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fleurs en rêve 〜夢見る花たち〜
第4話
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「姫様…シャルロット姫様!」
「…ん…ばあや…?」
「姫様起きてくださいましな!ディナーのお時間ですよ!」
「…ん…」
「早く起きてくださいまし」
あれからどれくらい時間がたったのでしょうか、トントン…と優しく誰かがシャルロット様の肩を叩きました。
まだ少し眠たさを残しながら、虚ろげにシャルロット様はゆっくりとベッドから身体を起こしました。
「え…もうディナーの時間なの?」
「そうですよ姫様!ほら早く!ウィリアム様がお待ちですよ」
「ん…分かったわ」
まるで冬眠から目覚めた動物のようにシャルロット様はのっそりとベッドから這い出て、少し伸びをした後、まだぼんやりとふわふわ夢見心地のままお部屋を出られようとしました。
「あ、姫様…お部屋から出られる前に御髪を直しましょう。少しお待ちくださいね、ばあやが今すぐ結い直して差し上げますよ」
ささ、早くっとばあやに手を取られてまだ少し寝ぼけ眼のシャルロット様はドレッサーの前に座らされました。日が傾きだして少し薄暗い部屋の灯りを灯し、ドレッサーの前にはオレンジの炎が灯されたシャンデリアの光を受けたシャルロット様が映し出されます。
ぼんやりとした目を擦り、シャルロット様は後ろに立つばあやを鏡越しに見つめておりました。
「別に…ご飯食べるだけだし、いいわよぉばあや」
「なりません!レディーのマナーとして、キチンと身を整えてからお部屋を出る!でございますよ!いくらお兄様とは言え、このローザタニア王国の国王様であるのですから!キチンとしたお姿で行かれてくださいまし!」
「…じゃあ簡単なので構わないわ」
「かしこまりました。では、ささっとお直しいたしますわね」
はいはい、とシャルロット様はばあやに相槌を打ち、はぁ…と溜息のように息を吐きます。
ばあやはそんなこと気にも留めずにワンピースの袖を捲り気合を入れると、暖かくて優しい手でシャルロットの柔らかい髪を掬います。
くるくると素早い手つきで、寝グセが付いていた髪がいとも簡単にいつも通りのサラサラとした綺麗な髪へと変身しました。そして香り付けに、甘いローズの香りのヘアオイルをシャルロット様の髪にそっと包み込ませました。
あぁそうだ、先日ウィリアム様が姫様にプレゼントされましたあのリボンを使いましょう、とばあやはクローゼットの引き出しを開け、レースやサテン、ベロア調の色とりどり様々なリボンが並んでいる棚からいそいそと一本の絹織の深いバラ色をしたリボンを引っ張り出してきました。そしてシャルロット様の美しい黄金色の髪とリボンを絡めて美しく結い上げていきます。
「はい、出来ましたよ!」
「ありがとう。相変わらずばあやの髪結いは素敵かつ丁寧で素早いわね」
「お褒めいただき何よりです。姫様の髪は本当に柔らかくて扱いやすくて…そして何よりとても美しく理想的な髪ですねぇ。ばあやも結い甲斐があります。ではそろそろ参りましょうか」
「えぇ」
さぁさぁ、とばあやがシャルロット様を促し、お二人はゆっくりと歩き出しお部屋を後にしました。
少し日が沈みかけ、お城の真っ白な廊下の壁は窓から入る鈍いオレンジ色に染まり、お二人の影が長く伸びて映し出されております。
「もう日が暮れるわね」
ザワザワと風がお庭の木々を揺らします。その音と共に鳥たちは一斉にお庭から飛び立ち、遠くの森に向けて帰ろうとしております。薄い紫色の西の空にはうっすらと猫の爪のような白い月が浮かび上がってきました。
「えぇ…日が長くなっているとはいえ一日が過ぎるのは本当に早いものですねぇ。今日もあっと言う間にディナーのお時間ですよ。そうそう、本日のメニューは季節のお野菜のグリルにポテトのスープ、白身魚のカルパッチョ、メインに鴨のローストのハニーマスタード添えと、デザートには栗のアイスクリームと料理長が申しておりましたよ」
「うーん…今日も盛りだくさんのメニューね。スープとデザートだけでいいわ」
「姫様!ヴィンセント様も仰っておりましたが、もっとちゃんとお食事を召し上がってくださいな」
「だってそんなにたくさん食べられないわよ。スープとデザートで充分。それ以上食べちゃうとおデブちゃんになっちゃうわ」
「シャルロット様ぁ~」
「そんなにたくさん私のご飯作らなくていいわよ。食べられないんだから勿体ないわ」
「ですが、調理場の皆さんは姫様にご飯を食べていただきたくって、腕によりを掛けて毎日作ってくださっているのですよ」
「それは分かっているけれど…でも毎日そんなにたくさん食べられないわ」
塔を一つ二つと渡り、シャルロット様とばあやはお城の奥深くへと進んでいきます。壁に付いているガラスで出来たランプには少しずつ明かりが灯されていきます。陽の光とはまた違う、少し暗闇を含んだオレンジ色のランプの光はぼんやりとお二人の影を写し出しております。
「良いですか、シャルロット様。今日は一品ずつ、少しで良いから召し上がってください。料理長が飛び上って喜びますよ」
「でも食べられないのに口を付けて残すのもなんだか忍びないわ。それだったら最初から出さないでいてくれた方が良くない?」
「まぁそれはそうですけど…ですが皆、シャルロット様の栄養を考えて毎日メニューを考えておりますので…」
「でも私がそんなにご飯食べられないわよ」
「姫様ぁ~」
「だってお茶の時間にもたくさんスイーツが出てくるのよ?ディナーの時間までの間に消化しきれないわ」
「それはスイーツを食べる量を姫様が調整されたらよろしいのでは?」
「でもワゴンにたくさん乗っているんだもの。もったいないじゃない」
「まぁそれはそうですけど…」
あーだこーだ言い合っているうちに食堂の前まで二人はやって来ました。
とにかくちゃんと食べてくださいね、とばあやは念押しをして精巧な金細工が施された立派な食堂のドアノブに手を掛けました。
「お待たせいたしました、シャルロット様のご到着です」
ゆっくりと扉が開き、これまた豪華絢爛な食堂が目に入って参りました。
大理石でできた壁には所狭しとたくさんの絵画が飾られており、その反対側には大きな窓がたくさん並んでおります。そして高い天井にはこれまた天井画がたくさん描かれております。
そして頭上に目をやりますと、無数のクリスタルが散りばめられているシャンデリアが燦然と輝き、またテーブルの上の燭台の炎もユラユラと揺れております。
数十人は座れそうなくらいの長くて大きいダイニングテーブルに、ふかふかのクッションが貼られているイスが幾重にも整然と並んでおります。
季節のお花を存分に生けた素敵なフラワーアレンジメントも邪魔にならない程度の高さで綺麗にテーブルの上に鎮座しております。
メイドたちがセッティングしてくれたのでありましょう、本日のテーブルセットは皺一つない白いテーブルクロスに、落ち着いた深いエメラルドグリーンに金糸の細やかな細工織られたのランチョンマットに透明なガラスの重々しいお皿が乗っており、ピカピカに磨かれた銀細工のスプーンやフォーク、ナイフが並んでおります。
「お待たせしてごめんなさい」
テーブルの上座に座っている一人の青年に向かってシャルロット様は一礼をした後、執事長と思われる、ロマンスグレーの髪をきちっとオールバックにまとめ、口髭をくゆらしたダンディーな男性―――…セバスチャンが引いてくれたイスに腰を掛けました。
「聞いたぞシャルロット。今日もエスパルニア語とピアノの授業をサボったんだって?」
「…ごめんなさいお兄様」
ふぅ…とため息をついた、こちらのお兄様とシャルロット様に呼ばれた青年は―――…そう、このローザタニア王国の国王でいらっしゃいますウィリアム様でございます。
妹君であられるシャルロット様と同じく黄金の糸のような美しい髪に、これまたシャルロット様と同じくキラキラと輝きを放つような深いエメラルドのような瞳、そしてシャルロット様と似てはいらっしゃいますが、神話の神を模した彫刻のように精悍で端正なお顔をされており、これまたローザタニア王国一の美男子と謳われるほどの青年でございます。
「うーん…まぁサボりたくなる気持ちも分かるなぁ。私もエスパルニア語嫌いだったよ」
「お兄様もそうよね?エスパルニア語なんて面白くないものね」
「そう、動詞の変化が訳分かんないんだよなぁ。男性名詞と女性名詞でまた変わってくるし…私が思うに世界で一番ややこしい言語だなアレは」
「ホントそうよ!もう使わない言語だし、勉強する意味ってあるのかしら?」
カチャカチャ…とメイドたちがウィリアム様とシャルロット様の前に置かれている透明なガラスのお皿を引き下げ、一品目の前菜の準備を始め出しました。
お二人もナプキンをスッとご自身に付け、食事を始める準備を始めました。
「あ、私今日はスープとデザートだけでいいわ。あんまりお腹が空いていないの。もしよろしければお兄様かヴィーのお皿に足しといて?」
シャルロット様が給仕係のメイドにサラッと伝えます。メイドは少し困ったような顔をしてはぁ…と応えるのをご覧になったウィリアム様はばあやと目配せをして少し考えた後、じっとシャルロット様の方を見据えて少し強い口調で話しかけました。
「…シャルロット、ばあやから聞いたが…ちゃんとご飯は食べなさい」
「だって食欲があまりないんだもの…」
「そんなワガママを言っては駄目だ。ちゃんと食べなさい」
「でも…」
「でも、じゃないぞ」
「…そんなに言われちゃったら、余計に食べる気なくしちゃう。…もう今日はディナー要らないわ」
「シャルロット!」
プイッとむくれたシャルロット様はナプキンをテーブルにポンッと投げるように置き、お部屋に帰ろうと席を立たれました。
慌てふためくセバスチャンやばあや、メイドたちを横目に早足で食堂を出ようと力いっぱい扉を開けた瞬間―――…
「まーたワガママ言ってるんですか。…ったく本当にいい加減にしてくれません?」
シャルロット様の目の前にあの男が―――…そう、更に眉間に深い皺を思いっきり刻んだヴィンセントが立ち塞がっておりました。
「…ん…ばあや…?」
「姫様起きてくださいましな!ディナーのお時間ですよ!」
「…ん…」
「早く起きてくださいまし」
あれからどれくらい時間がたったのでしょうか、トントン…と優しく誰かがシャルロット様の肩を叩きました。
まだ少し眠たさを残しながら、虚ろげにシャルロット様はゆっくりとベッドから身体を起こしました。
「え…もうディナーの時間なの?」
「そうですよ姫様!ほら早く!ウィリアム様がお待ちですよ」
「ん…分かったわ」
まるで冬眠から目覚めた動物のようにシャルロット様はのっそりとベッドから這い出て、少し伸びをした後、まだぼんやりとふわふわ夢見心地のままお部屋を出られようとしました。
「あ、姫様…お部屋から出られる前に御髪を直しましょう。少しお待ちくださいね、ばあやが今すぐ結い直して差し上げますよ」
ささ、早くっとばあやに手を取られてまだ少し寝ぼけ眼のシャルロット様はドレッサーの前に座らされました。日が傾きだして少し薄暗い部屋の灯りを灯し、ドレッサーの前にはオレンジの炎が灯されたシャンデリアの光を受けたシャルロット様が映し出されます。
ぼんやりとした目を擦り、シャルロット様は後ろに立つばあやを鏡越しに見つめておりました。
「別に…ご飯食べるだけだし、いいわよぉばあや」
「なりません!レディーのマナーとして、キチンと身を整えてからお部屋を出る!でございますよ!いくらお兄様とは言え、このローザタニア王国の国王様であるのですから!キチンとしたお姿で行かれてくださいまし!」
「…じゃあ簡単なので構わないわ」
「かしこまりました。では、ささっとお直しいたしますわね」
はいはい、とシャルロット様はばあやに相槌を打ち、はぁ…と溜息のように息を吐きます。
ばあやはそんなこと気にも留めずにワンピースの袖を捲り気合を入れると、暖かくて優しい手でシャルロットの柔らかい髪を掬います。
くるくると素早い手つきで、寝グセが付いていた髪がいとも簡単にいつも通りのサラサラとした綺麗な髪へと変身しました。そして香り付けに、甘いローズの香りのヘアオイルをシャルロット様の髪にそっと包み込ませました。
あぁそうだ、先日ウィリアム様が姫様にプレゼントされましたあのリボンを使いましょう、とばあやはクローゼットの引き出しを開け、レースやサテン、ベロア調の色とりどり様々なリボンが並んでいる棚からいそいそと一本の絹織の深いバラ色をしたリボンを引っ張り出してきました。そしてシャルロット様の美しい黄金色の髪とリボンを絡めて美しく結い上げていきます。
「はい、出来ましたよ!」
「ありがとう。相変わらずばあやの髪結いは素敵かつ丁寧で素早いわね」
「お褒めいただき何よりです。姫様の髪は本当に柔らかくて扱いやすくて…そして何よりとても美しく理想的な髪ですねぇ。ばあやも結い甲斐があります。ではそろそろ参りましょうか」
「えぇ」
さぁさぁ、とばあやがシャルロット様を促し、お二人はゆっくりと歩き出しお部屋を後にしました。
少し日が沈みかけ、お城の真っ白な廊下の壁は窓から入る鈍いオレンジ色に染まり、お二人の影が長く伸びて映し出されております。
「もう日が暮れるわね」
ザワザワと風がお庭の木々を揺らします。その音と共に鳥たちは一斉にお庭から飛び立ち、遠くの森に向けて帰ろうとしております。薄い紫色の西の空にはうっすらと猫の爪のような白い月が浮かび上がってきました。
「えぇ…日が長くなっているとはいえ一日が過ぎるのは本当に早いものですねぇ。今日もあっと言う間にディナーのお時間ですよ。そうそう、本日のメニューは季節のお野菜のグリルにポテトのスープ、白身魚のカルパッチョ、メインに鴨のローストのハニーマスタード添えと、デザートには栗のアイスクリームと料理長が申しておりましたよ」
「うーん…今日も盛りだくさんのメニューね。スープとデザートだけでいいわ」
「姫様!ヴィンセント様も仰っておりましたが、もっとちゃんとお食事を召し上がってくださいな」
「だってそんなにたくさん食べられないわよ。スープとデザートで充分。それ以上食べちゃうとおデブちゃんになっちゃうわ」
「シャルロット様ぁ~」
「そんなにたくさん私のご飯作らなくていいわよ。食べられないんだから勿体ないわ」
「ですが、調理場の皆さんは姫様にご飯を食べていただきたくって、腕によりを掛けて毎日作ってくださっているのですよ」
「それは分かっているけれど…でも毎日そんなにたくさん食べられないわ」
塔を一つ二つと渡り、シャルロット様とばあやはお城の奥深くへと進んでいきます。壁に付いているガラスで出来たランプには少しずつ明かりが灯されていきます。陽の光とはまた違う、少し暗闇を含んだオレンジ色のランプの光はぼんやりとお二人の影を写し出しております。
「良いですか、シャルロット様。今日は一品ずつ、少しで良いから召し上がってください。料理長が飛び上って喜びますよ」
「でも食べられないのに口を付けて残すのもなんだか忍びないわ。それだったら最初から出さないでいてくれた方が良くない?」
「まぁそれはそうですけど…ですが皆、シャルロット様の栄養を考えて毎日メニューを考えておりますので…」
「でも私がそんなにご飯食べられないわよ」
「姫様ぁ~」
「だってお茶の時間にもたくさんスイーツが出てくるのよ?ディナーの時間までの間に消化しきれないわ」
「それはスイーツを食べる量を姫様が調整されたらよろしいのでは?」
「でもワゴンにたくさん乗っているんだもの。もったいないじゃない」
「まぁそれはそうですけど…」
あーだこーだ言い合っているうちに食堂の前まで二人はやって来ました。
とにかくちゃんと食べてくださいね、とばあやは念押しをして精巧な金細工が施された立派な食堂のドアノブに手を掛けました。
「お待たせいたしました、シャルロット様のご到着です」
ゆっくりと扉が開き、これまた豪華絢爛な食堂が目に入って参りました。
大理石でできた壁には所狭しとたくさんの絵画が飾られており、その反対側には大きな窓がたくさん並んでおります。そして高い天井にはこれまた天井画がたくさん描かれております。
そして頭上に目をやりますと、無数のクリスタルが散りばめられているシャンデリアが燦然と輝き、またテーブルの上の燭台の炎もユラユラと揺れております。
数十人は座れそうなくらいの長くて大きいダイニングテーブルに、ふかふかのクッションが貼られているイスが幾重にも整然と並んでおります。
季節のお花を存分に生けた素敵なフラワーアレンジメントも邪魔にならない程度の高さで綺麗にテーブルの上に鎮座しております。
メイドたちがセッティングしてくれたのでありましょう、本日のテーブルセットは皺一つない白いテーブルクロスに、落ち着いた深いエメラルドグリーンに金糸の細やかな細工織られたのランチョンマットに透明なガラスの重々しいお皿が乗っており、ピカピカに磨かれた銀細工のスプーンやフォーク、ナイフが並んでおります。
「お待たせしてごめんなさい」
テーブルの上座に座っている一人の青年に向かってシャルロット様は一礼をした後、執事長と思われる、ロマンスグレーの髪をきちっとオールバックにまとめ、口髭をくゆらしたダンディーな男性―――…セバスチャンが引いてくれたイスに腰を掛けました。
「聞いたぞシャルロット。今日もエスパルニア語とピアノの授業をサボったんだって?」
「…ごめんなさいお兄様」
ふぅ…とため息をついた、こちらのお兄様とシャルロット様に呼ばれた青年は―――…そう、このローザタニア王国の国王でいらっしゃいますウィリアム様でございます。
妹君であられるシャルロット様と同じく黄金の糸のような美しい髪に、これまたシャルロット様と同じくキラキラと輝きを放つような深いエメラルドのような瞳、そしてシャルロット様と似てはいらっしゃいますが、神話の神を模した彫刻のように精悍で端正なお顔をされており、これまたローザタニア王国一の美男子と謳われるほどの青年でございます。
「うーん…まぁサボりたくなる気持ちも分かるなぁ。私もエスパルニア語嫌いだったよ」
「お兄様もそうよね?エスパルニア語なんて面白くないものね」
「そう、動詞の変化が訳分かんないんだよなぁ。男性名詞と女性名詞でまた変わってくるし…私が思うに世界で一番ややこしい言語だなアレは」
「ホントそうよ!もう使わない言語だし、勉強する意味ってあるのかしら?」
カチャカチャ…とメイドたちがウィリアム様とシャルロット様の前に置かれている透明なガラスのお皿を引き下げ、一品目の前菜の準備を始め出しました。
お二人もナプキンをスッとご自身に付け、食事を始める準備を始めました。
「あ、私今日はスープとデザートだけでいいわ。あんまりお腹が空いていないの。もしよろしければお兄様かヴィーのお皿に足しといて?」
シャルロット様が給仕係のメイドにサラッと伝えます。メイドは少し困ったような顔をしてはぁ…と応えるのをご覧になったウィリアム様はばあやと目配せをして少し考えた後、じっとシャルロット様の方を見据えて少し強い口調で話しかけました。
「…シャルロット、ばあやから聞いたが…ちゃんとご飯は食べなさい」
「だって食欲があまりないんだもの…」
「そんなワガママを言っては駄目だ。ちゃんと食べなさい」
「でも…」
「でも、じゃないぞ」
「…そんなに言われちゃったら、余計に食べる気なくしちゃう。…もう今日はディナー要らないわ」
「シャルロット!」
プイッとむくれたシャルロット様はナプキンをテーブルにポンッと投げるように置き、お部屋に帰ろうと席を立たれました。
慌てふためくセバスチャンやばあや、メイドたちを横目に早足で食堂を出ようと力いっぱい扉を開けた瞬間―――…
「まーたワガママ言ってるんですか。…ったく本当にいい加減にしてくれません?」
シャルロット様の目の前にあの男が―――…そう、更に眉間に深い皺を思いっきり刻んだヴィンセントが立ち塞がっておりました。
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