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Artémis des larmes ~アルテミスの涙~
第15話
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「んもぅ!お兄様もヴィーもホンット!!失礼なんだから!」
「まぁまぁシャルロット様、落ち着いてください~!!」
さてさてお部屋にお戻りになられたシャルロット様ですが、まだお怒りが収まらないのかプリプリとしたままでした。セシルとばあやはそんなシャルロット様をなだめようとされますが、依然としてプリプリとしたまま、ソファーにクッションを抱いたまま膝を抱えて座り込んでおります。
「もぅ!お兄様ったらヴィーと一緒にいるととたんに子供っぽくなって私のことからかってくるんだから!ヴィーの悪い影響よ!!」
「まぁ…悪ガキっぽくはなられますわねぇ」
「そうなの!まるで十歳くらいの子どもがみたいだわっ!!もぅホント嫌になっちゃう!!」
「まぁまぁ姫様…。あのお二方はいつも国のために身を粉にして働いてくださっておりますから…」
「それにしても人をおちょくり過ぎよ!特にヴィー!んもぅホンット厭味ったらしいんだから!」
「でもなんやかんや仰ってシャルロット様のお世話をしてくださっているじゃないですか!」
「…思いっきり溜息つかれるけどね。なんだか昨日今日、ちょっと気が立っているようでいつもよりつんけんしている気がするわ」
「そうですか?いつも通り…のような気がしますが」
「ううん。なんだかいつもにも増して厭味で刺々して可愛くないわ!」
ヴィンセント様が可愛い…?とセシルもばあやもシャルロット様の発言に何と答えて良いのか戸惑っております。
はぁ…とシャルロット様自身が溜息をつかれてお膝を抱えると、コンコンコンコン…とお部屋をノックする音が聞こえてきました。ばあやがハイハイ…と言ってドアを開けると、まぁ!と感嘆が聞こえてきます。
「なぁに?ばあやどうしたの?」
「姫様!お菓子ですよ!」
「?」
小首を傾げてシャルロット様はドアの方のばあやを見つめます。ばあやの後ろからセバスチャンがバスケットを持ってお部屋へと入ってきました。
「失礼いたしますシャルロット様。こちらのバスケットに先程のティータイムのケーキをつめております」
「!よかった!さっき全然ケーキ食べられなかったの!ありがとうセバスチャン!!」
「ヴィンセント様がシャルロット様にお持ちください、と」
「ヴィーが?」
「先程あまり食べられていなかったようですので」
「…よく見てるのねぇ」
「えぇ、だってヴィンセント様ですから」
「…ホント嫌な人…」
シャルロット様はセバスチャンからバスケットを受け取ると、そっと蓋を開けて机に置きました。
先ほどのティータイムの際にワゴンに置かれていた一口サイズのケーキが綺麗に並べられております。
シャルロット様はクリームと共にたくさんのフルーツが詰め込まれたロールケーキを手に取られてパクッと一口頬張りました。
「美味し…」
そう一言ぽそっとつぶやかれたのを聞いたばあやとセシルはフフフ…と優しく微笑まれてシャルロット様の方をみておりました。そしてさらにその様子をセバスチャンは温かく見守っているのでした。
・・・・・・・・
さて、銀色の月がお空に輝くころです。使用人たちもほとんど引き揚げ、お昼はたくさんの人が行き交うお城の中は人の気配がほとんどなくとても静かな時間が流れております。
お城の奥にあります執務長官室ではまだ煌々と灯りがついており、木製の立派なデスクではヴィンセントが書類の山とにらめっこをしながら眉間にしわを寄せておりました。
しかしある程度目途が付いたのか、ふぅ…っと大きく息を吐くと革張りの大きな椅子にもたれ掛りしばし目を瞑っておりました。
ポケットから懐中時計を取出してチラッと時間を確認すると、もう時計の針は深夜1時を過ぎておりました。
「さすがに帰るか…」
んーっと大きく伸びをしてヴィンセントは椅子から立ち上がると軽く首をひねって固まった筋肉を解します。そして応接セットのソファーに無造作に置いてあったマントを手に取りバサッと翻しながら羽織ると執務室に施錠をして足早にその場をあとにしました。
人気の全くと言っていいほどない廊下にはヴィンセントの足音が響き渡ります。
灯りがほとんどが落とされた暗い廊下を抜けて、お城の中庭に出ますとフッとそこから見える王族のプライベートエリアの塔を見上げました。
「まぁもう寝てるか…」
さすがにこの時間なのでウィリアム様とシャルロット様のお部屋の灯りは消されているのを確認すると、サッと踵を返してヴィンセントは中庭を突っ切っていきます。
そして月の光が優しく降り注ぐ森の中の小道を抜けてしばらく歩いていると、白い小さな洋館が見えてきました。
常時開けっ放しの門を入り、屋敷の中に入ろうとした時です。
「…ん?」
ヴィンセントは屋敷の中に少し違和感を感じました。まさかと思い庭の方に回ると、朝に家を出る時に閉め忘れたのでしょう、案の定テラスに面した窓が少し開いておりました。今日は家の世話をするメイドが来る日ではなかったので、ヴィンセントが明けた窓は開けっぱなしのままでした。
はぁ…と溜息をつくとまた玄関に戻り鍵を差し入れて、スチュアート家の紋章入りの大きなドアを開けます。
そして明かりのついていない真っ暗な屋敷に入り、廊下を渡り先程開いていた窓のある部屋へとたどり着くと、一応部屋の中をぐるっと見渡して朝と変わりはないか確認して窓をしっかり閉めた後、着ていたマントをバサッと脱ぎ捨ててお風呂に向かいました。
ササッと手早くシャワーを浴びて出てくると、積み重ねている洗濯済みのガウンをサッと羽織り、洗いざらしのタオルでガサガサ濡れた髪を乾かしながら二階の自室へと向かいます。
ガチャっとドアを開けると、ほとんど何も無い簡素な部屋を月明かりの光だけが窓から暗い部屋をほのかに照らしています。明かりもつけずにすぐにふぅ…とため息をつきながらドカッとベッドに腰をかけると、モゾモゾっとベッドの中シーツが動きだしました。
不穏に感じたヴィンセントががばっとシーツを捲りあげるとそこにはシャルロット様のペットの黒猫・ノアが丸まって眠っておりました。
「なんでこんな所にいるんですか…」
ヴィンセントは少しホッとしたのか、ふぅ…ともう一度息を吐くとノアの頭に手を添えて優しく撫でました。ノアが片目を開けてヴィンセントの方をチラッと見ましたが、すぐにまた目を閉じて喉をグルグル鳴らしだします。
「窓から侵入してきたんですね…。ったくご主人そっくりですね貴方は…」
額から顎のあたりまでまんべんなくノアを撫でまわすと、グルグル喉を鳴らしてゴロンっと仰向けにひっくり返ります。そしてそのままヴィンセントの手をガシッと掴んで甘えるように甘噛みをしてきました。
「いててて…。急にドメステックに甘えたモードになるところもそっくりですよ。って…ん?」
ヴィンセントはノアの首輪に何か紙のようなものが括り付けてあるのを見つけると、ゆっくりとそれを外しました。ノアの首が苦しくならないよう慎重にその紙を外して細く折られた紙を開けると、フワッと甘いバラの香りが仄かに広がり、ヴィンセントの顔に笑みが浮かびました。
「…こう言うところは可愛いんですけどねぇ」
見慣れた愛らしい文字が並ぶ紙を丁寧に折り、ヴィンセントは枕元のチェストの引き出しに直しました。そしてヴィンセントは自分の目線と同じになるようにノアの身体をよいしょッと持ち上げ、くりくりとまん丸に輝くサファイアのような瞳を見つめます。呑気にもクワ…っとノアが欠伸をしているのを見てヴィンセントはプッと吹き出すと、ノアをベッドに降ろしてあげました。
「さて…今晩は姫様と一緒じゃなくていいんですか?男同士、むさ苦しく寝ることになりますよ?」
ヴィンセントの問いかけにノアは「なーん」と鳴くと、再び撫でまわしてくる指にすりすりと頭を寄せてきます。コイツ、人の話していること分かってるな…とヴィンセントは呟くとガウンを脱ぎ捨ててベッドの中にもそもそと入りました。
「言っときますが朝は早いですからね」
ノアの頭をガシガシ撫でまわし、ヴィンセントはシーツを捲り上げて被るとゆっくりと瞳を閉じます。しばらくするとスゥスゥと静かなヴィンセントの寝息が聞こえてきました。
ノアはチラッと瞳を開け、ヴィンセントの顔を見ます。そして顔のすぐ近くまで寄ってくるとグリグリ頭を擦りつけてその場所で丸まって寝始めました。
二人の静かな寝息を、窓の外で煌めく星々だけが優しく包み込むように照らしているのでした。
「まぁまぁシャルロット様、落ち着いてください~!!」
さてさてお部屋にお戻りになられたシャルロット様ですが、まだお怒りが収まらないのかプリプリとしたままでした。セシルとばあやはそんなシャルロット様をなだめようとされますが、依然としてプリプリとしたまま、ソファーにクッションを抱いたまま膝を抱えて座り込んでおります。
「もぅ!お兄様ったらヴィーと一緒にいるととたんに子供っぽくなって私のことからかってくるんだから!ヴィーの悪い影響よ!!」
「まぁ…悪ガキっぽくはなられますわねぇ」
「そうなの!まるで十歳くらいの子どもがみたいだわっ!!もぅホント嫌になっちゃう!!」
「まぁまぁ姫様…。あのお二方はいつも国のために身を粉にして働いてくださっておりますから…」
「それにしても人をおちょくり過ぎよ!特にヴィー!んもぅホンット厭味ったらしいんだから!」
「でもなんやかんや仰ってシャルロット様のお世話をしてくださっているじゃないですか!」
「…思いっきり溜息つかれるけどね。なんだか昨日今日、ちょっと気が立っているようでいつもよりつんけんしている気がするわ」
「そうですか?いつも通り…のような気がしますが」
「ううん。なんだかいつもにも増して厭味で刺々して可愛くないわ!」
ヴィンセント様が可愛い…?とセシルもばあやもシャルロット様の発言に何と答えて良いのか戸惑っております。
はぁ…とシャルロット様自身が溜息をつかれてお膝を抱えると、コンコンコンコン…とお部屋をノックする音が聞こえてきました。ばあやがハイハイ…と言ってドアを開けると、まぁ!と感嘆が聞こえてきます。
「なぁに?ばあやどうしたの?」
「姫様!お菓子ですよ!」
「?」
小首を傾げてシャルロット様はドアの方のばあやを見つめます。ばあやの後ろからセバスチャンがバスケットを持ってお部屋へと入ってきました。
「失礼いたしますシャルロット様。こちらのバスケットに先程のティータイムのケーキをつめております」
「!よかった!さっき全然ケーキ食べられなかったの!ありがとうセバスチャン!!」
「ヴィンセント様がシャルロット様にお持ちください、と」
「ヴィーが?」
「先程あまり食べられていなかったようですので」
「…よく見てるのねぇ」
「えぇ、だってヴィンセント様ですから」
「…ホント嫌な人…」
シャルロット様はセバスチャンからバスケットを受け取ると、そっと蓋を開けて机に置きました。
先ほどのティータイムの際にワゴンに置かれていた一口サイズのケーキが綺麗に並べられております。
シャルロット様はクリームと共にたくさんのフルーツが詰め込まれたロールケーキを手に取られてパクッと一口頬張りました。
「美味し…」
そう一言ぽそっとつぶやかれたのを聞いたばあやとセシルはフフフ…と優しく微笑まれてシャルロット様の方をみておりました。そしてさらにその様子をセバスチャンは温かく見守っているのでした。
・・・・・・・・
さて、銀色の月がお空に輝くころです。使用人たちもほとんど引き揚げ、お昼はたくさんの人が行き交うお城の中は人の気配がほとんどなくとても静かな時間が流れております。
お城の奥にあります執務長官室ではまだ煌々と灯りがついており、木製の立派なデスクではヴィンセントが書類の山とにらめっこをしながら眉間にしわを寄せておりました。
しかしある程度目途が付いたのか、ふぅ…っと大きく息を吐くと革張りの大きな椅子にもたれ掛りしばし目を瞑っておりました。
ポケットから懐中時計を取出してチラッと時間を確認すると、もう時計の針は深夜1時を過ぎておりました。
「さすがに帰るか…」
んーっと大きく伸びをしてヴィンセントは椅子から立ち上がると軽く首をひねって固まった筋肉を解します。そして応接セットのソファーに無造作に置いてあったマントを手に取りバサッと翻しながら羽織ると執務室に施錠をして足早にその場をあとにしました。
人気の全くと言っていいほどない廊下にはヴィンセントの足音が響き渡ります。
灯りがほとんどが落とされた暗い廊下を抜けて、お城の中庭に出ますとフッとそこから見える王族のプライベートエリアの塔を見上げました。
「まぁもう寝てるか…」
さすがにこの時間なのでウィリアム様とシャルロット様のお部屋の灯りは消されているのを確認すると、サッと踵を返してヴィンセントは中庭を突っ切っていきます。
そして月の光が優しく降り注ぐ森の中の小道を抜けてしばらく歩いていると、白い小さな洋館が見えてきました。
常時開けっ放しの門を入り、屋敷の中に入ろうとした時です。
「…ん?」
ヴィンセントは屋敷の中に少し違和感を感じました。まさかと思い庭の方に回ると、朝に家を出る時に閉め忘れたのでしょう、案の定テラスに面した窓が少し開いておりました。今日は家の世話をするメイドが来る日ではなかったので、ヴィンセントが明けた窓は開けっぱなしのままでした。
はぁ…と溜息をつくとまた玄関に戻り鍵を差し入れて、スチュアート家の紋章入りの大きなドアを開けます。
そして明かりのついていない真っ暗な屋敷に入り、廊下を渡り先程開いていた窓のある部屋へとたどり着くと、一応部屋の中をぐるっと見渡して朝と変わりはないか確認して窓をしっかり閉めた後、着ていたマントをバサッと脱ぎ捨ててお風呂に向かいました。
ササッと手早くシャワーを浴びて出てくると、積み重ねている洗濯済みのガウンをサッと羽織り、洗いざらしのタオルでガサガサ濡れた髪を乾かしながら二階の自室へと向かいます。
ガチャっとドアを開けると、ほとんど何も無い簡素な部屋を月明かりの光だけが窓から暗い部屋をほのかに照らしています。明かりもつけずにすぐにふぅ…とため息をつきながらドカッとベッドに腰をかけると、モゾモゾっとベッドの中シーツが動きだしました。
不穏に感じたヴィンセントががばっとシーツを捲りあげるとそこにはシャルロット様のペットの黒猫・ノアが丸まって眠っておりました。
「なんでこんな所にいるんですか…」
ヴィンセントは少しホッとしたのか、ふぅ…ともう一度息を吐くとノアの頭に手を添えて優しく撫でました。ノアが片目を開けてヴィンセントの方をチラッと見ましたが、すぐにまた目を閉じて喉をグルグル鳴らしだします。
「窓から侵入してきたんですね…。ったくご主人そっくりですね貴方は…」
額から顎のあたりまでまんべんなくノアを撫でまわすと、グルグル喉を鳴らしてゴロンっと仰向けにひっくり返ります。そしてそのままヴィンセントの手をガシッと掴んで甘えるように甘噛みをしてきました。
「いててて…。急にドメステックに甘えたモードになるところもそっくりですよ。って…ん?」
ヴィンセントはノアの首輪に何か紙のようなものが括り付けてあるのを見つけると、ゆっくりとそれを外しました。ノアの首が苦しくならないよう慎重にその紙を外して細く折られた紙を開けると、フワッと甘いバラの香りが仄かに広がり、ヴィンセントの顔に笑みが浮かびました。
「…こう言うところは可愛いんですけどねぇ」
見慣れた愛らしい文字が並ぶ紙を丁寧に折り、ヴィンセントは枕元のチェストの引き出しに直しました。そしてヴィンセントは自分の目線と同じになるようにノアの身体をよいしょッと持ち上げ、くりくりとまん丸に輝くサファイアのような瞳を見つめます。呑気にもクワ…っとノアが欠伸をしているのを見てヴィンセントはプッと吹き出すと、ノアをベッドに降ろしてあげました。
「さて…今晩は姫様と一緒じゃなくていいんですか?男同士、むさ苦しく寝ることになりますよ?」
ヴィンセントの問いかけにノアは「なーん」と鳴くと、再び撫でまわしてくる指にすりすりと頭を寄せてきます。コイツ、人の話していること分かってるな…とヴィンセントは呟くとガウンを脱ぎ捨ててベッドの中にもそもそと入りました。
「言っときますが朝は早いですからね」
ノアの頭をガシガシ撫でまわし、ヴィンセントはシーツを捲り上げて被るとゆっくりと瞳を閉じます。しばらくするとスゥスゥと静かなヴィンセントの寝息が聞こえてきました。
ノアはチラッと瞳を開け、ヴィンセントの顔を見ます。そして顔のすぐ近くまで寄ってくるとグリグリ頭を擦りつけてその場所で丸まって寝始めました。
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