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Artémis des larmes ~アルテミスの涙~
第22話
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「そこまでです」
サファイアのような瞳だけを動かし、首筋に当たる冷たいもの―――…剣先をチラッと確認すると、コウは目を細めて小さく笑い出しました。
「…思いのほか遅かったですね」
「ヴィー…っ!」
「姫様、遅くなり申し訳ございません。てか貴方どれだけ火薬仕込ませさせたんですが。このテラスに辿りつくまでに、不発に終わったのありますけどそこら中で爆発してます。お城の窓が割れ放題です。私の家の近くでも爆発ありましたからきっと窓ガラス割れているでしょうねぇ。…後でキッチリ請求書を熨斗付けて差し上げますよ」
はぁ…とため息交じりにコウのすぐ後ろからヴィンセントはグチグチ恨み言を申し立て、『蒼龍国』の民族衣装をアレンジした立て襟のジャケットと首の間…頸動脈の辺りに、研ぎ澄まされた剣先をスーッと撫でました。
「それは失礼…。小切手でよろしいですか?」
「ニコニコ現金払いでお願いします」
「ルリカ?それともラドガ―ブル?」
「そんなもんルリカに決まっているでしょ」
「ラドガ―ブルなら今少し暴落しているのでお手頃なんですけどねぇ」
「はっ!馬鹿にしてます?と言うか…そろそろその薄汚い手を離してウチの姫様返してもらえますか?」
「…嫌だと言ったら?」
「もうこのパターン本当に何回目?と言う感じで飽き飽きしているんですけどね」
またしてもはぁ…とヴィンセントは大きく溜息をつき眉間のしわを深く深く刻みます。コウはフフフ…と不敵な笑みを浮かべて横目でそんなヴィンセントを見ておりました。
「美しいお姫様にはありきたりなパターンですよね。存じ上げております。そしてそんなお姫様には忠実な僕である騎士が付き物…それが貴方ってことですね」
「そうですねぇ。でも私武闘派ではないんですよね。おや、おかしいですねぇ…武官ではなく文官なんですけどね」
ヴィンセントが手に力を込めてコウの首に当てている剣をぐっと引き、コウの頸動脈を切ろうとします。ですがコウは一瞬でパッとその剣を避けてヴィンセントから間合いを取り離れます。薄らと赤い一本の線がコウの首に浮かび上がります。
「そんなにも美しく鍛えられた肉体をお持ちなのに?」
「おや、分かります?」
「えぇ。とても均等の取れた服の上からでも分かる美しい筋肉質なお身体をお持ちの様で」
「そう言う貴方もね」
「私たち似たもの同志ですかね」
「マフィアと似たもの同志とか…悪い冗談はやめてください」
ヴィンセントはハッとコウを鼻で嘲笑します。コウはニッコリと微笑んだままヴィンセントを見つめておりましたが、顔は笑っていながらもその瞳はどこか冷めた感じでありました。
「ちゃんと調べておりますねぇ」
「当たり前でしょ」
「さすがはヴィンセント殿」
「褒められても嬉しくありませんね」
「と言うか…姫様どうするつもりですか?いい加減離してくださいよ」
「嫌だって申し上げているじゃないですか」
「スキモノですねぇ」
「えぇ。私、シャルロット様をとても気に入りまして…どうしても欲しいんですよ」
コウはシャルロット様をギュッと抱きしめておでこにそっとキスをしました。そしてこれ見よがしにニヤッと笑いヴィンセントを挑発していきます。ヴィンセントは静かにコウを睨み続け、剣を握り直します。
「…貴方のようなマフィアと言う下賤な者が高貴な姫様に軽々しく触れるなんて、反吐が出ますね」
「綺麗な顔に似合わず、なかなか汚い言葉を発しますね」
「口の悪さには定評があります」
「あはははは…。貴方とは美味しいお酒が飲めそうだ」
「あいにくですが反社会勢力の方と仲良くする趣味はありません。ガストン大臣の様にね」
「あの方はただのお客さんですよ」
「そうですか?大分仲良さげでしたけど?」
「あの人ねぇ…困ったものでちょっと優しくしてあげるとすぐ図に乗るんですよ」
「そうですか。まぁ貴方方の関係なんてホント興味ないんでどうでもいいです。とりあえず早く姫様返してください」
「だから嫌だって申し上げているでしょう?」
「じゃあ力ずくで返してもらうしかないですね」
ヴィンセントはやれやれと呆れた言った様子で大きく息を吐くと、瞳を閉じました。そしてカッと見開き猛スピードで走りだしコウのすぐ近くまでやって来ると、シャルロット様を抱いているコウの腕に目掛けて剣を振り下ろします。
コウは避けようと身体を反らしますが思いのほかヴィンセントのスピードが速く、剣先がコウの手を掠りました。
「…っ!」
コウが怯んだ隙にヴィンセントはその手からシャルロット様を奪い返します。しっかりと抱きとめそのままその衝撃で後ろへと飛ぶように下がっていきました。
「大丈夫ですか?姫様」
「ヴィー…」
「危ないから室内へと入っててください」
腕の紐を切り両手を解放すると、ヴィンセントはシャルロット様を後ろにグッと押しやりました。そしてよろよろとよろめきながらも走っていく姿を確認すると、剣を構え直してコウの方を向き直ります。
「…予想より速いスピードで油断しました」
「戦いの最中は油断大敵ですよ」
「…私も武闘派ではないので」
「そうですか。でもまぁどうでもいいですそんなこと。とりあえず貴方を拘束させてもらいますよ」
「…出来ますか?」
切られた手からツーッと赤い血が流れる手をパッと振り払い、まるでヴィンセントを挑発するようにコウはニヤッと不敵な笑みを浮かべております。それが癪に障るのかヴィンセントはイラっとした表情で剣を構え直しコウへと向かっていきます。
すると今度はコウがカッと目を見開いてそのまま飛ぶように走り、逆にヴィンセントに顔を近づけていきました。意外な動きに驚いたヴィンセントは一瞬動きが止まりそうになりましたが、それでも剣を振り下ろそうとした時、コウのサファイアのような瞳が更に大きく見開きヴィンセントのアメジストのような瞳を真っ直ぐ見つめます。
コウの瞳と目が合ったヴィンセントは、まるで魔法に掛けられたかのようにその瞳から目を背けることができなくなってしまいました。
「…もっとちゃんと私の瞳を見て」
「ク…っ!貴方…いったい何を…」
「フフフ…。それを教えてあげるほど私、親切じゃないです」
コウの瞳が更に輝きだすと、ヴィンセントはガクンッと地面に膝をつきました。そして段々と身体が泥に沈んで行くように重くなって意識がぼんやり遠のいて行くのを感じだしました。必死にそれに抗おうとヴィンセントはコウの瞳から自分の瞳を外そうとしますが、離そうと思えば思うほど余計にその瞳から離れられずになっております。耳の奥からもキンキンとする音が聞こえはじめました。
「…っ!」
「なかなか抵抗しますね。ここまで抗う人あんまりいないんです。やっぱり貴方って凄い。そんな貴方を倒してシャルロット様を手に入れる快感…。最高ですね」
「姫様に…触れさせるものですか…っ」
「この期に及んでシャルロット様を気に掛けるとは立派な下僕ですね」
「当たり前でしょ…命を懸けて…守らなきゃいけない存在ですから…」
「…『姫様』だから?」
「…もちろん」
「へぇ…」
コウは冷たい微笑みを浮かべ、段々と崩れ落ちて行くヴィンセントを上から見下しております。ヴィンセントは剣を地面に突き刺し、何とか立ち上がろうとしますが、そんなヴィンセントをコウを思いっきり蹴飛ばしました。
「…っ!」
「ふふふ…。いいですね、その怒りに満ちた瞳。艶やかで何とも妖艶だ。やっぱり私、貴方のこと気に入りました」
「それは…どうも。でもあいにく…私は貴方のことが嫌いです…っ!」
「…そのうち好きにさせてあげましょう。でも今はちょっと邪魔しないでもらいたいので…すみませんねぇ」
コウは新しい玩具をもらった子供のように嬉々とした表情を浮かべて倒れているヴィンセントの傍までやって来ました。そしてヴィンセントの襟元を引っ張り顔を上げさせ自分をその睨みつけるその顔を覗き込み、ほぅ…とうっとりしたような表情を見せると、にやっと笑いもう片方の手を懐に入れて小さな袋を取り出すとそれを自分の口に放り込みます。
もう一度ヴィンセントを引っ張り上げて彫刻のように美しい顔に手を添えて固定し、睨みつけてくるヴィンセントの顔を見つめ溜息を一つ漏らすと、そのまま自分の顔を近づけて行きました。
コウはそのままヴィンセントの唇に自分の唇を重ねます。そして舌先をヴィンセントの唇の間に強引にねじ込ませて閉じられた唇をを開かせようとしてきました。驚いたヴィンセントは必死に唇を閉じて抵抗します。
「…っ?!」
「大丈夫です。ただの睡眠薬ですから」
少し唇を離してコウはそう呟くと、もう一度唇を重ね合わせてヴィンセントの口の中にその薬を押し込みました。だんだんと身体が痺れて動けなくなってきている無抵抗のヴィンセントに、コウは面白がるように執拗に舌を絡めて熱い口づけを交わすようにクスリを与えます。
ヴィンセントは必死の抵抗でコウの舌を噛んでやろうと試みましたが、身体の自由が奪われ何も出来ずにただコウの熱い口づけを受けております。やっと唇を離したコウはニッコリと微笑みながら自分を睨みつけて静かに怒りを表しているヴィンセントの様子を見ております。
「…っ」
「あぁ…良い表情ですね。ゾクゾクしちゃいます。もっと苦しむ貴方の姿も見たいけれど…少し休んでいてくださいね」
「…この野郎…」
「それではア・デュー」
コウはもう一度ヴィンセントの唇に自分の唇を押し当てると、掴んでいたヴィンセントの顔から手を放しました。するとヴィンセントはガクンッと大きく体を揺らしてそのままコウに身体を預けるようにして倒れて行きます。
コウはあはははは…と笑いながらヴィンセントをトンッと突き放しました。ドサッと言う音を立ててヴィンセントは地面に倒れ込みます。
「ヴィーっ!!」
「おや?せっかく彼が逃げるように言ってくれたのに…結局戻ってきたんですか?」
コウがふと顔を上げると、倒れているヴィンセントを見てしまい青ざめて立ち尽くしてしまっている逃げたはずのシャルロット様が何故か戻ってきておりました。
一歩一歩ゆっくりとコウはシャルロット様に近づいて行きます。
「コウ…貴方ヴィーにいったい何をしたの…?」
「…子どもは知らなくていいことです」
「…」
「…さてシャルロット様。抵抗したら彼のようになるって分かったでしょう?素直に私と一緒に来てくれますか?」
少し後退りしたシャルロット様ですが、それでもコウの方をエメラルドのように強い瞳でまっすぐ見つめます。コウは再びシャルロット様の腕を掴みそのまま引っ張ってグイッと抱きしめました。
「貴方の目的は何…?」
「言ったでしょ?シャルロット様…貴女が欲しいって」
「違う…。貴方が欲しいのは私じゃないわ」
「そうですか?」
「そうよ」
「…いいえ、私が欲しいのは…貴女だ」
コウはすっと指を何か言いたそうなシャルロット様の唇に押し当てます。そしてサファイアのように青くて深い瞳でシャルロット様のお顔を覗き込みました。
シャルロット様はフッと意識を無くしたように、ガクンっと大きく揺れててコウにもたれ掛るように倒れ込みました。
コウはニヤッと不敵な笑みを浮かべると、倒れ込んだシャルロット様を抱きかかえます。首元に光る『アルテミスの涙』が、月の光に照らされて深い緑から青、そして月の光を受けて赤く煌めきます。コウは思わず、妖しく光り輝くその光に見惚れて石に唇を重ねました。
「…それじゃあ行きましょうか。天国のような地獄を一緒に味わいましょう」
フッと空を見上げると大きなまん丸の月がコウにスポットを当てるように照らしだしています。そんな月をしばらくの間静かに見上げておりましたが、コウはその月の光を受け止めるかのように少し瞳を閉じました。数秒ほど経ってコウはゆっくりと瞳を開けます。
「…今宵は満月。あの日の夜も満月でしたね…」
独り言のようにコウは呟き、自嘲気味に笑い捨てると他の建物より高い屋上へと続くテラスの階段を上っていきました。
そして屋上に辿りつき遠い空を何かを探すように見つめながら経っていると、コツンっと屋上の物陰から靴音が鳴り人影が姿を現しました。
サファイアのような瞳だけを動かし、首筋に当たる冷たいもの―――…剣先をチラッと確認すると、コウは目を細めて小さく笑い出しました。
「…思いのほか遅かったですね」
「ヴィー…っ!」
「姫様、遅くなり申し訳ございません。てか貴方どれだけ火薬仕込ませさせたんですが。このテラスに辿りつくまでに、不発に終わったのありますけどそこら中で爆発してます。お城の窓が割れ放題です。私の家の近くでも爆発ありましたからきっと窓ガラス割れているでしょうねぇ。…後でキッチリ請求書を熨斗付けて差し上げますよ」
はぁ…とため息交じりにコウのすぐ後ろからヴィンセントはグチグチ恨み言を申し立て、『蒼龍国』の民族衣装をアレンジした立て襟のジャケットと首の間…頸動脈の辺りに、研ぎ澄まされた剣先をスーッと撫でました。
「それは失礼…。小切手でよろしいですか?」
「ニコニコ現金払いでお願いします」
「ルリカ?それともラドガ―ブル?」
「そんなもんルリカに決まっているでしょ」
「ラドガ―ブルなら今少し暴落しているのでお手頃なんですけどねぇ」
「はっ!馬鹿にしてます?と言うか…そろそろその薄汚い手を離してウチの姫様返してもらえますか?」
「…嫌だと言ったら?」
「もうこのパターン本当に何回目?と言う感じで飽き飽きしているんですけどね」
またしてもはぁ…とヴィンセントは大きく溜息をつき眉間のしわを深く深く刻みます。コウはフフフ…と不敵な笑みを浮かべて横目でそんなヴィンセントを見ておりました。
「美しいお姫様にはありきたりなパターンですよね。存じ上げております。そしてそんなお姫様には忠実な僕である騎士が付き物…それが貴方ってことですね」
「そうですねぇ。でも私武闘派ではないんですよね。おや、おかしいですねぇ…武官ではなく文官なんですけどね」
ヴィンセントが手に力を込めてコウの首に当てている剣をぐっと引き、コウの頸動脈を切ろうとします。ですがコウは一瞬でパッとその剣を避けてヴィンセントから間合いを取り離れます。薄らと赤い一本の線がコウの首に浮かび上がります。
「そんなにも美しく鍛えられた肉体をお持ちなのに?」
「おや、分かります?」
「えぇ。とても均等の取れた服の上からでも分かる美しい筋肉質なお身体をお持ちの様で」
「そう言う貴方もね」
「私たち似たもの同志ですかね」
「マフィアと似たもの同志とか…悪い冗談はやめてください」
ヴィンセントはハッとコウを鼻で嘲笑します。コウはニッコリと微笑んだままヴィンセントを見つめておりましたが、顔は笑っていながらもその瞳はどこか冷めた感じでありました。
「ちゃんと調べておりますねぇ」
「当たり前でしょ」
「さすがはヴィンセント殿」
「褒められても嬉しくありませんね」
「と言うか…姫様どうするつもりですか?いい加減離してくださいよ」
「嫌だって申し上げているじゃないですか」
「スキモノですねぇ」
「えぇ。私、シャルロット様をとても気に入りまして…どうしても欲しいんですよ」
コウはシャルロット様をギュッと抱きしめておでこにそっとキスをしました。そしてこれ見よがしにニヤッと笑いヴィンセントを挑発していきます。ヴィンセントは静かにコウを睨み続け、剣を握り直します。
「…貴方のようなマフィアと言う下賤な者が高貴な姫様に軽々しく触れるなんて、反吐が出ますね」
「綺麗な顔に似合わず、なかなか汚い言葉を発しますね」
「口の悪さには定評があります」
「あはははは…。貴方とは美味しいお酒が飲めそうだ」
「あいにくですが反社会勢力の方と仲良くする趣味はありません。ガストン大臣の様にね」
「あの方はただのお客さんですよ」
「そうですか?大分仲良さげでしたけど?」
「あの人ねぇ…困ったものでちょっと優しくしてあげるとすぐ図に乗るんですよ」
「そうですか。まぁ貴方方の関係なんてホント興味ないんでどうでもいいです。とりあえず早く姫様返してください」
「だから嫌だって申し上げているでしょう?」
「じゃあ力ずくで返してもらうしかないですね」
ヴィンセントはやれやれと呆れた言った様子で大きく息を吐くと、瞳を閉じました。そしてカッと見開き猛スピードで走りだしコウのすぐ近くまでやって来ると、シャルロット様を抱いているコウの腕に目掛けて剣を振り下ろします。
コウは避けようと身体を反らしますが思いのほかヴィンセントのスピードが速く、剣先がコウの手を掠りました。
「…っ!」
コウが怯んだ隙にヴィンセントはその手からシャルロット様を奪い返します。しっかりと抱きとめそのままその衝撃で後ろへと飛ぶように下がっていきました。
「大丈夫ですか?姫様」
「ヴィー…」
「危ないから室内へと入っててください」
腕の紐を切り両手を解放すると、ヴィンセントはシャルロット様を後ろにグッと押しやりました。そしてよろよろとよろめきながらも走っていく姿を確認すると、剣を構え直してコウの方を向き直ります。
「…予想より速いスピードで油断しました」
「戦いの最中は油断大敵ですよ」
「…私も武闘派ではないので」
「そうですか。でもまぁどうでもいいですそんなこと。とりあえず貴方を拘束させてもらいますよ」
「…出来ますか?」
切られた手からツーッと赤い血が流れる手をパッと振り払い、まるでヴィンセントを挑発するようにコウはニヤッと不敵な笑みを浮かべております。それが癪に障るのかヴィンセントはイラっとした表情で剣を構え直しコウへと向かっていきます。
すると今度はコウがカッと目を見開いてそのまま飛ぶように走り、逆にヴィンセントに顔を近づけていきました。意外な動きに驚いたヴィンセントは一瞬動きが止まりそうになりましたが、それでも剣を振り下ろそうとした時、コウのサファイアのような瞳が更に大きく見開きヴィンセントのアメジストのような瞳を真っ直ぐ見つめます。
コウの瞳と目が合ったヴィンセントは、まるで魔法に掛けられたかのようにその瞳から目を背けることができなくなってしまいました。
「…もっとちゃんと私の瞳を見て」
「ク…っ!貴方…いったい何を…」
「フフフ…。それを教えてあげるほど私、親切じゃないです」
コウの瞳が更に輝きだすと、ヴィンセントはガクンッと地面に膝をつきました。そして段々と身体が泥に沈んで行くように重くなって意識がぼんやり遠のいて行くのを感じだしました。必死にそれに抗おうとヴィンセントはコウの瞳から自分の瞳を外そうとしますが、離そうと思えば思うほど余計にその瞳から離れられずになっております。耳の奥からもキンキンとする音が聞こえはじめました。
「…っ!」
「なかなか抵抗しますね。ここまで抗う人あんまりいないんです。やっぱり貴方って凄い。そんな貴方を倒してシャルロット様を手に入れる快感…。最高ですね」
「姫様に…触れさせるものですか…っ」
「この期に及んでシャルロット様を気に掛けるとは立派な下僕ですね」
「当たり前でしょ…命を懸けて…守らなきゃいけない存在ですから…」
「…『姫様』だから?」
「…もちろん」
「へぇ…」
コウは冷たい微笑みを浮かべ、段々と崩れ落ちて行くヴィンセントを上から見下しております。ヴィンセントは剣を地面に突き刺し、何とか立ち上がろうとしますが、そんなヴィンセントをコウを思いっきり蹴飛ばしました。
「…っ!」
「ふふふ…。いいですね、その怒りに満ちた瞳。艶やかで何とも妖艶だ。やっぱり私、貴方のこと気に入りました」
「それは…どうも。でもあいにく…私は貴方のことが嫌いです…っ!」
「…そのうち好きにさせてあげましょう。でも今はちょっと邪魔しないでもらいたいので…すみませんねぇ」
コウは新しい玩具をもらった子供のように嬉々とした表情を浮かべて倒れているヴィンセントの傍までやって来ました。そしてヴィンセントの襟元を引っ張り顔を上げさせ自分をその睨みつけるその顔を覗き込み、ほぅ…とうっとりしたような表情を見せると、にやっと笑いもう片方の手を懐に入れて小さな袋を取り出すとそれを自分の口に放り込みます。
もう一度ヴィンセントを引っ張り上げて彫刻のように美しい顔に手を添えて固定し、睨みつけてくるヴィンセントの顔を見つめ溜息を一つ漏らすと、そのまま自分の顔を近づけて行きました。
コウはそのままヴィンセントの唇に自分の唇を重ねます。そして舌先をヴィンセントの唇の間に強引にねじ込ませて閉じられた唇をを開かせようとしてきました。驚いたヴィンセントは必死に唇を閉じて抵抗します。
「…っ?!」
「大丈夫です。ただの睡眠薬ですから」
少し唇を離してコウはそう呟くと、もう一度唇を重ね合わせてヴィンセントの口の中にその薬を押し込みました。だんだんと身体が痺れて動けなくなってきている無抵抗のヴィンセントに、コウは面白がるように執拗に舌を絡めて熱い口づけを交わすようにクスリを与えます。
ヴィンセントは必死の抵抗でコウの舌を噛んでやろうと試みましたが、身体の自由が奪われ何も出来ずにただコウの熱い口づけを受けております。やっと唇を離したコウはニッコリと微笑みながら自分を睨みつけて静かに怒りを表しているヴィンセントの様子を見ております。
「…っ」
「あぁ…良い表情ですね。ゾクゾクしちゃいます。もっと苦しむ貴方の姿も見たいけれど…少し休んでいてくださいね」
「…この野郎…」
「それではア・デュー」
コウはもう一度ヴィンセントの唇に自分の唇を押し当てると、掴んでいたヴィンセントの顔から手を放しました。するとヴィンセントはガクンッと大きく体を揺らしてそのままコウに身体を預けるようにして倒れて行きます。
コウはあはははは…と笑いながらヴィンセントをトンッと突き放しました。ドサッと言う音を立ててヴィンセントは地面に倒れ込みます。
「ヴィーっ!!」
「おや?せっかく彼が逃げるように言ってくれたのに…結局戻ってきたんですか?」
コウがふと顔を上げると、倒れているヴィンセントを見てしまい青ざめて立ち尽くしてしまっている逃げたはずのシャルロット様が何故か戻ってきておりました。
一歩一歩ゆっくりとコウはシャルロット様に近づいて行きます。
「コウ…貴方ヴィーにいったい何をしたの…?」
「…子どもは知らなくていいことです」
「…」
「…さてシャルロット様。抵抗したら彼のようになるって分かったでしょう?素直に私と一緒に来てくれますか?」
少し後退りしたシャルロット様ですが、それでもコウの方をエメラルドのように強い瞳でまっすぐ見つめます。コウは再びシャルロット様の腕を掴みそのまま引っ張ってグイッと抱きしめました。
「貴方の目的は何…?」
「言ったでしょ?シャルロット様…貴女が欲しいって」
「違う…。貴方が欲しいのは私じゃないわ」
「そうですか?」
「そうよ」
「…いいえ、私が欲しいのは…貴女だ」
コウはすっと指を何か言いたそうなシャルロット様の唇に押し当てます。そしてサファイアのように青くて深い瞳でシャルロット様のお顔を覗き込みました。
シャルロット様はフッと意識を無くしたように、ガクンっと大きく揺れててコウにもたれ掛るように倒れ込みました。
コウはニヤッと不敵な笑みを浮かべると、倒れ込んだシャルロット様を抱きかかえます。首元に光る『アルテミスの涙』が、月の光に照らされて深い緑から青、そして月の光を受けて赤く煌めきます。コウは思わず、妖しく光り輝くその光に見惚れて石に唇を重ねました。
「…それじゃあ行きましょうか。天国のような地獄を一緒に味わいましょう」
フッと空を見上げると大きなまん丸の月がコウにスポットを当てるように照らしだしています。そんな月をしばらくの間静かに見上げておりましたが、コウはその月の光を受け止めるかのように少し瞳を閉じました。数秒ほど経ってコウはゆっくりと瞳を開けます。
「…今宵は満月。あの日の夜も満月でしたね…」
独り言のようにコウは呟き、自嘲気味に笑い捨てると他の建物より高い屋上へと続くテラスの階段を上っていきました。
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彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。
女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。
孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった!
しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。
ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!?
ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!?
世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる!
「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。
これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!
溺愛兄様との死亡ルート回避録
初昔 茶ノ介
ファンタジー
魔術と独自の技術を組み合わせることで各国が発展する中、純粋な魔法技術で国を繁栄させてきた魔術大国『アリスティア王国』。魔術の実力で貴族位が与えられるこの国で五つの公爵家のうちの一つ、ヴァルモンド公爵家の長女ウィスティリアは世界でも稀有な治癒魔法適正を持っていた。
そのため、国からは特別扱いを受け、学園のクラスメイトも、唯一の兄妹である兄も、ウィステリアに近づくことはなかった。
そして、二十歳の冬。アリスティア王国をエウラノス帝国が襲撃。
大量の怪我人が出たが、ウィステリアの治癒の魔法のおかげで被害は抑えられていた。
戦争が始まり、連日治療院で人々を救うウィステリアの元に連れてこられたのは、話すことも少なくなった兄ユーリであった。
血に染まるユーリを治療している時、久しぶりに会話を交わす兄妹の元に帝国の魔術が被弾し、二人は命の危機に陥った。
「ウィス……俺の最愛の……妹。どうか……来世は幸せに……」
命を落とす直前、ユーリの本心を知ったウィステリアはたくさんの人と、そして小さな頃に仲が良かったはずの兄と交流をして、楽しい日々を送りたかったと後悔した。
体が冷たくなり、目をゆっくり閉じたウィステリアが次に目を開けた時、見覚えのある部屋の中で体が幼くなっていた。
ウィステリアは幼い過去に時間が戻ってしまったと気がつき、できなかったことを思いっきりやり、あの最悪の未来を回避するために奮闘するのだった。
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