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Artémis des larmes ~アルテミスの涙~
第1話
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草木も眠る丑三つ時…とどこかの国で言われる、静かな夜のことです。
ここはとある小国のお城の奥にある秘密の小部屋。
部屋の中央に置かれた小さな燭台の明かりだけが仄かに灯るこの部屋の中では、一人の青年が切れ長の涼しげな瞳の青年が葉巻を燻らせ、窓の外をただただぼんやりと見つめております。
黒檀のように艶やかな黒髪を後ろに束ねた、東の大陸にある蒼龍国という国の絹織の上等な詰襟の上着に黒いパンツという民族衣装を着たその青年は葉巻を大きく一息吸い込むと、ふぅ…と息を細めてゆっくりと煙を吐き出しました。
するとそこに毛皮のマントと煌びやかな装飾品を身に着けた中年の男が従者と共に現れ、葉巻の煙の臭いに顔をしかめながらソファーに着席しました。
涼しげな瞳の青年はゆっくりと振り返り、感情のない上辺だけの笑顔をその中年の男性に向けると挨拶もそこそこ、手に持っていた小箱をそっと開き男性の目の前のテーブルにそっと置きました。
その中年の男性は小箱の中身を見た瞬間その小箱を手に取り、興奮したのかアイスブルーの瞳を大きく見開いておりました。
「おぉ!!なんと美しい…これがあの『アルテミスの涙』…っ!」
「500年前リーヴォニアの鉱山で採れた幻の宝石…。300年前の世界大戦で永らく行方不明になっておりましたが秘密のオークションに出品され…見事この度手に入れることが出来ました」
「…数百年ぶりに故郷であるこの国に戻ってきたと言うわけだ…」
「一見エメラルドのようにも見えるけれど…光を当てるとルビーのように輝く不思議な石『アルテミスの涙』。喜んでいただけて何よりです。ラドガ王国の国王陛下もご所望でしたので…なかなか競りに苦労しましたよ」
「あのいけ好かない強欲なジジイめ…っ!だがさすがは『崑崙』。…貴方方の手にかかれば叶わない願いなどない…噂は本当だった!」
「フフフ…。国家予算の大半をつぎ込んでいただきありがとうございます陛下。それでは、期日までにこちらにご送金をお願いいたしますね」
「あぁ…。きっとこの『アルテミスの涙』は我が国を幸せな未来へと導いてくれるに違いない…」
「…ご多幸をお祈りいたします。気まぐれな月の女神がこの国に…貴方に微笑んでくれるといいですね。それでは…また何かご要望がございましたら崑崙に是非お声がけください」
「あぁ…」
「それでは失礼いたします…アドルフ国王陛下」
青年は再び感情のない凍った笑顔をその中年の男性―――アドルフ国王に向けると、すぐに踵を翻してその小部屋を静かに出ていきました。
青年の足音が遠くなっていくにつれ、小部屋からはアドルフ国王の高笑いが静かな廊下には響き渡ります。
「さぁ…気まぐれでワガママな月の女神アルテミスは…貴方に微笑んでくれますかね…。彼女のご機嫌を損ねたら一気に不幸が舞い降りる…」
アドルフ国王の歓喜の笑い声を背に歩き続けた青年はそのまま足速にお城を後にしました。
呆れたようにため息をつき、お城の外から月明かりに照らされているお城を見上げます。咥えたままの葉巻をポイッと足元に捨てて火を消すと、その青年は再び歩き出しました。
門の外には黒づくめの服装の屈強な体躯をした数人の男たちが整列をして青年を迎え入れました。
慣れたようにその青年はそのまま足速にその男たちの間を通り抜け、用意されていた馬車に乗り込みます。黒ずくめの男の一人が御者に指示を出し、馬車はゆっくりと走り出しました。
パタンッと扉を閉めて黒豹はふかふかのボルドー色のソファーに腰掛けると、すでに奥で不機嫌そうに腕組みをして座っていた中年の男性にニコッと笑顔で話しかけます。
「お待たせいたしました…」
「ふん…こともあろうに、ラドガ大国の大臣である私を馬車の中で待たせるとは…貴様も良い度胸だな、劉 黒豹」
「ノヴロフ大臣殿…申し訳ございません」
「ふん…まあよい。道中は長くたっぷり時間はある…ゆっくり仲良く話し合おうじゃないか…」
ノヴロフ大臣はそっと黒豹の髪に触れました。黒豹は一瞬顔をしかめましたが、すぐにスンッと冷たい氷のような冷たい瞳でノヴロフ大臣を睨むように見つめ返します。そしてノヴロフ大臣の手を叩いて払い退けます。
「痛…っ!何をする!」
「それはこちらのセリフです。ノヴロフ大臣…気安く触らないでいただきたいですね。それに今日は陛下にお会いするまでに大事な商談をする予定でしょう?」
「すまんすまん…。ほんのちょっとした冗談だ…。気を悪くせんでくれ」
「以後気をつけください」
「あぁ…」
黒豹の瞳の冷たさの気迫に背筋がゾッと凍りついたノヴロフ大臣は、最初の威勢の良さはどこへやら…すぐに血相を変えて黒豹に謝ります。
黒豹はフンッと鼻で息を吐き、ササっとノヴロフ大臣が触れた箇所を払います。
そしてはぁ…と一息吐くと懐から葉巻を取り出して火をつけました。
「…さてノヴロフ大臣殿、早いところ本題に入りましょう。例の『アルテミスの涙』ですが、競りに勝ったアドルフ陛下はたいそう喜ばれておりました」
「憎たらしいのぅ!本来なら我々こそがアレを手に入れるべきところを…っ!」
「…まぁ落ち着いてください。金で買えないなら、奪えばいいんですよ」
「ほう」
「取引をしましょう」
黒豹は葉巻の煙を吸い込み、ゆっくりとノヴロフ大臣の方に吐き出しました。煙に咽せて咳き込むノヴロフ大臣を見てクスッと黒豹は笑いました。
「…大臣殿、時間はたっぷりありますから…たっぷり話し合いましょう」
「も…もちろんだ」
涙目になりながらも、ノヴロフ大臣は頷き返します。
瞳の奥は笑っていない冷たい瞳を細め、黒豹はもうひと吸い葉巻を吸うと窓からポイっと火のついたままの葉巻を投げ捨てました。
馬車はガタガタと整備の悪い道を揺れながら、猛スピードでお城をあとにして北へと向かって走って行ったのでした。
ここはとある小国のお城の奥にある秘密の小部屋。
部屋の中央に置かれた小さな燭台の明かりだけが仄かに灯るこの部屋の中では、一人の青年が切れ長の涼しげな瞳の青年が葉巻を燻らせ、窓の外をただただぼんやりと見つめております。
黒檀のように艶やかな黒髪を後ろに束ねた、東の大陸にある蒼龍国という国の絹織の上等な詰襟の上着に黒いパンツという民族衣装を着たその青年は葉巻を大きく一息吸い込むと、ふぅ…と息を細めてゆっくりと煙を吐き出しました。
するとそこに毛皮のマントと煌びやかな装飾品を身に着けた中年の男が従者と共に現れ、葉巻の煙の臭いに顔をしかめながらソファーに着席しました。
涼しげな瞳の青年はゆっくりと振り返り、感情のない上辺だけの笑顔をその中年の男性に向けると挨拶もそこそこ、手に持っていた小箱をそっと開き男性の目の前のテーブルにそっと置きました。
その中年の男性は小箱の中身を見た瞬間その小箱を手に取り、興奮したのかアイスブルーの瞳を大きく見開いておりました。
「おぉ!!なんと美しい…これがあの『アルテミスの涙』…っ!」
「500年前リーヴォニアの鉱山で採れた幻の宝石…。300年前の世界大戦で永らく行方不明になっておりましたが秘密のオークションに出品され…見事この度手に入れることが出来ました」
「…数百年ぶりに故郷であるこの国に戻ってきたと言うわけだ…」
「一見エメラルドのようにも見えるけれど…光を当てるとルビーのように輝く不思議な石『アルテミスの涙』。喜んでいただけて何よりです。ラドガ王国の国王陛下もご所望でしたので…なかなか競りに苦労しましたよ」
「あのいけ好かない強欲なジジイめ…っ!だがさすがは『崑崙』。…貴方方の手にかかれば叶わない願いなどない…噂は本当だった!」
「フフフ…。国家予算の大半をつぎ込んでいただきありがとうございます陛下。それでは、期日までにこちらにご送金をお願いいたしますね」
「あぁ…。きっとこの『アルテミスの涙』は我が国を幸せな未来へと導いてくれるに違いない…」
「…ご多幸をお祈りいたします。気まぐれな月の女神がこの国に…貴方に微笑んでくれるといいですね。それでは…また何かご要望がございましたら崑崙に是非お声がけください」
「あぁ…」
「それでは失礼いたします…アドルフ国王陛下」
青年は再び感情のない凍った笑顔をその中年の男性―――アドルフ国王に向けると、すぐに踵を翻してその小部屋を静かに出ていきました。
青年の足音が遠くなっていくにつれ、小部屋からはアドルフ国王の高笑いが静かな廊下には響き渡ります。
「さぁ…気まぐれでワガママな月の女神アルテミスは…貴方に微笑んでくれますかね…。彼女のご機嫌を損ねたら一気に不幸が舞い降りる…」
アドルフ国王の歓喜の笑い声を背に歩き続けた青年はそのまま足速にお城を後にしました。
呆れたようにため息をつき、お城の外から月明かりに照らされているお城を見上げます。咥えたままの葉巻をポイッと足元に捨てて火を消すと、その青年は再び歩き出しました。
門の外には黒づくめの服装の屈強な体躯をした数人の男たちが整列をして青年を迎え入れました。
慣れたようにその青年はそのまま足速にその男たちの間を通り抜け、用意されていた馬車に乗り込みます。黒ずくめの男の一人が御者に指示を出し、馬車はゆっくりと走り出しました。
パタンッと扉を閉めて黒豹はふかふかのボルドー色のソファーに腰掛けると、すでに奥で不機嫌そうに腕組みをして座っていた中年の男性にニコッと笑顔で話しかけます。
「お待たせいたしました…」
「ふん…こともあろうに、ラドガ大国の大臣である私を馬車の中で待たせるとは…貴様も良い度胸だな、劉 黒豹」
「ノヴロフ大臣殿…申し訳ございません」
「ふん…まあよい。道中は長くたっぷり時間はある…ゆっくり仲良く話し合おうじゃないか…」
ノヴロフ大臣はそっと黒豹の髪に触れました。黒豹は一瞬顔をしかめましたが、すぐにスンッと冷たい氷のような冷たい瞳でノヴロフ大臣を睨むように見つめ返します。そしてノヴロフ大臣の手を叩いて払い退けます。
「痛…っ!何をする!」
「それはこちらのセリフです。ノヴロフ大臣…気安く触らないでいただきたいですね。それに今日は陛下にお会いするまでに大事な商談をする予定でしょう?」
「すまんすまん…。ほんのちょっとした冗談だ…。気を悪くせんでくれ」
「以後気をつけください」
「あぁ…」
黒豹の瞳の冷たさの気迫に背筋がゾッと凍りついたノヴロフ大臣は、最初の威勢の良さはどこへやら…すぐに血相を変えて黒豹に謝ります。
黒豹はフンッと鼻で息を吐き、ササっとノヴロフ大臣が触れた箇所を払います。
そしてはぁ…と一息吐くと懐から葉巻を取り出して火をつけました。
「…さてノヴロフ大臣殿、早いところ本題に入りましょう。例の『アルテミスの涙』ですが、競りに勝ったアドルフ陛下はたいそう喜ばれておりました」
「憎たらしいのぅ!本来なら我々こそがアレを手に入れるべきところを…っ!」
「…まぁ落ち着いてください。金で買えないなら、奪えばいいんですよ」
「ほう」
「取引をしましょう」
黒豹は葉巻の煙を吸い込み、ゆっくりとノヴロフ大臣の方に吐き出しました。煙に咽せて咳き込むノヴロフ大臣を見てクスッと黒豹は笑いました。
「…大臣殿、時間はたっぷりありますから…たっぷり話し合いましょう」
「も…もちろんだ」
涙目になりながらも、ノヴロフ大臣は頷き返します。
瞳の奥は笑っていない冷たい瞳を細め、黒豹はもうひと吸い葉巻を吸うと窓からポイっと火のついたままの葉巻を投げ捨てました。
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