個生院の患者のみなさん

さとう たなか

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診察室の中は入って正面に大きな窓があり、8畳ほどの広さ。窓の前、左側には机と椅子が二つ。右には診察用のベッドと、隣の部屋へ続く入口があった。
診察台にカドルを寝かせると、先生はすぐにガーゼ、被覆材などを診察机の上に出していく。

「すみません、澄田さん。ありがとうございました。どうぞ、座って待っていてください」

先生に言われて俺はすぐに椅子にどっと腰掛けた。背中を反らして彼を運んでいたから痛い。人一人運ぶのがこんなに大変だと思わなかった。
見ると横に寝かせていたはずのカドルが起き上がって診察台に座り、足をばたばたと退屈そうに揺らしているのを見て少し腹が立った。
美しい顔だから調子に乗って偉そうにしているのだろう。それに今はまだ状況を呑み込むのに一杯でイライラして、カドルが普通の人だったら自分もそれなりに喜べたはずなのにと、彼に嫌な目を向けてしまうカドルが不意に自分の方を向いて来たから、やましい心がバレないように俺は目を反らした。
今の俺は、人に嫌な目を向けれるような立場じゃない。
包帯で巻かれたカドルの腕が頭に浮かび、俺は自分の両腕を宥めるように摩った。
カドルは俺の事を気にも留めず先生の方に向き直る。

「みっちーさ、メス貸してよ」

「だめです」即答する先生。

「ちぇ」

先生は隣の部屋に行き、水を入れた洗面器を持って戻りイスの上に置く。イスを引っ張りカドルの近くに行き、処置を行う。カドルはわざとらしく痛え痛えと言っていたが先生は気にせず、汚れを取った傷口を入念に確認し、彼の擦り傷の上に被覆材を貼っていく。

「…骨が折れたりもしてなさそうですね。大きな怪我がなくて良かったです」

先生はカドルのケガの処置を終えると、机に座り、彼の状態をメモしていく。
カドルはそっぽを向いたまま黙っている。

「つばめさん、カドルの事探していたんですよ」

「またその話かよ、」

カドルは診察台に片足を乗っけて、そこに肘をついた。

「動けそうなら、つばめさんの所に行ってあげてくださいね」

「俺ガキンチョ嫌い」

カドルは立ち上がると、乱暴に診察室の扉を開けて出ていく。
静かになった診察室。自分は後味の悪い余韻を感じたが、見ると先生は嫌な顔一つしていない様子だった。

「彼は今、絶賛反抗期中なんです」

先生はなんだか嬉しそうに話始める。

「澄田さんと近い年頃なんですよ、彼。良かったらお話してみてくださいね」

「ちょっと、怖いかも…ですね」

「そんな事ありませんよ」
先生はいたずらっぽい顔を俺に向けると、立ち上がり、診察室の扉を音を立てないようにゆっくり開けて俺に手招きをした。
近づいて先生の指さす方を見ると、最初に入った受付が見え、そこでつばめとカドルが何やら話をしていた。それからつばめにおねだりされたからか、カドルはつばめを肩に乗せて歩いて行った。

「ああ見えて小さい子には優しいんですよ、彼」

先生は二人を微笑ましく見ていた。自分も初めは同じように感じたが、徐々に表でだけで彼を判断してしまった自分に恥ずかしさと彼に対しての嫉妬を感じた。

「澄田さん」

先生に呼ばれて俺は「はい」と背筋を正した。

「診察に来て頂いたのに、ここまで色々とお手伝いをさせてしまって申し訳ありませんでした」

先生は深々と頭を下げ「このまま、診察に移りますか?それともお休みに…」と言いかける所で、また後回しになってしまっては困ると思い、「いいえ、診察をお願いします」と俺は食い気味に返事をした。
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