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4章
156話 夢の実現への手助け
しおりを挟むエイナにこれからやってみたいことを聞いたはずなのに、何故かとんでもない勘違いをされた俺は、慌てて彼女の誤解を解くことになった。
数分の説明の末、ようやく彼女の誤解を解くことに成功した俺は思わず安堵のため息を吐いた。
「ふぅー、それで、エイナはこれからやりたいこととかないの?」
「えっと、あるにはあるんですけど……うぅ~……」
いまだ盛大な勘違いをしたことが恥ずかしいのか、あるいはこれからやりたいことが余程メルヘンチックで言い出すのが恥ずかしいのか、もしくはその両方が原因なのか、エイナは耳の先まで紅潮させもじもじとしだした。
エイナは、孤児だった時は見窄らしい格好をしていてあまり目立つことはなかったが、かなりの美少女と言って然るべき容姿をしている。
あれから健康に育って十四歳になった彼女の身体は魅力的であり、貴族とまではいかないまでも、それなりの裕福層が着用する服を身につけているためかその様子はとても魅力的に見えた。
それにしても、彼女がやりたいこととは一体なんなのだろうか?
戦闘訓練等とは一切無縁だろうから、冒険者という線はないだろうけど……ダメだな、全く予想がつかない。エイナが勇気を出して直接言ってくれるのを待つしかない。
それから、どれくらいの時間を待っただろうか……
十分か……一時間か……十時間か……いや、確実にそんな時間は経っていない。おそらく一分あったかないかだ。それで、肝心のエイナのやりたいことなのだが……意外? というか、想定外の職種であった。
「パン屋さんをやりたい、ね……」
「はい、昔からの私の夢なんです」
夢。という言葉を口にするエイナの表情は恥ずかしそうではあるものの、どこか輝いて見えた。
俺にもスローライフを送るという夢があるからこそ、彼女の気持ちは簡単に理解できる。ならば、俺が送る言葉は一つしかない。
「じゃあ、エイナはパン屋さんをやるべきだね!」
「はい、いつかはやってみたいですけど……」
「いつかと言わず、すぐに取り掛かるべきだよ! お金は僕が支援をしてあげるからさ、ね?」
「え、えぇ? でも、そんな……私みたいなものがルカルド様のお手を何度も煩わせるのはさすがに……」
わかっていたが、やはり遠慮するか。
まっ、ここは遠慮を無理やり押し切って彼女の夢を叶えてあげるべきだろう。
夢を叶えられる状況が揃っているのに、俺に迷惑をかけないためにそれを諦めるとか、逆に俺に迷惑ってやつなんだよね。
エイナとはすでに三年以上の付き合いで、元孤児の中では最も関わりを持ってると言っても過言ではない。それで余計に彼女の夢を叶えてあげたいと思ってしまうのかもしれないが、多少の贔屓は仕方ないよね?
それに、孤児の中でも最年長の彼女が自分のやりたいことを始めれば、下の子達もそれに続いていきやすくなるだろうしね。
まさに、ウィンウィンの関係そのものといった感じだ。
その後、俺は言葉巧みにエイナを丸め込み、思惑通りに彼女の夢実現への手助けを行なうことにした。
その後、パン屋を始めたエイナの後を追うようにして、元孤児の子供達が自分の夢に向けて歩みを進めていくことになるのは、また別のお話である……なんてね?
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