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ジャーマンカモミール

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第二章 駆け引き(2)

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 藤堂のドスの利いた声に一瞬竦みあがるが、ヤクザに銃をつけ付けられたことなんて数知れず経験している。それに上条にとって一番辛いのは、己の不甲斐なさに人を死なせてしまうことだ。それに比べれば、藤堂の威嚇など恐るに足らずだと胸中で呟いた。
 月城の視線が藤堂を捉え、藤堂は舌打ちをして駆け出した。月城に撃たれたばかりの男の銃を奪い、ついでに利き腕を踏みつけた。鈍い音と共に男の悲鳴があがる。男が気絶したのを確認し藤堂は階段を一段飛ばしに駆け上がった。
 奥の暗い廊下から藤堂に向かってくる影に、銃を構えた。影が近づくにつれて、日本人離れしたエキゾチックな容姿の男が現れた。30代前半かと目星をつけて、藤堂は警戒を解かずに歩み寄った。

「お待ちしておりました……。月城様の部下の方ですよね? 僕が院長の伊集院伊織いじゅういんいおりです。月城様はどちらに?」
「待ってただと? あんたんとこの病院は物騒な出迎えをするのか? 噂に違たがわずのサディストぶりだな」

 藤堂が伊集院の額へ銃口をあてたときだった。伊集院の背後から現れた男が、彼の背中へ銃を突き付けているのを見て、藤堂は眉間にシワを寄せた。男の顔に見覚えがあった。新宿歌舞伎町の元締めをしている大隈組の若頭、水原みずはらだ。186センチの藤堂はマッチョな体格だが、反対に水原は165センチの中肉中背ときている。水原は狡賢さを備えた男で得体が知れず、隙をみせると蛇のように噛みついてくる醜悪な野郎だ。
 伊集院は、色黒の艶のある肌に垂れた前髪を、ゆっくりとかきあげた。仕草の一つ一つに色気があり目を奪われる。藤堂は舌打ちをした。

「2人の男に挟まれるのは嫌いじゃありませんが、どちらにしても見目が悪い。僕なら月城様にされたいですね」
「気色の悪いご託はいい。ここに、なぜ水原がいるんだ?――この状況を説明してもらおうか? じゃないとあんたの頭もはじくぜ!」

 伊集院は艶然と微笑んだ。撃ち込まれても楽しむような奴に、たまが勿体ないと藤堂は目を背けた。

「目的か? 藤堂おまえの飼い主様と同じだ。まさか大隈組の背後にいる御方を知らないわけじゃなよな? いつまでも月城様と崇めてもらえる存在じゃああるめぇ? 家督を蹴るということはそういうことだよな?」
「――そうか」

 藤堂は伊集院を突き飛ばし、背後の水原へ向けて一発ぶっ放した。水原は一寸のところをかわしたが、手にした銃を床に落としてしまった。すかさず藤堂が銃を蹴り上げて、水原の額の皮膚に銃口をピタリと張り付けた。水原の下卑た笑みが消える。

「俺を撃ったら宣戦布告と捉えるだろうな。それに、西田が死んでもいいのか?」
「馬鹿だろ、おまえ?――大事なことをおまえごときに任せるはずがない。ここで死んでろ」

 藤堂は水原の鳩尾を突き上げるように殴った。横隔膜が痙攣し一時的に呼吸苦に呻く水原に、体重を乗せたパンチを顎に食らわせた。白目を剥いてどさりと水原の体が床に倒れ落ちた。

「西田はどこにいる?」
「手術前だったのですが、脳梗塞の再発と動脈瘤の破裂が起こる危険性があり手術前検査を兼ねてHCU(高度治療室)に移しています。――月城様が来る1時間前でしょうか、彼等が占拠してしまったので、今頃西田がどうなっているのかは分かりません」
「西田の様子はどうなんだ?――ほんとに話せないのか?」







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