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fleurs en rêve 〜夢見る花たち〜
第8話
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「おや、そこを行かれますのはシャルロット様!」
お部屋に戻ろうとセシルとシャルロット様が中庭を通り過ぎようとされたとき、カツンッとヒールの音を響かせながらちょっとハスキーなボイスが廊下に響き渡りました。
「…あらっ!ごきげんよう、マリア」
「まさかこんなところでお目に掛かれるとは…光栄でございます」
スッと差し出されたシャルロット様の手に口づけをされた、このマリアと呼ばれましたこちらの方―――…身長は10センチ以上はありそうなピンヒールを履いておりますが、おそらくウィリアム様やヴィンセントよりも高く190センチくらいはあるでしょうか、そんな長身に深いスリットの入った赤いタイトなドレスを身にまとい、黒曜石のような腰まである黒い長髪にオレンジのメッシュを入れた豊かな髪の右側を編み込んで見事に結い上げ、切れ長に描いているアイラインと真っ赤なルージュがより怪しさを際立たせております。
「今日はあなたも一緒なのね」
「えぇ…本日はワタクシめもご一緒させていただいております。しかしながらシャルロット様…本日も実に可憐で麗しくございますね」
「ありがとう。あなたも相変わらずセクシーでラブリーでなおかつスパイシーで素敵よ」
「ありがたきお言葉でございますわ❤」
「あ、ねぇもう皆はお部屋に行かれたの?」
ニコニコと微笑まれるお二人の間には和やかな空気が流れております。
そうれはもう、先ほどまで急いでいたことを忘れてしまうかのような感じでございました。ですがヤバいっと思われたのでしょうか、シャルロット様はハッと我に帰られました。
「えぇ、先ほど謁見の間に入られました。私は少し別の用事がございましたので席を外させていただいたのですよ」
「そう。じゃあ急いだ方がいいのかしら…」
「えぇそうですね。シャルロット様、急いでお召し替えいたしましょう!」
お二人の雰囲気につられていたセシルもハッと我に返り、シャルロット様のお部屋に戻りましょう、と急かします。シャルロット様もそうね…っ!と頷き二人は顔を見合わせました。
「ごめんね、マリア。もう少しあなたとお話していたいのだけど…また今度ゆっくりお茶でもご一緒しましょう」
「お引止めして申し訳ございません…えぇ、是非!」
クルッと向きを変えてお部屋の方に向かって走り出されましたその時、いつものあの声がまた聞こえてきました。
「…ったく。こんなところにいらっしゃるとは。もう皆さまお部屋でお待ちですよ」
「ヴィー!」
はぁ…と溜息をつきながら、パリッとした白い制服に身を包まれたヴィンセントが大階段をカツカツカツ…と早足で降りてきました。
「今日もばあやに泣き付かれましたよ。本当に貴女は困った方ですね…」
本日も眉間に深い皺が刻まれております。そしてシャルロット様の前まですごい速さで来られ、そっとシャルロット様のお手を取られたかと思うと回れ右くらいの急転回で元来た方へと向きを変えて、また超早足で歩き出されました。
「ちょっとヴィー!」
「はい、早く行きますよー」
有無を言わせずその場を早く立ち去ろうという感じでヴィーは歩き出します。
「…ヴィンセント様」
まるで聞こえていないかのようにヴィンセントは一心不乱に前を向いてズンズン歩いていきます。
「ヴィンセント様ぁッ!」
「っ!」
痺れを切らしたのか、マリアのセクシーでハスキーな声が廊下に響きわたり、ドスッとヴィンセントに衝撃が走りました。
「…離せっ!」
「嫌です~ッ!!マリアはヴィンセント様にお会いしたくて今日は着いて来たのです~っ!!」
「私はお前に会いたくなどないッ!」
タックルの如く、マリアがヴィンセントを羽交い絞めにして抱きつかれております。
シャルロット様は抱き疲れた瞬間に衝撃から身をかわすようにヴィンセントからスッとお手を離され、少し離れた場所からあはは~と笑いながらそんな二人を見て笑っておられました。
「あぁ…っこの艶やかで美しい銀髪…ッ!彫刻のように整っていらっしゃるお顔…。まるで研ぎ澄まされたアメジストのような瞳に病的に青白くてきめ細やかな美しいお肌…。そして意外と細マッチョのたくましいお身体…っ!あぁ…たまらないわッ!!」
「…っ!」
「あぁ…ヴィンセント様の香り…。サッパリとされたこの石鹸と官能的な麝香のような香水と貴方自身の香りが混ざり合って…あぁ…もうダメ…❤」
「離せ…」
ギリギリ…と思いっきり力強く後ろから抱きつかれた上、ちょうど頭一つほど大きなマリアはダイレクトにヴィンセントの首筋の香りを堪能するかのように鼻息荒く、執拗に嗅ぎまわされております。
「ヴィンセント様…愛してます~っ!」
「いいかげんにしろ…っ!」
マリアがヴィンセントに口づけをしようと強引に体の向きを変えようとした隙を見て、マリアを思いっきり払いのけました。
「きゃ…っ!」
「マリア!」
バターンッととてつもなく大きな音を立てて、マリアは床に転がりました。先程まで笑ってご覧になっていたシャルロット様もさすがにギョッとビックリされておられます。
「ちょっとヴィー!さすがにこれは酷いわよッ!」
「…貞操の危機なんでしょうがないのですっ!」
ゼーハーゼーハーと肩で息をしながら、ヴィンセントは額の脂汗を手で拭いました。
「マリア、大丈夫?」
未だ床にうつぶせで転がっているマリアにシャルロット様は駆け寄りました。小刻みに肩が震えているのをご覧になって、シャルロット様は打ち所が悪かったのではないかとハラハラされております。
「放っておけばいいのです。さぁ姫様、早いところ謁見の間に向かいますよ」
「だけどヴィー…」
「…そんなんだから貴女はまだお子ちゃまなんです」
「?」
呆れたようにヴィンセントは溜息をし、早くここを発ち去りたいと言わんばかりにシャルロット様のお手を引かれ立ち上がらせます。
「…ふふふ」
「マリア…?どうしたの?どこか痛いの?」
のっそりと上半身を起こしたマリアですが、なぜだか不気味に笑っております。
そんなマリアを蔑んだかのような横目でチラッと見つめ、強い口調でマリアを攻めたてます。
「痛くないよなぁ。お前はそれが快感なんだもんな」
「…あぁその口調ッ!ゾクゾクしちゃうっ!!」
「姫様、アイツは変態なんで放っておきましょう」
「え…?」
「あぁんっ!もっとなじってぇ~っ!!」
床にゴロンゴロンと転がって身もだえしながらマリアは興奮しております。そしてもっととせがむかのようにヴィンセントの足元に縋り付きました。
そんな様子をシャルロット様ともう完全に置いてけぼりのセシルはぽかーんとして凍りつくかのようになっております。
「…くっつくな!」
「あぁん❤」
ヴィンセントはマリアを足蹴りにしましたが、吹っ飛ばされながらも恍惚の表情を浮かべているマリアは嬉しがっております。
「さぁ姫様…貴女の教育上よろしくないのでさっさと行きましょう」
「え、えぇ…」
床でピクピクと悶えているマリアを横目に、シレッとヴィンセントはシャルロット様の手を引いて一刻も早くこの地獄絵図から立ち去ろうといたしました。
「あー、こんなところにいたーっ!」
ちょうどその時、大階段の上から少し幼い少年の声が聞こえてきました。
「なかなか来ないから僕も探しにきちゃったよぉ~」
ふっと大階段を見上げますと、そこには赤やオレンジ、黄色など色々な色が張り巡らされた派手なかぼちゃパンツを履いた、金色に輝く巻き毛にパッチリとしたブルーの瞳のある10歳くらいの少年がちょこんっと立っておりました。
「…フランツ王子…」
「せっかく今日はパパの代わりにシャルロットちゃんに会いに来たのにぃ~。もう僕待ちくたびれちゃったぁ」
トントントン…とフランツ王子はリズムよく飛び跳ねるように階段を下りられ、ちょこんっとシャルロット様の目の前に来られました。
「今日も可愛いねっ!」
スッとフランツ王子にお辞儀をされたシャルロット様のお手を取られ、ご自身の口元に持ってこられてキスのご挨拶をされました。
「ありがとうございます。フランツ王子も、本日もお変わりなくプリティーでお美しいですわよ」
「えー、嬉しいッ!やっぱり王子たる者、見目麗しくないとねっ!!…でも将来はもっとイケメンになるから、それまで待っててねっ!」
「まぁ、それは楽しみですわ…」
シャルロット様のお手を両手でギュッと握り、鼻息荒く目をキラキラとさせながらフランツ王子は息巻いておりますが、シャルロット様はにっこりと笑顔のまま若干棒読みでお返事を返されておりました。
「4歳の差なんて、もう少し大きくなったら関係ないよねっ!ねぇ聞いて、シャルロットちゃん!!僕が15歳になったら僕のお城で盛大な婚約パーティーをしようっ!!金ぴかのドレスに金ぴかでたくさん宝石が付いた豪華な王冠を君に上げるよっ!!だからナルキッス王国のお姫様に…僕のお嫁さんになってねっ!!」
「…お気持ちありがとうございます。ですがそんな先のお話ですもの、もっと素敵なお方に巡り会わられて王子の気が変わってしまうかも知れませんので…そんなお約束私からは出来ませんわ」
「そんなことは無いよっ!だって僕は5年前からずーっとシャルロットちゃんのことが好きだもん!!これから先もその気持ちは変わらないよっ!!」
そっとシャルロット様がお手を離されましたがフランツ王子はもう一度ギュッとお手を握られ、頭一つ大きいシャルロット様に近づくように一生懸命背伸びをされております。
「はぁ…」
「5年後…きっとシャルロットちゃんは絶世の美女になってるよねぇ。そしてそんなシャルロットちゃんの隣にはイケメンに成長した僕が居て…。なんて素敵な画なんだろうっ!!楽しみだねぇーっ!!」
お顔の距離はほんの数センチくらいまで近づかれマジマジ…とシャルロット様のお顔を覗き込まれております。
そんなフランツ王子に困惑気味のシャルロット様はセシルやヴィンセントの方を向いて助けを求めております。また一つ、ヴィンセントが溜息を洩らしながらシャルロット様とフランツ王子の方へと近づいて参りました。
「フランツ様…この鏡をご覧なさってください」
「ん?」
ヴィンセントはフランツ王子にスッと近寄られ、どこからかニュッと手鏡を出してフランツ王子のお顔の前に差し出されました。
「鏡…」
「さぁじっくりとご覧になってください…」
「…美しいっ!」
パッと掴んでおられたシャルロット様のお手を離されてヴィンセントが差しだした手鏡を奪い取るように持たれると、ジッと鏡を食い入るように見つめておられました。
「あぁ…今日も僕はなんてこんなに綺麗なんだろう~…陶器のようなつるんとした肌、稲穂のような金髪が絵画の天使のようにクリクリ巻かれ…澄んだ湖のように青い瞳、すっと鼻筋の通った可愛らしいこのお鼻…あぁ、なんてバランスの良い配置の僕のお顔なんだろう…まるで僕、神話の中の美の神様みたいじゃない?!」
目をキラキラと輝かせながらフランツ王子は鏡を上下左右と動かして色んな角度からご自身のお顔を眺めております。
「…ナルキッスの方々はホント個性的ですねぇ。さぁ姫様、とりあえず陛下のいらっしゃる謁見の間に行きましょうか」
「えぇ…」
もうすでに疲れた、と言わんばかりにヴィンセントとシャルロット様は溜息をつかれ、遠くの床で未だに悶えているマリアと、鏡の中のご自身に夢中のフランツ王子を置いて謁見の間へと向かわれていきました。
お部屋に戻ろうとセシルとシャルロット様が中庭を通り過ぎようとされたとき、カツンッとヒールの音を響かせながらちょっとハスキーなボイスが廊下に響き渡りました。
「…あらっ!ごきげんよう、マリア」
「まさかこんなところでお目に掛かれるとは…光栄でございます」
スッと差し出されたシャルロット様の手に口づけをされた、このマリアと呼ばれましたこちらの方―――…身長は10センチ以上はありそうなピンヒールを履いておりますが、おそらくウィリアム様やヴィンセントよりも高く190センチくらいはあるでしょうか、そんな長身に深いスリットの入った赤いタイトなドレスを身にまとい、黒曜石のような腰まである黒い長髪にオレンジのメッシュを入れた豊かな髪の右側を編み込んで見事に結い上げ、切れ長に描いているアイラインと真っ赤なルージュがより怪しさを際立たせております。
「今日はあなたも一緒なのね」
「えぇ…本日はワタクシめもご一緒させていただいております。しかしながらシャルロット様…本日も実に可憐で麗しくございますね」
「ありがとう。あなたも相変わらずセクシーでラブリーでなおかつスパイシーで素敵よ」
「ありがたきお言葉でございますわ❤」
「あ、ねぇもう皆はお部屋に行かれたの?」
ニコニコと微笑まれるお二人の間には和やかな空気が流れております。
そうれはもう、先ほどまで急いでいたことを忘れてしまうかのような感じでございました。ですがヤバいっと思われたのでしょうか、シャルロット様はハッと我に帰られました。
「えぇ、先ほど謁見の間に入られました。私は少し別の用事がございましたので席を外させていただいたのですよ」
「そう。じゃあ急いだ方がいいのかしら…」
「えぇそうですね。シャルロット様、急いでお召し替えいたしましょう!」
お二人の雰囲気につられていたセシルもハッと我に返り、シャルロット様のお部屋に戻りましょう、と急かします。シャルロット様もそうね…っ!と頷き二人は顔を見合わせました。
「ごめんね、マリア。もう少しあなたとお話していたいのだけど…また今度ゆっくりお茶でもご一緒しましょう」
「お引止めして申し訳ございません…えぇ、是非!」
クルッと向きを変えてお部屋の方に向かって走り出されましたその時、いつものあの声がまた聞こえてきました。
「…ったく。こんなところにいらっしゃるとは。もう皆さまお部屋でお待ちですよ」
「ヴィー!」
はぁ…と溜息をつきながら、パリッとした白い制服に身を包まれたヴィンセントが大階段をカツカツカツ…と早足で降りてきました。
「今日もばあやに泣き付かれましたよ。本当に貴女は困った方ですね…」
本日も眉間に深い皺が刻まれております。そしてシャルロット様の前まですごい速さで来られ、そっとシャルロット様のお手を取られたかと思うと回れ右くらいの急転回で元来た方へと向きを変えて、また超早足で歩き出されました。
「ちょっとヴィー!」
「はい、早く行きますよー」
有無を言わせずその場を早く立ち去ろうという感じでヴィーは歩き出します。
「…ヴィンセント様」
まるで聞こえていないかのようにヴィンセントは一心不乱に前を向いてズンズン歩いていきます。
「ヴィンセント様ぁッ!」
「っ!」
痺れを切らしたのか、マリアのセクシーでハスキーな声が廊下に響きわたり、ドスッとヴィンセントに衝撃が走りました。
「…離せっ!」
「嫌です~ッ!!マリアはヴィンセント様にお会いしたくて今日は着いて来たのです~っ!!」
「私はお前に会いたくなどないッ!」
タックルの如く、マリアがヴィンセントを羽交い絞めにして抱きつかれております。
シャルロット様は抱き疲れた瞬間に衝撃から身をかわすようにヴィンセントからスッとお手を離され、少し離れた場所からあはは~と笑いながらそんな二人を見て笑っておられました。
「あぁ…っこの艶やかで美しい銀髪…ッ!彫刻のように整っていらっしゃるお顔…。まるで研ぎ澄まされたアメジストのような瞳に病的に青白くてきめ細やかな美しいお肌…。そして意外と細マッチョのたくましいお身体…っ!あぁ…たまらないわッ!!」
「…っ!」
「あぁ…ヴィンセント様の香り…。サッパリとされたこの石鹸と官能的な麝香のような香水と貴方自身の香りが混ざり合って…あぁ…もうダメ…❤」
「離せ…」
ギリギリ…と思いっきり力強く後ろから抱きつかれた上、ちょうど頭一つほど大きなマリアはダイレクトにヴィンセントの首筋の香りを堪能するかのように鼻息荒く、執拗に嗅ぎまわされております。
「ヴィンセント様…愛してます~っ!」
「いいかげんにしろ…っ!」
マリアがヴィンセントに口づけをしようと強引に体の向きを変えようとした隙を見て、マリアを思いっきり払いのけました。
「きゃ…っ!」
「マリア!」
バターンッととてつもなく大きな音を立てて、マリアは床に転がりました。先程まで笑ってご覧になっていたシャルロット様もさすがにギョッとビックリされておられます。
「ちょっとヴィー!さすがにこれは酷いわよッ!」
「…貞操の危機なんでしょうがないのですっ!」
ゼーハーゼーハーと肩で息をしながら、ヴィンセントは額の脂汗を手で拭いました。
「マリア、大丈夫?」
未だ床にうつぶせで転がっているマリアにシャルロット様は駆け寄りました。小刻みに肩が震えているのをご覧になって、シャルロット様は打ち所が悪かったのではないかとハラハラされております。
「放っておけばいいのです。さぁ姫様、早いところ謁見の間に向かいますよ」
「だけどヴィー…」
「…そんなんだから貴女はまだお子ちゃまなんです」
「?」
呆れたようにヴィンセントは溜息をし、早くここを発ち去りたいと言わんばかりにシャルロット様のお手を引かれ立ち上がらせます。
「…ふふふ」
「マリア…?どうしたの?どこか痛いの?」
のっそりと上半身を起こしたマリアですが、なぜだか不気味に笑っております。
そんなマリアを蔑んだかのような横目でチラッと見つめ、強い口調でマリアを攻めたてます。
「痛くないよなぁ。お前はそれが快感なんだもんな」
「…あぁその口調ッ!ゾクゾクしちゃうっ!!」
「姫様、アイツは変態なんで放っておきましょう」
「え…?」
「あぁんっ!もっとなじってぇ~っ!!」
床にゴロンゴロンと転がって身もだえしながらマリアは興奮しております。そしてもっととせがむかのようにヴィンセントの足元に縋り付きました。
そんな様子をシャルロット様ともう完全に置いてけぼりのセシルはぽかーんとして凍りつくかのようになっております。
「…くっつくな!」
「あぁん❤」
ヴィンセントはマリアを足蹴りにしましたが、吹っ飛ばされながらも恍惚の表情を浮かべているマリアは嬉しがっております。
「さぁ姫様…貴女の教育上よろしくないのでさっさと行きましょう」
「え、えぇ…」
床でピクピクと悶えているマリアを横目に、シレッとヴィンセントはシャルロット様の手を引いて一刻も早くこの地獄絵図から立ち去ろうといたしました。
「あー、こんなところにいたーっ!」
ちょうどその時、大階段の上から少し幼い少年の声が聞こえてきました。
「なかなか来ないから僕も探しにきちゃったよぉ~」
ふっと大階段を見上げますと、そこには赤やオレンジ、黄色など色々な色が張り巡らされた派手なかぼちゃパンツを履いた、金色に輝く巻き毛にパッチリとしたブルーの瞳のある10歳くらいの少年がちょこんっと立っておりました。
「…フランツ王子…」
「せっかく今日はパパの代わりにシャルロットちゃんに会いに来たのにぃ~。もう僕待ちくたびれちゃったぁ」
トントントン…とフランツ王子はリズムよく飛び跳ねるように階段を下りられ、ちょこんっとシャルロット様の目の前に来られました。
「今日も可愛いねっ!」
スッとフランツ王子にお辞儀をされたシャルロット様のお手を取られ、ご自身の口元に持ってこられてキスのご挨拶をされました。
「ありがとうございます。フランツ王子も、本日もお変わりなくプリティーでお美しいですわよ」
「えー、嬉しいッ!やっぱり王子たる者、見目麗しくないとねっ!!…でも将来はもっとイケメンになるから、それまで待っててねっ!」
「まぁ、それは楽しみですわ…」
シャルロット様のお手を両手でギュッと握り、鼻息荒く目をキラキラとさせながらフランツ王子は息巻いておりますが、シャルロット様はにっこりと笑顔のまま若干棒読みでお返事を返されておりました。
「4歳の差なんて、もう少し大きくなったら関係ないよねっ!ねぇ聞いて、シャルロットちゃん!!僕が15歳になったら僕のお城で盛大な婚約パーティーをしようっ!!金ぴかのドレスに金ぴかでたくさん宝石が付いた豪華な王冠を君に上げるよっ!!だからナルキッス王国のお姫様に…僕のお嫁さんになってねっ!!」
「…お気持ちありがとうございます。ですがそんな先のお話ですもの、もっと素敵なお方に巡り会わられて王子の気が変わってしまうかも知れませんので…そんなお約束私からは出来ませんわ」
「そんなことは無いよっ!だって僕は5年前からずーっとシャルロットちゃんのことが好きだもん!!これから先もその気持ちは変わらないよっ!!」
そっとシャルロット様がお手を離されましたがフランツ王子はもう一度ギュッとお手を握られ、頭一つ大きいシャルロット様に近づくように一生懸命背伸びをされております。
「はぁ…」
「5年後…きっとシャルロットちゃんは絶世の美女になってるよねぇ。そしてそんなシャルロットちゃんの隣にはイケメンに成長した僕が居て…。なんて素敵な画なんだろうっ!!楽しみだねぇーっ!!」
お顔の距離はほんの数センチくらいまで近づかれマジマジ…とシャルロット様のお顔を覗き込まれております。
そんなフランツ王子に困惑気味のシャルロット様はセシルやヴィンセントの方を向いて助けを求めております。また一つ、ヴィンセントが溜息を洩らしながらシャルロット様とフランツ王子の方へと近づいて参りました。
「フランツ様…この鏡をご覧なさってください」
「ん?」
ヴィンセントはフランツ王子にスッと近寄られ、どこからかニュッと手鏡を出してフランツ王子のお顔の前に差し出されました。
「鏡…」
「さぁじっくりとご覧になってください…」
「…美しいっ!」
パッと掴んでおられたシャルロット様のお手を離されてヴィンセントが差しだした手鏡を奪い取るように持たれると、ジッと鏡を食い入るように見つめておられました。
「あぁ…今日も僕はなんてこんなに綺麗なんだろう~…陶器のようなつるんとした肌、稲穂のような金髪が絵画の天使のようにクリクリ巻かれ…澄んだ湖のように青い瞳、すっと鼻筋の通った可愛らしいこのお鼻…あぁ、なんてバランスの良い配置の僕のお顔なんだろう…まるで僕、神話の中の美の神様みたいじゃない?!」
目をキラキラと輝かせながらフランツ王子は鏡を上下左右と動かして色んな角度からご自身のお顔を眺めております。
「…ナルキッスの方々はホント個性的ですねぇ。さぁ姫様、とりあえず陛下のいらっしゃる謁見の間に行きましょうか」
「えぇ…」
もうすでに疲れた、と言わんばかりにヴィンセントとシャルロット様は溜息をつかれ、遠くの床で未だに悶えているマリアと、鏡の中のご自身に夢中のフランツ王子を置いて謁見の間へと向かわれていきました。
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そのため、国からは特別扱いを受け、学園のクラスメイトも、唯一の兄妹である兄も、ウィステリアに近づくことはなかった。
そして、二十歳の冬。アリスティア王国をエウラノス帝国が襲撃。
大量の怪我人が出たが、ウィステリアの治癒の魔法のおかげで被害は抑えられていた。
戦争が始まり、連日治療院で人々を救うウィステリアの元に連れてこられたのは、話すことも少なくなった兄ユーリであった。
血に染まるユーリを治療している時、久しぶりに会話を交わす兄妹の元に帝国の魔術が被弾し、二人は命の危機に陥った。
「ウィス……俺の最愛の……妹。どうか……来世は幸せに……」
命を落とす直前、ユーリの本心を知ったウィステリアはたくさんの人と、そして小さな頃に仲が良かったはずの兄と交流をして、楽しい日々を送りたかったと後悔した。
体が冷たくなり、目をゆっくり閉じたウィステリアが次に目を開けた時、見覚えのある部屋の中で体が幼くなっていた。
ウィステリアは幼い過去に時間が戻ってしまったと気がつき、できなかったことを思いっきりやり、あの最悪の未来を回避するために奮闘するのだった。
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