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真夏の夜の悪夢 ~Le cauchemar de Vincent~
第6話
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「シャル、気分は悪くないか?大丈夫か?」
「えぇお兄様、大丈夫よ」
「そうか…少しでも気分が悪くなったらいつでも言うんだぞ」
「…ありがとう、お兄様」
シャルロット様を自分のベッドに優しく寝かせると、ウィリアム様はご自分も一緒にベッドの中に入られて少し不安げな表情のシャルロット様のお顔を優しく見つめられました。
「ねぇお兄様…」
「ん?」
「私…皆に何か悪いことしちゃったの…?」
「お前は何もしていなよ。だから安心しておやすみ…」
「本当?」
「あぁ」
「ヴィーの態度がいつもと違ったの。だから…私…ヴィーに何かしちゃったの?」
「シャル…」
「だったらヴィーに謝らないと。私の意識がない時の話だけれど…それでもヴィーに何か悪いことしちゃったのならちゃんとごめんなさいって言わないと駄目だと思うの…」
シャルロット様はとても困惑したようなお顔でウィリアム様のお顔を見上げるように見つめております。ウィリアム様はシャルロット様の真っ直ぐな瞳をしっかりと受け止めてちゃんとシャルロット様の仰っていることを聞いておりました。
「…じゃあ明日、自分でヴィンセントにちゃんと聞いてごらん?そして何かお前が悪いことをしていたのならちゃんと謝りなさい」
「お兄様…」
「さぁ、明日は少し早起きしなければならないから、早く寝よう」
「えぇ…」
「…おやすみ、私の可愛いシャルロット」
「おやすみなさい」
ウィリアム様はにっこりと微笑んでシャルロット様のおでこにキスをされました。シャルロット様は嬉しそうに笑顔を見せられると、いたずら盛りの子猫のような瞳でウィリアム様を見つめてお返しに頬にキスをされました。そして二人はお顔を見合わせて笑い合い、肩までお布団に入りゆっくと瞳を閉じられました。
先程まで強く拭いていた風もいつの間にか吹き止んでおります。
空には星々が瞬いており、とても静かな夜のことでした。
・・・・・・・・
翌日の午前中のことです。ローザタニアの城下街の王都・パラディスの大聖堂では司教の元、大規模なミサが急遽行われました。ウィリアム様、シャルロット様、ヴィンセントやその他多くの人々が大聖堂で司教と共に祈りを捧げて身も心も綺麗にしようとしております。
眩しいくらい太陽の光を浴びた大聖堂のステンドグラスが大聖堂の床に美しく色とりどりに映し出されて参列者のお顔にも降り注いでおりました。
数時間にも及ぶ長いミサが終わったのち、ウィリアム様たちはお城に戻られてお茶の時間を楽しんでおられました。
執事長のセバスチャンやばあやが甲斐甲斐しくお茶の準備のため動き回っております。
少しシックなお衣裳のウィリアム様とシャルロット様は、お二人とも長時間のミサで疲れたのか少しぐったりとした様子でソファーに座っておりました。
「陛下…今日のお茶はジャスミンティーでご用意しております。どうぞお疲れが残りませんよう…」
「ありがとうセバスチャン」
「それでは…どうぞお召し上がりください」
お二人の前には高級感ある香りの漂うジャスミンティーと、そしてパティシエたちが心を込めて作ったたくさんのスイーツがアフタヌーンティーとして所狭しと並んでおります。まるで宝石箱のようにカラフルで輝いているスイーツに、シャルロット様の瞳はキラキラと輝きだし一気にテンションが上がっておりました。
「美味しそう!いただきます❤」
シャルロット様は早速スコーンを2つ取られて、クロステッドクリームとイチゴジャムをたっぷりつけるとさらにその上に蜂蜜を掛けるとリスのようにパクッとスコーンにかぶりつきました。そして美味しい~っと言わんばかりに目を細めてうっとりとされております。
ウィリアム様はそんなシャルロット様を見て微笑まれると、ご自身もスコーンをまず取られてシャルロット様と同じくクロステッドクリームとイチゴジャム、そしてさらに蜂蜜をたっぷりと塗りたくって一口召し上がられました。
「うわ…よくそんな甘ったるくして食べられますね。さすが兄妹…」
「美味しいぞ?お前も食べてみたらどうだ?」
「絶対遠慮しておきます」
ヴィンセントはウィリアム様の背後から身を乗り出してソファーの縁に手をついて覗き込みます。ウィリアム様はスコーンをヴィンセントの顔の近くに持って行って勧めますが、ヴィンセントは怪訝そうな顔で甘ーい香りを放つスコーンを見つめて思いっきり拒絶の態度をとっておりました。
「はぁ…疲れも吹っ飛ぶくらいの美味しさよね」
「よく言いますよ。ミサの最中寝てたでしょう、姫様」
「ねっ寝てなんかいないわよ!あれは真剣に司教様のお話を聞いていただけよ!」
「え?めっちゃくちゃ頭船漕いでいましたよ?」
「うっ!」
「まったく…まさに馬の耳に念仏ですね」
「何よそれ」
「東の国のことわざです。またの言い方は豚に真珠」
「誰が豚よ!」
「そんな甘いもんばっかり食べていたらそのうち豚になりますよ。ですがきっと残念ながら…付くところには付かずに…」
ヴィンセントはシャルロット様の頭からつま先までジッと見つめ、ハッと息を吐いて小馬鹿にしたように笑いました。シャルロット様はそんなヴィンセントの挑発に乗りプンスカとお怒りになっております。
「んもぅっ!ヴィーったらレディーに失礼よ!!」
「こらこら二人とも落ち着いて」
ヒートアップしていくシャルロット様とヴィンセントの子供のような言い合いにウィリアム様はなだめる様にストップをかけて二人を諌めました。
「そういえば、ルドルの泉の水はいつ届きそうだ?」
「そろそろ届くころかと。見てきます」
シャルロット様は手をグーにして拳を握りヴィンセントに飛びつこうとしていたのをウィリアム様に抑えられてぐぬぬ…とばかりに蠢き、頬を膨らませてジッとヴィンセントを睨むかのように見ておりました。しかしそんなのはどこ吹く風とばかりにヴィンセントは何事も無かったかのようにスッとお辞儀をすると、足早に部屋を出て行きました。
「んもぅ!ヴィーなんか大っ嫌いっ!!」
「まぁまぁ…ヴィーの口の悪さはいつものことだから。それにしてもなんだか本物の兄弟喧嘩みたいで面白いなぁお前たちは」
「私は面白くないわ!んもぅ!いつかヴィーをぎゃふんと言わせてやるんだから!」
そう鼻息荒くシャルロット様は息巻いておりましたが、ばあやがまぁまぁ落ち着いて…とシャルロット様のお口にクロステッドクリームと今度はママレードのジャムをたっぷりと塗りたくったスコーンを放り込むと、シャルロット様は全体的につり上がったお顔から一転目尻も眉も垂れ下がり、口角だけ上げて幸せそうな表情でスコーンをモグモグ食べ始めました。
「美味しい~❤」
「それはよかった」
ウィリアム様はそんなシャルロット様をご覧になってにっこりと微笑まれると、紅茶を口に運びました。
「あら?そう言えばセシルは?」
「あぁ…セシルでしたら今日は新人のメイドにつきっきりで指導しておりますよ」
「そうなの?」
「えぇ。ここの所、政務官室近くの書庫の本が良く移動していることが多くて…。調べたところ、書庫によく猫が出入りしておりましてねぇ…棚の上に上るときに本やファイルを落としてしまうんですが、書庫担当の新人メイドが棚に直すときよく間違えるんですよ。ですからセシルが今きっちりと指導しているところです」
「ふーん…」
「書庫には大事な書類もあるしなぁ。いくら猫だからと言え簡単に入り込めるのはやはりよくないな…」
「でも猫にとっては良い休憩場所だったんじゃない?」
「まぁそうだろうな。基本的に人の出入りが少なくて静かだろうからな」
「猫くらいいいじゃない。このお城は森とも一部繋がっていてお庭にはよくタヌキとかキツネとか野兎だって自由に出入りしているじゃない」
「まぁヴィンセントと相談してみよう。アイツのことだ、このことを知ったら頑丈な鍵でも用意しそうだな」
「10個くらい付けそうね」
「そうだな」
ウィリアム様とシャルロット様はプッと吹き出してそのまま豪快に笑い出し始めました。執事長のセバスチャンはスッと瞳を伏せて直立不動で控えておりましたが、口元には笑みがこぼれております。ばあやはと言いますと、お二人につられて笑っておりました。
お城のティーサロンからは楽しそうなお声が溢れており、今日も平和に時が流れております。
「えぇお兄様、大丈夫よ」
「そうか…少しでも気分が悪くなったらいつでも言うんだぞ」
「…ありがとう、お兄様」
シャルロット様を自分のベッドに優しく寝かせると、ウィリアム様はご自分も一緒にベッドの中に入られて少し不安げな表情のシャルロット様のお顔を優しく見つめられました。
「ねぇお兄様…」
「ん?」
「私…皆に何か悪いことしちゃったの…?」
「お前は何もしていなよ。だから安心しておやすみ…」
「本当?」
「あぁ」
「ヴィーの態度がいつもと違ったの。だから…私…ヴィーに何かしちゃったの?」
「シャル…」
「だったらヴィーに謝らないと。私の意識がない時の話だけれど…それでもヴィーに何か悪いことしちゃったのならちゃんとごめんなさいって言わないと駄目だと思うの…」
シャルロット様はとても困惑したようなお顔でウィリアム様のお顔を見上げるように見つめております。ウィリアム様はシャルロット様の真っ直ぐな瞳をしっかりと受け止めてちゃんとシャルロット様の仰っていることを聞いておりました。
「…じゃあ明日、自分でヴィンセントにちゃんと聞いてごらん?そして何かお前が悪いことをしていたのならちゃんと謝りなさい」
「お兄様…」
「さぁ、明日は少し早起きしなければならないから、早く寝よう」
「えぇ…」
「…おやすみ、私の可愛いシャルロット」
「おやすみなさい」
ウィリアム様はにっこりと微笑んでシャルロット様のおでこにキスをされました。シャルロット様は嬉しそうに笑顔を見せられると、いたずら盛りの子猫のような瞳でウィリアム様を見つめてお返しに頬にキスをされました。そして二人はお顔を見合わせて笑い合い、肩までお布団に入りゆっくと瞳を閉じられました。
先程まで強く拭いていた風もいつの間にか吹き止んでおります。
空には星々が瞬いており、とても静かな夜のことでした。
・・・・・・・・
翌日の午前中のことです。ローザタニアの城下街の王都・パラディスの大聖堂では司教の元、大規模なミサが急遽行われました。ウィリアム様、シャルロット様、ヴィンセントやその他多くの人々が大聖堂で司教と共に祈りを捧げて身も心も綺麗にしようとしております。
眩しいくらい太陽の光を浴びた大聖堂のステンドグラスが大聖堂の床に美しく色とりどりに映し出されて参列者のお顔にも降り注いでおりました。
数時間にも及ぶ長いミサが終わったのち、ウィリアム様たちはお城に戻られてお茶の時間を楽しんでおられました。
執事長のセバスチャンやばあやが甲斐甲斐しくお茶の準備のため動き回っております。
少しシックなお衣裳のウィリアム様とシャルロット様は、お二人とも長時間のミサで疲れたのか少しぐったりとした様子でソファーに座っておりました。
「陛下…今日のお茶はジャスミンティーでご用意しております。どうぞお疲れが残りませんよう…」
「ありがとうセバスチャン」
「それでは…どうぞお召し上がりください」
お二人の前には高級感ある香りの漂うジャスミンティーと、そしてパティシエたちが心を込めて作ったたくさんのスイーツがアフタヌーンティーとして所狭しと並んでおります。まるで宝石箱のようにカラフルで輝いているスイーツに、シャルロット様の瞳はキラキラと輝きだし一気にテンションが上がっておりました。
「美味しそう!いただきます❤」
シャルロット様は早速スコーンを2つ取られて、クロステッドクリームとイチゴジャムをたっぷりつけるとさらにその上に蜂蜜を掛けるとリスのようにパクッとスコーンにかぶりつきました。そして美味しい~っと言わんばかりに目を細めてうっとりとされております。
ウィリアム様はそんなシャルロット様を見て微笑まれると、ご自身もスコーンをまず取られてシャルロット様と同じくクロステッドクリームとイチゴジャム、そしてさらに蜂蜜をたっぷりと塗りたくって一口召し上がられました。
「うわ…よくそんな甘ったるくして食べられますね。さすが兄妹…」
「美味しいぞ?お前も食べてみたらどうだ?」
「絶対遠慮しておきます」
ヴィンセントはウィリアム様の背後から身を乗り出してソファーの縁に手をついて覗き込みます。ウィリアム様はスコーンをヴィンセントの顔の近くに持って行って勧めますが、ヴィンセントは怪訝そうな顔で甘ーい香りを放つスコーンを見つめて思いっきり拒絶の態度をとっておりました。
「はぁ…疲れも吹っ飛ぶくらいの美味しさよね」
「よく言いますよ。ミサの最中寝てたでしょう、姫様」
「ねっ寝てなんかいないわよ!あれは真剣に司教様のお話を聞いていただけよ!」
「え?めっちゃくちゃ頭船漕いでいましたよ?」
「うっ!」
「まったく…まさに馬の耳に念仏ですね」
「何よそれ」
「東の国のことわざです。またの言い方は豚に真珠」
「誰が豚よ!」
「そんな甘いもんばっかり食べていたらそのうち豚になりますよ。ですがきっと残念ながら…付くところには付かずに…」
ヴィンセントはシャルロット様の頭からつま先までジッと見つめ、ハッと息を吐いて小馬鹿にしたように笑いました。シャルロット様はそんなヴィンセントの挑発に乗りプンスカとお怒りになっております。
「んもぅっ!ヴィーったらレディーに失礼よ!!」
「こらこら二人とも落ち着いて」
ヒートアップしていくシャルロット様とヴィンセントの子供のような言い合いにウィリアム様はなだめる様にストップをかけて二人を諌めました。
「そういえば、ルドルの泉の水はいつ届きそうだ?」
「そろそろ届くころかと。見てきます」
シャルロット様は手をグーにして拳を握りヴィンセントに飛びつこうとしていたのをウィリアム様に抑えられてぐぬぬ…とばかりに蠢き、頬を膨らませてジッとヴィンセントを睨むかのように見ておりました。しかしそんなのはどこ吹く風とばかりにヴィンセントは何事も無かったかのようにスッとお辞儀をすると、足早に部屋を出て行きました。
「んもぅ!ヴィーなんか大っ嫌いっ!!」
「まぁまぁ…ヴィーの口の悪さはいつものことだから。それにしてもなんだか本物の兄弟喧嘩みたいで面白いなぁお前たちは」
「私は面白くないわ!んもぅ!いつかヴィーをぎゃふんと言わせてやるんだから!」
そう鼻息荒くシャルロット様は息巻いておりましたが、ばあやがまぁまぁ落ち着いて…とシャルロット様のお口にクロステッドクリームと今度はママレードのジャムをたっぷりと塗りたくったスコーンを放り込むと、シャルロット様は全体的につり上がったお顔から一転目尻も眉も垂れ下がり、口角だけ上げて幸せそうな表情でスコーンをモグモグ食べ始めました。
「美味しい~❤」
「それはよかった」
ウィリアム様はそんなシャルロット様をご覧になってにっこりと微笑まれると、紅茶を口に運びました。
「あら?そう言えばセシルは?」
「あぁ…セシルでしたら今日は新人のメイドにつきっきりで指導しておりますよ」
「そうなの?」
「えぇ。ここの所、政務官室近くの書庫の本が良く移動していることが多くて…。調べたところ、書庫によく猫が出入りしておりましてねぇ…棚の上に上るときに本やファイルを落としてしまうんですが、書庫担当の新人メイドが棚に直すときよく間違えるんですよ。ですからセシルが今きっちりと指導しているところです」
「ふーん…」
「書庫には大事な書類もあるしなぁ。いくら猫だからと言え簡単に入り込めるのはやはりよくないな…」
「でも猫にとっては良い休憩場所だったんじゃない?」
「まぁそうだろうな。基本的に人の出入りが少なくて静かだろうからな」
「猫くらいいいじゃない。このお城は森とも一部繋がっていてお庭にはよくタヌキとかキツネとか野兎だって自由に出入りしているじゃない」
「まぁヴィンセントと相談してみよう。アイツのことだ、このことを知ったら頑丈な鍵でも用意しそうだな」
「10個くらい付けそうね」
「そうだな」
ウィリアム様とシャルロット様はプッと吹き出してそのまま豪快に笑い出し始めました。執事長のセバスチャンはスッと瞳を伏せて直立不動で控えておりましたが、口元には笑みがこぼれております。ばあやはと言いますと、お二人につられて笑っておりました。
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