大丈夫!!新垣さんのこと信用してますから!!」
わざと明るく言って新垣さんの背中を押した。

キッチンでインスタントコーヒーを作り、ダイニングテーブルにいる新垣さんに渡す。
「熱いですよ」
「あ、ああ…」
なんだか挙動不審な新垣さんに吹き出す。
「あははは」
「笑うな!!」
「だって新垣さんから見たら私なんて女じゃないでしょ?」
「だからってな、視界にベットがある密室で二人きりってのは問題あるだろ!!」
「女じゃないってのは否定しないんですね~」
笑いながら、新垣さんの横を通り抜け天井から吊るされているカーテンを引いた。
1DKのアパート。
それが私の住み家だ。
玄関を入ってすぐにキッチンがあり、二人掛けのダイニングテーブルと小さな食器棚、その向こうにトイレと続きのユニットバスがある。
先程から新垣さんがチラチラと気にしていたベットはカーテンで見えなくなったが、6畳のフローリングには小さなタンスと学習机、ベットがあるだけだ。
「新垣さん…私も同じです」
「何が?」
「私も中学まで施設で育ちました」
「!?」
「母親は私を産んですぐ亡くなったそうで、1人では育てられないと施設に入れたそうです。その後 父が再婚をした相手は私まで必要ではなかったみたいで…」
一緒に暮らせるように何度も話し合いをしたとは言われたが、本当にしたかは分からない。
「中学卒業したら働こうと思ってたんですが、父が高校だけは出ないとダメだって、でも施設は15歳までだったので ここを探してくれました」
なんとか学費と家賃は払ってもらえたけど、それ以上は出せないと申し訳なさそうに言われた。
「一緒には、住んでくれなかったのか?」
「向こうにはもう弟も妹も産まれているので…」
「そうか…」

きっと弟がいなくても一緒には暮らせなかったと思う。

「よく……頑張ってきたな」
そう言うと新垣さんはコーヒーを飲んだ。








「俺が預けられたのは産まれてすぐだ」
カップを見つめながら新垣さんが語り始めた。
「普通に両親は揃っていた。どちらかが重い病気ということもなく、生活に困ってるわけでもないらしい」
「…何もなく、預けれるものなんですか?」
「何だかんだと理由をつけて無理矢理預けたんだろ?」
ハッと自虐的に笑う。
それは、いつもの新垣さんのようで新垣さんではない笑みだった。
「俺は高校には行かせてもらえなかった。俺が施設を出る時も迎えには来なかったよ。向こうの居場所なんて当然 教えてはもらえない。それどころか住むとこもなくて、少しの間だけでイイからと頼み込んで施設の責任者の所に一年ほどいたかな」
それからバイトをしながら勉強して大検で大学に入ったそうだ。
「ガムシャラだった。見返してやりたいと必死になって、気づけば こんな嫌味な性格のオッサンになってたよ」



そう言って私を見た新垣さんは泣き出しそうな顔をしていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!

satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。 働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。 早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。 そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。 大丈夫なのかなぁ?

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

25年の後悔の結末

専業プウタ
恋愛
結婚直前の婚約破棄。親の介護に友人と恋人の裏切り。過労で倒れていた私が見た夢は25年前に諦めた好きだった人の記憶。もう一度出会えたら私はきっと迷わない。

今宵、薔薇の園で

天海月
恋愛
早世した母の代わりに妹たちの世話に励み、婚期を逃しかけていた伯爵家の長女・シャーロットは、これが最後のチャンスだと思い、唐突に持ち込まれた気の進まない婚約話を承諾する。 しかし、一か月も経たないうちに、その話は先方からの一方的な申し出によって破談になってしまう。 彼女は藁にもすがる思いで、幼馴染の公爵アルバート・グレアムに相談を持ち掛けるが、新たな婚約者候補として紹介されたのは彼の弟のキースだった。 キースは長年、シャーロットに思いを寄せていたが、遠慮して距離を縮めることが出来ないでいた。 そんな弟を見かねた兄が一計を図ったのだった。 彼女はキースのことを弟のようにしか思っていなかったが、次第に彼の情熱に絆されていく・・・。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

処理中です...