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Artémis des larmes ~アルテミスの涙~
第16話
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「おやおや!今日も姫様愛らしいですわ~!!まるで花の妖精のようですわ~!!」
「そぉ?ねぇこのドレス、少し子どもっぽくなぁい?」
「いいえ!この花柄模様の上に透け感のある淡いピンクのオーガンジーが何とも言えない絶妙なデザインなんですよっ!デザイナーのベルタンの渾身のドレスですわよ姫様!」
「まぁ確かに…いつもとはちょっと違った感じで面白いわね」
「えぇ!さぁヘアメイクはどういたしましょうねぇ」
「そうねぇ。まぁあまり華美にならないようにまとめてくれたらいいわ」
「首元に先日ゲルハルト王子からいただいた『アルテミスの涙』をお付けになるならヘアーはあまりごてごて飾り付けない方が良いですわね」
「そうねぇ…」
さて翌日のお昼過ぎのことです。
この後行われるリーヴォニア王国御一行のフェアウェルパーティーの用意で、シャルロット様はお部屋でお着替えをされておりました。
本日はドレスの裾と胸元に暖色系の花飾りで飾り、花柄の模様の上を淡いピンクのオーガンジーで被せてウエスト部分をゴールドの淵にキラキラ光るビジューの白いリボンを巻いた、少し可愛らしいけれどデコルテ部分がざっくりと開いたシンプルなドレスをお召しになっております。
ばあやに促されてドレッサーの前に座り、黄金に輝くウェーブがかった髪を櫛で梳かれております。
「…姫様の御髪、最近よく絡まりますわねぇ」
「朝の担当がセシルから変わってメグって言う新人の子なの」
「あぁそうでしたねぇ」
「ロビンお爺ちゃまのぎっくり腰が早く良くなるといいわね。私もセシルにケアしてもらうのが一番好きなのよ」
「セシルのトリートメントの腕はピカイチですからねぇ。まぁでも昨日、ヴィンセント様に少し毛先を整えていただいたから幾分かはマシですけど…。それでも…っ!えいっ!」
「あんっ!あんまり引っ張ったら痛いわ」
柔らかくて絹のようなシャルロット様の御髪ですが、朝のお風呂担当が変わってケアが雑なのか少し引っかかるようになっているようです。ばあやはシャルロット様とお話しながらその御髪を最初は優しくゆっくりと梳いておりましたが、何度も何度も引っかかるので少し力んで櫛に絡んでいる髪を梳こうとするとシャルロット様の頭ごと引っ張ってしまっていたのでした。
「あぁすみませんシャルロット様!!」
「んもぅ!ばあやったら痛いわ!」
「…っまったく。今日も何やってるんですか」
「ヴィー!」
シャルロット様とばあやがギャーギャー騒いでおりますと、ドアをコンコンコンと叩いてク音が聞こえたかと思うと返事も聞かずにドアを開け、いつもの様に呆れた顔のヴィンセントが腕組みしながらドアに寄って見ておりました。
「廊下まで聞こえてますよ」
「申し訳ございません!」
「で?今日は何ですか」
「はぁ…。姫様の御髪を梳いていたんですが、今日も少し引っかかりがありまして…」
「またですか」
「はぁ…」
「…ったくあの新人メイドは全く学習しないですね。昨日も懇々とトリートメントのスペシャルケアのやり方を伝授したというのに」
「はぁ…」
「あぁ…確かに。ちょっと失礼」
ヴィンセントはばあやに変わってドレッサーの椅子に座って頭上で交わされる二人の会話を鏡越しに目で追っていたシャルロット様のすぐ後ろに立ちました。
そしてばあやから櫛を受け取るとゆっくりと丁寧に絡まった御髪を梳いて行きます。
そして濃密なバラの香りのするヘアオイルを手に取ると手で温めてからシャルロット様の御髪にじんわりとオイルを付けて行きます。
それを何度か繰り返した後、もう一度櫛を手に取りシャルロット様の御髪に沿わせますと、絡まることはなくスーッと櫛が通って行きました。
「これで良し…っと」
「相変わらず上手よね」
「お褒めいただきありがとうございます。で?今日のアレンジのご予定は?」
「そうですわねぇ…シンプルにおまとめしようかと」
「『アルテミスの涙』がまぁインパクトありますからね、それはいい考えです」
そう言ってヴィンセントは温めてあったコテを手に取り、クルクルと器用にシャルロット様の御髪を巻いていきます。
その様子を鏡越しに見ていたシャルロット様は、ヴィンセントの手慣れた器用さに感心しつつもジーッと大きくクリクリとした瞳で追って見ております。
ヴィンセントはシャルロット様の御髪を全体的にクルクルと巻き上げると、編み込みハーフアップを作り上げます。
そしてその後、残りの御髪を取って捻って器用にキラキラとビジューやパールが付いたピンで留めていきます。
おくれ毛をコテで綺麗に巻き直すとヴィンセントは満足げによし、と言って鏡越しに目が合ったシャルロット様に微笑みました。
「はい、終了です」
「ありがと」
「あぁ…姫様、あとはこの『アルテミスの涙』を」
「…!」
ヘアのセットが終わり、スッと立ち上がったシャルロット様をヴィンセントは呼び止めます。
そしてヴィンセントはばあやから『アルテミスの涙』を受け取るとネックレスの留め金を外して抱きしめるようにして前からそっとシャルロット様の白くて細い首に掛けます。シャンデリアの光に照らされ、『アルテミスの涙』は赤く輝きを放っております。
シャルロット様はヴィンセントの腕にすっぽりと入り、爽やかな清潔感のある石鹸の香りと魅惑的な麝香の香り、そして仄かに香る煙草の香りがふわっとシャルロット様を包み込みました。
シャルロット様はなぜか胸の鼓動が少しだけドキッと高鳴るのを感じました。
それに気づいたヴィンセントは、少し屈んでちょっといたずらっ子ぽく笑いシャルロット様のお顔を覗き込みました。
「姫様?なに赤くなっているんですか?」
「赤くなんかなってないわよ…っ!」
「もしかして…なんかされるかと思いました?」
「ち…違うわよっ!ヴィーのその煙草の香りで…ちょっと気分が悪くなっただけよ…っ!」
「へぇ…」
「って!ヴィー煙草止めてって言ってるのに!吸いすぎよ!」
「毎日ストレスフルなんだから煙草くらいいいでしょ」
「んもぅ!ヴィーの身体が心配だから言ってあげているのに!」
「じゃあ私に姫様の世話焼かせないでください」
「なによ、自分から率先して焼きにきてるじゃない」
「だって皆が私を呼ぶから仕方なしにですよ」
「嫌なら来なくていいわよ!」
「じゃあ次からそうします」
お二人がいつもの様に小競り合いしておりますと、ドアをコンコンコンと叩いてウィリアム様がお部屋に入って来られました。
「またお前達は…。相変わらず仲がいいなぁ」
「お兄様!」
「仲良くなんかありませんよ、陛下」
「ケンカするほど何とかって言うだろ?」
「やめてよお兄様!んもぅ、ヴィーなんか大っ嫌いなんだから!」
「はいはい、嫌いで結構です」
ヴィンセントははぁ…とため息をついてシャルロット様から離れます。
シャルロット様はちょっとほっとした表情でパタパタと少し赤らんでいるお顔を覚まそうと手で仰いでおりました。
「まぁまぁそれくらいにしておきなさい。…さて、ではそろそろ会場の方に向かおうか」
ウィリアム様はそんないつものお二人のやり取りを諌めると、ポケットから懐中時計を取り出し時間を確認しすると、シャルロット様の方にスッと手を差し出されました。
その手をさっと取ると、お二人はリーヴォニア国ご一行のフェアウェルパーティーの会場へと向かっていきます。
「ねぇお兄様、今日はフローレンスは来ないの?」
「ん?今日は関係者しか招待していないから彼女はいないよ」
「そう…。先日全然お話しできなかったからお会いしたかったわ」
「そうだなぁ。彼女がパーティーに出てくるなんて3年ぶりだったからなぁ」
「アルブレヒト小父様が亡くなられて以来ですものね」
「あぁ」
「だいぶ元気になられたのね、安心したわ」
「あぁ。昔のように…とても美しいままだったよ」
「あんな素敵なレディになりたいわ」
「あはははは…シャルならきっとなれるよ」
お二人は他愛もないお話をされながら長い廊下を通り抜けていきます。その後ろをヴィンセントは静かに着いていきます。
そうこうしているうちに、本日のパーティー会場である「プリムラの間」に到着いたしました。
ドアの前で待っていた従者が一礼してローザタニアの王家の紋章入りの重厚なドアを開けると、中には大勢の大臣やリーヴォニアの大使達がお二人をお待ちしておりました。
そしてお二人が上座の席に座られると、起立して待っていた皆も着席されました。
ヴィンセントは少し遅れて端の方の席に着席しました。
そして隣に座っている、淡いグリーンのドレス姿の黒髪の美しい女性と何やらお喋りしているのがシャルロット様の瞳に留まりました。
「ヴィーが会食から同席するなんて珍しいのね」
「まぁ…そうだな」
「なんか隣の方とお話ししているけどお知り合い?」
「あぁ。ブリダンヌ侯爵とそのご令嬢のエレナだよ」
「ブリダンヌ侯爵…?エレナ…?」
「…エレナはヴィンセントの婚約者になる人だよ」
「え?」
シャルロット様は寝耳に水と言った表情でウィリアム様のお顔を見返します。目を大きく見開き息を飲んでシャルロット様は驚いたようなお顔のままいると、ウィリアム様は不思議そうにシャルロット様を見返します。
「ん?どうした?」
「…聞いてないわそんなの」
「近いうちに婚約すると前言ってただろう?」
「あ…。そう言えばこの前…そんなこと言ってたような気が…するわ」
「だろ?あぁ、シャル、リーヴォニアのご一行が来られるぞ」
従者の声が響き、リーヴォニア国のご一行がパーティー会場へと入ってこられました。
リーヴォニアの国旗の色のガーネット色の軍服に身を包まれたアドルフ国王陛下とゲルハルト王子が満面の笑みで入ってこられ、アドルフ陛下はウィリアム様の右側に、ゲルハルト王子はシャルロット様の左側に着席されます。
「よし…では始めようか」
ウィリアム様はシャンパンが注がれたグラスを手に取り立ち上がりました。んん…っと一つ咳払いをすると、ザワザワしていた会場が静まります。
「諸君、今宵はこちらにいらっしゃるリーヴォニア国の皆さんのフェアウェルパーティーによくぞお集まりいただいた。短い日程ではあったが、これからの両国の友好に繋がるものであったであろう。さぁ…最後の夜を存分に楽しもうではないか!それでは…乾杯!」
ウィリアム様の音頭に合わせ、皆がグラスを高く掲げます。
シャルロット様も隣にいるゲルハルト王子とグラスを交わしました。
「今宵でシャルロット様とお別れと思うと…とても寂しくなります」
「まぁ…!お上手ね」
「本心ですよ!」
「ありがとう、ゲルハルト王子。…私も、せっかくお友達になれたのにもうお別れだなんてなんだか寂しいわ」
「もしよろしければ…これからも仲良くしていただければとても嬉しいです」
「もちろんよ!」
「ありがとうございます」
お二人はフフフ…と微笑み合いながら楽しげにお喋りをされておりました。その様子を、ウィリアム様とアドルフ陛下は優しく見守っております。
「いやいや…シャルロット様に我が愚息と仲良くしていただいて何よりです」
「こちらこそ、ゲルハルト王子にはウチのシャルロットが大変世話になりました」
「このままこれからも二人仲良く…いや、これ以上親しくなってくれるとさらに嬉しいですな」
「あはははは…。まぁそれは今後二人がどうお互いを思って行くかですので」
「そうですなぁ。あ!でも愚息のことは置いといて…国同士、仲良くしていただけますと何よりです」
「そうですね。交易に関する協定がこの度結ばれましたので、より両国の発展に繋がって行くことを願いましょう」
ウィリアム様とアドルフ陛下はニッコリと微笑み合うと、グラスを重ねて乾杯されました。
なかなか外交慣れされていないと言う噂通りのアドルフ陛下ではありましたが、ローザタニア王国とっては特に問題はなくお互い利益が出るように交渉できたので、ウィリアム様は一仕事終えた満足感でいっぱいでした。
仕事終わりのシャンパンは美味いなぁ…とぼんやり頭の隅で思いながら、クイッと一気にシュワシュワ泡立つシャンパンを飲み干されました。
「そぉ?ねぇこのドレス、少し子どもっぽくなぁい?」
「いいえ!この花柄模様の上に透け感のある淡いピンクのオーガンジーが何とも言えない絶妙なデザインなんですよっ!デザイナーのベルタンの渾身のドレスですわよ姫様!」
「まぁ確かに…いつもとはちょっと違った感じで面白いわね」
「えぇ!さぁヘアメイクはどういたしましょうねぇ」
「そうねぇ。まぁあまり華美にならないようにまとめてくれたらいいわ」
「首元に先日ゲルハルト王子からいただいた『アルテミスの涙』をお付けになるならヘアーはあまりごてごて飾り付けない方が良いですわね」
「そうねぇ…」
さて翌日のお昼過ぎのことです。
この後行われるリーヴォニア王国御一行のフェアウェルパーティーの用意で、シャルロット様はお部屋でお着替えをされておりました。
本日はドレスの裾と胸元に暖色系の花飾りで飾り、花柄の模様の上を淡いピンクのオーガンジーで被せてウエスト部分をゴールドの淵にキラキラ光るビジューの白いリボンを巻いた、少し可愛らしいけれどデコルテ部分がざっくりと開いたシンプルなドレスをお召しになっております。
ばあやに促されてドレッサーの前に座り、黄金に輝くウェーブがかった髪を櫛で梳かれております。
「…姫様の御髪、最近よく絡まりますわねぇ」
「朝の担当がセシルから変わってメグって言う新人の子なの」
「あぁそうでしたねぇ」
「ロビンお爺ちゃまのぎっくり腰が早く良くなるといいわね。私もセシルにケアしてもらうのが一番好きなのよ」
「セシルのトリートメントの腕はピカイチですからねぇ。まぁでも昨日、ヴィンセント様に少し毛先を整えていただいたから幾分かはマシですけど…。それでも…っ!えいっ!」
「あんっ!あんまり引っ張ったら痛いわ」
柔らかくて絹のようなシャルロット様の御髪ですが、朝のお風呂担当が変わってケアが雑なのか少し引っかかるようになっているようです。ばあやはシャルロット様とお話しながらその御髪を最初は優しくゆっくりと梳いておりましたが、何度も何度も引っかかるので少し力んで櫛に絡んでいる髪を梳こうとするとシャルロット様の頭ごと引っ張ってしまっていたのでした。
「あぁすみませんシャルロット様!!」
「んもぅ!ばあやったら痛いわ!」
「…っまったく。今日も何やってるんですか」
「ヴィー!」
シャルロット様とばあやがギャーギャー騒いでおりますと、ドアをコンコンコンと叩いてク音が聞こえたかと思うと返事も聞かずにドアを開け、いつもの様に呆れた顔のヴィンセントが腕組みしながらドアに寄って見ておりました。
「廊下まで聞こえてますよ」
「申し訳ございません!」
「で?今日は何ですか」
「はぁ…。姫様の御髪を梳いていたんですが、今日も少し引っかかりがありまして…」
「またですか」
「はぁ…」
「…ったくあの新人メイドは全く学習しないですね。昨日も懇々とトリートメントのスペシャルケアのやり方を伝授したというのに」
「はぁ…」
「あぁ…確かに。ちょっと失礼」
ヴィンセントはばあやに変わってドレッサーの椅子に座って頭上で交わされる二人の会話を鏡越しに目で追っていたシャルロット様のすぐ後ろに立ちました。
そしてばあやから櫛を受け取るとゆっくりと丁寧に絡まった御髪を梳いて行きます。
そして濃密なバラの香りのするヘアオイルを手に取ると手で温めてからシャルロット様の御髪にじんわりとオイルを付けて行きます。
それを何度か繰り返した後、もう一度櫛を手に取りシャルロット様の御髪に沿わせますと、絡まることはなくスーッと櫛が通って行きました。
「これで良し…っと」
「相変わらず上手よね」
「お褒めいただきありがとうございます。で?今日のアレンジのご予定は?」
「そうですわねぇ…シンプルにおまとめしようかと」
「『アルテミスの涙』がまぁインパクトありますからね、それはいい考えです」
そう言ってヴィンセントは温めてあったコテを手に取り、クルクルと器用にシャルロット様の御髪を巻いていきます。
その様子を鏡越しに見ていたシャルロット様は、ヴィンセントの手慣れた器用さに感心しつつもジーッと大きくクリクリとした瞳で追って見ております。
ヴィンセントはシャルロット様の御髪を全体的にクルクルと巻き上げると、編み込みハーフアップを作り上げます。
そしてその後、残りの御髪を取って捻って器用にキラキラとビジューやパールが付いたピンで留めていきます。
おくれ毛をコテで綺麗に巻き直すとヴィンセントは満足げによし、と言って鏡越しに目が合ったシャルロット様に微笑みました。
「はい、終了です」
「ありがと」
「あぁ…姫様、あとはこの『アルテミスの涙』を」
「…!」
ヘアのセットが終わり、スッと立ち上がったシャルロット様をヴィンセントは呼び止めます。
そしてヴィンセントはばあやから『アルテミスの涙』を受け取るとネックレスの留め金を外して抱きしめるようにして前からそっとシャルロット様の白くて細い首に掛けます。シャンデリアの光に照らされ、『アルテミスの涙』は赤く輝きを放っております。
シャルロット様はヴィンセントの腕にすっぽりと入り、爽やかな清潔感のある石鹸の香りと魅惑的な麝香の香り、そして仄かに香る煙草の香りがふわっとシャルロット様を包み込みました。
シャルロット様はなぜか胸の鼓動が少しだけドキッと高鳴るのを感じました。
それに気づいたヴィンセントは、少し屈んでちょっといたずらっ子ぽく笑いシャルロット様のお顔を覗き込みました。
「姫様?なに赤くなっているんですか?」
「赤くなんかなってないわよ…っ!」
「もしかして…なんかされるかと思いました?」
「ち…違うわよっ!ヴィーのその煙草の香りで…ちょっと気分が悪くなっただけよ…っ!」
「へぇ…」
「って!ヴィー煙草止めてって言ってるのに!吸いすぎよ!」
「毎日ストレスフルなんだから煙草くらいいいでしょ」
「んもぅ!ヴィーの身体が心配だから言ってあげているのに!」
「じゃあ私に姫様の世話焼かせないでください」
「なによ、自分から率先して焼きにきてるじゃない」
「だって皆が私を呼ぶから仕方なしにですよ」
「嫌なら来なくていいわよ!」
「じゃあ次からそうします」
お二人がいつもの様に小競り合いしておりますと、ドアをコンコンコンと叩いてウィリアム様がお部屋に入って来られました。
「またお前達は…。相変わらず仲がいいなぁ」
「お兄様!」
「仲良くなんかありませんよ、陛下」
「ケンカするほど何とかって言うだろ?」
「やめてよお兄様!んもぅ、ヴィーなんか大っ嫌いなんだから!」
「はいはい、嫌いで結構です」
ヴィンセントははぁ…とため息をついてシャルロット様から離れます。
シャルロット様はちょっとほっとした表情でパタパタと少し赤らんでいるお顔を覚まそうと手で仰いでおりました。
「まぁまぁそれくらいにしておきなさい。…さて、ではそろそろ会場の方に向かおうか」
ウィリアム様はそんないつものお二人のやり取りを諌めると、ポケットから懐中時計を取り出し時間を確認しすると、シャルロット様の方にスッと手を差し出されました。
その手をさっと取ると、お二人はリーヴォニア国ご一行のフェアウェルパーティーの会場へと向かっていきます。
「ねぇお兄様、今日はフローレンスは来ないの?」
「ん?今日は関係者しか招待していないから彼女はいないよ」
「そう…。先日全然お話しできなかったからお会いしたかったわ」
「そうだなぁ。彼女がパーティーに出てくるなんて3年ぶりだったからなぁ」
「アルブレヒト小父様が亡くなられて以来ですものね」
「あぁ」
「だいぶ元気になられたのね、安心したわ」
「あぁ。昔のように…とても美しいままだったよ」
「あんな素敵なレディになりたいわ」
「あはははは…シャルならきっとなれるよ」
お二人は他愛もないお話をされながら長い廊下を通り抜けていきます。その後ろをヴィンセントは静かに着いていきます。
そうこうしているうちに、本日のパーティー会場である「プリムラの間」に到着いたしました。
ドアの前で待っていた従者が一礼してローザタニアの王家の紋章入りの重厚なドアを開けると、中には大勢の大臣やリーヴォニアの大使達がお二人をお待ちしておりました。
そしてお二人が上座の席に座られると、起立して待っていた皆も着席されました。
ヴィンセントは少し遅れて端の方の席に着席しました。
そして隣に座っている、淡いグリーンのドレス姿の黒髪の美しい女性と何やらお喋りしているのがシャルロット様の瞳に留まりました。
「ヴィーが会食から同席するなんて珍しいのね」
「まぁ…そうだな」
「なんか隣の方とお話ししているけどお知り合い?」
「あぁ。ブリダンヌ侯爵とそのご令嬢のエレナだよ」
「ブリダンヌ侯爵…?エレナ…?」
「…エレナはヴィンセントの婚約者になる人だよ」
「え?」
シャルロット様は寝耳に水と言った表情でウィリアム様のお顔を見返します。目を大きく見開き息を飲んでシャルロット様は驚いたようなお顔のままいると、ウィリアム様は不思議そうにシャルロット様を見返します。
「ん?どうした?」
「…聞いてないわそんなの」
「近いうちに婚約すると前言ってただろう?」
「あ…。そう言えばこの前…そんなこと言ってたような気が…するわ」
「だろ?あぁ、シャル、リーヴォニアのご一行が来られるぞ」
従者の声が響き、リーヴォニア国のご一行がパーティー会場へと入ってこられました。
リーヴォニアの国旗の色のガーネット色の軍服に身を包まれたアドルフ国王陛下とゲルハルト王子が満面の笑みで入ってこられ、アドルフ陛下はウィリアム様の右側に、ゲルハルト王子はシャルロット様の左側に着席されます。
「よし…では始めようか」
ウィリアム様はシャンパンが注がれたグラスを手に取り立ち上がりました。んん…っと一つ咳払いをすると、ザワザワしていた会場が静まります。
「諸君、今宵はこちらにいらっしゃるリーヴォニア国の皆さんのフェアウェルパーティーによくぞお集まりいただいた。短い日程ではあったが、これからの両国の友好に繋がるものであったであろう。さぁ…最後の夜を存分に楽しもうではないか!それでは…乾杯!」
ウィリアム様の音頭に合わせ、皆がグラスを高く掲げます。
シャルロット様も隣にいるゲルハルト王子とグラスを交わしました。
「今宵でシャルロット様とお別れと思うと…とても寂しくなります」
「まぁ…!お上手ね」
「本心ですよ!」
「ありがとう、ゲルハルト王子。…私も、せっかくお友達になれたのにもうお別れだなんてなんだか寂しいわ」
「もしよろしければ…これからも仲良くしていただければとても嬉しいです」
「もちろんよ!」
「ありがとうございます」
お二人はフフフ…と微笑み合いながら楽しげにお喋りをされておりました。その様子を、ウィリアム様とアドルフ陛下は優しく見守っております。
「いやいや…シャルロット様に我が愚息と仲良くしていただいて何よりです」
「こちらこそ、ゲルハルト王子にはウチのシャルロットが大変世話になりました」
「このままこれからも二人仲良く…いや、これ以上親しくなってくれるとさらに嬉しいですな」
「あはははは…。まぁそれは今後二人がどうお互いを思って行くかですので」
「そうですなぁ。あ!でも愚息のことは置いといて…国同士、仲良くしていただけますと何よりです」
「そうですね。交易に関する協定がこの度結ばれましたので、より両国の発展に繋がって行くことを願いましょう」
ウィリアム様とアドルフ陛下はニッコリと微笑み合うと、グラスを重ねて乾杯されました。
なかなか外交慣れされていないと言う噂通りのアドルフ陛下ではありましたが、ローザタニア王国とっては特に問題はなくお互い利益が出るように交渉できたので、ウィリアム様は一仕事終えた満足感でいっぱいでした。
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女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。
孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった!
しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。
ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!?
ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!?
世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる!
「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。
これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!
溺愛兄様との死亡ルート回避録
初昔 茶ノ介
ファンタジー
魔術と独自の技術を組み合わせることで各国が発展する中、純粋な魔法技術で国を繁栄させてきた魔術大国『アリスティア王国』。魔術の実力で貴族位が与えられるこの国で五つの公爵家のうちの一つ、ヴァルモンド公爵家の長女ウィスティリアは世界でも稀有な治癒魔法適正を持っていた。
そのため、国からは特別扱いを受け、学園のクラスメイトも、唯一の兄妹である兄も、ウィステリアに近づくことはなかった。
そして、二十歳の冬。アリスティア王国をエウラノス帝国が襲撃。
大量の怪我人が出たが、ウィステリアの治癒の魔法のおかげで被害は抑えられていた。
戦争が始まり、連日治療院で人々を救うウィステリアの元に連れてこられたのは、話すことも少なくなった兄ユーリであった。
血に染まるユーリを治療している時、久しぶりに会話を交わす兄妹の元に帝国の魔術が被弾し、二人は命の危機に陥った。
「ウィス……俺の最愛の……妹。どうか……来世は幸せに……」
命を落とす直前、ユーリの本心を知ったウィステリアはたくさんの人と、そして小さな頃に仲が良かったはずの兄と交流をして、楽しい日々を送りたかったと後悔した。
体が冷たくなり、目をゆっくり閉じたウィステリアが次に目を開けた時、見覚えのある部屋の中で体が幼くなっていた。
ウィステリアは幼い過去に時間が戻ってしまったと気がつき、できなかったことを思いっきりやり、あの最悪の未来を回避するために奮闘するのだった。
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