【一話完結】3分で読める背筋の凍る怖い話

冬一こもる

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ひとつちょうだい

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2月15日。
恋が広がる1日も収束を迎え、
男二人でチョコを頬張るなんて惨めなことこの上ない。


「ひとつちょうだい」
「ん」


ほとんど無言でチョコを手渡す。
渡したところでため息。
食べたところでため息。


小学校と中学校はバレンタインにお菓子を持ってくるのは禁止されていた。
高校に上がり、そういう縛りは消え2月14日に希望を抱くのは悪いことだろうか。


高校2年生の二人は、
バレンタインが終わり安売りしているチョコレートをコンビニで購入した。


舐めているのはチョコか心の傷か。
どちらにせよ噛み締めていることには違いない。


「それもひとつちょうだいよ」
「ん」


先ほどと全く同じやりとりを入れ替わりで行う。
今度も同じく無言で頬張り、ため息をつく。


曇天、今にも降りそうな空模様。
いやここは雪でも降ってくれないだろうか。
せめてこれ以上惨めにしないでほしい。


すると、一粒の雪が学生服に落ちた。


「雪だ」
「積もるかな」
「積もってくれ~。学校休みて~」


積もってくれたら、少しは楽しくなるだろうか。
二人で空を見上げる。














「ひとつちょうだい」
「え?」「え?」


お互いではない、誰かに言われた。
目の前を見ると50代くらいの男性がいた。


ホームレス、ではなさそうだ。
綺麗な身なりとは言えないが、汚いわけでもない。


男性はもう一度言う。
「ひとつちょうだい」


他人にそんなことを言われ動揺するが、
その場の空気に負けてひとつ渡す。


「ありがとうなぁ。何個もあっても仕方ないからなぁ」


貰っておいてそんなこと言うのか。


男性はチョコレートを頬張ると、にんまりといった表情で声もなく笑う。
とても不気味な顔だ。
半開きで笑う口の中はよだれが糸を引いている。


「そっちのお兄ちゃんも、ひとつちょうだい」
「いや、僕はもう食べちゃって」


友人は、空になった袋を振り中身がないことを示す。


「ひとつちょうだい」
「だからもう無いんですよ」










「独り占めをする気だな」



男性はそう言うと怒ったような表情を見せ、
次にゴキゴキと音を鳴らすとそのまま180度首を縦に回転させた。


ギョロギョロとした目は焦点があってなく、
ばっくりと開いた口からは獣のような牙が見える。


明らかに人間ではなかった。
吐き気を模様す口臭と恐ろしい形相。
動くことができない、息もできない。


「ヒ、ヒトツチョウダイ」


目を逸らすこともできない。
恐怖で何もできない。


「ジ、ジジ、ジンゾウ、ジンゾゾウチョウダイ。フタツアッテモ、ショウガナイデショ」


ジンゾウ?腎臓と言ったのかこの化け物は。


化け物は友人の腹をガッと掴むと、またニンマリと笑った。
友人の叫び声で我に返った。


化け物を背にして一心不乱に走る。
苦しそうな友人の手を引いて、逃げる。


雪はいつの間にか雨に変わっていた。
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