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第三章
最終話
しおりを挟む光の向こうに見えたのは赤い赤い炎であった。
(ここが1000Sランク階層?)
リベルは思わず瞬きした。
街が燃えている。金属の街が灼熱の炎に溶けて、液体となって、さらには消えている。
この光景はいったい……。
「うほぁ!?」
ティールが素っ頓狂な声を上げる。どうやら、彼もこれは予想外だったらしい。
「安全な場所はわかるか?」
「わ、わわわわわかるわけねねねねねええだろ!!! 帰るぞ、俺は帰る――」
ティールは振り返るも、転移門はない。
アマネとクルルシアも困った顔を見せる。
「これはどういうことなの?」
「あの燃えている街が本来の移動先の街でいいんだよな、ティール?」
「お、おう。たぶん。あんな燃えてないはずだけど」
「転移門がぶっ壊れたから、近くに放り投げ出された可能性は?」
「たぶんそれだ」
「あの惨状を生み出した魔物が近くにいるんじゃないか?」
「ああ。ちょっと待てよ」
ティールはごそごそと懐を漁ると、魔術道具を取り出す。
探知機能があるらしく、それは盛んに敵の位置を指し示していた。
「上――」
「離れろ!」
頭上から降り注ぐは炎。
攻撃してきたのは竜の魔物だ。赤々した鱗が眩しく、人も丸呑みできそうなほどに大きい。
あの巨体がどうやって移動してきたのか。
時間を操り加速して接近してきたのだろう。
リベルは炎を回避した後に、敵を見据える。彼我の間には炎があるが、その向こうに地に降り立った竜が見える。
「反撃する!」
剣に魔力を纏わせると、炎を切り裂く。
存在しない状態に書き換えられて、炎は消え去った。
そして加速とともに竜の背に飛び移ると、剣を突き刺す。魔力を流し込み、竜の肉体を変化させていく。
あっという間に肉は腐敗し、崩れ落ちていく。
アマネは剣を用いて羽を落とし、クルルシアは銀の槍で頭を串刺しにした。これでもはや、反撃されることはない。
それでもまだ動き続ける竜の状態を書き換えて脆くすると、剣で切るだけでボロボロに崩れ去った。
やがて風が粒子を攫っていき、跡形もなく竜は消え去る。
「……街をやった犯人はこいつじゃなさそうだな」
「ここまで弱かったら、撃退されてるよね」
せいぜい2000Sランクといったところだ。
「ねえティール。どこか別の街はないの?」
「転移門の反応は近くにあるが……魔物もいるみたいだ。行くのか?」
「それしかないよ」
「こんなところで野宿はしたくないわね」
「敵がいるなら、倒しがいがあるな」
「リベル……お前、こんなときでも楽しそうだな」
ティールは呆れずにはいられなかった。
一行は転移門へ向かって移動を始めた。
道中は大量の魔物で溢れていたが、どれも元々この階層にいた魔物らしく、彼らの敵ではなかった。
反対にその経験を得てリベルの魔力はどんどん高まり、10000Sランクへと近づいていく。
この階層では時間の流れが異なるため、どれほどたったのかはわからない。気がついたときには転移門が見えてきた。
だが、大量の魔物に囲まれており、すでに門は閉じかけている。
「避難を終えて用無しになったか?」
「使えなくなっちゃうよ! 急がないと!」
「行き先がわからないが……」
「ここよりマシだろ!」
「魔物の集団に突っ込むことになるが、いいのか? 俺は問題ないぞ」
「嬉しそうに言うなよ!」
リベルたちは魔物目がけて突っ込んでいく。
アマネが炎で焼き払い、リベルが丈夫な敵を切り払い、クルルシアが残る敵を仕留めていく。そしてティールはこそこそとついてくる。
「門が消えそう!」
「急げ!」
リベルは加速すると、次から次へと敵を切っていく。
もはや切れない敵はない。そんな錯覚に陥る。
この短時間で彼の力は磨かれ、さらなる高みへと近づきつつあった。
リベルは込み上げる力のままに剣を振る。放たれた魔力が正面の魔物をことごとく食らい尽くした。
「見えた! 行くぞ!」
転移門まであと少し。
リベルたち四人は駆ける足に力を込め――一斉に飛び込んだ。
◇
暗闇が広がっていた。
なにもない。存在しているということすら存在してはいない。
自分の存在すら認識することができない有様だ。
リベルは自分を見失いかけていたが、魔力だけはしかと存在していることに気がついた。それを頼りに自分の元の状態を構築していく。
魔力によって自然法則を操りその状態を書き換えること。それが1000Sランクの条件であった。
しかし、ここに来て、さらに上の能力を知ることになる。
(ここにあるのは概念、因果……そういったものだ)
物質を魔力が凌駕する。すべては魔力によって規定され、それを生み出すのもまた人である。
おそらくここが10000Sランク階層。すべての頂点に立つ世界である。
だが、それにしてはおかしい。
ここは存在という概念を失った世界だ。それによりなにもかもが存在しなくなった。
リベルが無の中を漂っていると、そこに光が生じる。
それには見覚えがあった。今度こそ、はっきりと掴み取ることができた。
「ミレイ、ここはなんだ?」
「ここに来てしまった以上、すべてをお話しましょう。ここには無限の時間がありますから」
ミレイの姿が闇に浮かぶ。
「Sランク世界というのは、あなた方を誘き寄せるための餌でした」
「だろうな」
「知っていて承諾されたのですか?」
「いいや。だけど、胡散臭いとは思っていた」
「そうですか。ご覧のとおり――といっても、視覚による知覚ではありませんが――この世界はすでにありとあらゆる概念を奪われて、存在すら希薄になっています。いずれ消え去る運命にあるでしょう。私はそれを防ぎたかった」
リベルはミレイの話に耳を傾ける。
何百年と、そのために異世界からSランクの強者を集めてきたという。だが、そのすべてが失敗に終わった。
この世界に辿り着いても、敗れ去ったのだ。
「あなたが唯一の希望でした。その強い魔力があれば、すべてを食らう世界の闇にも打ち勝てると見込んだのです」
「当てが外れたか?」
「いいえ。実際、そのとおりの魂であったと思います。ですが、この世界が失われるほうが早かった」
「それで犯人は?」
「異世界からの侵略者、宇宙を食らう魔物です」
「なるほど。理解した」
リベルは意識の奥底に生じる存在を認めた。
たった今、彼の認識から彼の存在する世界に、宇宙を食らう魔物が生まれたのだ。そしてひとたび繋がったからには、あとは魔力の比べ合いとなる。
この世界を規定するのは魔力である。
ならば、それが強い方が世界の支配者となろう。
「リベルさん、それではあなたが――」
「消されるものか。その敵を打ち倒し、俺は元の世界を取り戻すぞ。ああ、この世界はつまらない。まったくもってつまらない。概念だとか、因果律だとか、魂だとか、そんなのは哲学者が考えることだ。俺が求めているのはそんなものじゃない。血湧き肉躍る戦い――剣と魂と肉体のぶつかり合いだ」
「それを邪魔するというのなら――俺が打ち倒す」
リベルは意識を魔力に集中する。そして――
「さあ、魔物よ消えろ。そして世界よ、元の姿を取り戻せ」
強い魔力が世界を覆っていく。
それらは異世界と繋がり合い、干渉し、どこまでも広がっていく。その魔力に規定され、世界はその姿を変え始めた――。
◇
晴れやかな一日であった。
リベルはアマネ、クルルシア、ミレイと一緒に平原に来ていた。
「リベルさん、本当にやるつもりなんですか?」
「言っただろ、いつか手合わせ願うって」
「もう、そんなことしなくても、とっくに負けていますよ。惚れた女の弱みというやつです。てへ」
ミレイは彼の背に体を寄せた。ついでにぎゅっと抱きしめた。
「ちょ、ちょっと、あなたなにしてるのよ!」
「ぎゅってしてます」
「それは見たらわかるわよ!」
「リベルくんのえっち!」
「いや、さすがにミレイだろ」
「リベルさんはえっちなのは嫌いですか?」
「え? いや、その……」
少女三人に詰め寄られるリベル。
そんな様子を草陰からティールは覗いていた。
「……なにやってるんだあいつら」
転移門に飛び込んだと思ったら、気がついたら平和な都市にいたのだ。リベルとミレイは訳知り顔をしているし、わけがわからない。
それを知るために尾行していたのだが……
「ちっともわからないじゃねーか。ったく」
馬鹿らしくなって、ティールは草に寝ころがった。
空は青々としていて美しい。
「ああ、この空が一番の宝石かもしれねえなあ」
そう思いつつも、次のお宝を探しに行くことを考えるティールであった。
そしてリベルはいよいよ、剣を手にミレイと向き合っていた。
「……これで私が負けたら、リベルさんは追いかけてきてくれなくなっちゃいますね」
「もっと強い相手がいたら、そうなるかもしれないな」
「探しに行くんですか? 寂しくなっちゃいますね」
「一緒に来てはくれないのか? やはり、仕事があるのか」
「もう仕事なんてありませんよ。リベルさんが世界を変えてしまいましたから。そうですね、遠慮はいりません」
ミレイは何百年ものお役目から離れて、無邪気な顔を見せる。
「リベルさん、賭けをしませんか?」
「構わないが……条件は?」
「私が勝ったら、一緒に冒険してください」
「ああ。いいぞ。負けたときは?」
「えっと……私を好きにしていいですよ」
「じゃあ一緒に冒険するか」
「はい!」
元気に返事をするミレイ。
そして尻尾を逆立てるクルルシア。
「ちょっと、それじゃ賭けにならないじゃない!」
「そうだよ。負けたら家事全部やってもらうとかにしようよ」
「アマネは賭けに関係ないだろうに」
苦笑いするリベルであったが、やがて真剣な顔でミレイと向き合う。
そして――
「いざ参る!」
正々堂々、手合わせ願うのであった。
強さを求めるリベルの旅は、まだ終わらない。
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