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第4章 近衛騎士団編
6 残り香
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露店の店主は、ジュリエットのことが気がかりで、何も手につかなかった。
それでも家族を養うため、店の前を通り掛かった少女に、
「お嬢ちゃん。美味しい焼き菓子はいらないかい。一つでもいいから買っておくれ」
「ごめんなさい。お金を持っていないの」
淡いブラウンの髪をした女の子は、申し訳なさそうに頭を下げて謝った。
彼女とジュリエットは似ていないが、同じくらいの年齢で無一文なところが重なり、店主はポタポタと涙を零した。
「どうしたの? おじさん」
「俺のせいで、ひとりの娘を不幸にしてしまった――」
そこにジュリエットが戻ってきて、
「誰が不幸になったって?」
「お嬢ちゃん!? 無事だったのか!」
店主は信じられないといった面持ちで叫んだ。
「だけど、どうして無事でいられたんだ?」
「それは妾の息子……じゃなくて弟が、近衛の一員でな。たまたま街中を巡視していた弟に出くわして、助けてもらったのだ。悪党どもは壊滅したから、もう安心していいぞ」
「それは本当かい? お嬢ちゃん」
「うむ。その証拠に、売上金を取り返してきた」
ジュリエットが売上金の入った袋を差し出すと、それを店主はありがたそうに受け取り、
「有難うな。お嬢ちゃん。今日は俺の奢りだ。好きなだけ食べてくれ」
「それには及ばない。金ならたんまりとあるから、今度はちゃんと代金を払うぞ」
ジュリエットがお金の入った大袋を見せると、店主は目を丸くして、
「どうしたんだい? そんな大金」
「こ、これは……弟がくれた小遣いだ」
「小遣いで、そんなに? さすが近衛は桁が違うな。俺が一生働いても稼げないぞ」
ジュリエットは、頬を掻きながら空笑いした。
店主の売上金を取り戻そうと、ジュリエットは悪党たちに、奪った金を置いていけと恫喝した。
すると悪党たちは、有り金すべてをジュリエットに差し出して、命乞いをしたのである。
これで国王にたからずとも収入を得られたとジュリエットは喜んだが、平民から奪ったと思われる悪銭を、懐に入れるのは少々気が引ける。
そこで露店などで消費して還元することにしたのだ。
ふと、ただならぬ視線を感じたジュリエットがそちらに振り向くと、先ほど店主と言葉を交わしていた少女が、目を輝かせながら見ていた。
お金がないと言っていたから、妾にたかるつもりだろう。
可愛い顔をして、意外と意地汚い小娘だな。
そんなに焼き菓子が食べたければ、働いて稼げ。
働かざる者食うべからずだぞ。
自分のことを棚に上げて、ニートのジュリエットは思った。
「おばさん」
そう叫んでジュリエットに抱きつく少女。
「馴れ馴れしくするな。びた一文たりとも、恵んでやらぬ……その声は、フレアか?」
「おばさん、探したのよ」
「どうして此処におるのだ?」
「だって、二人とも全然帰って来ないから、心配して探しに来たの。王都にいるという情報を得たので来てみたら、偶然おばさんの匂いがしたので、辿ってきたの。そうしたら露店の前で、強い残り香がしたから――」
「そ、そうか。妾が、たまたま露店の前を通りかかったら、店主がゴロツキに絡まれていたので、助けてやったのだ。それで妾の匂いが残っていたのだろう」
ばつが悪いので、焼き菓子の匂いにつられてきたとは言えないジュリエット。
「さすが、おばさん。だけどテオは、一緒じゃないの?」
「テオは王城にいる。そうだ。詳しい話は、菓子を食べながらにしよう。店主よ。今ある菓子をすべて貰うぞ」
ジュリエットは、焼き菓子を全部購入すると、王城に向かいながら、これまでの経緯をフレアに話して聞かせた。
「おばさん! これ凄く美味しいわ」
初めて人間の食べ物を口にしたフレアは、感嘆の声を上げた。
「そうだろ。人間の食べ物は、うまいものが多いのだ――」
ジュリエットは、これまで食べてきたものを、自慢げに話した。
「いいな。わたしも食べたいわ。しばらく一緒にいてもいいでしょ」
「駄目だ。フレアの両親も心配しているだろ。テオに会ったら帰りなさい」
「両親は心配していないから大丈夫よ。それでも帰れと言うのなら、おばさんが美味しいものを食べていること、みんなに言いふらすわ」
そうなったら火竜たちが大挙して、たかりに来るのは目に見えている。
不本意ながらもジュリエットは、しばらくフレアが留まることを了承した。
それでも家族を養うため、店の前を通り掛かった少女に、
「お嬢ちゃん。美味しい焼き菓子はいらないかい。一つでもいいから買っておくれ」
「ごめんなさい。お金を持っていないの」
淡いブラウンの髪をした女の子は、申し訳なさそうに頭を下げて謝った。
彼女とジュリエットは似ていないが、同じくらいの年齢で無一文なところが重なり、店主はポタポタと涙を零した。
「どうしたの? おじさん」
「俺のせいで、ひとりの娘を不幸にしてしまった――」
そこにジュリエットが戻ってきて、
「誰が不幸になったって?」
「お嬢ちゃん!? 無事だったのか!」
店主は信じられないといった面持ちで叫んだ。
「だけど、どうして無事でいられたんだ?」
「それは妾の息子……じゃなくて弟が、近衛の一員でな。たまたま街中を巡視していた弟に出くわして、助けてもらったのだ。悪党どもは壊滅したから、もう安心していいぞ」
「それは本当かい? お嬢ちゃん」
「うむ。その証拠に、売上金を取り返してきた」
ジュリエットが売上金の入った袋を差し出すと、それを店主はありがたそうに受け取り、
「有難うな。お嬢ちゃん。今日は俺の奢りだ。好きなだけ食べてくれ」
「それには及ばない。金ならたんまりとあるから、今度はちゃんと代金を払うぞ」
ジュリエットがお金の入った大袋を見せると、店主は目を丸くして、
「どうしたんだい? そんな大金」
「こ、これは……弟がくれた小遣いだ」
「小遣いで、そんなに? さすが近衛は桁が違うな。俺が一生働いても稼げないぞ」
ジュリエットは、頬を掻きながら空笑いした。
店主の売上金を取り戻そうと、ジュリエットは悪党たちに、奪った金を置いていけと恫喝した。
すると悪党たちは、有り金すべてをジュリエットに差し出して、命乞いをしたのである。
これで国王にたからずとも収入を得られたとジュリエットは喜んだが、平民から奪ったと思われる悪銭を、懐に入れるのは少々気が引ける。
そこで露店などで消費して還元することにしたのだ。
ふと、ただならぬ視線を感じたジュリエットがそちらに振り向くと、先ほど店主と言葉を交わしていた少女が、目を輝かせながら見ていた。
お金がないと言っていたから、妾にたかるつもりだろう。
可愛い顔をして、意外と意地汚い小娘だな。
そんなに焼き菓子が食べたければ、働いて稼げ。
働かざる者食うべからずだぞ。
自分のことを棚に上げて、ニートのジュリエットは思った。
「おばさん」
そう叫んでジュリエットに抱きつく少女。
「馴れ馴れしくするな。びた一文たりとも、恵んでやらぬ……その声は、フレアか?」
「おばさん、探したのよ」
「どうして此処におるのだ?」
「だって、二人とも全然帰って来ないから、心配して探しに来たの。王都にいるという情報を得たので来てみたら、偶然おばさんの匂いがしたので、辿ってきたの。そうしたら露店の前で、強い残り香がしたから――」
「そ、そうか。妾が、たまたま露店の前を通りかかったら、店主がゴロツキに絡まれていたので、助けてやったのだ。それで妾の匂いが残っていたのだろう」
ばつが悪いので、焼き菓子の匂いにつられてきたとは言えないジュリエット。
「さすが、おばさん。だけどテオは、一緒じゃないの?」
「テオは王城にいる。そうだ。詳しい話は、菓子を食べながらにしよう。店主よ。今ある菓子をすべて貰うぞ」
ジュリエットは、焼き菓子を全部購入すると、王城に向かいながら、これまでの経緯をフレアに話して聞かせた。
「おばさん! これ凄く美味しいわ」
初めて人間の食べ物を口にしたフレアは、感嘆の声を上げた。
「そうだろ。人間の食べ物は、うまいものが多いのだ――」
ジュリエットは、これまで食べてきたものを、自慢げに話した。
「いいな。わたしも食べたいわ。しばらく一緒にいてもいいでしょ」
「駄目だ。フレアの両親も心配しているだろ。テオに会ったら帰りなさい」
「両親は心配していないから大丈夫よ。それでも帰れと言うのなら、おばさんが美味しいものを食べていること、みんなに言いふらすわ」
そうなったら火竜たちが大挙して、たかりに来るのは目に見えている。
不本意ながらもジュリエットは、しばらくフレアが留まることを了承した。
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