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第3章
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教室にいつも一人でいるやつ。
授業の時、朗読するとき以外、話しているのを見たことない。
誰かが声をかけても「うん」だけ。
名前はうしろ みう。
漢字で書いて後呂美空。
男なのにこの名前だ。
高校ではテストの順位が張り出される。4位に後呂の名前があった。俺たちのクラスではトップの順位。しかも細身で顔がかわいいと、時々クラスの話題の種にはなってた。
だけど、誰もあいつと話をしたことが無い。
もちろんいじめてるわけじゃない。
後呂から、距離を置いてる感じがするってみんな言う。
まあ、一人が好きなのかもしれない。
後呂の席は真ん中の窓の前。
俺の斜め向かいの席。
授業中、暇だから何となく後ろ姿を見てる。
後呂の後ろ姿。なんつって。
軽く背筋を伸ばして、両肘を机に付いて、ノートをとっている。
髪は黒ショート。男っぽいボサボサ、つんつんした段のついた髪型じゃなくて、女の子がよくやるショートヘアーみたいだけど、
美容師さん、大正解だ。
後呂にピッタリの髪型だ。
後呂が右耳に髪をかけた。
かからなかった数本の髪がサラサラ流れ落ちて元の場所に戻る。
黒板を見上げた後呂。
現代文の授業が好きなのか、他の授業より真剣に黒板を見ている感じがする。
リュックは黒色か。
まあ、無難。
あっ、消しゴム落ちてる。
後呂、気づいてないのか。
おっ、気づいた。
机の上を見てから、ノートの下。
探してる、探してる。
違うぞ、後呂、机の脚んとこ。
「仲村」
教卓を見た。
先生が見てた。
「聞いてるか?5行目から読んで」
立って、教科書を持つ。
ちらっと、後呂を見ると、床から消しゴムを取っていた。
あ、拾えたんだ。
よかった。
その現代文の授業後、課題が出た。
本を一冊読むこと。
今度からやる教科書の話は一部分だけの記載らしくて、始まる前に原作の本を読んでこいってことらしい。
本とは無縁の生活をしていたから、嫌になる。
放課後、部活には入っていないから、まっすぐ帰る。
外は晴れ。所々に雲はあるけれど。
帰り道歩いていると、鼻先に雫が当たる。
それからザザザって雨が降り出す。
うわっ。
近くにあったスーパーの屋根下に入り込む。
濡れた。
それからも雨は強くなっていく。空を見ると、青空が見える。
通り雨か。
そう思ったとき、すぐ横に同じ制服の奴が自転車を押して入ってきた。横目で見ると、後呂なのがわかった。
走ってきたのか息が荒い。
後呂が急にこっちに顔を上げたから目が合った。
「お、おう」
突発的に口から出た挨拶。
話したことないから、これしか言えない。
向こうも、会釈返しただけ。
気まずい。
後呂はズボンのポケットからハンドタオルを取り出して顔を拭く。
心もとないな。
「これ、使う?」
カバンに入れてたタオルを渡した。
「いや、大丈夫、」
後呂が首を振る。
「あ、これ使ってねーやつだから、臭くはないぞ」
俺はぐっと後呂にタオルを向けた。
「遠慮すんな、風邪ひいちまう」
後呂は俺の顔を少し見てから恐る恐るタオルを受け取った。
「後呂って帰り道こっちなんだな」
「うん」
俺のタオルで顔を拭きながら頷いた。
「あんまりこっち方面の奴いないからびっくりした」
言いながら、俺は何か話の種を、と足元を見た。
「あの、」
後呂の声。
「ん?」
顔を上げると、後呂は俺にタオルを向けていた。
「ありがとう」
後呂が少しだけ笑いながら言った。
「…ああ、うん」
俺はタオルを受け取って、屋根越しに雨が振る空を見上げた。
「…止まないな雨」
「うん」
会話がすぐに途切れる。
…つらみ。
「後呂しゃべんないよな。クラスで」
「うん」
「なんで」
「なんとなく」
「体育とか気まずくない?」
「慣れたかな」
「なんだそれ」
また、途切れた。
んー…。
自分の席から見る授業中の後呂の顔が浮かんだ。
あっ、そうだ、現代文の課題。
「現代文のさ、やつ。めんどくさくね?」
「やつ?」
「本読めって、言われたじゃん」
「ああ…」
後呂が小さく頷く。
「そんなにかな」
後呂は何の苦もなしに言う。
「俺本読むの苦手」
「そうなんだ」
「部厚そうじゃん」
「あの本、会社によって種類違うから、読みやすいのもあるよ」
「そうなの?」
「うん。俺も読むの得意じゃないから、」
後呂は自転車のカゴに入れていたリュックから単行本より一回り大きめの、児童向けの本を取り出す。
表紙のタイトルが課題に出たやつだった。
「これ、小さい子が読む用の。文字が大きいから読みやすいよ」
「買ったの?」
「うん」
後呂が渡してきたから、タオルで手を拭いてから取って開いた。
「ああ、確かに」
パラパラ捲って見たけど、文字がでかいから読めそうな気がしてくる。
「…貸す?」
後呂の口から予想外の言葉。
「えっ、いいの?」
「うん。今日読み終わったし、売ろうかなって思ってたから」
初めて話したやつに物借りるのって少し抵抗合ったけど、わざわざ買うよりはいいか。
「じゃあ、ありがたく」
「うん」
目に急に光が当たる。
雨が止んだ。
「じゃあ、帰るね」
「ああ、終わったら返すよ」
自転車に乗ってさっそうといなくなる後呂の背中に言った。
手に持っていた後呂の本を見る。
全くタイトルとか、表紙にも関係ないのに、タオルを返した時の後呂の笑った顔が何度も浮かんだ。
ああいう顔すんだな。
雨が止んだ空を見上げた。
雲は所々にあったけど、その後ろの青空はとてもきれいに見えた。
その夜、自宅で試しに借りた本を読んでみた。
うん。面白い。
読みやすいから話が頭に入ってくる。
読み終わって本を閉じて、ああ眠いなってベッドに置いていた目覚まし時計を見たら朝の5時だった。
電気を消してふとんに入る。
早く寝なきゃ。
目を閉じる。
「ありがとう」
頭の中で後呂の声が響いた。
えっ、何?
目を開いた。
後呂の少しだけ笑ったあの顔を思い出した。
…、
…えっ何、
なになになになになになになに…。
…。
…。
…。
ヤバ、
全然寝れない。
授業の時、朗読するとき以外、話しているのを見たことない。
誰かが声をかけても「うん」だけ。
名前はうしろ みう。
漢字で書いて後呂美空。
男なのにこの名前だ。
高校ではテストの順位が張り出される。4位に後呂の名前があった。俺たちのクラスではトップの順位。しかも細身で顔がかわいいと、時々クラスの話題の種にはなってた。
だけど、誰もあいつと話をしたことが無い。
もちろんいじめてるわけじゃない。
後呂から、距離を置いてる感じがするってみんな言う。
まあ、一人が好きなのかもしれない。
後呂の席は真ん中の窓の前。
俺の斜め向かいの席。
授業中、暇だから何となく後ろ姿を見てる。
後呂の後ろ姿。なんつって。
軽く背筋を伸ばして、両肘を机に付いて、ノートをとっている。
髪は黒ショート。男っぽいボサボサ、つんつんした段のついた髪型じゃなくて、女の子がよくやるショートヘアーみたいだけど、
美容師さん、大正解だ。
後呂にピッタリの髪型だ。
後呂が右耳に髪をかけた。
かからなかった数本の髪がサラサラ流れ落ちて元の場所に戻る。
黒板を見上げた後呂。
現代文の授業が好きなのか、他の授業より真剣に黒板を見ている感じがする。
リュックは黒色か。
まあ、無難。
あっ、消しゴム落ちてる。
後呂、気づいてないのか。
おっ、気づいた。
机の上を見てから、ノートの下。
探してる、探してる。
違うぞ、後呂、机の脚んとこ。
「仲村」
教卓を見た。
先生が見てた。
「聞いてるか?5行目から読んで」
立って、教科書を持つ。
ちらっと、後呂を見ると、床から消しゴムを取っていた。
あ、拾えたんだ。
よかった。
その現代文の授業後、課題が出た。
本を一冊読むこと。
今度からやる教科書の話は一部分だけの記載らしくて、始まる前に原作の本を読んでこいってことらしい。
本とは無縁の生活をしていたから、嫌になる。
放課後、部活には入っていないから、まっすぐ帰る。
外は晴れ。所々に雲はあるけれど。
帰り道歩いていると、鼻先に雫が当たる。
それからザザザって雨が降り出す。
うわっ。
近くにあったスーパーの屋根下に入り込む。
濡れた。
それからも雨は強くなっていく。空を見ると、青空が見える。
通り雨か。
そう思ったとき、すぐ横に同じ制服の奴が自転車を押して入ってきた。横目で見ると、後呂なのがわかった。
走ってきたのか息が荒い。
後呂が急にこっちに顔を上げたから目が合った。
「お、おう」
突発的に口から出た挨拶。
話したことないから、これしか言えない。
向こうも、会釈返しただけ。
気まずい。
後呂はズボンのポケットからハンドタオルを取り出して顔を拭く。
心もとないな。
「これ、使う?」
カバンに入れてたタオルを渡した。
「いや、大丈夫、」
後呂が首を振る。
「あ、これ使ってねーやつだから、臭くはないぞ」
俺はぐっと後呂にタオルを向けた。
「遠慮すんな、風邪ひいちまう」
後呂は俺の顔を少し見てから恐る恐るタオルを受け取った。
「後呂って帰り道こっちなんだな」
「うん」
俺のタオルで顔を拭きながら頷いた。
「あんまりこっち方面の奴いないからびっくりした」
言いながら、俺は何か話の種を、と足元を見た。
「あの、」
後呂の声。
「ん?」
顔を上げると、後呂は俺にタオルを向けていた。
「ありがとう」
後呂が少しだけ笑いながら言った。
「…ああ、うん」
俺はタオルを受け取って、屋根越しに雨が振る空を見上げた。
「…止まないな雨」
「うん」
会話がすぐに途切れる。
…つらみ。
「後呂しゃべんないよな。クラスで」
「うん」
「なんで」
「なんとなく」
「体育とか気まずくない?」
「慣れたかな」
「なんだそれ」
また、途切れた。
んー…。
自分の席から見る授業中の後呂の顔が浮かんだ。
あっ、そうだ、現代文の課題。
「現代文のさ、やつ。めんどくさくね?」
「やつ?」
「本読めって、言われたじゃん」
「ああ…」
後呂が小さく頷く。
「そんなにかな」
後呂は何の苦もなしに言う。
「俺本読むの苦手」
「そうなんだ」
「部厚そうじゃん」
「あの本、会社によって種類違うから、読みやすいのもあるよ」
「そうなの?」
「うん。俺も読むの得意じゃないから、」
後呂は自転車のカゴに入れていたリュックから単行本より一回り大きめの、児童向けの本を取り出す。
表紙のタイトルが課題に出たやつだった。
「これ、小さい子が読む用の。文字が大きいから読みやすいよ」
「買ったの?」
「うん」
後呂が渡してきたから、タオルで手を拭いてから取って開いた。
「ああ、確かに」
パラパラ捲って見たけど、文字がでかいから読めそうな気がしてくる。
「…貸す?」
後呂の口から予想外の言葉。
「えっ、いいの?」
「うん。今日読み終わったし、売ろうかなって思ってたから」
初めて話したやつに物借りるのって少し抵抗合ったけど、わざわざ買うよりはいいか。
「じゃあ、ありがたく」
「うん」
目に急に光が当たる。
雨が止んだ。
「じゃあ、帰るね」
「ああ、終わったら返すよ」
自転車に乗ってさっそうといなくなる後呂の背中に言った。
手に持っていた後呂の本を見る。
全くタイトルとか、表紙にも関係ないのに、タオルを返した時の後呂の笑った顔が何度も浮かんだ。
ああいう顔すんだな。
雨が止んだ空を見上げた。
雲は所々にあったけど、その後ろの青空はとてもきれいに見えた。
その夜、自宅で試しに借りた本を読んでみた。
うん。面白い。
読みやすいから話が頭に入ってくる。
読み終わって本を閉じて、ああ眠いなってベッドに置いていた目覚まし時計を見たら朝の5時だった。
電気を消してふとんに入る。
早く寝なきゃ。
目を閉じる。
「ありがとう」
頭の中で後呂の声が響いた。
えっ、何?
目を開いた。
後呂の少しだけ笑ったあの顔を思い出した。
…、
…えっ何、
なになになになになになになに…。
…。
…。
…。
ヤバ、
全然寝れない。
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