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fleurs en rêve 〜夢見る花たち〜
第3話
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「…ったく、本当に手のかかる姫様ですねぇ貴女は」
エレガントなローズピンクの張地にホワイトとゴールドの塗装が施された木製フレームの猫足ソファーに優しくシャルロット様を座らせると、ヴィンセントは呆れたように溜息をつきます。
「何よぉ!でも飽きないでしょ?」
メイドが丁寧に並べてくれたであろうたくさん並んでいる色とりどりのクッションから、ピンク色のクッションを一つ手に取っていたずらっ子っぽい上目使いで笑いながらヴィンセントの方へと投げ渡します。
それをヴィンセントは無表情でキャッチし、また一つ聞こえよがしに大きな溜息を漏らしました。
「いや、もう本当に勘弁してほしいんですけど。私はこの国の国王補佐長官兼執務官長であって姫様の世話係じゃないんですけど」
「国王補佐官長…それって私たち兄妹のお世話係みたいなものじゃないの?」
「いや、全然違いますし」
「えー?幼馴染の延長じゃないの?」
「いや、そうじゃなくて。普通に国の政に関する仕事なんで。本来の仕事に支障出て迷惑してるんですけどね、私」
「…嫌じゃないくせに」
「嫌ですよ」
「嫌よ嫌よも好きのうち…」
「…ったく、本当に貴女が姫様じゃなかったら容赦してませんからね」
シャルロット様の左腕の付近にクッションを投げ返しました。
きちんとシャルロット様に命中しないようにわざとずらし、また万が一命中したとしても痛くないように優しく投げてきたあたりこの男はさすがであります。
「じゃあ私はこれで失礼いたします。…ったく、本当にこれ以上ばあやたちを困らせないでくださいよ」
シャルロット様に抱きつかれて乱れた制服をササっと直し、また一つ大きな溜息をつきながら白いマントを翻しヴィンセントはシャルロット様の部屋を後にしました。
バタンっと大きな音を立てて、部屋の扉が閉められます。
カツカツカツ…っと足早に歩くヴィンセントの足音がだんだん遠くなっていきました。
「…なんだかんだ言ってヴィーって凄く面倒見がいいのよねぇ」
シャルロット様はふぅ…っ!と一つ大きく息を吐き、大きな独り言を言いながらソファーからヒョイっと飛び降りました。そして春の陽気に誘われるようにベッドサイドの大きな窓へ向かい、大きな窓のガラスにそっとお顔と手を当てます。
「こんなにいい天気なのに、今日もお城から出られず…。ホントつまらないのよねぇ…」
雲一つない青い空の下に新緑の輝かしい山々の景色をぼんやりと眺めながらため息交じりにシャルロット様は呟きました。
「ヴィーはこれから資料作成って言ってたわね。じゃあこの後きっと遅くまで仕事しているのね…」
ぼんやりと頭で考えておられる言葉が口から自然に出て行きます。
ふと、視線を下の方に移すと白い石造りで出来たシャルロット様の部屋の前のテラスでは、一匹の黒猫が昼寝をしておりました。
お城の中庭では色んな鳥の囀りが聞こえてきますが、猫はそんな声に一切反応することも無く陽だまりの中で気持ちよさそうに尻尾をパタパタさせながら寝ております。きっとゴロゴロと鳴きながらのんびりと昼寝をしているのでありましょう。
「あぁ…なんて毎日平和で退屈なのかしら。毎日決まった時間にお茶してお勉強して遊んで…毎日毎日同じことの繰り返しで全然変わりばえしないわ!ほんの少しで良いからドキドキするような毎日を過ごしてみたい―――…きっと私が何かの物語の主人公なら、実はあの寝ている黒猫の正体は魔法使いで、私を攫って違う世界や昔へタイムスリップさせてくれてくれるんだけどなぁ―――…なんてね」
自分で考えた陳腐な想像があまりにも馬鹿らしく思えてしまい、シャルロット様は思わずフフフ…と笑ってしまいました。
猫が目を覚ましました。うっすらとまだ少し眠たそうな目を開けてこちらを見ております。
窓越しにシャルロット様と目が合いました。少しジーッと睨むかのように猫はサファイアのように青い瞳を瞬きもせずに見据えております。
まるで今シャルロット様が考えていたことを見透かすかのような顔でジッと見つめておりました。
けれど、このポカポカ陽気には勝てないのでありましょう。再び寝っころがり、またうっつらと昼寝を始めました。
テラスの窓をゆっくりと開けてシャルロット様はそっと黒猫に近づき始めます。
シャルロット様が近づく気配に気付いた猫は、片目を開けてシャルロット様をじっと見つめております。
一歩一歩ゆっくりと歩み寄り、猫まであと2メートルほどの距離になった時、猫は素早く起き上がり身を翻してテラスから走り去ってしまいました。
「…逃げられちゃった」
一人テラスに取り残されたシャルロット様は、猫が走り去った方向を見つめながらため息を一つつかれました。
猫にまで逃げられちゃうなんて…今日は本当に退屈な日だわ。こんなことならお稽古でもちゃんと受けていればよかったのかしら。
空に流れる雲の行方をぼんやりと眺めております。本来ならばエスパルニア語とピアノのお稽古で、この後約2時間何かしら今日を過ごす予定でした。しかし自分がサボったためにその予定がキャンセルされてしまい、今日は本当にすることがなくなってしまったのであります。
「…これってもしかしてヴィーからのお仕置きかしら…」
何もすることが無くてただ無意味に時間を潰す。それがどんなに苦痛なことでありましょうか。
きっと今日はシャルロット様以外のお城の者は忙しく過ごされることでありましょう。
ある者はこれからの夕食の準備や明日の朝食の下ごしらえ。またある者はシャルロット様やウィリアム様の衣類や装飾品の手入れ。またある者はいつ来客があってもいいようにお城の中を常に綺麗な状態でいるために掃除をする。またある者は国のために重要な会議を行い、またある者はそのための為に資料を作ったり…と何かしら忙しく毎日を過ごしているのであります。
そんな中、シャルロット様ただ一人が暇を持て余し、何もすることが無く今日という一日を終えるのであります。
「…何だかとても虚しくなってきちゃった」
少し初夏の気配を含んだ爽やかな午後の風が吹き、シャルロット様のドレスの裾で遊び始めました。
かすかに街の賑わいが聞こえる気がしました。きっとこの風が運んできたのでありましょう。遠くに見える城下町では、街の人たちが買い物をしたりご近所の人たちと井戸端会議したり…としているのでしょう。
「いいなぁ…私も街に遊びに行きたい。自由にお買い物とかしてみたいわ!」
きっと街には色んな華やかなお店が立ち並び、とても煌びやかなんだわ…とシャルロット様は街のにぎわいの声に思いを馳せます。
幼いころに一度だけ、父親である前国王の視察に付いて街に降り立っち歩き回ったことをシャルロット様は思い出されました。
目を閉じれば今でもその時の景色が目に浮かんできます。
焼きたての香ばしいパンがたくさん並ぶ赤い屋根のパン屋さんや、異国のお菓子がひしめき合う不思議なお菓子屋さん。見たこともないような煌びやかな織物が所狭しと飾られている布屋さんや、ローザタニアのお花がたくさん置かれている花屋さん。
他にも市場ではたくさんのお店が並んでおり幼いシャルロット様にはどれも初めて見るものばかりで、胸が痛いほどドキドキ、キラキラしたのを今でも鮮明に覚えていらっしゃいます。
しかし、それ以来一度も街には降り立ったことはございませんでした。
何度も何度もお父様に街に遊びに行きたいとお願いされましたが、危ないからお城の外に出ては駄目だと言われて、結局一度しか行けなかったのであります。
「またお兄様やヴィーお願いしたら連れてってくれるかしら…?…きっと無理ね。いつものように眉間にシワを寄せて溜息をつきながらダメの一点張りで許してくれないんでしょうね…。…考えるだけ虚しくなっちゃうわね。まぁ悩んだところで仕方ないし、考えるのやめましょっと!」
少し後ろ髪を引かれながらもシャルロット様は足早に部屋の中に戻られました。
フカフカのベッドにぴょんっと飛び乗ります。整然と並べられていた枕が床に飛び散りました。
何もないときは寝るに限る!とシャルロット様は思われて横になり、ゆっくりと瞼を閉じます。
「いい香りがする…」
真っ白な洗いざらしのシーツに顔を埋めます。
メイドが毎日キチンとベッドメイクしてくれているのでありましょう。シーツからは柔らかな太陽の香りと、シャルロット様の大好きな甘い花の香りが焚き込めてあります。きっとシャルロット様が少しでも良い眠りにつけるように考えてしてくれているのでありましょう。
少しウトウトと微睡みかけ、瞳の奥が重たくなってきました。頭の中がグラグラと渦を巻きかけて、まるで沼に足を踏み入れたように身体が動かなくなってきたのをシャルロット様は感じました。
そして少し時間が流れた部屋にはスゥスゥとかすかな寝息だけが聞こえておりました。
エレガントなローズピンクの張地にホワイトとゴールドの塗装が施された木製フレームの猫足ソファーに優しくシャルロット様を座らせると、ヴィンセントは呆れたように溜息をつきます。
「何よぉ!でも飽きないでしょ?」
メイドが丁寧に並べてくれたであろうたくさん並んでいる色とりどりのクッションから、ピンク色のクッションを一つ手に取っていたずらっ子っぽい上目使いで笑いながらヴィンセントの方へと投げ渡します。
それをヴィンセントは無表情でキャッチし、また一つ聞こえよがしに大きな溜息を漏らしました。
「いや、もう本当に勘弁してほしいんですけど。私はこの国の国王補佐長官兼執務官長であって姫様の世話係じゃないんですけど」
「国王補佐官長…それって私たち兄妹のお世話係みたいなものじゃないの?」
「いや、全然違いますし」
「えー?幼馴染の延長じゃないの?」
「いや、そうじゃなくて。普通に国の政に関する仕事なんで。本来の仕事に支障出て迷惑してるんですけどね、私」
「…嫌じゃないくせに」
「嫌ですよ」
「嫌よ嫌よも好きのうち…」
「…ったく、本当に貴女が姫様じゃなかったら容赦してませんからね」
シャルロット様の左腕の付近にクッションを投げ返しました。
きちんとシャルロット様に命中しないようにわざとずらし、また万が一命中したとしても痛くないように優しく投げてきたあたりこの男はさすがであります。
「じゃあ私はこれで失礼いたします。…ったく、本当にこれ以上ばあやたちを困らせないでくださいよ」
シャルロット様に抱きつかれて乱れた制服をササっと直し、また一つ大きな溜息をつきながら白いマントを翻しヴィンセントはシャルロット様の部屋を後にしました。
バタンっと大きな音を立てて、部屋の扉が閉められます。
カツカツカツ…っと足早に歩くヴィンセントの足音がだんだん遠くなっていきました。
「…なんだかんだ言ってヴィーって凄く面倒見がいいのよねぇ」
シャルロット様はふぅ…っ!と一つ大きく息を吐き、大きな独り言を言いながらソファーからヒョイっと飛び降りました。そして春の陽気に誘われるようにベッドサイドの大きな窓へ向かい、大きな窓のガラスにそっとお顔と手を当てます。
「こんなにいい天気なのに、今日もお城から出られず…。ホントつまらないのよねぇ…」
雲一つない青い空の下に新緑の輝かしい山々の景色をぼんやりと眺めながらため息交じりにシャルロット様は呟きました。
「ヴィーはこれから資料作成って言ってたわね。じゃあこの後きっと遅くまで仕事しているのね…」
ぼんやりと頭で考えておられる言葉が口から自然に出て行きます。
ふと、視線を下の方に移すと白い石造りで出来たシャルロット様の部屋の前のテラスでは、一匹の黒猫が昼寝をしておりました。
お城の中庭では色んな鳥の囀りが聞こえてきますが、猫はそんな声に一切反応することも無く陽だまりの中で気持ちよさそうに尻尾をパタパタさせながら寝ております。きっとゴロゴロと鳴きながらのんびりと昼寝をしているのでありましょう。
「あぁ…なんて毎日平和で退屈なのかしら。毎日決まった時間にお茶してお勉強して遊んで…毎日毎日同じことの繰り返しで全然変わりばえしないわ!ほんの少しで良いからドキドキするような毎日を過ごしてみたい―――…きっと私が何かの物語の主人公なら、実はあの寝ている黒猫の正体は魔法使いで、私を攫って違う世界や昔へタイムスリップさせてくれてくれるんだけどなぁ―――…なんてね」
自分で考えた陳腐な想像があまりにも馬鹿らしく思えてしまい、シャルロット様は思わずフフフ…と笑ってしまいました。
猫が目を覚ましました。うっすらとまだ少し眠たそうな目を開けてこちらを見ております。
窓越しにシャルロット様と目が合いました。少しジーッと睨むかのように猫はサファイアのように青い瞳を瞬きもせずに見据えております。
まるで今シャルロット様が考えていたことを見透かすかのような顔でジッと見つめておりました。
けれど、このポカポカ陽気には勝てないのでありましょう。再び寝っころがり、またうっつらと昼寝を始めました。
テラスの窓をゆっくりと開けてシャルロット様はそっと黒猫に近づき始めます。
シャルロット様が近づく気配に気付いた猫は、片目を開けてシャルロット様をじっと見つめております。
一歩一歩ゆっくりと歩み寄り、猫まであと2メートルほどの距離になった時、猫は素早く起き上がり身を翻してテラスから走り去ってしまいました。
「…逃げられちゃった」
一人テラスに取り残されたシャルロット様は、猫が走り去った方向を見つめながらため息を一つつかれました。
猫にまで逃げられちゃうなんて…今日は本当に退屈な日だわ。こんなことならお稽古でもちゃんと受けていればよかったのかしら。
空に流れる雲の行方をぼんやりと眺めております。本来ならばエスパルニア語とピアノのお稽古で、この後約2時間何かしら今日を過ごす予定でした。しかし自分がサボったためにその予定がキャンセルされてしまい、今日は本当にすることがなくなってしまったのであります。
「…これってもしかしてヴィーからのお仕置きかしら…」
何もすることが無くてただ無意味に時間を潰す。それがどんなに苦痛なことでありましょうか。
きっと今日はシャルロット様以外のお城の者は忙しく過ごされることでありましょう。
ある者はこれからの夕食の準備や明日の朝食の下ごしらえ。またある者はシャルロット様やウィリアム様の衣類や装飾品の手入れ。またある者はいつ来客があってもいいようにお城の中を常に綺麗な状態でいるために掃除をする。またある者は国のために重要な会議を行い、またある者はそのための為に資料を作ったり…と何かしら忙しく毎日を過ごしているのであります。
そんな中、シャルロット様ただ一人が暇を持て余し、何もすることが無く今日という一日を終えるのであります。
「…何だかとても虚しくなってきちゃった」
少し初夏の気配を含んだ爽やかな午後の風が吹き、シャルロット様のドレスの裾で遊び始めました。
かすかに街の賑わいが聞こえる気がしました。きっとこの風が運んできたのでありましょう。遠くに見える城下町では、街の人たちが買い物をしたりご近所の人たちと井戸端会議したり…としているのでしょう。
「いいなぁ…私も街に遊びに行きたい。自由にお買い物とかしてみたいわ!」
きっと街には色んな華やかなお店が立ち並び、とても煌びやかなんだわ…とシャルロット様は街のにぎわいの声に思いを馳せます。
幼いころに一度だけ、父親である前国王の視察に付いて街に降り立っち歩き回ったことをシャルロット様は思い出されました。
目を閉じれば今でもその時の景色が目に浮かんできます。
焼きたての香ばしいパンがたくさん並ぶ赤い屋根のパン屋さんや、異国のお菓子がひしめき合う不思議なお菓子屋さん。見たこともないような煌びやかな織物が所狭しと飾られている布屋さんや、ローザタニアのお花がたくさん置かれている花屋さん。
他にも市場ではたくさんのお店が並んでおり幼いシャルロット様にはどれも初めて見るものばかりで、胸が痛いほどドキドキ、キラキラしたのを今でも鮮明に覚えていらっしゃいます。
しかし、それ以来一度も街には降り立ったことはございませんでした。
何度も何度もお父様に街に遊びに行きたいとお願いされましたが、危ないからお城の外に出ては駄目だと言われて、結局一度しか行けなかったのであります。
「またお兄様やヴィーお願いしたら連れてってくれるかしら…?…きっと無理ね。いつものように眉間にシワを寄せて溜息をつきながらダメの一点張りで許してくれないんでしょうね…。…考えるだけ虚しくなっちゃうわね。まぁ悩んだところで仕方ないし、考えるのやめましょっと!」
少し後ろ髪を引かれながらもシャルロット様は足早に部屋の中に戻られました。
フカフカのベッドにぴょんっと飛び乗ります。整然と並べられていた枕が床に飛び散りました。
何もないときは寝るに限る!とシャルロット様は思われて横になり、ゆっくりと瞼を閉じます。
「いい香りがする…」
真っ白な洗いざらしのシーツに顔を埋めます。
メイドが毎日キチンとベッドメイクしてくれているのでありましょう。シーツからは柔らかな太陽の香りと、シャルロット様の大好きな甘い花の香りが焚き込めてあります。きっとシャルロット様が少しでも良い眠りにつけるように考えてしてくれているのでありましょう。
少しウトウトと微睡みかけ、瞳の奥が重たくなってきました。頭の中がグラグラと渦を巻きかけて、まるで沼に足を踏み入れたように身体が動かなくなってきたのをシャルロット様は感じました。
そして少し時間が流れた部屋にはスゥスゥとかすかな寝息だけが聞こえておりました。
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