個生院の患者のみなさん

さとう たなか

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先生に言われて先に診察室に戻ってしばらく待っていると診察室の横の入口から
白衣を着た先生が戻ってきた。

「お待たせしました」

手にはA4サイズの紙を入れたファイルを持っていた。駅からずっと先生の私服姿が目に焼き付いてしまっていたから、白衣姿を見ると緊張してしまう。
そう言えば、この人先生だったんだ。

「やっと白衣を着ることができました」

先生が俺の方を見ながら白衣の襟を引っ張る。
机の椅子に腰かけ「では始めますね」とお辞儀をし、それを習って自分も頭を下げた。先生はファイルに入れた、俺が書いた問診票を見ながら話し始める。

「症状は、突然傷ができる、という症状ですね」

「はい」

「どんなときに、どのように症状がでますか?」

「近くに怪我をしている人がいたとき、その人が腕をケガしていたら、同じよう
に痛み出して…、血が出ていたら同じく血も出てくるんです」

「アザとかもですか?」

「はい、」

「いつから、症状は出始めましたか?」

「ええと…、高校、もうすぐ3年なんですけど、2年の秋ごろから」

「春休みを利用して、こちらにいらしてくれたんですね。今3月なので、去年の9月ごろですか?」

「それくらいだったと思います、」

先生が問診票を見て確認、机の上のカルテにペンで色々記入していく。俺が住む街の病院の医者はペンで何か書いたりしない。ペンで書いてる感じが古く感じた。

「症状は、どこで起こりやすいですか?」

「学校にいるときとか、親といるときとか···」

ふと、カドルの腕を見たときの状況を思い出して、俺はジャージの袖をまくった。案の上、腕に薄っすら傷が浮き出ていた。先生が俺の腕を掴んで傷口を見る。

「これは、カドルの傷…そっくりですね、」

またなった…、手首に傷が浮かんでくる、痛い。

「…さっき、あの人の包帯を見たとき、痛み出して、」

カドルの腕の包帯がまた頭に浮かぶ。徐々に、徐々に腕全体の痛みが増していく…同時に手首の傷が深くなり、血が滲んでいく。
痛い。
自分の腕を抱え込むようにして痛みを抑える。
涙が溢れる、
痛い、怖い、
死にたくない…、死にたくない、
痛い、痛い、痛い、痛い…痛い…。

「澄田さん」

先生の声で我に帰った。
顔を上げると、先生が俺の手首を両手で包みこんで、俺の顔を覗き込むように見ていた。先生の目は滲んでいて、でも笑っていた。

「傷だけじゃなくて、たぶん、相手の気持ちも流れてくるんです、」

「痛かったですね…、もう、大丈夫ですよ」

母親とたくさんの病院に行った。どの先生にも、頭を抱えさせてばかりで。高校の友人、部活の先輩達、先生にも言ったけど、かわいそうって言うだけで、だれも。なにも···。変わらなかったから、治ったって嘘をついた。みんなに。気のせいだったって。
気づいたら、俺は声を出して泣いていた。
体の中に積もった、いろいろなことが流れ出ていった。
治せると思ったから。
ここに来て良かったと思ったから。
先生の手が温かかったから。
そうじゃなくてきっと、誰かに痛かったねと言ってもらえたのが嬉しかったからだと思う。
もし、この病気が治らないものでも、誰かにわかってもらえたなら、それで良かったから。
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