個生院の患者のみなさん

さとう たなか

文字の大きさ
6 / 11

1-6

しおりを挟む
つばめが中に入ったのを確認すると、先生は翼の生えたその人の側に、つばめがカドルと呼んでいたその人に近づいた。まだ芝生に顔を埋めている。先生の横に立った俺は、改めてカドルの方に耳を澄ました。
まず深く長いため息が聞こえたあと、

「死ねなかった…、また死ねなかった…。なんで勝手に飛んじゃうんだろ…俺…なんで…」と、くぐもった声が聞こえてくる。
それを聞いた先生は困った顔をして

「カドル、なにしてるんですか」

先生の声にカドルの翼がぴくっと反応する。

「みっちー、まだいたのかよ…」

カドルは嫌々言葉を返した。みっちーとは先生の事だろうか。

「…どうせまたか、なんて思ってるんでしょ、みっちー。···そうだよ、また飛び降りて失敗したんだよ、だって勝手に羽が広がっちゃうんだもん…、勝手に飛んじゃうんだもん…、首を吊った時もそうだった、気づいたら飛んじゃってたし…。死にたいのに死ねないんだもんこいつのせいで…。自分で引っ張ると痛いし、なんなんだよ、もう…」

飛ぶためじゃなくて、ほんとに飛び降りようとしていたのか。翼が無かったら今ごろ…、考えただけで体が震える。カドルに翼があって良かった。

「顔を上げてください、カドル。着地するとき擦りむいたでしょう?」

先生がカドルの隣にしゃがむ。
カドルは先生から頭を反対に向けてしまった。

「ほっといて…、俺は死にたいの、」

「もう少し待ってはくれませんか?」

「ほーら、起きてください」と先生は無理やりカドルの体をひっくり返す。
やっと露わになったカドルの顔を見て衝撃を受けた。
今まで見たことのない、ブロンド髪の美少年だったからだ。
髪はしばらく切っていないのか、首元までボサボサと伸びてみすぼらしかったけど、それでもしばし彼の不満げな顔に見とれてしまった。

「みっちーの命じゃないでしょ…。死ぬタイミングくらい、選ばせてよ…」

そっぽを向きながら彼は言う。
彼の指先から肘まで包帯が巻かれていたのが気がかりだったが、あえて意識をそ反らして彼の顔の方に目を戻した。右頬に擦り傷があり、千切れた芝生が顔に髪に服についている。

「つばめさんが遊ぼうって、ずっと探していたんですよ。後で彼女の所に行ってくださいね」

「知るかよ」

ぶっきらぼうに返事を返し、なかなか起き上がろうとしないカドルの脇の下に腕を通す先生。俺の方を見て、

「すみません、澄田さん。彼を診察室まで運ぶのを手伝ってもらえませんか?」

「あっ、はい」

先生に言われて俺はカドルの膝を脇に抱え、掛け声に合わせて彼を持ち上げた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

あまりさんののっぴきならない事情

菱沼あゆ
キャラ文芸
 強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。  充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。 「何故、こんなところに居る? 南条あまり」 「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」 「それ、俺だろ」  そーですね……。  カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…

診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。 そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。 「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。 時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。 多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。 この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。 ※医学描写と他もすべて架空です。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...