底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂

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1巻

1-7

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「じゃあ銀貨一枚と銅貨五枚になるけど、手持ちはあるのかい?」
「ああ、あります、あります」

 麻袋を開けて必要な硬貨を取り出し、女将おかみに金を手渡しした。

「ん、これがこの部屋の鍵だよ。なくしたら部屋に入れないからね。食事は今夜からにするかい? それとも今から食べるかい?」
「いえ、今は食欲がないので、夜からお願いします」

 さすがに、ほぼ一晩中人のしゃぶつを扱っていたら食欲もなくなる。それまでは腹を空かしていたが、今は全く空いていない。

「日が沈んで隣の酒場が閉まると、うちも閉めるよ。この部屋は自由に使っていいけど、部屋の物を壊すことがあれば出ていってもらうからね。それと、街から外に出るってときは一旦鍵は返しなよ。冒険者は街の外に出ると、そのまま帰らない人もいるからね。それと、荷物は最大で十日間、うちに預けることができるよ。部屋にではなく、うちの倉庫に保管するけどね。部屋の掃除だけど、基本お客さんから掃除してと言われるまでしないよ。そのときは、散らかり具合によっては金を取るからね。湯が欲しくなったら銅貨一枚だからね」

 女将おかみは宿屋の説明を気怠けだるそうにしてくれた。
 朝早いからなのか、時々欠伸あくびをしていた。

「あの~、ちなみにですね。隣の酒場が閉まったら宿には入れないんですか?」
「入れないよ。宿から出ることも禁止にしてるよ。お客さんがどんな人かも知らないし、宿を閉めてる時間に勝手に出入りされると、こっちも困るからね。うちに長く泊まってどんな人か分かるようになれば、宿屋の勝手口の鍵を渡すよ。もう既に長く泊まってくれている人には渡しているからね」
「なるほど、分かりました。部屋に私物を置いたままでも大丈夫ですか?」
「街にいる間は部屋に置いてってもいいよ。基本、私たちは部屋には入らないけど、盗られて困る物や貴重品などは置かないようにしなよ。なくなっても知らないからね」
「分かりました。説明ありがとうございます」

 そうして、女将おかみ気怠けだるそうなまま部屋から出ていった。残された俺はレインからもらったレリーフをベッドのシーツにくるんで、ベッドの下に入れた。
 とりあえず、シオンのところに寄って、そのあとダンクねえさんのところに行こう。
 それでまたお金を預かってもらわないといけないし、シオンにもあのことを頼まないといけない。ダンクねえさんとのデートはおそらく、いや絶対断られるだろうなあ。断られるだけじゃなく、きっとキレられる。
 さっそく宿屋を出てシオンを捜す、捜す、捜す……がいない。寝床にいない。食事するところにもいないし、井戸にもいないし。どこにいるんだ?
 仕方なく裏ギルドに向かった。
 そういえば、朝から裏ギルドに行くのは初めてだな。朝から開いてるかなと思いつつ、ギルドにたどり着き、裏ギルドの方に回ると驚愕きょうがくした。人、人、人、人ばかりだ。
 裏ギルドの掘っ建て小屋に多くの人が並んでいた。
 よくよく見れば、スラムの人ばかりだ。
 見たことのある顔がいくつかある。
 並んでいる人に聞くと、朝にしかない依頼があったりするからだそうだ。
 例えば、簡単な魔物退治なんかは人気があるため、朝一に行かなければ受けられないそうだ。
 他にも常時依頼以外の依頼は、朝のうちになくなるんだそうだ。

「ヤバイな。ダンクねえさんにかなり込み入った話をしたかったのに、このままではできないな」

 そうつぶやいていると、シオンが裏ギルドから出てきた。ここに来ていたのか。一人納得し、彼を呼び止める。

「おはよう! シオン」

 大勢いるから、つい大きな声が出てしまう。シオンは手を上げてくれたが、他の人にもジロッと見られ、ちょっと恥ずかしい思いをしてしまった。

「よう! 朝から珍しいな、まだ洗濯の時間帯だろ?」

 まだ一回しか受けてない洗濯の話を振ってきた。

「いや、洗濯は一回しか受けてないよ。昨夜は違う依頼の仕事をしてたんだ」
「そうか、そうか、ん⁉ お前、その服はどうしたんだ? まさか洗濯物から盗ってきたのか?」
「失礼だな! さすがに人様の物を盗ったりはしないよ。違うよ。これのことも含めて後ででもいいから話せないかな?」
「いいぞ。今からでもいいぞ」

 あれ? シオンは依頼を受けにここに来たのではなかったのか? 俺が頭に「?」を浮かべて考えていると、シオンはプッと笑い出した。

「本当にダンクの言う通り、お前は分かりやすいやつだな。俺はちょっとした野暮用と金の引き出しだ。表には理由があってあまり出入りしたくないから、裏で出し入れしてもらっているんだ」

 なるほど、なるほど。
 ん、てか、考えてることが顔に出ていたか?
 まあ、いいや。ダンクねえさんとシオンに話したいことあるし、この人だかりがなくなったら、ダンクねえさんを俺が泊まってる宿屋に誘って話をするか。

「どうした? 行かないのか?」
「いや、この人だかりがなくならないと、ダンクねえさんも暇にならないだろ?」
「プッ、ダンクにねえさんって付けて呼んでるのか、お前? ククク。今日はダンク、夜からだから、りょうにいるんじゃないか?」

 そうか! ゲームじゃないんだから、一日中あそこにいるわけじゃないもんな。

「じゃあ、ダンクねえさんが起きてたら、誘って話をしたいんだけど、時間大丈夫か?」
「誰に言ってんだ。時間ならたっぷりあるぞ!」
「そんなに威張いばって言うことじゃないと思うが……」

 とりあえずシオンと一緒に、ダンクねえさんが住んでいるギルドのりょうに向かった。
 ギルド職員は表も裏もりょうに入ることが決まってる。
 それは、依頼主の依頼が職員の独断なんかで受付を通さずに流れるのを防ぐためだ。
 結婚してりょうを出てもギルド職員でいられるが、色々と制約があるらしい。ただ、その中身は秘密だそうだ。

りょうまで遠いのか?」
「いや、近いぞ? ギルドで何かあったときや、依頼のことで担当のやつに確認させたいときは、遠いと不便だからな」

 確かに、理にかなってるな。
 ギルドで緊急事態が発生したとき、りょうが遠いと不便すぎる。
 そうして話しながら歩いていると、シオンはとある建物の前で足を止めた。
 止めたということは、この建物がりょうかと思ってシオンを見ていると……

「ここだ。このりょうは宿屋みたいに入ってすぐのところに受付カウンターがあるんだ。ダンクの部屋は俺が知ってるけど、勝手に入っちゃいかんからな」
「さすが、紳士だな。乙女の部屋にズカズカ入る真似まねをしないなんて」
「誰が乙女だ! ちげえよ、受付を通さんとりょうでは職員に会えん決まりがあるんだ!」
「ハイハイ、そういうことにしとくよ」
「テメェぶっ殺すぞ!!!」

 ニヤけながら返事をすると、シオンは切れてしまった。マ、マズイ、まだよくシオンのことを知らないのに、からかいすぎた。

「す、すまない、悪かったよ。シオンになぐられたら一発で死ぬ自信がある」
「いや、なぐらねえよ。演技だ、演技!」
「ゴメンな。せっかく説明してくれていたのに茶化ちゃか真似まねして」
「いいよ。ちょっとカチンと来ただけで、なんとも思ってない。でもお前がすぐ謝らなかったら、なぐってたかもな」

 シオンのあの太い腕でなぐられることを想像すると、ゾッとした。
 りょうの扉を開けたら、シオンの言う通り受付が目の前にあり、男性が座って帳簿に何か書いていた。

「邪魔するぜ。ダンク、起きてるか? 起きてたら、ダンクの部屋で大事な話をしたいから、防音の魔道具を借りたい。もし怪しいと思うなら、集音の魔道具を別に設置してもいいぜ」

 シオンが受付の男性にそう言うと、男性はシオンと顔見知りなのか、笑顔で対応した。

「いえ、シオン様ですから集音の魔道具は必要ないでしょう。ダンクさんですね。確認します……起きてますので、部屋に来客を通しますと連絡します。………はい、大丈夫そうです。どうぞお通りください。ダンクさんのお部屋は分かりますね?」
「当然だ」
「では、どうぞお通りください。って、ちょっと待ってください! 後ろの方はどなたですか?」
「俺のツレだ。ダンクとも顔見知りの仲だ」
「分かりました。お引き止めして申し訳ございません。今度こそどうぞ、お通りください。防音の魔道具は既に、ダンクさんのお部屋にありますのでお使いください。一応、お連れ様のお名前をうかがってもよろしいですか?」
「あ、ミーツです」
「はい、ミーツさんですね。どうぞ、シオンさんとご一緒に行ってください」

 シオンの後ろについて歩くが、さっき受付に聞き慣れない物があったな。防音と集音の魔道具だ。
 防音はまだ分かるが、集音ってなんだろう。

「フッ、また分かりやすい顔をしてるな。防音の魔道具はそのままの意味で、部屋の外に音や声が漏れなくなる魔道具だ。で集音は、音や声を記録し、後で聞くことができる魔道具だ。防音も集音も起動範囲は五メートルだから、狭い部屋のみしか使えない」

 ポーカーフェイスを身につけないといかんな。

「ありがとう、シオン」

 つまり防音はそのままの意味で、集音はボイスレコーダーってことだな。

「着いたぞ」

 受付から歩いてすぐ、ダンクねえさんの部屋は一階にあった。
 コンコンとノックすると「は~い」と起きたばかりのような、間伸びした声が聞こえた。

「開いてるから入っていいわよ~」

 扉を開けてシオンが先に入ると、ダンクねえさんは彼を見るなり、満面の笑みを浮かべた。

「ミーツちゃん! 早速シオンちゃんとのデートの約束守ってくれたの~」
「あ? デート? なんのことだ? ミーツ、お前そんな約束を俺に黙ってダンクとしたのか?」
「えっと、ちょっと説明しにくいことなんだけど、ダンクねえさん。今回は違うんだよ」
「あらあら、違ったのね、いいわ。シオンちゃん、その話はまた今度にしましょ。それで今日はどうしたのかしら? わざわざりょうまで来て話さないといけない大事な話かしら?」
「ミーツ、お前あとでしっかり説明しろよ。俺を使ってダンクと何の取り引きしたかをな」
「その話はまた別の機会にな!」
「話す前にダンク、防音の魔道具を起動してくれ」
「りょ~か~い」

 ダンクねえさんが四角い機械みたいなものを起動させると、ブーンと一瞬音がして、外からの音も聞こえなくなった。でも、部屋での会話は普通にできるって、なかなかの性能じゃないか?
 こんなのが現代の日本にあればなあって思っていると……

「何考えてるか知らんが、早く話せ!」
「そうねえ、ミーツちゃんにとって大事な話なら、あたしもキチンと聞くわよ」

 そうして話しはじめることにした。
 昨夜あった出来事を。



 第九話


 昨夜の貴族の屋敷での出来事を説明して、レインという他国の貴族に気に入られたって話あたりで、シオンがびっくりしていた。
 今着ている服を報酬としてもらったことや、報酬金も多めにもらったことなどを話した後、本題である魔法やステータスの話を切り出した。

「ミーツちゃん本当に、ステータスの出し方知らないの?」

 ダンクねえさんの問いかけに、素直にうなずいた。

「じゃあ、俺が説明してやる。心の中で『ステータスオープン』って唱えるんだ。分かったか?」
「それだけなのか?」
「ああ、それだけだ。それで他人にも見せるようにするには、『ステータスオープン』を声に出して唱えればいい」
「ああ、分かった、やってみる」

「ステータスオープン」と心の中で唱えた。


《本名》真島光流
《異世界名》ミーツ
《年齢》40歳
 レベル1
 HP100/100 MP50/50
 筋力45 体力12 敏捷度11 魔力1 運マイナス20
《固有スキル》
 言語理解 文字変換
《スキル》
 想像魔法 *****
《称号》
 勇者召喚に巻き込まれた一般人 異世界人 *****


 本当に出たよ。
 スキルや、称号のところの「*」は隠されているのか読めない。見るためには何か条件がいるのか? でもって、やっぱりあったよ「異世界人」。こんなの人に見せられないよ。
 それに、想像魔法ってなんだ?
 創造じゃなくて? 想像? 想像した魔法を放てるのか? 意味分からん。

「出たようだな。どうする? ここで出すか?」
「ああ、シオンやダンクねえさんには見て欲しい。でも、引かないでくれ。俺が言ったことが本当だという証拠だから。ステータスオープン」

 どうだ? 反応がない。二人とも黙ったままだ。

「何か反応してくれないか? どう思った?」
「お前本当に四十歳か? 四十歳のステータスじゃねえよ」
「どういうことだ? 強すぎってことか?」
「なんでだよ! 逆だ、弱すぎなんだよ!」
「そうねえ、確かにステータスの数値は低いけど、あたしはスキルと称号が気になるわ。本当に異世界人だったのね。それと、想像魔法って何かしら?」
「それは俺も思った。想像魔法? どんなのだ? 伝説や物語に創造魔法なら出てくるが、想像魔法なんて聞いたことないぞ? とりあえず何か使ってみろよ」
「いいけど、魔法ってどうやって使うんだ? 使い方なんて知らんよ」
「まあ、アレだ、イメージだ。スキルに火の魔法を持ってるやつがいるとするだろ? そしたら最初に、見たことのある火をイメージするんだ。料理とか焚火たきびで見る火をイメージすると、大体出る。でも、火魔法を持ってないやつが、どんなイメージをしても出せないようになってる。ただ、長い呪文を詠唱して唱えると、火魔法を持ってないやつでも使えるがな。そうやって何回も唱えていると、スキルに追加されたりする。とりあえず何かやってみろよ」
「じゃあ、ダンクねえさん、コップある? あったら出してもらえる?」

 ダンクねえさんに話しかけるが、返事がない。あごに指を当てて何か考えているようだ。

「おい、ダンク!」
「な、何かしら?」
「何かしらじゃねえよ! こいつがコップあるかって聞いてんだよ!」
「あ、あるわよ。ちょ、ちょっと待っててね」

 ダンクねえさんはシオンに怒鳴どなられ、ハッとして戸棚から木のコップを三個取り出し、テーブルの上に並べて置いた。

「で? シオン、実際どうやって出せばいいんだ?」
「魔力を意識すれば、身体中に巡っているのが分かるはずだ」
「でも、そんな説明で分かるはずだと言われてもな。普通に分からないよ」
「ちっ、しょうがねえな。ちょっと手を出せ」

 手を出すと、シオンに手を握られ、温かい《何か》が伝わってきた。
 それが、俺の身体に浸透しんとうしていって、なにやらポカポカと身体全体が温かくなってきた。

「身体全体が、温かくなってきてるだろ? その原因が魔力だ。それを意識して出すんだ」

 なんとなくだが、分かった気がした。
 つまり、この温かいものが魔力で、身体に巡っている何かを出そうとすればいいのか。
 身体に魔力を巡らせながら、テーブルの上に並べてあるコップの一つに、ミネラルウォーターがなみなみと入っているのを想像する。
 すると、最初から入っていたかのように、本当に想像通り水が入っていた。

「使ってみたけど、なんか疲れた。この疲れが魔法を使うってことなのか?」

 二人とも黙り込んでしまった。
 どうしたのだろうか?

「ん? どうした? 何か間違ってたか?」
「な、な、な、なんじゃそりゃーーーー! あ、ありえないぞ! なんだ? なんなんだ? お前! その魔法の出し方!」
「そうよ! ミーツちゃん! 魔法使いのほとんどは、国が持っていっちゃってるけど、冒険者の中にも魔法を使う子たちはいるの! その子たちの魔法でも、ミーツちゃんの魔法みたいな出し方をした子は見たことないわ」

 ダンクねえさんは興奮したように、そう早口で説明してくれた。

「つまり、俺は普通じゃないってことか? じゃあ、普通はどうやって出すんだ?」
「あ、ああ、そうだな。普通と違うぞ! 魔法とは普通、手をかざして出すのが主流だからだ」
「ん? どういうこと?」
「だー! 説明メンドクセー! こうやって出すんだよ」

 シオンが怒鳴どなりながら手を前に突き出すと、手から光線のようなものが出て、コップの一つに当たり、コップが粉々に壊れた。

「え? シオンも使えたの、魔法? 魔力の流れを教えてくれたのはシオンだから、不思議ではないけど、使えたんだ」

 隣を見るとダンクねえさんもすごく驚いていた。

「シオンちゃん、光魔法使えたの?」
「しまったな。緊急時以外使わないと決めてたのにな。仕方ない、お前たちにも、俺の過去とステータスを見せてやる! ただし他言無用だからな! 今、約束守る気がないと言うなら、話さないし、出ていってもらってもいい! 残ったやつに話すから。俺の許可なく他人にバラしたら、問答無用で殺す。話を聞いたやつも含めて殺す。これは冗談じょうだんじゃなく本気だ」

 俺とダンクねえさんは残った、当たり前だ。
 これで出ていくやつは、最初からここにいない。俺はシオンとは知り合ってまだ日が浅いが、この世界に来て一番信頼してる人間だからだ。
 ダンクねえさんはシオンのことが好きだろうから、好きな人の秘密は当然守るだろう。

「じゃあ、このまま話すぞ。とりあえず、俺のステータスを見てくれ」


《名前》シオン・マクガリズム
《年齢》30歳
 レベル50
 HP3000/3000 MP4780/4800
 筋力320 体力200 魔力385 敏捷度260 運200
《スキル》
 光魔法:60 火魔法:58 水魔法:40 回復魔法:12 MP自然回復(大)
《称号》
 元王国騎士団長 冒険者Aランク 大魔導師 賢者 弟に命を狙われている者


「見ての通り貴族だ。母親違いの弟がいる。名は『ケイン・マクガリズム』。この国の騎士団の副団長だ。今、その弟に命を狙われている。俺はめかけの子で、ケインよりも早く産まれ、長男としてマクガリズム家の後継者として育てられた。でも、俺が十歳のとき、親父の正妻がケインを産んだんだ。でも、俺が跡継ぎなのは変わらなかった。なぜか? それは俺の称号に大魔導師と賢者が顕現したからだ。普通魔導師と賢者というものは、一人にどちらか一つとされてきた。だが俺には大魔導師と賢者がある。これが後継者にする理由だと親父が言っていた。ケインも特に反発したりはしなかった。俺を後継者に立てて、自分は兄を支えると言っていた。普通に可愛かわいい弟だった。親父が死ぬまではな」

 唐突に始まったシオンの告白に、俺もダンクねえさんも言葉が出ない。

「親父が死んでしばらくして、ケインは怪しい商人に怪しい魔道具を買わされたと言っていた。その頃から徐々にケインの性格が変貌へんぼうしていった! 元々優しい弟だったのにな。性格が荒くなっていった。まるで違う人間がケインに入り込んだかのように。ケインは手始めに、俺の母親と自分の母親を、裏ギルドの人間に裏ギルドにも秘密で使って暗殺させた。次に当時の俺の婚約者を自分の物にするべく動いたあげく、自分の物にならなかった腹いせか、殺した。自分の手を汚すことなく、おそらくこれも暗殺したのだと思う。そのとき、俺は騎士団の遠征で国を離れていたから、どうすることもできなかった。でも、遠征から帰ってきてケインの動向を知ったとき、怒りには抗えずケインと戦い、殺す一歩前まできて……我に返った。俺には、あの可愛かわいかったケインを殺せなかった。代わりに、何が理由でケインが変貌へんぼうしたか、俺は調査することにした。部下にも、ケインの様子を逐一ちくいち伝えるように指示した。だが部下は変死したり、姿をくらましたりしだした。そのうちケインは、俺すらも裏ギルドを使って、何度も暗殺しようとしてきた。だが俺は、その度に返り討ちにしてきた。そして、屋敷や城にいても、ケインのことは分からないと感じた俺は、城下町に出てスラムに身を隠しながらやつの動向を探っているんだ。俺がこの国から出ないのは、ケインのことを探っているからだ。だが、いまだに手掛かりがない状態だ」
「なかなか壮絶な過去を持ってるな。てか、あのクソ王の騎士団長をしてたのか」
「ミーツ、お前の言いたいことは分かる。王は確かにクズだ! 魔族との戦争の折、奴隷を前面に出して盾がわりにし、そのすきに敵を殺すといった作戦を立てて実行したときは、イカれてると本気で思った。だが騎士団長の立場では、命令に従うしかなかった。そのときは仕方ないと思ってたが、今思えば命令に従った俺もクズだな。王に逆らって止めていたらって思うと……」

 あ、シオンが一人で考え込んじゃった。
 仕方ないので、しばらくシオンのことはそっとしておくことにしよう。


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