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3巻
3-1
しおりを挟む第一話
俺は真島光流――ミーツ、どこにでもいるメタボ体型の四十歳独身だ。だがあるとき、若者七人とともに異世界に飛ばされる。召喚したのはクリスタル王国という国の王様で、勇者を召喚しようとしたところに、俺も巻き込まれただけだった。
年齢が高かった俺だけ追放され、おまけに初日にチンピラたちに身ぐるみはがされる。だが、冒険者のシオンや冒険者ギルドの副マスターのダンクと出会えたおかげで、どうにか一人で生きていけるようになった。
あと、俺のスキル――想像魔法も役に立っている。想像したことが魔法で出せたりできたりするんだが、珍しすぎるスキルなので、持っていることはなるべく内緒にしている。
そろそろ、この国を出ることを、ギルドマスターのグレンに報告するつもりだ。シオンとダンクも連れていかないといけないしな。黙って出ていくわけにはいかない。
――宿で寝ていると、扉を激しく叩きながら、俺の名を呼ぶ声が聞こえた。
目を擦りつつ起きて扉を開けると、そこには焦った表情で今まさに扉を叩こうと拳を振りかざしている冒険者ギルドの職員モアがいる。その勢いのまま殴られそうになったところを、なんとか彼女の拳を掴んで止めた。
「あ、ミーツさん、やっと起きた! 大変です! ギルマスが、グレンさんが」
「モアさん、落ち着いてください。グレンさんがどうしたんですか?」
「実はギルマスが昨夜遅く、重々しい雰囲気で武装して、裏ギルドのパンチさんとキックさんを連れて、先日ミーツさんが潜ったダンジョンに向かったんです」
「あのダンジョンに?」
一体どういうことだ?
「そのとき、ダンジョンに行くことはミーツさんには秘密にしろと言ったんです。それと、もし自分が帰らなかったら、私に臨時のギルドマスターを任せるとも言っていて……。あんな深刻なギルマスを見たのは初めてで、なんだか不安になって、ダンクさんに知らせようと捜したんですが、見つからなくて……それでこちらに来たんです。秘密にしろと言われたけど、私どうしたらいいかわからなくて。お願いしますミーツさん、ギルマスを助けてください!」
なんでグレンは、俺に秘密であのダンジョンに行ったのだろうか? 俺も段々不安になり、すぐに準備をすると言って、扉を閉めた。そして買ったばかりの刀と槍を手に、再度扉を開けると、モアは顔を真っ赤にした。
「ミーツさん、その格好で行くんですか?」
モアが小さな声で言いながら、俺に向かって指をさす。その指先をたどってみると……俺の下半身に向けられていた。
俺はそこで初めて、自分の身なりに気がついた。
俺の服はベッドの上に脱ぎ散らかされている。今の俺が着ているのはシャツとパンツだけで、しかもパンツからわずかに股間のモノがチラリと姿を見せていた。
モアの言う通り、さすがにこれではマズイと、慌てて扉を閉めて着替えをした。
「じゃあ、今から行って間に合うかどうか分かりませんけど、行ってみますね。宿の女将には事情を話しておいてください」
俺はモアにそう言って宿を出た。まだ日は昇っていないので、グレンたちが出発してからそこまで時間は経ってないだろう。
俺は走って門まで行き、門番に急ぎで外に出なければいけないことを伝えるも、ギルド証の確認などゆっくり対応されてしまう。
数分後にやっと外に出ることができた。
それから全速力で走っていくと、グレンとパンチ、キックが、ランプを掲げて馬に乗り走っているのが見えた。
しかし止まろうにも、俺は全力で走っていたためなかなか止まれず、足がもつれて前のめりになり、そのままヘッドスライディングしてしまった。
なんとか手を地面につけたので、顔と胴体は擦らずにすんだが、手の平と膝は皮が剥けて肉が見えた。さすがにこれは痛くて堪らないと、歯を食いしばって手の平と膝に想像魔法で出した水をかけて砂や泥を洗い落とし、さらに魔法で傷を癒した。
そんなことをしている俺の上から、驚いたような声が降ってくる。
「ミーツ、なんでお前がここにいるんだ?」
「まさか、あたしに告白しに!? キャーどうしよ! 心の準備ができてないわん」
グレンとパンチとは違い、キックだけは口を開かないまま、鋭い眼光で俺を睨んでいた。だが、ひとまずそれは無視して、グレンに今俺がここにいる理由を話した。
「……たったそれだけの理由で来たのか。お人好しもいい加減にしないと身を滅ぼすぞ。……まあ仕方ない、もうここまで来てしまったんだ。ここからはお前の案内で進むぞ」
グレンはため息を一つつくと、そう言いながらも少し安心したような表情になっている。
案内を頼まれたが、ダンジョンのある森はもう目の前にあるので、案内をする必要がない。さらに、森からダンジョンまでの道のりも、木がないところを通ればいいだけだから、多少暗くても迷わずに行ける。
ダンジョン前に到着すると、パンチが以前ギルド職員のグルとゴルが使った、ピラミッド形の馬を守る魔道具を取り出し、展開した。
馬を魔道具に包んで保護したところで、グレンがダンジョンに入ろうとする。俺は慌てて声をかけた。
「このダンジョンは、最初に足を踏み入れた人によって、中の様子が変わるみたいです」
「どういう意味だ?」
「確信はないんですが、同郷の子と入ったときは、その子が最初に足を踏み入れたからか、俺の知ってるダンジョンと違ってたんですよ。そのときのダンジョンボスも、全身ミスリルのミノタウロスではなく、ジャイアントゴブリンでした」
俺の説明に、グレンは大声を上げた。
「なに? それは困る! お前が倒したミノタウロスでないと、俺たちが来た意味がない。人によってダンジョンの中身が変わるかの検証は、お前が倒したミノタウロスを俺たちが倒してから確かめるとしよう。ここは、お前が先頭で入ってもらう。そしてそこからは、キックとパンチの二人だけで、ボス部屋までの道のりを攻略してもらう」
グレンに言われてダンジョンに入ろうとしたが、ただでさえ薄暗いダンジョン入口の階段は、日の出前となるとさらに暗い。ランプを持っていない俺には最初の段差さえ見えず、入口手前でもたついた。すると、キックが怒鳴りながら俺の背中を蹴りつけてきた。
「ホラッ、さっさと行けよ! グレンさんが行けと言ってるだろうが!」
「ああん! ミーツさ~ん」
パンチの悲鳴が響く中、俺はダンジョンの階段を転がり落ちる。
なんとか首と頭は守ったが、身体の他の部分が痛くて堪らないうえ、背中に背負っていた槍を階段の途中で落としてしまったようだ。だが腰に差した刀は無事だったため、今ゴブリンに襲われても大丈夫だろう。
階段を転げ落ちてしばらくの間、身体の無事を確かめることに時間を費やしたのに、このフロアにいるはずのゴブリンが襲いかかってくる様子がない。それを不思議に思い、想像魔法で光のバルーンを一気に十個ほど出したら、俺を取り囲んでいた数十体ものゴブリンが、突然の強烈な光により目を押さえつつ転げ回った。
俺が気づかなかっただけで、ゴブリンはたくさんいたようだ。
「あー、なんかスマン。でも、俺を殺そうとしてたんだから、しょうがないよね」
なんとなく、ゴブリンとはいえ謝ってしまった。
そして転げ回っているゴブリンが邪魔で、その後ろにいる別のゴブリンやホブゴブリンが俺に近づけない状況になっている。その隙に刀を抜いて、転がっているゴブリンから斬り殺していく。
使ってみて分かったのだが、この刀は随分といいもののようだ。ゴブリンを斬っても刀に血が付着しないし、それなりに力をこめて身体を貫いたり一刀両断したりしても、豆腐を切っているかのように滑らかだ。前回みたいにゴブリンを氷漬けにする必要がないくらい簡単に倒せるため、段々と楽しくなってきた。
勢いよくゴブリンを斬り殺していると、階段の方から誰かが喚くような騒がしい声が聞こえてきたので、ゴブリンを倒しながら様子を窺ってみたところ、キックとパンチが罵り合っていた。
「ミーツさんが死んじゃったら、キック先輩のせいよ! そうなったら、キック先輩はあたしとダンク先輩に殺されちゃうんだから!」
「うっせえ、カマ野郎が! ダンジョンを単独で攻略したやつが、あのぐらいで死ぬかよ。そもそも、あのおっさんが攻略したかどうかは怪しいけどな!」
「お前たち、いい加減にしろ! キック、ミーツの身に何かあった場合は、厳罰は覚悟しておけ。ギルド職員にとって、あるまじき行為だからな。パンチも今は落ち着け! それぞれ戦闘態勢を取れ」
二人を諭すグレンの声によって場は静かになり、やがて階段からグレンとパンチ、キックが姿を現した。
「ん? なんだか明るいな。明るいタイプのダンジョンか? って、なんだこりゃあ!」
グレンは姿を見せるなり、驚きの声を上げた。
その大声により、俺の周りにいるゴブリンが彼に気づいて、そちらの方に向かってしまう。
「チッ、ゴブリンが向かってくるぞ! お前たちの腕が鈍ってないか見せてみろ」
グレンが後ろにいるパンチとキックに声をかけると、キックが前に出て、向かってきたゴブリンを蹴り上げて仕留めた。パンチは大きなハンマーを振り回して、ゴブリンを数体まとめて潰したり、壁に叩きつけたりしていく。
グレンはというと、彼らの戦いを見守りつつ、たまに自分に襲いかかってくるゴブリンを漆黒の槍を使って倒していた。
どうやら手助けする必要はないようだ。俺はグレンたちの様子を見ながら、自分の周りにいるゴブリンを倒していった。
「あ、ミーツさ~ん! よかった~無事だったのねえ」
全てのゴブリンを倒し終え、周りを見る余裕のできたパンチが俺を見つけると、自身の持っているハンマーを放り投げて、抱きついてきた。
「チッ、生きてやがったか。まあこれで俺が罰を受けることがなくなってよかったけどな」
「ミーツ、俺たちが倒したやつ以外はお前が倒したのか? あと、このぷかぷか浮かぶ明かりは、お前の魔法か? それとも、最初からここにあるものか?」
キックは相変わらず憎たらしいことを言い、グレンは矢継ぎ早に質問してきた。
「ええ、俺が倒しましたよ。この浮かぶ明かりも、俺が出しました。ちなみに、この次に出てくる敵は大きな雄鶏で、確かビッグチキンって名です。あれはなかなか凶暴ですから、気をつけてくださいね」
「そうか、分かった。パンチ! 嬉しさで抱きつくのはいいが、まだまだダンジョンは続くんだ。そういうのは後にしておけ」
グレンは俺の言葉に納得したように頷くと、パンチを俺から引き剥がす。パンチは口を尖らせつつも俺から離れ、放り投げたハンマーを拾ってグレンのもとに戻った。
「それからミーツ、次の階からボスのいるところまでは、極力戦闘に参加しないでくれ。こいつらの実力を見る必要があるからな。あ、そういえばこの槍、階段の途中に落ちてたぞ。うちのキックが悪かったな。帰ったらあいつにはキツイ罰を与えるから、今は許してほしい」
グレンは槍を拾ってくれただけでなく、キックに罰を与えることを約束してくれた。
準備を整えた俺たちは下りの階段に向かい、グレンを先頭に下りていく。俺は最後方から明かりを浮かせている。
下の階に着いた途端にビッグチキンが目の前に現れるも、パンチが大きなハンマーでその細い脚を一撃して行動不能にすると、続けて頭部を目がけてハンマーを振り下ろす。結果、頭部がない雄鶏がほんの数秒ででき上がった。
パンチはビッグチキンを見つける度に同じことを繰り返し、後からついていくグレンとキックが、パンチの倒したビッグチキンをマジックバッグに収納していく。この階のビッグチキンを全滅させたのではないかと思うほど、パンチは積極的に倒し、やがて下への階段を見つけたときには少しガッカリしているようだった。
俺がパンチの強さに驚いていると、裏ギルドの職員は荒くれ者も来る受付を任せられるだけの強さを持つことが絶対条件だと、グレンが教えてくれた。
それならキックも強いのかと彼をチラリと見たら、やつは俺の視線に気づかないのか、モゾモゾと自身の尻を掻いている。なんでこんな状況で尻が気になるのかと思う。――これは次の階層で分かったことだが、キックはイボ痔だった。
次の階層はスケルトンロックがいる狭い部屋で、大きなハンマーを振り回せないパンチは後方に回る。キックが代わりに、ハイキックやストレートパンチを繰り出して、スケルトンロックの頭部を破壊していく。そんな中、崩れたスケルトンロックの骨の一部がたまたまキックの尻に当たり、彼が悲鳴とともに倒れたことで、イボ痔であることが発覚したのだ。
俺も若い頃に発症して辛かった記憶があるため、キックの気持ちは理解できた。
尻を押さえて横たわっているキックを心配したパンチとグレンが、彼の衣服を脱がし、尻を押さえる手を無理矢理剥がしてイボ痔の様子を確認しているのを見たときは、つい合掌してしまった。しかし、この世界ではイボ痔が一般的ではないのか、グレンとパンチは何がそんなに痛いのかと不思議そうな顔で、イボを触ったり突いたりしている。さすがの俺も、キックが可哀想になって、グレンとパンチの行動を止めた。
「グレンさんにパンチちゃん、キックのそれはイボ痔という肛門の病気だよ。見たところ結構大きいから、随分と放っておいたんだろうね。それで死ぬことはないものの、そのイボに触れると激痛が走るんだ。しばらく待てば少しは痛みが引く。ただ、この先の戦闘はキックには辛いだろうし、無理だろうね」
「そんな、キック先輩がお尻にこんな大病を患っていたなんて! ミーツさん、治療することはできないの? こんなところにキック先輩を置いていくなんて、あたしにはできない」
「今ここでは無理だ。症状が軽いなら座薬や軟こうで治るけど、ここまで大きければ切除するしかないだろうし、そうなるとそんな道具もないし技を持ってる人も今はいないから」
「分かった。パンチはここでキックと待機していろ。戻れるなら、キックを抱えてダンジョンの入口付近まで戻っていろ。俺はミーツとともに先に進む」
そう言ったグレンに、キックが、自分を置いてみんなで先に進んでほしいと言いかけるも、パンチが彼の口を手で押さえて黙らせた。
キックは暴れてパンチの手を退かそうとしたが、パンチに尻を叩かれて動きを封じられた。
そんな彼らを苦笑して見ながら、俺とグレンは次の階層を目指して進む。
そしてグレンは、次の階層に到着していきなり遭遇したジャイアントゴブリンを見るなり、驚愕の表情で、本当にこの階層もお前一人で攻略したのかと聞いてきた。俺は、最初に話した通りだと答えた。グレンは、そうだったなと一言呟く。
彼は俺に手出しするなよと言ったのち、一人でジャイアントゴブリンに飛びかかっていった。
全てのジャイアントゴブリンを倒し切ったとき、グレンは満身創痍で、心身ともにボロボロ状態だった。さすがにこんな状態で、次の階層にいるミノタウロスに挑むのは無理だろうと思うが、精神面は無理でもせめて身体だけはと、グレンのたくさんの傷を想像魔法で癒した。
「お前の魔法は本当にデタラメだな。だが助かった。このままでは貴重な回復薬を飲まなきゃいけなかったからな。次はいよいよミスリルでできたミノタウロスだな? ミノタウロスとの戦いも、しばらくは手を出さず見ていてほしい。俺がいよいよマズくなってきたら、加勢してくれ」
グレンの言うことに頷いて、俺たちは階段を下りる。
そしてダンジョンボスであるミノタウロスと対峙すると、グレンは歯をカチカチと鳴らして震えているものの、逃げずにその場に仁王立ちしていた。さすがギルドマスターだと思ったのも束の間、ミノタウロスの突進をモロに食らってしまい、壁に激突して気を失った。
残った俺は、またも一人でミノタウロスと戦うことになってしまった。しかし今回は新しい丈夫な武器もあるし、前回よりもマシな戦いができるだろう。
俺はミノタウロスに向かって駆け出し、やつの足を槍で一突きしたところで、自身の異変に気づいた。
それは、ミノタウロスの動きがやたらと遅く感じられるのと、いくら丈夫な槍とはいえ、ミスリルでできたミノタウロスの身体を易々と傷つけられたことだ。
なぜだろうと不思議に思うが、今は考えている暇はない。すぐさまミノタウロスの周りを走ってやつを撹乱させ、隙を見てジャンプして首元に乗る。ミノタウロスに掴まれてしまったものの、俺を掴む指を曲げてはいけない方向にボキッと折る。すると、ミノタウロスは悲鳴を上げて俺を手放した。
今がチャンスだと思い、俺を見下ろしているミノタウロスの首元に狙いを定め、刀から衝撃波が出る想像をしつつ刀を振り上げると、想像の通りに衝撃波が飛んで、ミノタウロスの首をその身体から切り離した。
こうして、俺の二度目のミノタウロス戦はあっけなく終わった。俺はミノタウロスをアイテムボックスに収納した。
それから気を失っているグレンを起こして、彼の意識がなかった間の出来事を説明し、二人でダンジョンボスを倒すと出てくる地上への魔法陣に乗って戻る。そこには、パンチと彼に抱きかかえられているキックの姿があった。無事に地上まで戻っていたようだ。
ここで俺は、最初にダンジョンに足を踏み入れた人間によって中の様子が変わるのかどうか、確かめようとしていたことを思い出した。そこで、誰か一緒にダンジョンに入り直してほしいと言うと、一番体力も気力も残っているパンチが手をあげてくれた。
グレンとキックをその場に残し、パンチを先頭にしてダンジョンに入る。すると床から天井、壁まで全て、大理石のような灰色のツルツルした素材になっていた。
念のため少しだけ探索したところ、どこまで続いているのか分からないほど長い通路があり、その通路の両脇には一定の間隔で木の扉があった。そのうちの一つを開けてみたら、アナコンダほどの大きさのミミズが複数絡み合って、ひとつの塊になっていた。そいつらは、俺たちの気配を感じ取ったのか、その塊からこれまたたくさんのミミズの頭が飛び出させて襲いかかってきた。しかし戦うまでもなく、パンチのハンマーがミミズの塊に落とされた。
グチャグチャに潰れたミミズの姿を見て、パンチはガッカリしている。
「あーあ、潰しちゃったん。あたし、これ好きなのに」
「え? パンチちゃん、これ食べるの?」
「あらん、ミーツさん知らないのぉ? デスワームっていって、茹でて食べると美味しいのよん。普通はもっと小さいんだけど、大きいのも食べ応えがあって美味しいの」
この大ミミズを、茹でるだけで食すのかと想像すると、具合が悪くなって吐きそうになった。しかし、まだ他の部屋も確認する必要があるため、我慢して壁を支えに立ち上がる。
続いて隣の扉を開けたら、妙に弱々しいゴブリンが数体いるだけで他に何もなかった。そのため、部屋から出ていこうとするも、パンチは大ハンマーを振り回して、弱々しいゴブリンをも肉塊にしてしまった。
このままこのダンジョンを探索してみたい気持ちはあるが、地上ではグレンと、おそらくとてもヤバイ状態であろうキックが待っている。
仕方なく地上に戻り、帰りは俺がキックを抱きかかえて走って、一足先に王都へ帰った。
王都まで戻る道中で、牛魔やオークなどの魔物が現れたときは、俺はまず抱えているキックを思いっきり上に放り投げた。そして魔物どもをデコピンや拳で倒し、アイテムボックスに収納してから、落ちてきたキックを受け止め、またひたすら走り出す。キックはよほど尻が痛いのか、表情も身体もガチガチに固まっていた。
馬に乗っているグレンたちより早く王都に到着したことにキックは驚いていたが、それよりも尻の痛みがひどいのか、世話になっている治療師のところまで連れていってほしいと懇願してきた。断る理由もないのでそのまま連れていくと、キックは俺に抱えられたまま、今までのことはすまなかったと謝ってきた。
そして治療師がいる建物に着き、彼は辛そうな表情のまま複数の人に抱えられていった。
残った俺はギルドに向かい、モアにグレンが無事に帰ってくることと、キックの治療のために一足先に彼とともに帰ってきたことを伝える、すると、モアは涙をポロポロとこぼしながら感謝してきた。
報酬は明日取りに来てほしいとのことなので、俺は疲れた心と身体を休めようと宿に帰り、すぐさまベッドに倒れ込んで眠ってしまった。
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