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ジャーマンカモミール

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第一章 出逢い(2)

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    長身の男についてエレベーター乗り込む。黒服の男たちも一緒だ。比較的にシャトルエレベーターは通常ものよりも箱の容量が大きく、30人を運ぶスペースを保持していた。無言のまま男が6人。デパートのように客同士が乗り合わせたというならいいが、大凡おおよそ堅気ではない彼等5人との密室は、猛獣の檻に入れられたような心持ちになる。その証拠に緊張した空気が流れていた。
 上条も伊達にヤクザと渡り合ってきたわけじゃないと己にいい聞かせて、口を開いた。

「あなたが月城さんですか?」
「私のゲストなら、顔を知っていて当然のはずだが?」

 目を合わせずに月城は応える。

「堂本は、どこにいるのですか?」
「堂本の身柄は預かっている」
「……」

 月城は一瞬目を眇めたが、無言のまま顎をしゃくる。誘導されるまま、ロビーから地下に通じる通常のエレベーターに乗り換え地下駐車場へと降りた。高級車ばかりが並ぶ間を潜り、先頭にフライングレディのついた黒ボディの車内へ乗るように支持を受ける。月城の後に続いて上条が後部座席に乗り込んだのを見届けて、運転席や助手席へ二人の黒服の男達も乗り込んできた。その他の黒服連中は黒のBMWに乗り込んだ。二台の車は静かに発進する。

 革張りの座席の心地良さに驚きはしたが、上条は楽しい気分ではなかった。沈黙の中、微かな音があるとすれば月城がタバコに火を点けたライターの音ぐらいだ。紫煙を燻らせ月城が口を開いた。

「奴の命の保証はおまえの腕次第だが、使いものになるのか?」

 腕とは、上条の本業である『脳外科医』の腕を指しているのだろう。しかし、この一年まともに本業の仕事はできていないのだから、指が動くのかという心配があった。縁あって歌舞伎町の診療所で働き始めたが、元は年老いた夫婦が営むカフェだった建物であり、小綺麗といっても清潔面では問題だらけだ。しかも簡易的に置いた診療机と椅子、申し訳程度の医療器具のみで開業となり、当初は満足な医療を施すことができなかった。一人また一人と患者の診察を始め、上条の腕に惚れ込んだ近隣のいわくつきの会社社長やヤクザ等幹部によって少しずつ建物を改築し、さらに医療器具を揃えることができていった。実際、診療所ではあるが病院と並ぶくらいの設備を整えることができていた。数ヶ月前にヤクザ同士の抗争があり、上条の診療所も襲撃にあったばかりである。設備が整い始めても、入院を引き受けることはできない理由でもあった。上条のところへ運び込まれてくる大半は外科的手術や内科的なことで、脳外科医としての執刀はできておらず、今の上条の腕を見込まれることは不快でしかない。

「暫く腕を使っていないので、自信はありません。ーーそれにしても堂本の命の保証とは、まるでヤクザのような口振りですね」

 夜の車内に、時折街のネオンの灯りが差して月城の顔に影を落とす。長い脚を組んで煙を吐く姿が憎らしいほど様になっていた。

「ヤクザか。当たらずとも遠からずだ。ーー堂本には貸しがある。その清算に私の情人としておまえを寄越してきたが、腕に自信がないならベッドの相手はどうだ?」

 





 
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