ドラゴンに育てられた少年、生みの親を探して旅に出る

千耀

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第3章 武術大会編

1 エレナと約束

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 子爵に借金返済を迫られて、苦境に立たされた男爵一家。
 窮地に追い込まれたエレナは、思わず「助けて、テオドールさん」と呟く。
 すると扉が開き、「エレナ、助ける」と言って、テオドールが入ってきた。
 
「テオドール君、ジュリエットさん。どうして此処に?」

 男爵は、信じられないといった口調で尋ねた。
 二人が遥か遠くまで去ってから、男爵たちは建物に入ったので、此処にいることが信じられなかった。

 母竜の栄養と魔力で育てられたテオドールは、超人的な肉体を獲得していた。
 加えて父竜に鍛えられたので、ジャイアントボアを倒せたり、担いで運べるほどになっていた。
 超人的な能力は、視覚や聴覚にも及んでいる。
 玄関先で男爵たちが、子爵と言葉を交わして表情が一変したのを、テオドールは見逃さなかった。
 胸騒ぎを覚えたテオドールは、男爵邸に引き返して大広間の外で、話し合いが終わるのを待っていたのである。
 大広間にいる誰一人とて、聞き取れないような小声で、エレナはテオドールに助けを求めた。
 超人的な聴覚でテオドールは、エレナの心の叫びを、聞き逃さなかったのである。
 
「エレナ、呼んだ。だから、助ける」

 たまらずエレナは、テオドールに駆け寄り、その胸に飛び込んで号泣した。
 
「な、何なんだ。貴様らは! ノックもせず勝手に入ってきて、無礼だぞ!!」

 怒り心頭の子爵に、テオドールが大切な客人であることを、男爵は説明した。
 テオドールが武術大会に出場すれば、優勝は間違いないと確信した男爵は、
 
「テオドール君。二週間後に武術大会があるのだが、それに出場してくれないか」

 テオドールが快諾したので、男爵は武術大会に参加することを子爵に伝えた。
 子爵は口の端を少しあげて意味ありげに、

「それでよろしいのですね。後から撤回は出来ませんよ」

 男爵は一抹の不安を覚えるも、それが最善だと信じて疑わなかった。


     ◇◆◇◆◇


 子爵は、帰りの馬車に揺られながら、目論見が上手くいったと、ほくそ笑んでいた。
 すると対座する執事が、
 
「旦那様。男爵が大会に出場する件、よろしかったのですか? あのテオドールという男、真偽は定かではないのですが、ジャイアント・ボアを一人で倒したという噂です。大会に参加すれば、優勝するかもしれませんよ」
「構わん。いずれにせよ、その男は大会に出られんからな。それに大会は各地から強者が集まる。男爵では初戦突破が関の山だ。2週間後には、男爵の領地と愛娘が、ワシのものになるのは確実だよ」

 以前からジェローム子爵は、男爵の領地とエレナを狙っていた。
 そんな折り、天候不良による作物の不作で、男爵領は食糧難に陥った。
 それを絶好の機と捉えた子爵は、魔の森から魔物や魔獣を男爵領に誘き出し、追い打ちをかけたのだ。
 そして言葉巧みに融資を持ち掛け、大金を貸し付けたのである。
 男爵に騎士や兵士を雇う余裕はなく、農民の徴集兵だけでは、魔物や魔獣の対処はままならず、被害は拡大していった。
 このまま子爵の企み通りに事が運ぶと思われたが、テオドールが現れて男爵家は持ち直し始める。
 それを知った子爵は、予定を早めて、借金の取り立てをしたのである。


     ◇◆◇◆◇


 そのころ男爵は、テオドールを伴い、王都にある大会本部に馬車を走らせた。
 だが既にエントリーは終わり、テオドールの参加は認められなかった。
 かてて加えて、テオドールを男爵の代役として申請するも、却下されてしまう。
 大会は年中行事だが、初参加の男爵は、その規定に疎かった。
 この時になって、後から撤回は出来ないと、子爵が念を押したことの意味がわかり、男爵は後悔する。
 テオドールが大会に参加できないことを、子爵はわかっていたのだと。
 武術大会を観たことがない男爵は、参加者の力量を知らない。
 なので多少なりとも腕に覚えがあった男爵は、優勝は不可能ではないと考えていた。
 だがテオドールのような強者が出場していたら、絶対に敵わないという不安に駆られ、男爵はがくがくと震えて頽れてしまう。
 心が折れそうな男爵に、テオドールは手を差し出して、
 
「エレナ、必ず、助ける」

 絶対にエレナを救うという気概を、15歳の少年から感じ取った男爵は、覚悟を決める。

「そうだな。絶望している暇はない。もう後には引けないのだ。テオドール君、私が大会で優勝できるように、力を貸してほしい」

 男爵はテオドールの手を取り立ち上がった。
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