Brave Familia ~ブレイブファミリア~

春豆

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その花の名は

種の記憶

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親父おやじ歴継者コンタクターだった。といっても別段凄いわけでもなく、ただ日々の日銭を稼ぐ程度には力があった。そんな親父が嬉しそうに帰ってきた。
「ラベン、喜べ!この仕事が成功すれば大金が手に入る。お前の欲しがってたサンダルも買えるぞ!」
嬉しそうに笑顔を溢す。そして俺もまたそれにつられるように笑顔を溢す。母親は最初から居なかった。死んだのか出て行ったのか親父はその事については話したがらない。別にいい。俺にとっての親は親父だけ、それだけで十分だった。
「すまんラベンしくじった。」
ズタボロになった親父が帰ってきた。仕事に失敗したのだという。危険な生物の調査でおよそ100名ほど居た調査隊のメンバーはほとんどが消えていく中、何とか生き残ったそうだ。本当に良かったと、親父が帰って来てくれたことがなによりも嬉しかった。その時は…



「寝てたか。仕事前に俺も少し疲れてるのかもな。」
ラベンはある富豪の家の前に居た。アマタツ街を支援している数少ない貴族の家、広々とした庭園の中央には巨大な豪邸が構えている。赤い屋根にこの街特有の白い壁、もちろん警備は厳重だ。
「情報通りだな。警備は門に二名、扉の前に二名、巡回に三名、屋内に使用人含め十五名。問題ない。」
ラベンは首の赤く光るチョーカーに触れると先程までの女声が嘘のようにかき消え男声へと変わった。
「仕事だ。」
全身を黒で纏い闇に溶け込む。その脚からは音はなく猫のように軽やかに塀を越える。生垣に身を隠すと屋敷の裏手へと回り込み巡回している警備をすり抜け屋敷の壁を走り登る。この間かかった時間は数分、ラベンは難なく目的の部屋へとたどり着いた。
「さて、どの棚だ?」
その部屋は書斎のようだ。本がずらりと四方の棚に整頓して置かれている。ラベンはなるべく音を立てずに書斎にある机やら棚などを物色していると扉が開いた。
「何をしてるの。」
少女、茶髪の女の子が拳銃を持って現れた。拳銃を持つ手は震えている。
「こ、この家から私達の家から出て行って!!」
声も震えている。
「悪いなお嬢さんそういうわけにもいかないんだ。」
今にも泣き出しそうな顔でそれでも歯を食いしばって少女は睨みつける。そんな必死の形相も気には止めずにラベンは手を動かす。だが何を思ったのか口を開いて言い放った。
「だからお嬢さんもその銃を下さなくてもいい。撃ちたいなら撃てばいい。」
少女は物色し続けるラベンに狙いを定める。だがあまりの恐怖に少女はその場に座り込んでしまった。
「泥棒さんは強いんだね。」
「…コソ泥に強いも弱いもないだろ。」
そうしているうちにラベンは一つの調査書を見つけた。随分と分厚い紙の束、3cmほどもあるものを懐に仕舞い込んだ。
「やっと見つけた。それじゃあなお嬢さん。」
そう言って立ち去ろうとするラベンにまた拳銃を向ける少女。
「それ多分、パパが大事にしてる物だから返して。」
「さっきも言っただろ。そういうわけにもいかないんだ。」
「うん聞いた。だからこうする。」
少女は拳銃を天井に向けて発砲した。静寂の包む夜に切り裂くように響いた。そして続けるように叫ぶ。
「助けてぇぇぇ!!」
「やってくれたなお嬢さん。」
遠くの方で警備の声が聞こえてくる。騒がしく近づく足音。少女は近づきつつある警備の人が来るだろう扉に目をやった。まだ来ないのかとヤキモキしてまた窓の方に目をやるとそこにはもうラベンの姿はなかった。
「どうなさいましたかお嬢様。」
「逃げられちゃいました。」
ひしゃげた笑顔がそこにはあった。
難なく逃げられたラベンは一息つくため中央に木の植えられた広場のベンチに腰を下ろす。騒がしい昼間と違い独り言にはもってこいの時間、ラベンは少女の言葉を思い返す。
「泥棒さんは強いんだね、か。」
ラベンは首のチョーカーのスイッチをきる。張り詰めていた体を限界まで伸ばす。
「そうだ俺は強くなったあの頃よりも身体も心も。」
そうやって自身を慰めているうちに虚しくるのは必然なのかもしれない。
「はぁ帰るか。」

賑わう大通り、朝食を摂ろうと歩いている。
「あっ!ちょっと待って。」
「ん?」
「ラベンさんおはよう。」
「お前は確か…アオイ!だよな。」
「はい。」
「探してる人は見つかりそうか?」
「えぇ見つかりましたよ。」
「そうか、よかったよ。」
「えっとお礼に朝ご飯まだならご一緒にどうですか?奢りますので。」
「マジで!サンキュー。ハハなんだか口説かれてるみたいで照れるな。」
「……。」
二人は歩いて少しずつ人気のない場所までいく。そして路地に足を踏み込んだ時。
「なぁとアオイ?前に付けてた耳のはどうしたんだ?」
「今日は付けてないんですけどちゃんと持ってますよ。ほら。」
アオイは胸の深緑の服のポケットから黒光りした小さなリングを取り出した。
「そうか、ところでいつになったら店には着くんだ?俺腹空いてきたよ。」
少し先を行くアオイの背中を見て先程からの違和感が確信に変わりラベンは低い笑いを漏らす。
「お前は嘘が下手だったんだな。」
顔を歪めて悲しがるアオイはまだ自分が未熟なのだとまた自分を嫌いになった。
「ハハ、なんだその顔。」
「僕は貴方を撃ちたくない。」
すでにニナは《ヒルンク》に変形を完了している。腰の短剣を抜き銃口をラベンに向ける。
「は!?何言ってんだ。お前だとそんな口説き文句で俺が落とせると本気マジで思ってるなら…殺すぞ。」
一喝されたアオイは下唇を噛み気持ちを切り替える。ここで怪我させてでも捕まえないと幻想ゆめには届かない。手を伸ばすことすらできない。
「覚悟してください。」
「とっくの昔に済ませてるよ。」
ラベンはアオイに球体のガラス瓶を投げつけてきた。それはアオイの手前で地面に落ちた衝撃で割れて中身が撒き散らされた。視界が白で埋まる。白煙で一切が一瞬見えなくなった。もちろんラベンの姿も。ラベンはアオイの頭上斜め上から袖内側から伸びる刃で斬りつけた。それを短剣とニナで間一髪の所で受け止める。
「ほらどうした?俺を捕まえるつもりじゃないのか!」
「くっ!そぉ!!」
鍔競り合う。たまらずアオイが払い退ける。そして撃つ。弾ける爆発音がこだまする。
「はぁはぁ。」
ハンマーに親指をかけて次弾の準備をする。銃口を向けにじり寄る。息切れが激しい。
「落ち着けよ、余裕がない男はモテないぜ。」
余計なお世話だ!と抗議できるほどアオイに余裕はなかった。頭がいっぱいで口も回らなかったからだ。突然ラベンが両手を上げた。降参したのかと安易に気を緩めたアオイは飛んで来た何かを避ける事が出来なかった。
「痛っ!?」
首元に刺さったその2cm程の針はアオイに強烈な目眩を引き起こした。ふらつく足を無理やりに押さえ込み何とか倒れるのを堪えた。
「すごいなアオイ!倒れないなんて即効性の麻痺毒なんだけど、これは改善の余地有りだな。」
今にも逃げ出しそうなラベンを追いかけたいがこんな足ではとても追いつけない。
「それじゃ俺はもう行くよ。」
悠々自適にアオイの横を通り過ぎようとするラベン。
「待て。」
「待てと言われて止まる状況だと思うか?」
両手を広げて可笑しげに否定する。それを見てアオイは自身の太ももに短剣を突き刺した。気つけのつもりでやったそれにラベンも驚いたようだ。
「おいおいマジかよ。これだから歴継者コンタクターは嫌いなんだ。」
ラベンは路地の壁を蹴り上がって窓際の出っ張りに手をかけると身軽に平らな屋根の上に逃げて行った。アオイも追いかけるべく同じ様に軽やかにとはいかなったが壁を這い上がっていった。
「クッソ!!どこまで追ってくるつもりだよ。しつこい男は嫌われるんだよ。」
屋根の上を走りぬけるラベン随分と走り慣れているようで速い。追いかけてアオイも走る。家と家の間を飛び越えて走る。そしてついにラベンは屋根から飛び降りた。そして同じように降りると…
「なっ!?」
「それじゃあな。」
ラベンは飛び降りた家のベランダに右手をかけてぶら下がっていた。アオイも同じように手を伸ばしたが出来るはずもなく背中からゴミ溜めに落下した。ラベンの家を登る姿を見てふらつく頭を右手で抑える。

「ったく…そろそろ狩場を変えるべきかな。」
「お久しぶりです。紅い夜ブラットナイトさん。これ恥ずかしくないんですか?」
黒服の男がラベンの前に路地の暗がりから音もなく現れた。
「うぉあ!?いきなり出てくるな。」
黒服の男は掠れた笑い声を漏らす。対抗してか胸を入ってラベンは言い返した。
「お前らには分かんないだろうよこのカッコ良さは。」
誇らしげに鼻を伸ばす。
「こじらせてますねぇ。」
「なんか言ったか?」
わざと口調を強める。
「いえ何も、それよりもお約束のものは?」
「あぁ分かってるよ隠れ家に着いてからな。」
二人の会話を聞くものは誰もいない。

太ももの負傷を手当てしてアオイは少し休憩をとっていた。
「ニナ、場所は分かる?」
「問題ありません。」
「よしそれじゃ行こうか。」
立ち上がったアオイの耳にはイヤリングがなかった。
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