底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂

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3巻

3-2

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 第二話


 目を覚ますと、汚れた服のまま寝ていたことに気がついた。ゆっくり身体を起こし、自身の服とベッドに付着した汚れを想像魔法で落としてから、軽く顔を洗って、部屋の窓を開けて外を見る。今日もいい天気で、明るく日が昇っていた。
 昨日ダンジョンを出たときは夕方になる少し前くらいだったため、ギルドに行っても混雑してなかったからよかった。もしモアに報告するときが混雑する時間帯だったら、待っている間にギルドで眠ってしまっていたかもしれない。
 一晩よく寝たからか、身体や頭がスッキリと軽い。腹が減ったので宿の食堂に行くと、若者たちは既に朝食を済まして出ていき、また宿の朝食はもう終わったと告げられてしまった。
 仕方ないとあきらめてギルドに向かいながら、開いている店で適当にパンを買って食べつつ、まずは裏ギルドを先にのぞいてみる。
 キックはもちろんだがパンチもおらず、代わりにダンクあねさんが受付に座っていて、俺がのぞいているのに気がつき、手招きをしてきた。

「ミーツちゃん、昨日はありがとね。ミーツちゃんが行ってからしばらくして、あたしもお兄ちゃんのことをモアちゃんに聞いたけど、新しいダンジョンがどこにあるかなんて知らないから、仕方なく待っていたのよ。でも、お兄ちゃんたちもミーツちゃんも無事でよかったわ。今日はキックちゃんはお尻の治療でお休みで、パンチちゃんもお休みよ。キックちゃんのお尻の治療って、一体何したのかしらね、ふふふ」
「何を想像してるか分からないけど、ダンク姐さんの考えているのとは違うと思うよ」

 ダンク姐さんはキックの尻のことについてかんぐっているようだが、事情を知っている俺は、一応否定しておいた。
 裏ギルドを出て、グレンのもとに向かうべく表からギルドに入ると、モアが入口を入ってすぐ脇のところで俺を待ち構えていた。
 俺の姿を見たら、モアが他のギルド職員に手招きをし、みんな並んでギルドマスターと裏ギルドの職員を救ってくれたことに感謝を、と頭を下げた。ギルドはそこまで混んでいないが、何事だといった感じで他の冒険者に注目されてしまい、恥ずかしくて俺自身もペコペコと頭を下げながら、あわてて二階に上がった。
 いつものようにグレンの部屋に入ると、そこにはシオンもいた。

「おう、ミーツか。なんだか久しぶりな感じだな」

 シオンが軽く手を挙げた。

「ミーツ、今回はご苦労だった。正直、ミーツが俺たちを追ってきてくれなかったら、今ここに座っているのは、ダンクかモアだっただろうな」
「グレン、今回って、俺の知らないところで何があったんだ?」

 シオンにたずねられたグレンが、俺が発見し攻略したダンジョンのことや、昨日俺がグレンたちを追ってダンジョンに行き助けたことなどを話す。すると、シオンは驚いた表情をした。
 そして、なぜかどもりながら、どうせダンジョンの魔物が弱かったのだろうとか、ミノタウロスも大したことなかったのだろうと言う。しかしグレンは、そんなことはない、ミーツがいなかったら全滅していたと、強く否定する。
 それを聞いたシオンは、どこか遠い目をしてつぶやいた。

「ミーツは俺の知らないうちに、俺よりも強くなってしまったんだな。ミーツが俺とダンクを連れて国を出ると聞いたときは、護衛も兼ねてきたえてやろうと思っていたんだが。もう俺は必要ないな」
「いやいやいや、護衛は必要なくても、シオンの得意としてるスキルとか、教えてほしいことはたくさんあるんだ。きたえるといったら少し違うかもしれないけど、シオンは必要だよ! それにシオンは、弟のことを調べるためにも国を出るんだし、そういう意味でもシオンは絶対にいなきゃいけないんだ」
「そ、そうか? だったらついていくが……」

 ようやく納得したらしく、シオンはほっとした顔をする。俺もあんしてシオンとグレンの顔を見たところで、ふと思い出した。

「あ、そうだ! シオンとグレンさんに聞きたいことがあったんだ。スキルって、ステータスに表示されたもので全てかな? 前にシオンのステータスを見せてもらったときに、元騎士団長なのに剣技や馬術がないことが、ちょっと不思議だったんだ」
「ミーツもとうとう、スキルについて疑問を感じるようになったか」
「シオンは、ミーツに隠れスキルのことを話してなかったのか? だとしたら、俺が説明しよう。ミーツ、神の存在は信じるか?」

 説明と言いつつ、グレンは唐突に神の話を始める。元の世界で同じ質問をされれば、信じてないと答えただろうが、ここは異世界だし、神がいてもおかしくないのではないかと思い、俺はうなずいた。

「そうか、それなら話は早い。隠れスキルとは、神の悪戯いたずらによって隠されたスキルのことだ。シオンに剣技や馬術のスキルがないのは、神の悪戯いたずらで隠されたからなんだ。隠れスキルを見たかったら、教会で神父にお願いするしかない。全ての人間に隠れスキルがあるとは限らないがな」

 隠されたスキルがあるなんて知らなかった。
 でも、聞かされてみれば、持っていて不思議じゃないスキルが表示されていないのも納得できる。ただ、まさか神が悪戯いたずらで隠しているとは。神はなんて暇人なのだろうかとあきれもした。

「じゃあ、ちょっと教会に行ってきます。シオン、教会の場所を教えてくれないか? もしくは連れていってほしいんだけど」
「そうだな。グレンの用事も終わったし、一緒に行くか。ミーツ、教会で何かしてもらうときは寄付が必要なのは、もちろん知ってるよな?」
「やっぱり、そういうのが必要なのか?」
「当たり前だ! そんなの常識だ。お前のいた世界では、タダでやってもらってたのか?」

 俺は元の世界のことを思い返してみたが、記憶にあるはずもない。なぜなら――

「タダも何も、教会なんて行ったことないよ。俺の家は仏教だったから、教会に行く機会なんてなかったし、そもそも教会の数が少なくて、どこにあるかも知らなかったな」
「ぶっきょうってのは初めて聞いたが、お前のいた世界はそんなに教会が少ないのか。色々と進んだ世界のようでうらやましいと思ったけど、教会もろくにないなんて可哀想に」

 シオンはそう言って俺を哀れみの目で見つめ、ため息を一つついた。いや、世界中に教会がほとんどないというわけではない。誤解されたままではいけないと思い、弁解する。

「俺が住んでた地域にはなかったってだけで、別の国に行けば教会だらけだったりするよ。てか、俺がいた世界では色んな信仰があって、みんな色んな神を信じているんだ。俺の生まれ育った国では八百万やおよろずの神といって、自然のありとあらゆるものに神が宿っているという考え方もあるくらいでね。俺もそれについて勉強したわけじゃないから間違っているかもだけど、とにかく神という存在は一つではないってこと」

 元の世界の神についての話なのに、シオンは顔を真っ赤にして怒り出してしまった。どうやらシオンには、信仰している神がいるらしい。

「なんだと? 神とは絶対神! 唯一だろうが!」
「そうだね、俺が悪かった。俺はシオンや他の人とこんな話題で言い争うのは嫌だからさ、シオンの言う通り、神は絶対神のみだよね」
「うむ……なんだか引っかかるが、分かればいい。俺は戦争で神の存在を強く感じたから、神の存在を侮辱ぶじょくされると憤りを感じるのだ」

 どうやら怒りが収まったのか、赤くなっていたシオンの顔色が元に戻る。そして、グレンにまた来ると言って、一足先に部屋から出ていった。
 俺がそんなシオンを追いかけようとしたとき、グレンに呼び止められた。

「ミーツ、俺に渡すものがあるのを忘れてないか?」

 グレンの言うことに心当たりがなくて首をかしげたが、もしかしたらプリンが欲しいのかと思って、グレンの机の上に普通サイズのプリンを出した。

「うむ、これではないが、これはこれで受け取っておこう。他に思い出せないか? ダンジョンと言えば思い出すか?」
「うーん、何でしょうね。グレンさんはミノタウロスの一撃で気を失っちゃったし、結果倒したのは俺ですし」
「そう! 倒したのはお前だが、そもそも俺がパンチとキックを率いてダンジョンに潜ったのは、あのミノタウロスが目当てだったからだ。実はな、お前にミノタウロス討伐の報酬として、国からもらう白銀貨を渡す予定だっただろ。しかし、あとから城のやつが、もう一体よこさないと金は支払わないと言い出したんだ。申し訳なかったから、お前に秘密で、俺たちで取ってこようとしていたのだが、まさかあんなに強いとは思わなんだ」

 そういえば、なぜグレンたちがダンジョンへ行ったのか、その理由を知らなかったな。

「そうだったんですね。それを先に言ってくださいよ、秘密裏に動く必要なんてないんですから。でも、アレを収納できるだけのマジックバッグはあるんですか?」
「うむ、もちろん用意してある」

 グレンは机の横にかけてあったかばんを手に取り、その口を開けてこちらに向けた。
 俺はそちらに向かって手を差し出して、ミノタウロスを思い浮かべながら自分のアイテムボックスから出す。すると、一瞬だけミノタウロスの頭が姿を現したものの、すぐにかばんに吸い込まれるように消えていった。

「これでやっとお前に白銀貨を支払える。お前のギルド証に報酬を入れるから、しばらくギルド証を貸りるぞ。それと、明日の昼は街には出るなよ」
「はい、よろしくお願いします。明日って、何があるんですか?」
「明日はとうとう勇者の発表と、お披露目ひろめのパレードがおこなわれるんだ。まだ勇者は弱いそうだから、ただのお披露目ひろめのパレードで終わるだろう。だが、もし城の王を含む関係者がお前や、お前が世話している子たちのことを覚えていて、姿を見られでもしたら、厄介やっかいなことになる可能性があるからな」

 俺は、グレンがそんなにも俺とあの若者たちのことを心配してくれているのかと胸が熱くなり、深く頭を下げてお礼を言う。そして街へ出ないことを約束し、気をつけますと言った後、グレンにギルド証を渡す。そして、シオンとともにギルドを出た。
 シオンと今までのことを色々話しながら、教会まで歩いていく。
 シオンは魔力MP欠乏症が治った後、一人でこの国が所有するダンジョンにこもって、昔の感覚を取り戻したり、さらなるレベル上げにがんったりしたらしい。
 俺は俺で、護衛の依頼で出かけた件から話し出すも、ダンジョンを見つけて入った話あたりで、教会に到着してしまった。

「じゃあ、あとはお前一人でいいな? 子供じゃないんだ、一人でも大丈夫だろ」

 シオンはそれだけ言うと、スタスタと宿のある方向に歩いていってしまった。
 残された俺は教会の敷地に入り、ボロくてところどころ穴が開き、今にも崩れそうな教会の扉を開く。
 そこは長椅子が両サイドに並び、奥に大きめの祭壇があるという、よくテレビや映画で見る教会そのものだった。ただ思い描いていた教会と唯一違ったのは、祭壇の上あたりに十字架がかかげられていないところだった。
 中に入ってあたりを見回していたら、しわがれた声に呼び止められた。声のする方を振り向くとそこには、真っ黒なローブに似た服を着た、優しそうな老人が立っていた。

「こんなさびれた教会に何用ですかな? お祈りでしたら、他にご利益がある教会を紹介しますぞ?」
「あ、いえ、お祈りではないのですけど。あなたは神父様ですかね? 俺は隠れスキルについて聞きたくてここに来たんです」
「ふむ、確かに私は神父です。隠れスキルの存在はどなたに聞いたんですかな?」

 ギルドマスターであるグレンに聞き、友人のシオンという者にここの教会に連れてきてもらったことを話すと、神父は場所を変えましょうと言って、一つの扉の前に俺を案内した。
 神父に促されるままに扉を開ければ、そこは木でできた丸椅子があるだけの、よく洋画などで見るざんしつみたいな部屋だった。
 とりあえずその椅子に座ったら、神父は扉を閉めて出ていった。やがて別の扉が開く音が聞こえ、また閉まる音とともに、目の前にあの神父が姿を現した。
 何のためかは分からないが、俺と神父の間には薄い板の仕切りがあって、その仕切りの顔の部分だけポッカリと穴が開いている。また、ひじ置きがあるらしく、神父はそこに自身のひじをつき、口を開いた。
 そして、隠れスキルを見るためには教会に行くしかないことや、神父だからといって全ての人の隠れスキルを見ることができるわけではないということなどを教えられる。
 一通り説明を終えた神父が、気持ちをいただきたいと言ってきた。俺は意味が分からず首をかしげると、彼が穴から手を差し出して指先をモゾモゾと動かしはじめた。これで俺も寄付のことだと気がついた。そこで、金貨十枚を、神父の手に置いた。
 金貨を置いた神父の手が一瞬、その重みで下がる。神父は素早く手を引っ込めてうつむき、金貨を一枚一枚数え出した。
 明らかにニヤけている神父の顔を見つめていたところ、俺の視線に気づいたのか、ハッと顔を上げ、咳払せきばらいを一つしてから、恥ずかしそうに金貨をふところにしまい込んだ。

「あの~、多すぎました? こういうときの寄付の相場って知らなくて」
「いえいえ、気持ちに上限などありませんからな。それであなた様はどこの貴族様でしょうかの?」

 寄付の金額で俺を貴族だと思ったのか、神父はかしこまってそんな質問をしてくる。

「あ、俺は貴族ではないです。最近冒険者になったばかりのただのおじさんです」
「おや、そうでございましたか。お召し物が少々奇抜でしたし、このお気持ちの金額からして、貴族様かと思いましたぞ。最近冒険者になったばかりといっても、元々実力のある方なのでしょうな」

 神父はウンウンと一人うなずいている。元々最弱と言っていいほどのステータスだったことは黙っていよう。
 俺が黙ってひたすら神父を見つめていたら、彼は恥ずかしそうに額の汗を袖でいて、また咳払せきばらいを一つした後、目をつむるよう促してきた。言われるままにすると、神父が俺の頭に手を載せた。

「神よ。この者の全スキルの開示をお頼み申し上げます。我は聖職者、神のしもべでございます」

 神父が神に祈りを捧げているうちに、頭が熱くなっていき、目をつむっているのにまぶたの裏にズラッとスキルの一覧が現れた。


 戦闘系スキル、補助スキル、生活スキル、魔法系スキル、職人スキル、その他スキル


 現れたスキルの中で、試しにその他スキルを集中して見てみると、指導:20という表示が現れた。そういうことかと思い、次に戦闘系スキルを集中して見たら、またもスキルがズラッと現れた。


 剣技:30、短槍技:50、槍技:30、格闘技:30、デコピン:20、投擲:30、二刀流、片手持ち、両手持ち


 つまり、これらが隠れスキルということだろう。
 デコピンは格闘技に含まれないのかと不思議に思いながら、一つずつ見ていく。そこでふと、今この一覧の中に入っていない武器を手に取って振っていれば、もしかしたら、該当するスキルを得られるのではないだろうかと思った。
 だから、目をつむったまま神父にこの教会に武器はあるかと聞くと、教会という場所柄、殺傷能力が高い武器はないが、メイスや棒ならあると教えてくれた。そこで俺は、どちらかを借りたいと頼んだ。そして、目をつむったまま小部屋から連れ出してもらい、棒状のものを受け取った。

「教会を出なければ、しばらくの間は目を開けても隠れスキルを再確認できますよ」

 神父がそう教えてくれた。
 目を開けて手に持った武器を見たら、メイスだった。そのメイスを、教会のスペースのある場所で何度か振り回す。
 そして再度、目をつむって隠れスキルを確認すると、鈍器:1と出た。これで、隠れスキルに載っていない武器を使用することで、新たにスキルを得られるのが確認できた。
 続いて魔法系スキルを確認したが、そこには何も書かれていなかった。補助スキルも今のところ何もなかった。俺はそこで見るのをやめて、神父にもう大丈夫だとお礼を言って帰ろうとしたところで、彼に呼び止められた。

「多額のお気持ちをくださったあなたには、一つスキルについてお教えしましょう。隠れスキルの中には、さらに隠された特別なスキルというものが存在します」
「特別なスキルですか?」
「ええ。それは、そこらの教会では見られないものです。とある大国で見てもらう以外に、確認ができないとされています」

 なるほど、そんなスキルがあるのか。機会があれば是非ぜひ見てもらいたいものだが。そんなことを考えていると、神父が言葉を続ける。

「ところでもう遅いですし、粗末なものしか出せませんが、我が教会でお食事でもしていきませんかな? 多額のお気持ちをいただいたお礼をさせてください」

 神父の言葉に窓の外を見れば、夕日で空が赤く染まっていた。神父の誘いを断る理由もないので、ごちそうになりますと言う。すると、神父は笑顔のまま俺を案内してくれた。

「ところであなた様は、ポケという少年はご存じですかな?」
「ええ、知ってますよ。ポケの兄であるモブと、あとビビも知ってます」
「おお! ではやはり、あなたがポケたちがしたっているという、師匠のミーツさんなのですな! あの子らの話していたミーツさんの特徴があなたに近かったので、もしやと思っておりました」

 あいつら、ここでも俺のことを師匠と言っているのか。

「神父様は、ポケたちと知り合いなんですね」
「あの子らは、教会に併設している孤児院の子らと親交がありまして、以前からよく面倒を見てくれておったんですが、ここ最近、教会に気持ちや食料になる魔物をくれることが増えましてな。理由を聞くと、師匠であるミーツさんにとても世話になって、強くなれたのだと。一度お会いしてお礼を言いたいと思っておったのですよ。ご存じの通り、モブたちは孤児で、路上生活をしていた子。生きるためには罪を犯すこともいとわなかったんです。それは、冒険者になっても変わらなかった。しかし最近になって、そんな行動がいちじるしく減ったばかりか、気持ちや食料を頻繁ひんぱんにくれるようになって、嬉しく思っておったのですよ」

 モブたちがそんなことをしていたなんて、全然知らなかった。俺はあの子たちの行動を嬉しく思うと同時に、孤児院にもいられない路上生活の子供たちのことを考えてしまった。

「たとえば、路上生活をしている子供たちを、教会の孤児院で受け入れてもらうことはできないんですかね?」

 俺がたずねると、神父は困ったようにまゆじりを下げ、本当は受け入れてあげたいが、これ以上子供の数が増えると全員を食べさせてあげられない、と言った。しかし、路上生活をしている子たちには、時々だがき出しをおこなっているという。

「今まで何もしなかったわけではないのです」

 神父はそう語気を強め、しかし、すぐに失礼しましたと言って咳払せきばらいをしてから、通路の先にある扉を開けた。



 第三話


 扉の先にまた扉があって、その先の部屋には大きな長テーブルがいくつかと、テーブルを囲うように長椅子が置かれていた。そして子供たちが、パンの載った皿やスプーンをテーブルに並べている。何もせずにバタバタと走り回っている子供もいた。

「コラァ! シスターたちの手伝いをしろと毎回言っておるだろうが! ……お恥ずかしいところをお見せしまして、失礼しました」

 先程、神父が語気を強めたときも驚いたが、五~七歳ほどの幼い子供たちを大声でしかる姿にも驚いた。
 しかし、神父が怒鳴どなるのは日常茶飯事なのか、怒られても聞く耳もたずといった様子の子供たちに、彼は苦笑いをしている。
 神父は少々お待ちくださいと言って、食堂から退出し、俺は一人残されてしまう。子供たちは見知らぬ大人がいることを怪しんでいるのか、俺に近寄ろうとはせず、遠巻きにこちらをにらんでいた。
 少しさびしかったが、仕方ないと思い直し、とりあえず壁に寄りかかって神父を待った。
 そして数分後、戻ってきた神父が子供たちと俺を交互に見て状況を察したらしく、食事にしましょうと言って、俺に長椅子に座るよう勧めてくれる。神父は俺の隣に座り、子供たちも各々座った。
 それぞれの前に茶色いスープが並べられていく中、三歳くらいの女の子が突然、俺の服を掴み、膝の上に座ってきた。なんだろうと思いながら女の子を膝から下ろし、俺は横にずれて、神父の隣に女の子を座らせる。
 だが横にずれた俺を追いかけるように、女の子は長椅子の上を歩いて、再び俺の膝の上に座ってしまう。どうしたものかと神父を見たら、いつも自分の隣にはシスターが座り、そのシスターの膝の上に幼い子が交代で座って食事を取るのだと教えてくれた。
 俺は女の子を下ろすのをあきらめ、テーブルに直接置かれた硬そうなパンを手に取ろうとする。そのとき、神父が手を組んで神への祈りを始めたので、あわててそれにならう。
 神父の祈りが始まると、大人しく座っていた子供らとシスターが、彼の言葉を復唱する。最後の言葉が終わったところで、それが食事を始めていいという合図なのか、子供らが一斉にパンをほおったりスープに口をつけたりしはじめた。
 なんの具が入っているか分からない茶色いスープに顔を近づけてにおいをぐと、土のような香りがする。おそるおそるスプーンですくってみると、やっぱり土が入っているのではないだろうかと疑うような、茶色のドロドロのかたまりが出てきた。
 とはいえ、俺も最近でこそまともな食事が取れるようになったが、この世界に来た当初は、残飯やとても食べ物とは言えないようなものばかり口にしてきた。それを思い出すと、このスープは十分すぎるくらいの食事だ。
 スープをすすってみると、見た目と違って土の味はしないものの、微妙に野菜らしき味があるだけで、正直美味おいしいものではない。
 神父はパンをスープに浸して食べていた。なるほど、こういう食べ方が正解かと納得し、神父と同じようにしてみる。しかしパンはガチガチに硬くて、スープに浸してもパンがスープを吸い込まないので、どうしたらいいものかとパンとスープを見つめた。


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