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第5章

第2話

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第2話

 ガーダンが構える地に俺も降り立つと、地面は大雨でぬかるんでいて、気を付けないと危ないと足元を見ていた。

「これから戦うってときに、よそ見とは余裕だな!そりゃぁぁ」

 足元の泥を見ていると、ガーダンは不意打ちで拳を腹に打ち込んで来たが、手加減をしてくれてたのか、そんなに痛くなくて打ち込まれた衝撃で飛ばされて雨が降っている場所まで転がった。
 しかし、アッシュが勝負の景品になっている以上、ガーダンの様子を見ている暇なぞない。
 俺はすぐさまガーダンの元に走り戻り、お返しにガーダンの腹に目掛けて掌底打を打ち込むと、わざと俺の攻撃を受けたのか、何の反応もなくガーダンの着込んでいた鎧が割れて大雨の中に飛んで見えなくなった。

「ガーダンの馬鹿野郎!
絶対こうなると思ってたんだよ」

 シーバスが雨の中に消えていったガーダンを探しに雨の中に入っていった。

「え?まさかこれで終わりじゃないよね?」

 俺はそう呟きながら、ギルド内で俺とガーダンとの手合わせを見物していたガーダンの仲間たちを見ると、呆然と大口を開けてポカーンとしていた。アマは大笑いしていて、アミは俺の元に駆け寄ってきて怪我がないか心配していて、ガガモもこうなる事を予測していたのか、ため息をついてシーバスの後を追いかけた。
 しばらくすると、シーバスに背負われたガーダンが白目を向いて帰ってきた。

「え~と、シーバス?ガーダンってこんなに弱かったの?」

 俺の問いかけにシーバスはため息を吐いた。
 そんなシーバスの背中に負ぶさっているガーダンは気が付いて、辺りを見渡して自分がどうなったかを理解しようとするが、シーバスに背負われている自身の状況は理解できなくて混乱していた。

「シーバスこのやろう!お前がこの場にいるってことは俺たちの戦いに乱入したな!クソが!どけ!」

 俺が攻撃したことは覚えてないのか、自身を背負っているシーバスを蹴り倒して、ガーダンはバク宙して地面に降り立ち再び構えた。

「兄さん!兄さんは負けたんですよ?
シーバスは飛んでいった兄さんをここまで連れて来てくれたんです」

 まだまだ降り続く大雨の中からガガモが現れて、ガーダンが負けたことを告げた。

「んなわけあるか!可愛い弟でもそんな嘘はダメだ!ミーツ、お前がガガモとシーバスを幻の魔法で惑わしたな?許さん!死ね」

 ガーダンは再び俺の元に走り拳を振り殴りかかってきたが、俺の側にいるアミのことなぞ見えてないようだったため、アミを抱えてアマの元に放り投げると、ジーラントがアミをキャッチしてくれた。
 しかし、そんな俺の行動に隙ができて、モロにガーダンの拳を顔で受けてしまい、吹き飛びはしなかったが、そのまま押し倒されて馬乗りにされ、拳を顔目掛けて振り落とされる。
 鉄甲を装着しているからか、手加減してくれているガーダンは俺の勝ちだと笑いながら殴り続けていく。
 しばらく殴られていると、いい加減にしろとシーバスがガーダンを羽交い締めするも、勝負の邪魔をするなとシーバスに裏拳をしてシーバスは鼻血を出して倒れてしまった。

「ふん!弱いくせに俺の勝負を邪魔するからだ。
さあ、負けを認めろ!そしてスライムを俺に寄越せ」

 俺はガーダンの言動に怒りを覚え、ガーダンが振り下ろす拳を掴んで、力を込めて握りしめると、ガーダンの拳に着けている鉄甲が割れ、ガーダンの表情が次第に歪み始める。

「ガーダンこそ負けを認めなよ。
このまま拳の骨が折れるよ」
「まだまだー!」

 ガーダンは真っ赤な顔をして怒鳴ると、拳が赤く発光しだして手の力が強くなっていくが、まだ俺の手から抜け出せるほど強くなってない。だがガーダンの発光は拳だけではなく、身体全体に行き渡って光りだした。

「俺に本気にさせるなんてお前気に入ったぜ!
スライムを貰ったあとは仲間にも入ってもらおう!はぁ~~~、うおりゃぁぁ!」

 ガーダンの身体は光を帯びたまま空高く飛び上がったが、ガーダンの拳を握っている俺まで一緒に付いて行った。

「ここから落ちれば死ぬことはないだろうが、お前もタダでは済まないだろう!死ね」

 ガーダンは死ぬことないだろうと言いながらも、最後に死ねと言って拳を握っている俺を、両足を胴体に当てながら蹴り落とした。
 しかし俺には飛ぶこともできるし転移もできる。落下しながらどうしようかと考えるも、地面が近づいてきたことで、瞬間転移して地面に立って、落ちてくるガーダンを迎え打つ事にした。

「やはり無事だったかー!だったら俺の渾身の必殺技で死ねぇーー!」

 死ねと言うガーダンは身体から煙を上げながら宙で凄い回転して、真っ赤な球体になって落下してきていた。

「ミーツさん逃げろー!ガーダンの必殺技の隕石爆弾(メテオボンバー)だ!流石のミーツさんでもそこに居れば危険だ」

 先程、ガーダンに裏拳を食らって鼻血をどくどくと流しているシーバスが叫ぶと、ジーラントがシーバスを掴んでギルドに飛び戻った。
 ガガモはいつの間にかアミアマの隣にいるところを見ると、ガーダンの必殺技は相当危険だと思った。

「ミーツ!こちらは結界を張っているからミーツは逃げてくれ!ガーダンさんがアレを使ったら、回りが酷い状態になってしまうから」

 ジーラントは危険だと叫んでいた。
 ガーダンは自身の全力を出していると判断し、俺はガーダンの全力を迎えようと思った。
 それにこれを避けることによって、ギルド周りの建物が壊れてしまったりして、何処の宿を取っているか分からないグレムたちが被害を負ってしまうかも知れないと考えた。

 シーバスが叫んだガーダンの必殺技メテオボンバー、恐らく隕石のように突っ込んで爆発するって意味だろう。
 それならばとガーダンの仲間によって晴れた空間を想像魔法で、落下してくるガーダンまで届くように水を張った。
 俺の身体の回りには、濡れないようにと息ができるように空気を確保した。

 想像魔法で出した水はガーダンをも包み込むと、ガーダンは水の中に落とした焼け石のようにボコボコと泡を出しながら落下して地面降り立つ頃には泡は消え、ガーダン自身も水の中をもがくように手足をバタつかせた。

 ガーダンの必殺技をなんとか無効化でき、出した水は霧散して外に流した。
 流した水は、いつの間にか俺とガーダンの戦いを見ていた見物者達を押し流してしまった。
 ガーダンの必殺技の対処に気付かなかったが、大雨は止んでいた。
 水は人を流していき、建物にぶつかって行き、ギルド周りだけ軽めの洪水みたいになってしまった。

「オェ、ゲホゲホ、こんな水どこから現れたんだ!まさかお前の魔法か?」

 しこたま水を飲んだガーダンが激しい息をしながら俺を睨んできたが、まだ続けるかと一言だけガーダンに言って、水の塊りをガーダンの頭上から落とした。

「ブヘェ、ゴボゴボ、ま、参った!
俺の負けだ!フ、フハハハハハハ!」

 ガーダンはようやく負けを認めて笑い出した。

「人相手にこんな戦いは初めてだ。
あー、楽しかった。ミーツ、お前の要望はなんだ?俺のできる限り何でも聞く」
「てめぇガーダン!今度騒動起こしたらタダじゃ済まないって言ったよな!」

 負けを認めたガーダンが一頻り笑ったあと、真面目な顔になって、要望を聞いてきたが街の責任者のシャコがびしょ濡れの泥だらけでガーダンをゲンコツして怒っていた。

「そうですよ。シャコさんの言う通りですよガーダンさん。こんな街中で隕石爆弾を使うなんて正気ですか!ミーツが対処しなければギルド以外の建物が吹き飛んでましたよ」
「いやでもよぉ」
「「でもじゃねぇー!(ない!)」」

 ガーダンはジーラントとシャコに挟まれて怒られていて要望を言える雰囲気でもなくなった。
 俺はお咎めなしかと思い、ガーダンの怒られている姿を見ていると、俺は俺で俺が出した水によって流されて泥だらけになった見物者たちに怒られ、ギルド前の広場は怒られている俺とガーダンに怒っている多数の人々で溢れかえってしまった。



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