ローザタニア王国物語

月城美伶

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運命の女 ~Femme fatale~

第3話

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 ローザタニア王国の王都・パラディスの白いお城に映えるように窓や玄関を色とりどりの花でデコレートされた白や薄い蜂蜜色の壁にテラコッタ色の屋根の家々や店が立ち並ぶ城下町を通り抜けて外へ出ると辺りは一遍、そこには深い緑の山々が連なっておりその裾野には森や湖が広がりその近くには小さな街や村が点在しております。
そしてその森を抜けて進んでいくと透明感あふれる水で満たられた大きなエルベ湖の畔に別の大きな街が現れ出しました。
そこはエルザス地方と呼ばれる大きな地域にあるローザタニア第2の都市、ワインと水の都のペルージュです。
大きな湖から街の中に水が引かれて運河としても活用されているため、その上を大小問わずたくさんの橋が架けられております。その周りをお店やカフェそして家が所狭しと立ち並んでおり、街は大いに賑やかで華やいでおります。
そしてその街の中心を抜けて緑豊かなまるで森のような大きな公園をさらに抜けると街の喧騒が遠のき辺りは少し静かな雰囲気となりだします。
さらにそのまま進んでいくとそこには美しく整然と手入れがされて管理された巨大な庭園が広がり、その先にはアイボリーの壁に青味のがかったグレーの屋根のお城と見まごうごとく大きなお屋敷がポツンと建っておりました。
麗らかな午後の昼下がり、優しい陽の光が温かく入り込むように設計されたティーサロンには一人の老人がロッキングチェアに揺られながら優雅にお茶を飲まれておりました。

「うむ…今日の紅茶もとても茶葉が香っておるな。マイク、お主の淹れるお茶はやはり絶品じゃ…」

繊細な模様が描かれたティーカップから香り立つ湯気の香りを大きな鷲鼻に一杯に吸い込むと、にっこりとその老人は微笑むとゆっくりと紅茶を口に含み、まるでワインを飲むかのように紅茶の味を口いっぱいに堪能して喉を鳴らしました。

「ありがとうございます、大旦那様」
「うむ…もう下がっても良いぞ」

入口の近くに控えていた初老の使用人―――…マイクは深々と頭を下げると静かに部屋をあとにされました。それと入れ違いに、ブルネイの髪をパリッと整え仕立ての良いスーツを着込んだ小柄な青年が部屋の中に入ってきました。

「失礼します大旦那様!ご報告が一件ございます」
「ボリス!何じゃ?」
「はい…実はドミニク様のことですが―――…」

ボリスと呼ばれたその青年はペコッと頭を下げると、胸ポケットからメモを取出して老人に報告しようとしたその時、ボリスからの報告を遮るかのように老人はサイドテーブルにティーカップを叩きつけるようにガチャンと音が立つくらい強く置くと、両腕をあげて報告を聞くものかと耳を塞ぎました。

「あのバカ息子の話は聞きとうないっ!そのような報告は要らぬっ!もう良い、下がれっ!!」
「ですが大旦那様…」
「下がれと言っておるのじゃっ!!お主もしつこいのぉっ!!」

強く拒絶される主人の姿を見てボリスは小さく息を吐いて呼吸を整えると、失礼いたしました…と一言だけ告げるとティーサロンをあとにしました。
ボリスの気配が遠のいたのを確認した老人―――…この館の主人であるロベール・ヴィクトール・ド・メルヴェイユ公爵は大きく溜息をつくと再び紅茶を手に取りゆっくりと一口飲まれました。

「ふん…っ!あんな奴の話など聞いたら美味い紅茶も不味くなってしまうわい…っ!!まったく…っ!ボリスめ…あ奴は本当に空気の読めない男じゃ。あんな奴がウチの顧問弁護士とは…。奴の親父の時からの付き合いがあるとはいえあんなへっぽこの若僧がウチの顧問弁護士なぞこの先が不安じゃ!」

そしてロッキングチェアーから立ち上がったロベール伯爵は窓辺に近づき、遠くの方に見える山を見つめると一つ溜息をつかれました。

「静かじゃ…実に静かで心地の良い午後じゃ…」

ロベール公爵はにっこりと微笑まれて外の美しい山々の景色を目を細めて愛でられ、ゆっくりと紅茶を一口口に含み飲み干そうとした瞬間にティーサロンに激しいくノックオンが響き勢いよくドアが開かれました。

「大旦那様っ!失礼いたします…っ!!大変でございます!!」
「マイクっ!!何じゃ騒々しいっ!!ビックリして紅茶を噴いてしまったではないかっ!!」
「あぁ…申し訳ございません…大旦那様っ!あぁ…お召し物が…っ火傷はございませんかっ!?」
「あーっ!火傷は大丈夫じゃっ!して、何事じゃっ!」

ロベール公爵は慌てふためくマイクから差しだされたハンカチを奪い取って自分のズボンに噴きかけてしまった紅茶を拭き、少しイライラと不機嫌な対応を見せます。

「あ…あの、大旦那様に来客がございまして…」
「来客~?このワシにアポイントなしの来客とはずいぶんと失礼な奴じゃ…っ!!そんな奴はさっさと追い返せっ!!」
「あの…ですがその…」
「何じゃ?お主もしつこい奴じゃ…っ!!」

ロベール公爵が煩わしそうにマイクの言葉を遮り、手に持っていたハンカチを投げつけるようにマイクに返します。

「実は大旦那様―――…」

マイクが説明しようとした矢先、廊下を走る靴の音が響きだんだんとティーサロンに近づいてきたかと思うと、再び勢いよくドアがバーンっと開きました。

「何じゃっ!!」

驚いたロベール公爵がドアの方をビックリしながら振り返ると、これまたビックリした表情を浮かべられました。

「お爺ちゃま…っ!!」
「シャルロット!!」

淡い水色のドレスの裾を翻して、シャルロット様は元気な子犬が猛ダッシュで走り出したかのような速さでロベール公爵の方へとさらに駆け寄りました。
そして思いっきりジャンプをしてロベール公爵に抱きつかれると、ロベール公爵もシャルロット様をガバッと抱きしめられてそのままの勢いでお二人はクルクルと回り出し始めました。
シャルロット様の被っていらっしゃった白いお帽子がふわっと飛ばされましたが、お二人はそんなことも気になさらずに笑いあいながらクルクルと回り続けておりました。

「お爺ちゃま、お会いしたかった!」
「おぅおぅ…ちょっと合わん間にすっかりとレディーになったと思いきや…相変わらずの甘えん坊さんじゃなぁ、ワシの可愛い小鹿ちゃんは❤」
「ふふふ❤だってシャルはお爺ちゃまが大好きなんだものっ!」
「可愛い奴め❤さぁさぁ…一緒にお茶を飲もうではないか!マイク、ぼさっとしとらんで早くお茶の準備をせんかっ!!」
「あの…大旦那様…」
「何じゃもぅ…っ!ほれ、さっさと行きなさい!おぉ、そうじゃシャルロット、昨日作ったワシのお手製の桃のタルトが確かまだ残っているはずじゃ!それをお茶菓子に出してもらおう!さぁさぁシャルロット…こっちに来て一緒にお茶を飲もうではないか…」
「えぇ、お爺ちゃま!…って、お爺ちゃまお菓子を作られるの?」

ロベール公爵に手を引かれてシャルロット様はティーサロンの真ん中に鎮座している、とても繊細で格調高い細工の施された猫足の立派なソファーへと案内されました。

「ここ最近昔に比べて時間が取れるようになってのぉ…。何か新しいことを始めてみようと思って料理長に教てもらいながら最近お菓子を作っているんじゃ」
「まぁ素敵…!」
「残念ながら、一緒に食べてくれる相手はおらんがのぅ」
「シャルはいつでも呼んでいただければすぐにこちらに伺ってお爺ちゃまの作ったお菓子をご一緒するわ!」
「シャルロット…!お前と言うやつは本当に可愛いヤツじゃな…」
「シャルはお爺ちゃまが大好きですもの!」
「シャル❤」

ロベール公爵はまるで大切な宝物のように愛おしそうに目を細めながらまたシャルロット様をギューッと抱きしめました。シャルロット様も笑顔でロベール公爵に抱きつき返し、お二人はとても仲よさげに楽しんでいらっしゃいます。

「してシャルロットよ、サプライズで来てくれてワシとしてはとても嬉しいのじゃが…一体どうして急に逢いに来てくれたのじゃ?」
「あ、そうなの、お爺ちゃま…あのね、実はお爺ちゃまにお願いがあるの―――…」

ふと我に返ったロベール公爵が尋ねられるとシャルロット様も我に返り、パッと抱きついていたのを解かれて一息小さく息を吸い込みキュッと小さな手を握り真剣な表情でロベール公爵を見つめました。
そんな様子のシャルロット様をご覧になったロベール公爵もシャルロット様が息を吸い込んだのと同時に頷き、そして同じくご自身の大きな手をキュッと握りました。

「何じゃ?目に入れても痛くないほど可愛い可愛いお前の願い、このロベール・ヴィクトール・ド・メルヴェイユ公爵の名に懸けて叶えてやろう!」
「本当!?お爺ちゃまっ!!」
「もちろんじゃとも!!」
「嬉しい!お爺ちゃま大好きっ!!」

シャルロット様はまた思いっきりロベール公爵に抱きつきました。ロベール公爵も目じりを下げて嬉しそうにシャルロット様を抱き留め、横に揺れてデレデレとされております。

「これこれシャルロット~苦しいではないかぁ!」
「あ、ごめんなさい!」
「で?なんじゃ、シャルロットのお願いは」

パッとロベール公爵から再び離れシャルロット様はロベール公爵の手を取って握ると、シャルロット様は意を決したようにロベール公爵を見つめて話し始められました。

「…あのね、お爺ちゃま―――…結婚を許してほしいのっ!!」
「結婚…っ!?あ…もしかしてお前…」
「お願いお爺ちゃまっ!!ドミニク叔父様とジャンヌの結婚を許してあげてほしいのっ!!」
「ドミニクに逢ったのかっ!?」
「えぇ、先ほど叔父様がお城に来られて…お話を聞いたわっ!!お爺ちゃまがジャンヌとの結婚を許してくれないって嘆いてらしたの…っ!!」
「あ奴め…何と情けないっ!!10以上も年下の姪っ子にこのようなことを相談しに行くとは…本当にどうしようもないバカ息子じゃっ!!」

ロベール公爵は大きな溜息をつかれて肩をがっくりと落として頭を抱えこんでおりました。その横でシャルロット様は必死で更にロベール公爵に懇願しております。

「ねぇお爺ちゃま…お願いよ!」
「ダーメーだっ!!」

シャルロット様が再びロベール公爵の手を握りましたが、公爵はその手をパッと振りほどき、とてつもなく大きな声で断固拒否という態度でソッポを向かれました。

「どうして?さっきお爺ちゃまシャルの望みを何でも叶えてあげるって仰ったじゃないっ!!」
「この結婚はドミニクの望みであって、シャルの望みではないじゃろうっ!!」
「ドミニク叔父様の幸せ…家族の幸せはシャルの幸せよ?」
「~っ!!ならぬならぬならぬ~っ!!こればっかりは許すことが出来んのじゃっ!!」
「お爺ちゃまさっきご自分の名に懸けてって仰ったじゃないっ!!」
「それは無効じゃっ!!」
「お爺ちゃまの嘘つきっ!!」
「何じゃと~っ!?」

二人の言い争いは更にヒートアップしていき、お二人はソファーから立ち上がって大きな目を見開きながらお互い一歩も譲らずに向かい合っております。

「はーい、一旦落ち着きましょうかぁ」
「っ!!」

どこか聞き覚えのある少し人を小馬鹿にしたような声と共にその睨み合っているお二人のお顔の間に分厚い本を上からスパーンと差し入れられて、お二人はビックリしてお互い一歩引かれました。

「ぶっ!!誰じゃっ!!不躾な奴めっ!!!」

ロベール公爵が怒りでプリプリしながらお顔の前の本を投げ払うようにどけました。

「全く…こうなると思っていたからここに来なきゃいけない破目になったんですよ…ったく」
「ヴィーっ!!」
「むっ!!お主はスチュアート家の…っ!!」
「ロベール様、お久しぶりでございます。スチュアート家のヴィンセント・ルイ=シャルル・スチュアートでございます」
「ヴィーっ!!」
「…ったく、ローザタニアの王族の方々は血気盛んすぎますね」
「何よ、ヴィーだって遠縁とは言えウチの親戚じゃない」
「私はメルヴェイユ家の血は引いておりませんので」
「う…」
「お主がここにおるということは…もしや」
「えぇ、陛下もこちらに来られております」
「はぁ…何と情けない…っ!シャルロットだけでなくウィリアムにも泣き付いておるのかっ!!わが息子ながら本当にあ奴はどうしようもないヤツじゃ…っ!!」
「とりあえず陛下に中に入っていただいてもいいですかね?先程からずっと待っていらっしゃるので」
「え、お兄様いらっしゃっていたの?」
「最初っからずっとお部屋の外で拝見されておりましたよ」
「んもぅっ!!お兄様いらっしゃっているなら早くいらしてよっ!!」
「入るタイミング分からなかったんじゃないですかねぇ」
「な…っ!」
「そんな訳でロベール様、陛下に入室していただいても?」
「う…うむ」

マイクが一礼して部屋に入ってくると、その後ろには濃いグレーのジャケットを着たウィリアム様がまるで何事も無かったかのような爽やかな笑顔で立っておられました。

「お兄様!」
「お久しぶりです、お爺様。相変わらずお元気そうで何よりです」
「うむ…」

そしてニコニコと微笑んだまま軽やかにジャケットを翻してシャルロット様の横のソファーに着座されました。右手を差出し、ロベール公爵とシャルロット様に座られるように合図なさると、お二人はしぶしぶとソファーに座られました。

「お爺様、今日はいい天気ですね」
「う…うむ…」
「久々にペルージュへと参りましたが…相変わらず美しい街ですね。深い緑に萌える山々…そして豊かな水量のエルベ湖…風光明媚とはまさにこの街のことですね。エルベ湖から街に引かれる無数の運河に商人たちはその運河を使って荷物や人を運んだりと交通の要になっていますね。そしてその周りを店が立ち並び並び活気づいて…相変わらず力強い街ですね、ここペルージュは」
「まぁな…」
「そしてそのペルージュのあるエルザス地方を領主として治めているのがこのメルヴェイユ家。昔からこの街は暴動も無く安定した年貢や税を納めておりますから…メルヴェイユ家の手腕の良さが光りますね」
「ふん…ワシは何もしておらんよ。ワシはただ法に乗っ取ってここを治めているだけじゃ」

ニコニコと口元に笑みを絶やさず、ウィリアム様はロベール公爵に話しかけます。ロベール公爵は少しバツが悪そうなお顔のまま、ウィリアム様と視線を合すことなくそっけない態度で腕組みをしたまま、ソファーに座られております。その横をマイクがお茶の準備を手早くされておりました。

「ご謙遜なさらず…。名君と誉高いお爺様を鑑にして行かねばと私は常に感じております」
「…前置きが長いのぅ」
「そうですか。では本題に入ってもよろしいでしょうか?」
「ふんっ、勝手にせい」
「ではドミニク叔父上にも入っていただきましょうか」
「ドミニクも一緒かっ!!」
「叔父上、どうぞお入りください」
「えぇ」
「…全く情けない奴じゃ!言いたいことがあるなら一人で面と向かって言いに来ればよいものをっ!!」

怒りを通り越してなんだか呆れたような態度でまた一つロベール公爵は大きな溜息をついてがっくりと肩を下ろして頭を抱えておりました。
そこへバツの悪そうなお顔をされたドミニク様がおずおずとティールームへと入ってこられました。

「やぁ父上…」
「ドミニクっ!!お前と言うやつは…10以上も歳の離れた甥っ子や姪っ子に泣き付いて恥ずかしくないのかっ!!!」
「甥っ子姪っ子と言えど我がローザタニアの国王と姫様なのだから父上よりお力があるから何とかなると思ったんですよっ!!」
「この愚か者がっ!身内とは言え自分のプライベートな問題に国王を巻き込むとは…呆れて何も言えんわっ!!」
「あいたたた…っ!暴力反対ですよ父上っ!!」
「うるさい!お前にはホトホト呆れたわいっ!!もう二度とウチの敷居を跨ぐなっ!!!」
「お爺様落ち着いてください…!」

ロベール公爵はスッと立ち上がって入り口付近にまだ立っているドミニク様の方へとズカズカと進んでいき、思いっきり拳をきつく握りしめながらぼかすかと殴り始めました。ドミニク様は必死にその拳を防ごうと身を屈めておりますが、大柄でいかにも体躯が立派なロベール公爵を前にモヤシみたいにひょろっとされているドミニク様はちょんっと触ればすぐにでも吹き飛ばされそうになっております。

「んもうっ!!お爺ちゃま、叔父様やめてったら!」

シャルロット様がお二人の間に割って入って両腕を思いっきり開いて強引に引き離すと、その衝動でお二人とも尻餅をつくくらい吹っ飛ばされてしまいました。

「んもうっ!二人とも落ち着いて!!こんなんじゃいつまでたっても話が平行線のままよ!一旦落ち着いてお互いの意見を聞きあいましょう!!」
「…ぐぬぬ」
「そうですよ、お爺様。まずは一旦お二人とも落ち着きましょう」

ウィリアム様とマイクがロベール公爵を起こそうと近寄り、ヴィンセントはめんどくさそうに、でも顔には出さずにドミニク様の傍に寄って立たそうと手伝いに来ました。

「…ふんっ!まぁ良いっ!!せっかくじゃ、家族会議として聞いてやろうではないかっ!!」
「お爺ちゃま…っ!!」
「だがしかしドミニクよっ!家族とは言え国王陛下の御前であるぞ。決して嘘偽りなく全てを語ることを誓ってから話すのじゃっ!!」

ドミニク様と視線を一切合わせることなくロベール公爵は目を伏したまま乱れた襟を正して、バツが悪そうにしておりましたがフンッとふんぞり返って改めてソファーにドカッと着席されました。

「おや父上…やっと私の話をまともに聞いてくださるようになりましたか。えぇ、それでは私、ドミニク・ド・メルヴェイユは今からお話しすることは嘘偽りないとウィリアム・アーサー・フィリップ国王に誓いますっ!!」
「ふんっ!!己で己の首を絞めるようなことを言いおってっ!このバカ息子がっ!!ワシも宣言しようっ!!我、現メルヴェイユ家当主のロベール・ヴィクトール・ド・メルヴェイユはウィリアム・アーサー・フィリップ国王に誓って、嘘偽りなくお話しいたしまするっ!!」
ロベール公爵とドミニク様は胸に手を当ててウィリアム様の前に跪き、宣誓をなされました。
「で…では両者の話を順に聞いて行きましょうか…。ですがその前に、少し落ち着いてお茶でも飲みましょう、お爺様」
「うむ…」

ウィリアム様は少し戸惑いながらもお二人の宣誓を受け入れられました。そしてロベール公爵がマイクにお茶の準備を促し、マイクは急いでティーサロンを出てお茶の準備に取り掛かりに行きました。

「…凄い壮大な親子喧嘩」

ボソッとヴィンセントが呟かれましたが、一同はもうそれどころではなかったようで誰も突っ込んでは来られませんでした。ただお一人、ウィリアム様だけがチラッとヴィンセントの方をご覧になって、何か言いたげな表情をされましたが少し眉頭を寄せてフッと溜息のような微笑みをされました。
麗らかな午後の昼下がり、いつもは静かなメルヴェイユ家ではありますが本日はたくさんの声が飛び交って非常に賑やかでありました。
窓の外では小鳥たちが花の蜜を啄みながら楽しそうにチュンチュンと鳴いておりました―――…。
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