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fleurs en rêve 〜夢見る花たち〜
第9話
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「そう言えばパパからの伝言を忘れてたよ~」
ドタバタ騒ぎのお昼が過ぎ、ティーサロンで皆でゆっくりとアフタヌーンティーを楽しまれているお時間のことです。爽やかな午後の風がお部屋の中を通り抜け、焼きたてのスコーンと芳醇なお紅茶の香りが辺りを包みます。
「なんでしょう?」
大使との会談を終え、少しリラックスモードだったウィリアム様は飲まれていた紅茶をそっとテーブルの上に置かれてソファーにちょこんと座られているフランツ王子の方を改めて向き直されました。
「うん、えーっとね…そうそう、来月ウチの別荘でパーティーやるんだけど、おいでよぉって」
「え…」
ウィリアム様をはじめ、シャルロット様もヴィンセント、セシル、そしてばあやとセバスチャンも急なお誘いに少し呆気に取られております。
「なんか急に思い立っちゃったみたいでね~招待状は…あ、あった」
ガサゴソ…とかぼちゃパンツのポケットから皺くちゃになった招待状を取り出され、ハイッとウィリアム様の前に出されました。大人の対応で笑顔でウィリアム様も受け取られます。
セバスチャンからペーパーナイフをもらうと、紙のシワをピンッと伸ばしてササっと中身を取り出して手紙に目を落とします。
「ありがとうございます…えっと来月…ですね」
「うん、ウィリアム兄様もシャルロットちゃんも来てねっ!」
「…そうですね、是非出席させていただきます。しかし別荘でパーティーとは珍しいですね」
「なんかいつも同じ会場だと飽きるみたいなことパパ言ってたよ~。だからじゃない??」
「そうですか。ナルキッスの別荘…あぁ、グララスの古城ですか」
「うん、そこ!しばらく使ってなかったんだけどね、なんか行きたくなったみたいだよぉ~」
「あのグララスの古城でパーティーとは趣がありますね。きっと素敵なパーティーとなることでしょう」
「ねー!僕も楽しみ!!パーティー大好き!!」
「…道楽息子が」
ボソッとヴィンセント様の暴言の突っ込みが入りましたが、誰も何も言わずにこやかにお茶会が進んでいきます。もちろん後ろでマリアのみがそんなヴィンセントに対してキュンキュンとしておりますが、それも皆見なかったこととしております。
「ねぇ、今度東の大陸から超有名な高級シルクを取り寄せてシャルロットちゃんにプレゼントするよ!パパに言っとくよ!!」
「えっ」
いきなりのフランツ王子の申し出に、シャルロット様は持っていらっしゃったカップを落としそうになられましたがすんでのところで持ち直し、フランツ王子の申し出をやんわりとお断りしようとされます。
「そんな…お気持ちだけで充分よ」
「えーなんでー?僕が好きでやっているんだから気にしないでっ!」
「でも…」
「そうですよ、フランツ殿。充分すぎるほどのお気持ちをいつも頂戴しております」
シャルロット様に続き、ウィリアム様もフランツ王子の申し出をやんわりとお断りしようと加勢されます。
「そーおー?まぁ欲しくなったらいつでも言ってね!!シャルロットちゃんは僕の将来のお嫁さんなんだから、遠慮なんてしちゃ嫌だよ~」
「…将来フランツ殿が成人された折に、お気持ちが変わっていなければ…」
またか…といった感じで、シャルロット様はフランツ王子の求婚に肯定とも否定とも取れないお返事でかわそうとされます。しかしフランツ王子は負けじと熱くシャルロット様に畳み掛けます。
「気持ちは絶対ずっと変わらないよ~!約束するっ!!」
「ありがたいお言葉ですが…フランツ殿にはもっと素敵な方がいらっしゃるかも知れませんよ」
「そんなこと絶対ないよ!僕は前からずーっとシャルロットちゃんのことが大好きだし…きっとこの気持ちはずーっと変わらないはずっ!!!」
まぁまぁ…とウィリアム様が意固地になってきておりますフランツ王子をなだめられている隙に、セバスチャンがタイミングを見計らってカップに新しいお紅茶を注がれました。
「さぁフランツ殿…お紅茶でも飲まれてお気持ちを落ち着かせてください」
「…うん」
「我々隣国同士、いつも仲良くしてくださっていることに常々深謝しております。そしてお父上であるジョージ国王陛下と皇太子であられるフランツ殿に、先代より変わらず…さらに深い情けをいただいていることもとてもありがたく思っております」
「…」
「手前味噌ではありますが、ウチのシャルロットは母に似てとても麗しく、少しお転婆ですがとても心優しく可憐な娘です。そんなシャルロットにナルキッスの皇太子殿よりご厚意をいただけてとても光栄であります。しかしまだお若いお二人…そんなに急がずともゆっくりと愛を育てていかれるのも乙ですよ」
「…うん、そうだよね。ウィリアム兄様の仰る通りだよね」
「さすが聡明なフランツ殿です。愛は時には引いてみるのも一つの手ですよ」
しょぼくれているフランツ王子に向けて、ウィリアム様は爽やかにウィンクを投げてアドバイス的なお言葉を差し上げております。そんなウィリアム様をご覧になって、フランツ王子も少しずつ反省のお言葉と態度を取られ始めました。
「僕…まだまだ子供だからワガママ言ってごめんね。これからはウィリアム兄様みたいな大人の余裕を持てる人間になるように頑張るよッ!」
「フランツ殿でしたら、私などよりもっと立派な紳士になられますよ」
「ウィリアム兄様…ありがとう」
フランツ王子はウィリアム様に対して目をキラキラされながら羨望のまなざしを捧げております。
「…さすがお若くして一国の王となられるだけの包容力がございますねっ!」
お二人のやり取りをそっと見つめていらっしゃったシャルロット様にマリアが頬を高揚させながらこそこそっとお話しされました。
「そうなの、お兄様は本当にとても大きい愛で包んでくださるの。シャルはそんなお兄様が大好きよ」
「…素敵ですわ~❤」
「えぇ、本当に素敵なお兄様なのっ」
「あぁ…大人で落ち着いて包容力抜群のイケメンウィリアム様に冷徹非道の氷のような麗人ヴィンセント様…両方とも好きになっちゃうなんてっ!あぁ~ん…なんて贅沢な悩みでしょうっ!」
クラクラと頭を抱えながらマリアはまた急に悶え苦しみ始めました。そのまま興奮のあまり床に倒れ込むマリアを、えっ?という驚きの表情でウィリアム様以外の皆はご覧になられます。
「えっと…マリア大丈夫か?」
全く何も気づいていないウィリアム様はすっとマリアに近くに来られ、スッと差し伸べられました。
「あぁ…僕《しもべ》であるワタクシメに対してそんな…もったいのうございます」
「何を言っているんだマリア。王族だろうと従者だろうと誰であろうと、倒れている者に対して手を差し伸べるのは人として当然だろう。さぁ…気分が悪いならゲストルームで少し休みたまえ」
「あぁん❤ウィリアム様~ッ❤」
マリアを支えようと腕を掴まれたその時マリアの興奮は最高潮に達し、まるで数分の待ての状態から解き放たれた空腹の大型犬の如く飛び跳ねながらウィリアム様に抱きつかれようとされました。
「はい、そこまでー」
「ッ!」
いつの間にかヴィンセントがマリアの背後にまわり、またどこからか今度は大きな縄を出されてグルグルッとマリアをがんじがらめに縛りあげました。
「ったく…調子に乗りすぎだ、マリア…いや、ゴンザエモン」
「ヴィンセント様ッ!その本名はやめってッ!!そんな男らしい名前じゃなくてマリアって呼んでください~っ!!」
キャーッと顔を真っ赤にし恥じらいながらマリアは抗議をしますが、そんなことはお構いなしにヴィンセントは無視をし続け、ズルズルと明らかに自分よりも大きくて体格のよいマリアを引きづっていきます。
「…ちょっとコイツをシメてきます」
そうサラッと一言だけ残して、ヴィンセントはティーサロンをあとにして別室へと消えていきました。
やだ~ッヴィンセント様シメるってなぁに~??キャーッ❤というマリアの嬉しそうな声が響いておりましたが段々と遠くなっていきました。
「あはは~マリアの本名を久々に聞いたよ」
「そう言えばマリアって東の大陸出身だったわね」
「そうだよー。マリアのおばあちゃまの一族が確か東のユリラシア大陸のカゲロウ王国出身の人だったと思うよ」
「だから少しエキゾチックな容姿をしているのですね」
「ねー、今はオレンジのメッシュ入れているけど、あの黒髪綺麗だよねぇ。マリアは人一倍美意識高いからいつも綺麗にしているんだぁ。ちょっと背が高くてガタイも良くて力も強くてゴツイけど美人だしねぇ」
「…そうですか」
「男性も女性も…人もだけど綺麗なモノとか大好きだし、豊かな感性で良いよねぇ」
ズズズ…とお紅茶を飲み干し新たに焼きたてのさくさくスコーンに手を伸ばし、たっぷりとクリームをつけて口いっぱいにリスのように頬張ります。
「まぁちょっと変態だけど…マリアはすごくよく出来た僕のお付き&護衛係で、僕はいつもマリアに感謝してるよー」
「良い関係ですね」
「うん。オネェだろうが何だろうが、僕はそんなマリアが好きだよ」
「マリア本人に聞かせてあげたいわね」
「ねー!まぁ直接は言わないけどねぇ」
まぁ…と皆で談笑をされながらゆっくりと穏やかな午後のティータイムを過ごされております。
大きな窓から入る柔らかな日差しの下、今日も平和なローザタニア王国でございます。
その後も東の国についてのお話や、ナルキッス王国で流行っている最新のファッションやモノ、ローザタニア王国でのシャルロット様のお転婆話などお三方の話は尽きることなく続いておりました。
二時間ほど経った頃でしょうか。
モジモジとしおらしく乙女な感じになってて多幸感に包まれたかのように頬を赤らめたマリアと、日頃のストレスを発散するかのようにマリアをシメてどこかスッキリとされたヴィンセントが戻って参りました。
「…少し失礼をいたしました」
「あ、マリアお帰り-」
フランツ王子がケラケラと明るく笑いながらマリアを迎えました。
「…席を外してしまい申し訳ございませんでした」
「ううん、別に構わないよー。でもそろそろお暇しよっかぁ」
「そうですね。では王子、お支度を…」
「何のお構いもなく申し訳ございません」
「ううん、今日も楽しかったよー、じゃあ来月のパーティーで会えることを楽しみにしてるねっ!」
「えぇ…」
フランツ王子は跪き、紳士的にシャルロット様のお手をとってそっとキスのご挨拶をされてました。その様子に周りの皆はほぅ…と感心されているような声を上げます。
「…僕、大人になるからねっ!」
「まぁ…楽しみにしておりますわ」
お顔をクシャっとされながら照れ笑いをされるフランツ王子は、数時間前よりも少し大人になったようにも見えました。そんなフランツ王子をご覧になられて、シャルロット様も少し大人のレディーの対応をされます。
「…ヴィンセント様ぁ、またマリアにお仕置きしてくださいます?」
皆がフランツ王子とシャルロット様を微笑ましく見守られている中、コソッと顔を赤らめながらマリアはヴィンセントにモジモジと尋ねます。
「…あれだけシメられていたのにまだお仕置きが足りなかったのか?」
「んもうっ!意地悪な人❤」
ヴィンセントが蔑んだような瞳でマリアの顔を覗き込むと、マリアは思いっきり照れながら人差し指でモジモジとヴィンセントの胸辺りをつつきました。
はぁ…と溜息をつきながらヴィンセントはマリアを小突き、何やら耳元で囁かれました。キャーッと声にならない声で興奮しているマリアをさらに冷たい目で見つめます。
「もう~マリアぁ、帰るよぉ!」
「…申し訳ございません❤」
ルンルンッとした羽の生えたような軽い足取りでマリアはフランツ王子の後ろにスッと付き、きりっとしたお顔に戻られました。
「じゃあ、皆また来月のパーティーでねー!」
「えぇ必ずお伺いいたします」
ぞろぞろと列をなし、外で待機をしていた大勢の護衛の兵士や役人たちと共にナルキッス王国の方々はローザタニアをあとにされました。
ドタバタ騒ぎのお昼が過ぎ、ティーサロンで皆でゆっくりとアフタヌーンティーを楽しまれているお時間のことです。爽やかな午後の風がお部屋の中を通り抜け、焼きたてのスコーンと芳醇なお紅茶の香りが辺りを包みます。
「なんでしょう?」
大使との会談を終え、少しリラックスモードだったウィリアム様は飲まれていた紅茶をそっとテーブルの上に置かれてソファーにちょこんと座られているフランツ王子の方を改めて向き直されました。
「うん、えーっとね…そうそう、来月ウチの別荘でパーティーやるんだけど、おいでよぉって」
「え…」
ウィリアム様をはじめ、シャルロット様もヴィンセント、セシル、そしてばあやとセバスチャンも急なお誘いに少し呆気に取られております。
「なんか急に思い立っちゃったみたいでね~招待状は…あ、あった」
ガサゴソ…とかぼちゃパンツのポケットから皺くちゃになった招待状を取り出され、ハイッとウィリアム様の前に出されました。大人の対応で笑顔でウィリアム様も受け取られます。
セバスチャンからペーパーナイフをもらうと、紙のシワをピンッと伸ばしてササっと中身を取り出して手紙に目を落とします。
「ありがとうございます…えっと来月…ですね」
「うん、ウィリアム兄様もシャルロットちゃんも来てねっ!」
「…そうですね、是非出席させていただきます。しかし別荘でパーティーとは珍しいですね」
「なんかいつも同じ会場だと飽きるみたいなことパパ言ってたよ~。だからじゃない??」
「そうですか。ナルキッスの別荘…あぁ、グララスの古城ですか」
「うん、そこ!しばらく使ってなかったんだけどね、なんか行きたくなったみたいだよぉ~」
「あのグララスの古城でパーティーとは趣がありますね。きっと素敵なパーティーとなることでしょう」
「ねー!僕も楽しみ!!パーティー大好き!!」
「…道楽息子が」
ボソッとヴィンセント様の暴言の突っ込みが入りましたが、誰も何も言わずにこやかにお茶会が進んでいきます。もちろん後ろでマリアのみがそんなヴィンセントに対してキュンキュンとしておりますが、それも皆見なかったこととしております。
「ねぇ、今度東の大陸から超有名な高級シルクを取り寄せてシャルロットちゃんにプレゼントするよ!パパに言っとくよ!!」
「えっ」
いきなりのフランツ王子の申し出に、シャルロット様は持っていらっしゃったカップを落としそうになられましたがすんでのところで持ち直し、フランツ王子の申し出をやんわりとお断りしようとされます。
「そんな…お気持ちだけで充分よ」
「えーなんでー?僕が好きでやっているんだから気にしないでっ!」
「でも…」
「そうですよ、フランツ殿。充分すぎるほどのお気持ちをいつも頂戴しております」
シャルロット様に続き、ウィリアム様もフランツ王子の申し出をやんわりとお断りしようと加勢されます。
「そーおー?まぁ欲しくなったらいつでも言ってね!!シャルロットちゃんは僕の将来のお嫁さんなんだから、遠慮なんてしちゃ嫌だよ~」
「…将来フランツ殿が成人された折に、お気持ちが変わっていなければ…」
またか…といった感じで、シャルロット様はフランツ王子の求婚に肯定とも否定とも取れないお返事でかわそうとされます。しかしフランツ王子は負けじと熱くシャルロット様に畳み掛けます。
「気持ちは絶対ずっと変わらないよ~!約束するっ!!」
「ありがたいお言葉ですが…フランツ殿にはもっと素敵な方がいらっしゃるかも知れませんよ」
「そんなこと絶対ないよ!僕は前からずーっとシャルロットちゃんのことが大好きだし…きっとこの気持ちはずーっと変わらないはずっ!!!」
まぁまぁ…とウィリアム様が意固地になってきておりますフランツ王子をなだめられている隙に、セバスチャンがタイミングを見計らってカップに新しいお紅茶を注がれました。
「さぁフランツ殿…お紅茶でも飲まれてお気持ちを落ち着かせてください」
「…うん」
「我々隣国同士、いつも仲良くしてくださっていることに常々深謝しております。そしてお父上であるジョージ国王陛下と皇太子であられるフランツ殿に、先代より変わらず…さらに深い情けをいただいていることもとてもありがたく思っております」
「…」
「手前味噌ではありますが、ウチのシャルロットは母に似てとても麗しく、少しお転婆ですがとても心優しく可憐な娘です。そんなシャルロットにナルキッスの皇太子殿よりご厚意をいただけてとても光栄であります。しかしまだお若いお二人…そんなに急がずともゆっくりと愛を育てていかれるのも乙ですよ」
「…うん、そうだよね。ウィリアム兄様の仰る通りだよね」
「さすが聡明なフランツ殿です。愛は時には引いてみるのも一つの手ですよ」
しょぼくれているフランツ王子に向けて、ウィリアム様は爽やかにウィンクを投げてアドバイス的なお言葉を差し上げております。そんなウィリアム様をご覧になって、フランツ王子も少しずつ反省のお言葉と態度を取られ始めました。
「僕…まだまだ子供だからワガママ言ってごめんね。これからはウィリアム兄様みたいな大人の余裕を持てる人間になるように頑張るよッ!」
「フランツ殿でしたら、私などよりもっと立派な紳士になられますよ」
「ウィリアム兄様…ありがとう」
フランツ王子はウィリアム様に対して目をキラキラされながら羨望のまなざしを捧げております。
「…さすがお若くして一国の王となられるだけの包容力がございますねっ!」
お二人のやり取りをそっと見つめていらっしゃったシャルロット様にマリアが頬を高揚させながらこそこそっとお話しされました。
「そうなの、お兄様は本当にとても大きい愛で包んでくださるの。シャルはそんなお兄様が大好きよ」
「…素敵ですわ~❤」
「えぇ、本当に素敵なお兄様なのっ」
「あぁ…大人で落ち着いて包容力抜群のイケメンウィリアム様に冷徹非道の氷のような麗人ヴィンセント様…両方とも好きになっちゃうなんてっ!あぁ~ん…なんて贅沢な悩みでしょうっ!」
クラクラと頭を抱えながらマリアはまた急に悶え苦しみ始めました。そのまま興奮のあまり床に倒れ込むマリアを、えっ?という驚きの表情でウィリアム様以外の皆はご覧になられます。
「えっと…マリア大丈夫か?」
全く何も気づいていないウィリアム様はすっとマリアに近くに来られ、スッと差し伸べられました。
「あぁ…僕《しもべ》であるワタクシメに対してそんな…もったいのうございます」
「何を言っているんだマリア。王族だろうと従者だろうと誰であろうと、倒れている者に対して手を差し伸べるのは人として当然だろう。さぁ…気分が悪いならゲストルームで少し休みたまえ」
「あぁん❤ウィリアム様~ッ❤」
マリアを支えようと腕を掴まれたその時マリアの興奮は最高潮に達し、まるで数分の待ての状態から解き放たれた空腹の大型犬の如く飛び跳ねながらウィリアム様に抱きつかれようとされました。
「はい、そこまでー」
「ッ!」
いつの間にかヴィンセントがマリアの背後にまわり、またどこからか今度は大きな縄を出されてグルグルッとマリアをがんじがらめに縛りあげました。
「ったく…調子に乗りすぎだ、マリア…いや、ゴンザエモン」
「ヴィンセント様ッ!その本名はやめってッ!!そんな男らしい名前じゃなくてマリアって呼んでください~っ!!」
キャーッと顔を真っ赤にし恥じらいながらマリアは抗議をしますが、そんなことはお構いなしにヴィンセントは無視をし続け、ズルズルと明らかに自分よりも大きくて体格のよいマリアを引きづっていきます。
「…ちょっとコイツをシメてきます」
そうサラッと一言だけ残して、ヴィンセントはティーサロンをあとにして別室へと消えていきました。
やだ~ッヴィンセント様シメるってなぁに~??キャーッ❤というマリアの嬉しそうな声が響いておりましたが段々と遠くなっていきました。
「あはは~マリアの本名を久々に聞いたよ」
「そう言えばマリアって東の大陸出身だったわね」
「そうだよー。マリアのおばあちゃまの一族が確か東のユリラシア大陸のカゲロウ王国出身の人だったと思うよ」
「だから少しエキゾチックな容姿をしているのですね」
「ねー、今はオレンジのメッシュ入れているけど、あの黒髪綺麗だよねぇ。マリアは人一倍美意識高いからいつも綺麗にしているんだぁ。ちょっと背が高くてガタイも良くて力も強くてゴツイけど美人だしねぇ」
「…そうですか」
「男性も女性も…人もだけど綺麗なモノとか大好きだし、豊かな感性で良いよねぇ」
ズズズ…とお紅茶を飲み干し新たに焼きたてのさくさくスコーンに手を伸ばし、たっぷりとクリームをつけて口いっぱいにリスのように頬張ります。
「まぁちょっと変態だけど…マリアはすごくよく出来た僕のお付き&護衛係で、僕はいつもマリアに感謝してるよー」
「良い関係ですね」
「うん。オネェだろうが何だろうが、僕はそんなマリアが好きだよ」
「マリア本人に聞かせてあげたいわね」
「ねー!まぁ直接は言わないけどねぇ」
まぁ…と皆で談笑をされながらゆっくりと穏やかな午後のティータイムを過ごされております。
大きな窓から入る柔らかな日差しの下、今日も平和なローザタニア王国でございます。
その後も東の国についてのお話や、ナルキッス王国で流行っている最新のファッションやモノ、ローザタニア王国でのシャルロット様のお転婆話などお三方の話は尽きることなく続いておりました。
二時間ほど経った頃でしょうか。
モジモジとしおらしく乙女な感じになってて多幸感に包まれたかのように頬を赤らめたマリアと、日頃のストレスを発散するかのようにマリアをシメてどこかスッキリとされたヴィンセントが戻って参りました。
「…少し失礼をいたしました」
「あ、マリアお帰り-」
フランツ王子がケラケラと明るく笑いながらマリアを迎えました。
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「ううん、別に構わないよー。でもそろそろお暇しよっかぁ」
「そうですね。では王子、お支度を…」
「何のお構いもなく申し訳ございません」
「ううん、今日も楽しかったよー、じゃあ来月のパーティーで会えることを楽しみにしてるねっ!」
「えぇ…」
フランツ王子は跪き、紳士的にシャルロット様のお手をとってそっとキスのご挨拶をされてました。その様子に周りの皆はほぅ…と感心されているような声を上げます。
「…僕、大人になるからねっ!」
「まぁ…楽しみにしておりますわ」
お顔をクシャっとされながら照れ笑いをされるフランツ王子は、数時間前よりも少し大人になったようにも見えました。そんなフランツ王子をご覧になられて、シャルロット様も少し大人のレディーの対応をされます。
「…ヴィンセント様ぁ、またマリアにお仕置きしてくださいます?」
皆がフランツ王子とシャルロット様を微笑ましく見守られている中、コソッと顔を赤らめながらマリアはヴィンセントにモジモジと尋ねます。
「…あれだけシメられていたのにまだお仕置きが足りなかったのか?」
「んもうっ!意地悪な人❤」
ヴィンセントが蔑んだような瞳でマリアの顔を覗き込むと、マリアは思いっきり照れながら人差し指でモジモジとヴィンセントの胸辺りをつつきました。
はぁ…と溜息をつきながらヴィンセントはマリアを小突き、何やら耳元で囁かれました。キャーッと声にならない声で興奮しているマリアをさらに冷たい目で見つめます。
「もう~マリアぁ、帰るよぉ!」
「…申し訳ございません❤」
ルンルンッとした羽の生えたような軽い足取りでマリアはフランツ王子の後ろにスッと付き、きりっとしたお顔に戻られました。
「じゃあ、皆また来月のパーティーでねー!」
「えぇ必ずお伺いいたします」
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しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。
ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!?
ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!?
世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる!
「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。
これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!
溺愛兄様との死亡ルート回避録
初昔 茶ノ介
ファンタジー
魔術と独自の技術を組み合わせることで各国が発展する中、純粋な魔法技術で国を繁栄させてきた魔術大国『アリスティア王国』。魔術の実力で貴族位が与えられるこの国で五つの公爵家のうちの一つ、ヴァルモンド公爵家の長女ウィスティリアは世界でも稀有な治癒魔法適正を持っていた。
そのため、国からは特別扱いを受け、学園のクラスメイトも、唯一の兄妹である兄も、ウィステリアに近づくことはなかった。
そして、二十歳の冬。アリスティア王国をエウラノス帝国が襲撃。
大量の怪我人が出たが、ウィステリアの治癒の魔法のおかげで被害は抑えられていた。
戦争が始まり、連日治療院で人々を救うウィステリアの元に連れてこられたのは、話すことも少なくなった兄ユーリであった。
血に染まるユーリを治療している時、久しぶりに会話を交わす兄妹の元に帝国の魔術が被弾し、二人は命の危機に陥った。
「ウィス……俺の最愛の……妹。どうか……来世は幸せに……」
命を落とす直前、ユーリの本心を知ったウィステリアはたくさんの人と、そして小さな頃に仲が良かったはずの兄と交流をして、楽しい日々を送りたかったと後悔した。
体が冷たくなり、目をゆっくり閉じたウィステリアが次に目を開けた時、見覚えのある部屋の中で体が幼くなっていた。
ウィステリアは幼い過去に時間が戻ってしまったと気がつき、できなかったことを思いっきりやり、あの最悪の未来を回避するために奮闘するのだった。
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