ドラゴンに育てられた少年、生みの親を探して旅に出る

千耀

文字の大きさ
14 / 64
第2章 オークハート領編

10 借金

しおりを挟む
 翌日、男爵邸の玄関先で、男爵一家と使用人の全員が、テオドールとジュリエットを見送った。
 男爵はテオドールの手を握り締めて、
 
「テオドール君には、本当に世話になった。心から感謝しているよ」

 グレース夫人は、テオドールを抱きしめると、
 
「早く探している人が見つかるように、祈っているわ。またいつでも来てくださいね。歓迎するわ」

 3人の使用人たちも、それぞれ声をかけた。
 最後にエレナが、テオドールに抱きつき、感謝の言葉を重ねた。
 そして一歩下がると、テオドールとジュリエットに、「お二人とも、お幸せに」と、笑顔で伝えた。
 テオドールの幸せを第一に考えたエレナは、二人を祝福することにしたのである。
 
「エレナも、幸せになれ。みんなも」

 と、テオドールは、男爵一家と使用人の全員に向けて発した。
 
「うん。私、幸せになるから」
「私も誓おう。家族で力を合わせ、すべての領民が幸せに暮らせるように、してみせるよ」

 エレナに続いて、男爵が力強く誓った。
 別れを告げたテオドールとジュリエットは、男爵邸を後にする。
 しばらくすると1台の馬車が、二人の横を通り過ぎて、男爵邸の方へ向かっていった。
 テオドールが振り返ると、かなり遠くまで来たというのに、まだ男爵たちは二人を見届けていた。
 
『テオ。あの者たちのことが、気になるのかい?』
『うん。いい人間たちだった』
『また遊びに行けばいいさ。緋竜山からなら、日帰りで行けるだろ』
『うん。そうだね』
『その時は妾も同行するぞ。人間の食い物は、毎日でも食べたいくらいだからな』
『母ちゃんは、それが目的か?』
『もちろん』
『……』

 竜語で会話して、再び男爵邸を訪れるのを、楽しみにする親子。
  
 男爵たちが待つ玄関の前で馬車は止まった。
 馬車からジェローム・ルノー子爵が降りると、男爵は驚いたような表情を浮かべ、

「これはジェローム子爵。突然のご来訪、どうなされたのですか?」
「いや、なにね。急遽、資金が入り用になったので、男爵に貸し付けた金を、全額返してもらおうと思いましてな」
 
 男爵一家と使用人たちの表情が一変する。
 みんなの前で話す内容ではないので、男爵は子爵を大広間に案内した。
 グレース夫人とエレナが、心配してついてきたので、男爵は、
 
「私が一人で対応する。お前たちは下がっているように」

 土下座してでも返済を待ってもらうつもりでいた男爵は、人払いをした。
 
「ワシは構わんよ。むしろ男爵家の今後を左右する話なのだから、家族も同席した方がいいのでは? そんな大事な話を、男爵が一人で決めるのは、どうかと思うがね」

 男爵は子爵に従い、やむを得ず妻子を同席さることにした。
 
「ジェローム子爵。返済はいつでも構わないと、仰られたではないですか」
「ワシが金に困らない限り、いつでもいいと言ったのだ」
「ですが、資金は十分に余裕があるから、当面は返済の必要がないとも、仰いました。だから私は、お金をお借りしたのです」
「あの時とは事情が変わったのだよ」
「そんな……せめて2週間後の武術大会まで、待って頂けませんか? その大会で優勝したら、賞金を返済にあてます。残りは近衛騎士団に入り、稼いだ金で返済させてください」

 男爵は額をテーブルに付けて、子爵に懇願した。
 すると子爵はエレナを舐めるように見て、
 
「いいでしょう。その代わり大会で優勝できなかったら、エレナ嬢を貰いますよ」
「なんですって!? そんな条件、飲めるわけがない」
「では今すぐ耳を揃えて、借金を返してもらいましょうか。それが出来なければ領土を頂きますよ」

 断腸の思いで、領土を明け渡すことにした男爵は、妻子に向かって、

「私が不甲斐ないせいで、爵位と領土を失うことになってしまった。本当に申し訳ない。これからは平民として生きることになるが、家族の食い扶持ぐらいは何とかするので、心配しないでくれ」
「かまいませんわ。あなた。どんなに貧しくても、家族で暮らせるのが、何よりですもの」

 グレース夫人の言葉に、力づけられた男爵は、

「ジェローム子爵。一つお願いがあります。領民の生活が安定するまでは、税の徴収はしないで欲しいのです」
「ふん。税を納めるのは、領民の務めだ。それが果たせないのなら、奴隷や家畜と一緒。そうだ、これまで男爵が徴収しなかった分を上乗せして、取り立てるとしよう」
「やめてください。そんなことしたら、領民は生活できません」
「そんな甘っちょろいことを抜かしておるから、男爵は失墜するのだよ。領民は生かさず殺さず、搾り取れるだけ搾り取るものだ」

 信頼していた子爵に裏切られたのだと男爵は悟った。
 
「お父様。私のことは気にせず、武術大会に出場してください」
「駄目だ。それだけは絶対に出来ない」
「でも、このままでは領民が……」

 八方塞がりで苦悩する男爵一家。
 窮地に立たされたエレナの脳裏に、テオドールの顔がよぎる。
 
「助けて、テオドールさん」

 祈るように手を組み、思わず彼女は呟いていた。
 すると出入口の扉が開いて、
 
「エレナ、助ける」

 そう言ってテオドールが入ってきた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

ダンジョンに行くことができるようになったが、職業が強すぎた

ひまなひと
ファンタジー
主人公がダンジョンに潜り、ステータスを強化し、強くなることを目指す物語である。 今の所、170話近くあります。 (修正していないものは1600です)

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

処理中です...