ドラゴンに育てられた少年、生みの親を探して旅に出る

千耀

文字の大きさ
30 / 64
第4章 近衛騎士団編

6 残り香

しおりを挟む
  露店の店主は、ジュリエットのことが気がかりで、何も手につかなかった。
  それでも家族を養うため、店の前を通り掛かった少女に、
 
 「お嬢ちゃん。美味しい焼き菓子はいらないかい。一つでもいいから買っておくれ」
 「ごめんなさい。お金を持っていないの」
 
  淡いブラウンの髪をした女の子は、申し訳なさそうに頭を下げて謝った。
  彼女とジュリエットは似ていないが、同じくらいの年齢で無一文なところが重なり、店主はポタポタと涙を零した。

「どうしたの? おじさん」
「俺のせいで、ひとりの娘を不幸にしてしまった――」

 そこにジュリエットが戻ってきて、
 
「誰が不幸になったって?」
「お嬢ちゃん!? 無事だったのか!」

 店主は信じられないといった面持ちで叫んだ。

「だけど、どうして無事でいられたんだ?」
「それは妾の息子……じゃなくて弟が、近衛の一員でな。たまたま街中を巡視していた弟に出くわして、助けてもらったのだ。悪党どもは壊滅したから、もう安心していいぞ」
「それは本当かい? お嬢ちゃん」
「うむ。その証拠に、売上金を取り返してきた」

 ジュリエットが売上金の入った袋を差し出すと、それを店主はありがたそうに受け取り、

「有難うな。お嬢ちゃん。今日は俺の奢りだ。好きなだけ食べてくれ」
「それには及ばない。金ならたんまりとあるから、今度はちゃんと代金を払うぞ」

 ジュリエットがお金の入った大袋を見せると、店主は目を丸くして、

「どうしたんだい? そんな大金」
「こ、これは……弟がくれた小遣いだ」
「小遣いで、そんなに? さすが近衛は桁が違うな。俺が一生働いても稼げないぞ」

 ジュリエットは、頬を掻きながら空笑いした。
 店主の売上金を取り戻そうと、ジュリエットは悪党たちに、奪った金を置いていけと恫喝した。
 すると悪党たちは、有り金すべてをジュリエットに差し出して、命乞いをしたのである。
 これで国王にたからずとも収入を得られたとジュリエットは喜んだが、平民から奪ったと思われる悪銭を、懐に入れるのは少々気が引ける。
 そこで露店などで消費して還元することにしたのだ。
 
 ふと、ただならぬ視線を感じたジュリエットがそちらに振り向くと、先ほど店主と言葉を交わしていた少女が、目を輝かせながら見ていた。
 お金がないと言っていたから、妾にたかるつもりだろう。
 可愛い顔をして、意外と意地汚い小娘だな。
 そんなに焼き菓子が食べたければ、働いて稼げ。
 働かざる者食うべからずだぞ。
 自分のことを棚に上げて、ニートのジュリエットは思った。

「おばさん」

 そう叫んでジュリエットに抱きつく少女。

「馴れ馴れしくするな。びた一文たりとも、恵んでやらぬ……その声は、フレアか?」
「おばさん、探したのよ」
「どうして此処におるのだ?」
「だって、二人とも全然帰って来ないから、心配して探しに来たの。王都にいるという情報を得たので来てみたら、偶然おばさんの匂いがしたので、辿ってきたの。そうしたら露店の前で、強い残り香がしたから――」
「そ、そうか。妾が、たまたま露店の前を通りかかったら、店主がゴロツキに絡まれていたので、助けてやったのだ。それで妾の匂いが残っていたのだろう」

 ばつが悪いので、焼き菓子の匂いにつられてきたとは言えないジュリエット。

「さすが、おばさん。だけどテオは、一緒じゃないの?」
「テオは王城にいる。そうだ。詳しい話は、菓子を食べながらにしよう。店主よ。今ある菓子をすべて貰うぞ」

 ジュリエットは、焼き菓子を全部購入すると、王城に向かいながら、これまでの経緯をフレアに話して聞かせた。

「おばさん! これ凄く美味しいわ」

 初めて人間の食べ物を口にしたフレアは、感嘆の声を上げた。

「そうだろ。人間の食べ物は、うまいものが多いのだ――」

 ジュリエットは、これまで食べてきたものを、自慢げに話した。

「いいな。わたしも食べたいわ。しばらく一緒にいてもいいでしょ」
「駄目だ。フレアの両親も心配しているだろ。テオに会ったら帰りなさい」
「両親は心配していないから大丈夫よ。それでも帰れと言うのなら、おばさんが美味しいものを食べていること、みんなに言いふらすわ」

 そうなったら火竜たちが大挙して、たかりに来るのは目に見えている。
 不本意ながらもジュリエットは、しばらくフレアが留まることを了承した。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

本当の外れスキルのスロー生活物語

転定妙用
ファンタジー
「箱庭環境操作」という外れスキルしかないエバンズ公爵家の長男オズワルドは、跡継ぎの座を追われて、辺境の小さな土地を与えられて・・・。しかし、そのスキルは実は・・・ということも、成り上がれるものでもなく・・・、スローライフすることしかできないものだった。これは、実は屑スキルが最強スキルというものではなく、成り上がるというものでもなく、まあ、一応追放?ということで辺境で、色々なことが降りかかりつつ、何とか本当にスローライフする物語です。

女の子がほとんど産まれない国に転生しました。

さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。 100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳 そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。 当面は2日に1話更新予定!

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

処理中です...