ローザタニア王国物語

月城美伶

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Soupir d'amour 恋の溜息

第2話

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 『本日付でエレン・カーターを 国王補佐官兼執務長官の副長官に任ずる』

 皆さまこんにちは。
どーも、ローザタニア王国軍隊の精鋭部隊パンサーズのケヴィンです。
またあの大事件の日からちょっと数日経った日のことですよ。
暑苦しい夏がいつの間にか終わり、ちょっと涼しげな爽やかな風が吹き始めてた秋の朝のことですよ。
そう!朝が涼しくなるとさ、寝苦しくないじゃん?!俺最近朝の目覚めよくってさぁ~!
聞いてくれる?俺の部屋って大きい窓があって風が良く入るんだけどさぁ、その窓朝日が超入ってくるんだよねぇ。
だからもう日が昇るとさぁ、俺の部屋太陽の光がもろに入ってきて暑いのなんのって!
だからちょっと涼しくなってきてくれると朝は快適に目覚められるんだよなぁ。
朝、寝ているだけなのに汗かいてるとか超不快じゃん?だから涼しくなると嬉しいんだよねぇ。
んでさ、段々と日が短くなっていくんだぜ?何だか物悲しいよなぁ~!夏って暑いけど日が長いから一日が長く感じられて嬉しじゃん?でもさ、夏が終わるとすーぐ日が短くなるじゃん?何だか切ないよなぁ…って俺が話し出すとなんか色々脱線しちゃうんだよなぁ…。

あのテロ事件―――…シャルロット様誘拐未遂事件の後、俺たちローザタニア王国軍隊は超平和ボケして超中だるみしているってことでお偉いさん方からおしかりを受け、色々訓練が強化されたり軍隊の采配が変更されたりと、色々目まぐるしい日々を送っているんですよ。
もーホント忙しい!!基礎練習を一からやり直したり…まぁこれは全然苦にならないからいいんだけどさ、今までにやっていた訓練を倍以上のボリュームに変更したり…まぁこれも俺にとっては身体動かせまくれるからいいんだよなぁ、あ、でも最近はなんか座学…?なんか昔の軍師たちの戦術の教えを偉い大学の先生から学ぶってことで座らされたり…あと何か身体の使い方を知識で学ぼう?みたいな座学の授業も合ったりで…もうキャパシティ超えそうなくらい大変なんだよ!!
で、そんな忙しい毎日の最中なんだけどさ、俺たちお城に勤める使用人や軍に所属する俺たち兵士たちのスペースの廊下にある、お知らせとか掲示してくれるご立派な金縁の掲示板に今日こんな張り紙があったんですよ。
しっかりとした立派な紙に書かれて陛下と執務長官のハンコが押してあって金縁のケースに入れられているその一文を、俺はさっきからずーっと見つめている状況ですよ!!

「エレンのやつ、大出世だな!」
「マルクス!…っとホークアイ!」
「アイツ、軍人よりも役人の方が向いているもんな!」
「ケヴィンの次くらいに腕はあるけど実戦向きじゃないもんなぁ」
「いやいや、アイツの方が俺よりも強いよ」

ケヴィンがじーっと微動だにせず掲示板の張り紙を見ているところに、軍の同僚であるマルクスとホークアイがやって来て、肩を組むようにガシッとケヴィンの肩に腕を置き溜息をつきながらあーだこうだと言いながら同じく掲示板の張り紙を見ております。ケヴィンが笑いながらもポソッと少し遠慮がちに言うと、マルクスはケヴィンの背中をバシバシ叩いてがははと笑いだしました。

「またまた~!!謙遜すんなよ!でもまぁ確かにエレンのやつ、剣の実技試験に一番いい成績で受かってたもんなぁ。だけど受かっても実戦で使えなかったら俺たち意味ないもんなぁ」
「アイツ、血を見るのが嫌だって言ってたもんな!この間のあの事件の時だって…ヴィンセント様の怪我の血を見て気絶してたからな!でもまぁエレン賢いし、俺たちと違ってきっちりしているし役人の方が向いているかもなぁ」
「前から兼務してたもんな!エレンが執務秘書官の方に専念したら、きっとバルトも少し楽になるだろうしなぁ」
「今バルトも過労で倒れそうな感じだもんな」
「この間真っ青な顔して城中走り回ってたぜ」
「うわぁ…可哀想…」
「ってかエレンは国王補佐官兼執務長官の副長官ってことはヴィンセント様の直属の部下かぁ」
「怖…っ!」
「俺なら一日ともたないだろうなぁ…」
「いや、お前は一時間でも無理だろ!…ってエレン!」

マルクスとホークアイが再びケラケラ笑いながらそんな話をしていると、ちょうどその時近くで件のエレンが通り過ぎようとしていたのをホークアイが気が付き、手を振って声を掛けました。

「よぅエレン!この度は国王補佐官兼執務長官の副長官着任おめでとう!」
「皆!ありがとう」

筋肉ムキムキで日焼けして色黒のむさ苦しいケヴィン、マルクス、ホークアイの三人とは打って変って、一応それなりに筋肉はあるものの他の三人と比べたら少し線が細くスラッとした色白で柔らかい栗毛色の髪に薄いブルーの瞳をした、執務秘書官の制服を着た青年が爽やかに三人の前に現れました。
大柄なホークアイは乗っかるようにエレンの肩に肘を乗せております。いつものことなのでしょうか、エレンは気にすることなくホークアイの顔を見返して微笑んでおります。

「本日付って結構急じゃね?」
「ヴィンセント様が怪我されて以来、執務秘書官室が激務だからね。少しでも早く人手が欲しかったみたいなんだ」
「あぁそうだよな。…でもあそこってよく皆すぐ体調悪くなったり辞めたりするよな。あれか?女王ヴィンセント様からのパワハラが原因とか?」
「あははは!違うよ!もちろん怪我をされたヴィンセント様の補助の役割もあるけど、来年行われる陛下の生誕20年記念式典と、シャルロット様の生誕15歳記念式典の準備とかあるから元々人員を増やす予定だったんだよ」
「あー…なるほど」
「それにまぁ…ヴィンセント様は全部自分でチェックしないと気が済まないタイプだからね。必ずちゃんと全部細かい所まで目を通されるからね」
「小姑みたいだな!」
「まぁそうとも言うよね」

あはははは…という四人の笑い声が廊下に響き渡ります。まだ勤務前でバタバタと慌ただしい時分で、廊下には多くの人が行き交っており、そんな四人の大きな笑い声に近くの人たちはビックリして振り返ったりしております。
それでも四人は気にせずに仲良さげにケラケラと笑い合っておりました。

「そうだ!栄転祝いに今晩酒でも飲みに行こうぜ!」
「あ、ごめん、今晩はちょっと都合悪いんだ」
「なんだ~?彼女とお祝いのデートか?」
「残念ながら彼女は居ないんだ。誰か紹介してよ!じゃなくて…今晩は明日の陛下のラフィーヌ市視察のための準備があるんだ」
「あ、俺明日その警護隊の指揮だわ」
「ケヴィン護衛の隊長だよね。明日宜しくね」
「おう、任せとけ!」
「今から任命式もそこそこ、すぐにその下準備をしなきゃならないんだよ」
「マジか~!着任早々忙しいな」
「ほんとゴメン。遅れたらそれこそヴィンセント様に怒られるし、俺もう行かなきゃ!部署は変わっちゃうけど、また飲みに誘ってくれよな!」

ゴメン、と手で謝るジェスチャーをすると、エレンはサッと踵を返してその場を去って行きました。
颯爽と歩いて行くエレンのその後ろ姿を、取り残された三人は呆然と何かに圧倒された感じで見送っております。

「何か…アイツ一瞬で遠い世界に行っちまったな」
「だな」
「…俺たちも頑張るかぁー」
「とりあえず今日の剣の稽古だな!おいケヴィン、行こうぜ!」
「お、おう…」

ゴーンっと始業五分前の鐘が鳴り響いたのに促され、三人は掲示板の前からのっそりと歩き出しました。
マルクスとホークアイは腕を伸ばしたり軽くストレッチをしながら中庭にある軍の兵士専用の稽古場へと歩いて行きます。その後ろをケヴィンはついて行きますが、エレンが去って行った反対側の廊下を見つめておりますが、もうすでにエレンの姿は行き交う使用人たちの波に飲み込まれてみることができませんでした。
ケヴィン!とマルクスに名前を呼ばれて振り返ると、ケヴィンは急いで二人の後を追って稽古場へと向かって行くのでした―――…。

・・・・・・・・

 さてその日の晩のことですよ。
再び俺、ケヴィンの一人語りから始めますよ。
目まぐるしい一日が終わってもうあたりは暗くなった頃のことですよ。俺は今日一日、皆が引くくらい一心不乱に剣の稽古に熱中してたんだ。おかげでもうクタクタ…。でもね、俺超ルンルンなの。
え?何でかって?聞きたい~?どうしようかなぁ~…え?ウザい?
…すみません。

えっとね、今から俺久々に、俺の超可愛い恋人と俺の家でお家デートなのさ!
お互い忙しかったし、事件もあったから、ゆっくり会うのは十日ぶり?くらいなんだよね。 
え、職場同じだから毎日顔合せてるんじゃないかって?
そりゃあすれ違うこともあるけどさ、でもお互い仕事中だし軽く挨拶して終わりだよ!
だから彼女の顔は見れても全然話ししてないし、恋人同士らしいことなんて一切無いの!!
最近お互い忙しかったし…今日は仕事終わりに一緒に俺んちで爺ちゃんの作ったご飯食べて一緒にゆっくりするんだ♪
で、今日こそキスより先に進めたら~なーんて思っているわけですよ!
えへへ。

さて、またしてもケヴィンの語りから始まりましたが、ここはいつも通り、天の声に戻ります。
オレンジ色の太陽が遠くの山の向こうに落ちて行き、紫がかった紺色の夜の帳を連れてきました。
今日一日のハードな稽古が終わり、同僚たちと汗を流して爽やかに洗濯したての新しい制服に着替え直したケヴィンは使用人の通路から繋がる、城下街へと出る門の近くで彼の恋人、セシルが出てくるのを待っておりました。

「それにしても遅ぇなぁ…。もう15分も俺待ってるじゃん。セシル何かあったのかなぁ…」

ケヴィンは門の近くにある大きな時計にちらっと目をやりました。待ち合わせの18時半からもうすでに時計の針は進み、かれこれ15分ほどケヴィンは門の近くで待ちぼうけをくらっておりました。
しかしケヴィンはそんなことでは怒りません。むしろセシルに何かあったのではないか…と心配してちょっとソワソワした感じでお城の方を見つめておりました。

「遅くなってごめん!ケヴィン~っ!!」
「セシル!」

そうこうしているうちにまた時計の針は進み、なんやかんやでケヴィンは30分以上待ちぼうけをくらっておりました。くしゅんっとくしゃみをして鼻を啜っているところに、聞き覚えのある元気な声が駆け足の音と共に聞こえてきました。

「ごめんケヴィン…っ!ちょっと仕事押しちゃった…っ!だいぶ待ったよね…ほんとゴメン!」
「全然大丈夫だぜ!セシル待っている間も腹筋に力入れて筋トレしてたし!それよりも…大変だったな。お疲れさん!」
「ケヴィン…」

キュッとセシルの手を優しく握り、ケヴィンはニコッと微笑んでセシルを労わります。ホッとしたような嬉しいようなそんなはにかんだ笑顔でセシルは頬を染めてケヴィンを見つめ直し、そのゴツゴツとした大きくて力強いケヴィンの手を握り返します。

「さぁ!じいちゃんがとびきり美味しい飯作ってくれてるはずだから行こうぜ!ぎっくり腰も治って、今日は久々にセシルと一緒にご飯食べるからって爺ちゃん張り切ってたし!きっとめちゃめちゃ美味いもん作ってくれているはずだぜ!」

そんなセシルをみて可愛いなぁ…と思って同じく頬を染めたケヴィンは、セシルの少しオレンジがかったブルネイの髪を撫でます。
二人はお互いにえへへ…と笑い合うと、手を繋いで門をくぐり、お城の外にあるケヴィンの家へと寄り添い合いながら歩き出しました。
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