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第1章
6 ちょっと、すごい 後編
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やばい。
とりあえず、ボールを前に出してみた。それを見た審判がピッとホイッスルを鳴らす。
いや、違くて、、。
すでにコート内の生徒は皆真剣な顔をしていた。風馬と目が合った美空。助けを求めるが、風馬は美空にガッツポーズを送るだけだった。
そうじゃない、打ち方を教えてくれと美空は首を振った。
もういい、打ってしまえ。
美空はボールを高く上げて、目を閉じて思いっきり腕を振った。
空振りし、ボールはそのまま地面に落ちた。
コートの周りで試合を見ていた生徒たちが爆笑する。
美空は足元に空しく転がったボールを急いで抱きかかえる。人じゃなくてもいいから何かにすがりたかった。
「帰りたい…」
誰にも聞こえないボリュームで呟く美空。チームの人に顔向けできない。
ボールをあちらに、と審判の指示で相手チームにボールを転がして、コートに戻った美空。指すような視線を感じ、恐る恐る顔を上げる。鬼の形相でこちらをみるリーダーの顔があった。
この試合が終わったら殺される、さようなら平穏な学生生活。と美空は肩を落とした。
ホイッスルがなり、相手チームのサーブが打たれる、まだ、美空のチームが有利なのは変わらない。一層気合の入った両チームのパスとアタックの応酬が続く。
美空はしばらく傍観していたが、突然、ボールが美空の方にやってきた。
思わず息が止まる美空。
しかし無意識に体はいつもの練習通りに動いてくれた。
びっくりしたけど、冷静だった。
大丈夫だようしろ。本番でもできるよって、誰かが言ってくれたっけ。風馬だったかな。ありがとう。
美空の返したボールは高く上がった。
美空のクラス1年2組のバレーボールチームは2回戦で敗退した。
美空は2回戦では審判にお願いしてボールを投げてもいいということになり、あの1回戦のサーブミス以外は大きなミスをすることも無く、リーダーから殺されることも責められることもなく役目を終えることができた。
自分達の番が無くなり、暇になった美空と風馬は体育館の端で茫然と試合を見ていた。第二体育館でのバレーボールの試合は終わり、男子バスケの試合が始まっていた。
「うわ、あいつ泣いてるよ」
風馬の視線の先には負けて悔し泣きをするリーダーがいた。周りには同じチームにいた男子が肩を摩っている。
「ある意味すごい奴だよな、これに全力を出せるって」
「うん」
お昼を過ぎると試合を終えた他の生徒達も続々と体育館の端に集まってくる。リーダー同様、負けたのか泣いてしまう生徒も多くいた。
「俺ら全然だもんな」
「俺は逆に達成感がある」
「そうだよな、美空そんなにミスしなかったもんな」
「うん。すごくない?」
「先輩のおかげだな」
「そうかもね」
睦から教わっていなかったら今頃どうなっていただろうか。睦には感謝しなければ、そう思うと美空の心が温かくなった。
「そういや先輩のクラスって第一だっけ」
「そうなの?」
「そう、もう試合終わったのかな」
風馬が体育館の時計を見る。午後2時。
すると、体育館の端で試合を見ていた、生徒たちがざわつく。
「バレー男子の決勝2年2組と3年1組だって!」
誰かが言った言葉が耳に入った。
風馬と美空が顔を合わせる。
「美空行こうぜ」
風馬が立ち上がったのに続いて美空も立ち上がる。
二人は同じく決勝戦を観に行く生徒たちに続いて体育館通路を渡り、第二体育館の横に並んである第一体育館に向かう。入口からすでに生徒たちの歓声が聞こえ、すでに試合が開始され、白熱している様子がわかった。
第二より広い体育館な為、真ん中に張られた天井まである大きなネットを境に入口前と奥の二か所で試合は行われていたらしく、入口まえに生徒たちがごった返している様子だと決勝戦は奥で行われているようだった。
ボールが叩きつけられる音がするたびどちらかに点が入ったのか、生徒たちの歓声が上がる。美空と風馬もネットの前に近づいて背伸びし足り飛んだりして何とか見ようとするが、試合を見る生徒達で前が前が見えない。
「やべ、ぜんぜん見えねえな」
「うん、」
「俺が見るからさ、肩貸してくんね?」
「やだよ」
二人でどうにか見たいとめげずに背伸びするが景色は変わらない。そうしてる間にも、生徒たちの歓声がたびたび巻き起こる。
「はあ、」
背伸びしすぎてふくらはぎが疲れた美空。もう仕方ないかと諦めようとしたとき、背中をトントンと風馬が叩いてきた。
「美空、あそこ空いた」
風馬が指さした体育館の壁側はぽっかり穴が開いたみたいにスペースが開いていて、ネット側に行けそうだった。二人は足早にそこに入り込み、一気にネット前に行くと、そのすぐ目の前のコート角のポジションに睦はいた。
睦がアンダーでボールを返す。
いつもの彼からは想像もつかない動きでボールを弾く。
ボールのはじいた後の腕の動きと、飛んでいく汗。
それから睦のチームは無駄のないパスを回すと、睦が後ろから手を挙げて、コート前で大きくジャンプする。
睦が打ったボールが相手コートに叩きつけられる。
前にも聞いた雷鳴のような音が館内に響き渡る。
美空にはそれまでの一連の動きがスローモーションに見えた。
審判役の先生がホイッスルを鳴らすと、得点板で前川のチームに点数が追加され、応援していた睦のクラスの生徒と見ていた他の生徒たちの拍手と歓声が起こる。
点を決めた後の睦の表情はいつもの間抜けな彼の顔だった。ニコニコとチームにハイタッチして回る。
「美空、今ので同点だ」
耳元で風馬に伝えられると美空は点数板に目を向けた。
3セット目、2年1組24点、3年3組25点、すでにお互いに2セットを取っていた。あと一点で三年生のチームが勝利する。気の抜けない大一番だ。
三年生の強めのサーブで試合が始まると長いパスとアタックの応酬が続く。三年チームの強いアタックが来たとき、空気が変わった。二年生が抑えたボールが後ろにはじき飛んだ。
壁の前に落ちていくボールを目で追っていると、睦がボールの下に飛び込み両手でボールを跳ね上げた。
「あっ」
美空は声を上げる。
睦はそのまま壁にゴキっと顔をぶつけてしまった。
ヒヤリと美空を含めネット前で見ていた生徒たちが言葉を失う。そんな中、他の2年生チームはボールを回し、アタックを決めて点数を決めた。
ホイッスルが鳴り試合は一時中断。2年生チームは壁の前でうずくまる睦の元に駆け寄った。ネット前で見ていた生徒達も睦の様子を見つめ、美空の後ろから睦を心配する声が聞こえた。
「美空」
隣で見ていた風馬が美空の背中を摩った。美空が風馬の方を見ると心配そうな顔をしていた。美空自身も気づいていなかったが、顔と体が強張っていた。
「大丈夫だ、ほら、起き上がってる」
美空が風馬が顎でくいっと指した方を見ると睦がクラスメイトの肩を借りて立ち上がっていた。
それから2年生チームの人たちと少し話をして、一人で体育館を去っていった。その姿を見ていた美空の後ろで、試合再開のホイッスルが鳴った。
バレーボールの優勝は3年生になった。睦のナイスファイトも空しく、2年生は負けてしまった。
試合終了後、美空と風馬は保健室に向かった。
ノックして「失礼しまーす」と美空と風馬は保健室に入る。先に入る風馬の後ろに付いていくようにして入った美空。風馬の背中から急いで顔を出した。
保健室の奥にあるベットに睦らしき人物が横になっていた。ベットの手前にいる女性の保健の先生に隠れて顔が見えない。
ひどいケガをしたのかと緊張する美空。
保健の先生が振り返る。
「どうしたの?」
「前川先輩いますか」
風馬が聞く。
すると、保健の先生は思ったよりも明るい声で
「あら、前川くん、可愛い後輩たちが来たわよ」
と言いながらベットから離れると、仰向けに寝ていた睦の顔が見えた。右頬を袋に入れた氷で冷やしていた。
睦は美空達に気付くとぱあっと日が差したように彼は嬉しそうに目を見開き、がばっと起き上がった。しかし、
「痛っ」
と、右頬を抑えベッドに座り込む睦。
「ああ、前川さん動かないでください」
風馬が睦に近づく。
続いて美空も。
「ありがとう。…えっと、」
「仲村です」
「ああ、なかむら、お疲れー」
話せる様子から、大きな怪我はしていないなと安心した美空と風馬。
「試合見てましたよ。右頬、大丈夫ですか?」
風馬が聞く。
「ん、平気だよ」
睦はニコっと笑う。
「試合見てくれたんだ。ありがとー」
睦はウヘヘと笑った。
「前川さんかっこよかったですよ。な、」
風馬は後ろに立ったまま黙って立っていた美空の方を振り向いて話をふった。美空はびっくりして慌てて頷く。
「うん、かっこよかった」
「ほんと?」
美空はむしろ、どこがどうかっこよかったのか熱弁したいほどだった。
「うへへ、ありがとー」
睦はのんきに笑う。
右頬に当てられた氷が気になりながらも、美空は睦の顔を見て笑って返した。
「あ、そういえば」
風馬が何か思い出したかのように言う。
「前川さん、美空、試合でパスミスしなかったんですよ」
「え、ほんと?」
「前川さんのおかげだよな美空」
そう言われて戸惑う美空。確かにそうだが、本人に直接言うのは恥ずかしい。
「え、あ、う…うん、」
おどおどする美空。
「でも大したことない、」
首をぶんぶんふる。
すると睦が美空の頭に飛びつく。
力強っ…と何されるのか身構えた矢先。
「やったー!うしろー」
睦は子犬のように美空の頭を両手でわしゃわしゃ撫でまわした。そんなに長くなかったが、突風にあおられた後のように美空の髪はくちゃくちゃになってしまった。頭を揺さぶられた美空はふらふらと睦の顔をみると、右頬に紫色のアザができていた。
「前川、親が迎えに来たぞ」
保健室の入口から睦の担任の先生が呼んでいた。
「はーい」と睦は返事をすると、美空から手を離し、足元に置いてあった自分のカバンを持って、使った氷の入った袋を保健の先生に返してお辞儀をする。
「今日はこのまま帰るね」
じゃっ。と片手を振って睦は保健室から去って行った。
「美空、俺らも戻ろ」
睦がいなくなってすぐ風馬が言った。アザの事は気づいていないようだった。美空はうなずいて、そのまま保健室を後にした。
睦がいなくなった後も大会は続いた。
変わらず会場は盛り上がる。風馬は他クラスの友人が出ると応援したりと自分なりに楽しんでいる様子だったが、美空はアザのついてしまった睦の笑顔を何度も思い出していた。
とりあえず、ボールを前に出してみた。それを見た審判がピッとホイッスルを鳴らす。
いや、違くて、、。
すでにコート内の生徒は皆真剣な顔をしていた。風馬と目が合った美空。助けを求めるが、風馬は美空にガッツポーズを送るだけだった。
そうじゃない、打ち方を教えてくれと美空は首を振った。
もういい、打ってしまえ。
美空はボールを高く上げて、目を閉じて思いっきり腕を振った。
空振りし、ボールはそのまま地面に落ちた。
コートの周りで試合を見ていた生徒たちが爆笑する。
美空は足元に空しく転がったボールを急いで抱きかかえる。人じゃなくてもいいから何かにすがりたかった。
「帰りたい…」
誰にも聞こえないボリュームで呟く美空。チームの人に顔向けできない。
ボールをあちらに、と審判の指示で相手チームにボールを転がして、コートに戻った美空。指すような視線を感じ、恐る恐る顔を上げる。鬼の形相でこちらをみるリーダーの顔があった。
この試合が終わったら殺される、さようなら平穏な学生生活。と美空は肩を落とした。
ホイッスルがなり、相手チームのサーブが打たれる、まだ、美空のチームが有利なのは変わらない。一層気合の入った両チームのパスとアタックの応酬が続く。
美空はしばらく傍観していたが、突然、ボールが美空の方にやってきた。
思わず息が止まる美空。
しかし無意識に体はいつもの練習通りに動いてくれた。
びっくりしたけど、冷静だった。
大丈夫だようしろ。本番でもできるよって、誰かが言ってくれたっけ。風馬だったかな。ありがとう。
美空の返したボールは高く上がった。
美空のクラス1年2組のバレーボールチームは2回戦で敗退した。
美空は2回戦では審判にお願いしてボールを投げてもいいということになり、あの1回戦のサーブミス以外は大きなミスをすることも無く、リーダーから殺されることも責められることもなく役目を終えることができた。
自分達の番が無くなり、暇になった美空と風馬は体育館の端で茫然と試合を見ていた。第二体育館でのバレーボールの試合は終わり、男子バスケの試合が始まっていた。
「うわ、あいつ泣いてるよ」
風馬の視線の先には負けて悔し泣きをするリーダーがいた。周りには同じチームにいた男子が肩を摩っている。
「ある意味すごい奴だよな、これに全力を出せるって」
「うん」
お昼を過ぎると試合を終えた他の生徒達も続々と体育館の端に集まってくる。リーダー同様、負けたのか泣いてしまう生徒も多くいた。
「俺ら全然だもんな」
「俺は逆に達成感がある」
「そうだよな、美空そんなにミスしなかったもんな」
「うん。すごくない?」
「先輩のおかげだな」
「そうかもね」
睦から教わっていなかったら今頃どうなっていただろうか。睦には感謝しなければ、そう思うと美空の心が温かくなった。
「そういや先輩のクラスって第一だっけ」
「そうなの?」
「そう、もう試合終わったのかな」
風馬が体育館の時計を見る。午後2時。
すると、体育館の端で試合を見ていた、生徒たちがざわつく。
「バレー男子の決勝2年2組と3年1組だって!」
誰かが言った言葉が耳に入った。
風馬と美空が顔を合わせる。
「美空行こうぜ」
風馬が立ち上がったのに続いて美空も立ち上がる。
二人は同じく決勝戦を観に行く生徒たちに続いて体育館通路を渡り、第二体育館の横に並んである第一体育館に向かう。入口からすでに生徒たちの歓声が聞こえ、すでに試合が開始され、白熱している様子がわかった。
第二より広い体育館な為、真ん中に張られた天井まである大きなネットを境に入口前と奥の二か所で試合は行われていたらしく、入口まえに生徒たちがごった返している様子だと決勝戦は奥で行われているようだった。
ボールが叩きつけられる音がするたびどちらかに点が入ったのか、生徒たちの歓声が上がる。美空と風馬もネットの前に近づいて背伸びし足り飛んだりして何とか見ようとするが、試合を見る生徒達で前が前が見えない。
「やべ、ぜんぜん見えねえな」
「うん、」
「俺が見るからさ、肩貸してくんね?」
「やだよ」
二人でどうにか見たいとめげずに背伸びするが景色は変わらない。そうしてる間にも、生徒たちの歓声がたびたび巻き起こる。
「はあ、」
背伸びしすぎてふくらはぎが疲れた美空。もう仕方ないかと諦めようとしたとき、背中をトントンと風馬が叩いてきた。
「美空、あそこ空いた」
風馬が指さした体育館の壁側はぽっかり穴が開いたみたいにスペースが開いていて、ネット側に行けそうだった。二人は足早にそこに入り込み、一気にネット前に行くと、そのすぐ目の前のコート角のポジションに睦はいた。
睦がアンダーでボールを返す。
いつもの彼からは想像もつかない動きでボールを弾く。
ボールのはじいた後の腕の動きと、飛んでいく汗。
それから睦のチームは無駄のないパスを回すと、睦が後ろから手を挙げて、コート前で大きくジャンプする。
睦が打ったボールが相手コートに叩きつけられる。
前にも聞いた雷鳴のような音が館内に響き渡る。
美空にはそれまでの一連の動きがスローモーションに見えた。
審判役の先生がホイッスルを鳴らすと、得点板で前川のチームに点数が追加され、応援していた睦のクラスの生徒と見ていた他の生徒たちの拍手と歓声が起こる。
点を決めた後の睦の表情はいつもの間抜けな彼の顔だった。ニコニコとチームにハイタッチして回る。
「美空、今ので同点だ」
耳元で風馬に伝えられると美空は点数板に目を向けた。
3セット目、2年1組24点、3年3組25点、すでにお互いに2セットを取っていた。あと一点で三年生のチームが勝利する。気の抜けない大一番だ。
三年生の強めのサーブで試合が始まると長いパスとアタックの応酬が続く。三年チームの強いアタックが来たとき、空気が変わった。二年生が抑えたボールが後ろにはじき飛んだ。
壁の前に落ちていくボールを目で追っていると、睦がボールの下に飛び込み両手でボールを跳ね上げた。
「あっ」
美空は声を上げる。
睦はそのまま壁にゴキっと顔をぶつけてしまった。
ヒヤリと美空を含めネット前で見ていた生徒たちが言葉を失う。そんな中、他の2年生チームはボールを回し、アタックを決めて点数を決めた。
ホイッスルが鳴り試合は一時中断。2年生チームは壁の前でうずくまる睦の元に駆け寄った。ネット前で見ていた生徒達も睦の様子を見つめ、美空の後ろから睦を心配する声が聞こえた。
「美空」
隣で見ていた風馬が美空の背中を摩った。美空が風馬の方を見ると心配そうな顔をしていた。美空自身も気づいていなかったが、顔と体が強張っていた。
「大丈夫だ、ほら、起き上がってる」
美空が風馬が顎でくいっと指した方を見ると睦がクラスメイトの肩を借りて立ち上がっていた。
それから2年生チームの人たちと少し話をして、一人で体育館を去っていった。その姿を見ていた美空の後ろで、試合再開のホイッスルが鳴った。
バレーボールの優勝は3年生になった。睦のナイスファイトも空しく、2年生は負けてしまった。
試合終了後、美空と風馬は保健室に向かった。
ノックして「失礼しまーす」と美空と風馬は保健室に入る。先に入る風馬の後ろに付いていくようにして入った美空。風馬の背中から急いで顔を出した。
保健室の奥にあるベットに睦らしき人物が横になっていた。ベットの手前にいる女性の保健の先生に隠れて顔が見えない。
ひどいケガをしたのかと緊張する美空。
保健の先生が振り返る。
「どうしたの?」
「前川先輩いますか」
風馬が聞く。
すると、保健の先生は思ったよりも明るい声で
「あら、前川くん、可愛い後輩たちが来たわよ」
と言いながらベットから離れると、仰向けに寝ていた睦の顔が見えた。右頬を袋に入れた氷で冷やしていた。
睦は美空達に気付くとぱあっと日が差したように彼は嬉しそうに目を見開き、がばっと起き上がった。しかし、
「痛っ」
と、右頬を抑えベッドに座り込む睦。
「ああ、前川さん動かないでください」
風馬が睦に近づく。
続いて美空も。
「ありがとう。…えっと、」
「仲村です」
「ああ、なかむら、お疲れー」
話せる様子から、大きな怪我はしていないなと安心した美空と風馬。
「試合見てましたよ。右頬、大丈夫ですか?」
風馬が聞く。
「ん、平気だよ」
睦はニコっと笑う。
「試合見てくれたんだ。ありがとー」
睦はウヘヘと笑った。
「前川さんかっこよかったですよ。な、」
風馬は後ろに立ったまま黙って立っていた美空の方を振り向いて話をふった。美空はびっくりして慌てて頷く。
「うん、かっこよかった」
「ほんと?」
美空はむしろ、どこがどうかっこよかったのか熱弁したいほどだった。
「うへへ、ありがとー」
睦はのんきに笑う。
右頬に当てられた氷が気になりながらも、美空は睦の顔を見て笑って返した。
「あ、そういえば」
風馬が何か思い出したかのように言う。
「前川さん、美空、試合でパスミスしなかったんですよ」
「え、ほんと?」
「前川さんのおかげだよな美空」
そう言われて戸惑う美空。確かにそうだが、本人に直接言うのは恥ずかしい。
「え、あ、う…うん、」
おどおどする美空。
「でも大したことない、」
首をぶんぶんふる。
すると睦が美空の頭に飛びつく。
力強っ…と何されるのか身構えた矢先。
「やったー!うしろー」
睦は子犬のように美空の頭を両手でわしゃわしゃ撫でまわした。そんなに長くなかったが、突風にあおられた後のように美空の髪はくちゃくちゃになってしまった。頭を揺さぶられた美空はふらふらと睦の顔をみると、右頬に紫色のアザができていた。
「前川、親が迎えに来たぞ」
保健室の入口から睦の担任の先生が呼んでいた。
「はーい」と睦は返事をすると、美空から手を離し、足元に置いてあった自分のカバンを持って、使った氷の入った袋を保健の先生に返してお辞儀をする。
「今日はこのまま帰るね」
じゃっ。と片手を振って睦は保健室から去って行った。
「美空、俺らも戻ろ」
睦がいなくなってすぐ風馬が言った。アザの事は気づいていないようだった。美空はうなずいて、そのまま保健室を後にした。
睦がいなくなった後も大会は続いた。
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