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第四十四話
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応接間に通され、ユキと並んで来客用のソファーに座って待つ。
先ほどのメイドさんとは違う、もう少し年下の少女っぽいメイドさんが紅茶を淹れてくれる。
昨日サナから教わった作法で、まずは一口。
美味しい紅茶ではあるが、サナの方がお茶を淹れる技術は高そうだ。
「ご主人様…そんなに緊張なさらなくても大丈夫ですよ」
ティーカップを持つ手が少し震えていのたを気取られたのか、ユキに緊張を見抜かれる。
「いや…流石に貴族様と話すのは緊張するだろ。まして、それが婚約者のお母上なんだから」
と素直な感想を告げる。
『大臣をしている』と聞いた時から貴族であることは想定していたけど、ここまで高貴なお家柄だったのは想定外だ。
ミクもエリスも普通の家柄と言っていたから、その二人とも身分の上下なんて感じさせない接し方だったからな。
「ご主人様、ご心配なさらなくても大丈夫ですよ。母は女伯ですから、ご主人様も精霊様ということで、爵位としては伯爵です。なので、そんなに気負わなくよろしいかと思います。それに…」
「それに?」
爵位については解ったけど、なんだ?その含みは?
「母はその…なんと言いますか…」
そこまで聞いたところで扉が開いたので、直立不動の姿勢で立ち上がる。
ユキのお母ちゃんはどんな人だろう。貴族だし『閣下』とか呼ばれるような大臣だし、すんごく怖い人だったらどうしようか?
が、扉の先に立っていたのは、すごく柔らかい笑顔を浮かべた三十代半ばくらいの綺麗な女性だった。
あれ?想像してた人物像と少し違うな。
「あらあらあら~。ユキちゃんおかえりなさ~い。お誕生日おめでと~。帰って来てくれてママ嬉しいわ~」
そう言って一目散にユキに抱き付きに行った。
ユキはすごくバツの悪そうな顔をしているが…
その雰囲気から察するに、このお母ちゃんはいつもこういう感じなのだろう。
恐らくだが、ユキとしては
『初めて男を連れて帰って来ているのだから、せめて貴族としてそれ相応の出迎えをしてくれることを薄っすらと期待していたが、その期待を見事なまで裏切られました』
ような顔…。だな、これは。
「母上様…今日は私と契約してくださった…」
「や~ね~。母上様だなんて!いつも通り、『ママ』でいいのよ~」
ユキはもう頭を抱えてしまっている。
先ほどユキが言いかけたことが、少し解かった気がする。
あと、クールビューティーユキは、お母ちゃんのことを『ママ』と呼んでることも。
「で、こちらの素敵な男性が、ユキちゃんの想い人なわけね~」
と俺を見てニコニコしている。
「母上…、こちらは安田 英喜様です。先日、私と契約して下さった精霊様です」
そのように紹介してくれたので、ここは普通に名乗っておこう。
「安田 英喜と申します。ユキさんに召喚されて、日本という異世界の国からやって来ました。こちらはご挨拶代わりの品で、私の世界の焼き菓子の詰め合わせです」
そう言って「お口に合うと良いのですが…」と買って来た菓子折りを渡す。
サナの実家に持って行ったのと同じで、店で売ってた一番大きいのを買ったんだが、メイドさんの数を考えたら、メイドさんたち用の菓子折りも買っておいた方が良かったかな?
「まぁまぁまぁ。それはご丁寧にありがとうございます。異世界のお菓子なんて楽しみね。エルザちゃん、早速皆でいただきましょう」
と、横に控えていた例のお堅い感じのメイドさんに菓子折りを渡す。
なるほど。このメイドさんはエルザって名前なのか。
「ユキちゃん、エルザちゃんから聞いたけど、英樹さんと婚約したんですって?」
いきなりぶっ込んで来るな。この母ちゃんは。
「はい。先日、契約の契りを結んで…その時に婚約もしていただきました」
ちょっと恥ずかしそうに、でも言い淀むことなく言っちゃった。
それってもう『この男とセックスしました』って言ってるようなもんじゃん。
「それもおめでと~!と言う事は、ユキちゃんの結婚相手は探さなく良いのね?ママ安心したわ~。英樹さん、ユキちゃんのことお願いしますね~」
サナの時も思ったけど、精霊ってだけでそんなに簡単に結婚を許しちゃっても良いのか?
俺なら自分に娘が生まれて彼氏を紹介されたら、二~三発殴るけどな?
まぁ、場の流れに任せて乗っかっておこう。
「ねぇねぇユキちゃん。二人はいつ結婚するの?もう結婚証明書は書いたの?」
お母上はそれはもう興味津々のようだ。
ユキはその事について
「私たちは魔王討伐が有るので、先にその使命を果たしてから結婚します。なので、私たちの仲間のサナちゃんとまずは結婚してもらいました」
と、それも伝えてしまう。
『他の女と結婚してる男に娘を嫁がせるわけにはいかない』
と言われるかと思ったが、これもあっさりと
「あらあらあら。そうなのね~。サナちゃんって、あの可愛らしいメイドさんよね?素敵ね~。お似合いの夫婦じゃな~い。それに、あんなに可愛らしいサナちゃんと家族になれるだなんて、ユキちゃん羨ましいわね~」
と言われてしまった。
そう言えば、気になっていたことが有る。
ユキのお母上もユキと同じ精霊術士で、森の精霊ドライアドと契約していると聞いた。
ユキが自分で召喚した精霊である俺と結婚したってことは、お母上もドライアドと結婚したんだろうか?
もしそうだとしたら、ユキは精霊と人間のハーフってことになるんだろうか?
まぁ…デリケートな話題だし、ここは黙っておこう。
と思ってたのに、お母上自らそのデリケートな話題に触れて来た。
このお母ちゃん、なかなかの爆弾魔だな。
お母上が契約している精霊ドライアドは、女性らしい。
初めて精霊を召喚した頃、お母上は男嫌いで、召喚中も『男はイヤだ。男はイヤだ』と念じ続けていた結果、女性の精霊を召喚できたらしい。
これについてはユキも初耳だったそうで、長年不思議に思っていたそうだ。
(後に聞いた話では、ユキは母親をレズビアンなのではないかと疑っていたらしい)
で、ユキの父親はと言うと、精霊術の研究をしていた学者さんだったそうだ。
同じ伯爵家の生まれだったが、次男坊なので婿養子としてこの家に入った。
が…、研究ばかりで家のことを一切しないので、離縁したと…。
なんか…日本でも似たような話を聞くことってあるよね…。
そんな話をしていたら、ふいに何かの気配がした。
魔物みたいに臭くはないから悪い物ではなさそうだが、なんだろう?森の匂い?
何にせよ、警戒するに越したことはない。
ユキを庇おうと体を動かした瞬間、鮮やかなグリーンのドレスを着た女性が現れた。
「まぁまぁまぁ。レイリーズ、いったいどうしたの?急に現れるなんて、珍しいわね~。あ、ユキちゃんが精霊の彼氏を連れて帰って来たから、見たくて来ちゃったの~?」
レリーズと呼ばれたその女性が、どうやら森の精霊さんらしい。
なるほど、それで森の匂いがしたのか。
「それもあります。ですが、貴方様は…」
俺を見るなり跪いた。
「貴方様は、精霊王様であらせられますね!」
「セイレイオウ…?レイリーズ、どういうことなの?」
さっきまでずっと笑ってたお母上が、真面目な顔になる。
「ミア…貴女ほど精霊術士が、このお方の真のお姿に気付かないだなんて…。ユキ、貴女も心してお聞きなさい。こちらのお方から溢れる魔力、オーラ、そして気品ある佇まい…、私たち精霊の長であり六大神のお一人である『精霊王』様で間違いありません」
なんだその『六大神』ってのは!?そんな設定初めて聞いたぞ!
「精霊王様、このような場所でお目に掛かれるとは恐悦至極にございます」
そう言って跪いたまま、さらに深々と床に頭を着けそうなくらい頭を下げる。
ちょっと待ってくれ!俺はそんな大それたモンになった記憶は無い!
そりゃ持ち物に『神の』なんて文言が付いたり、全属性魔法が使えたり、神術と言われる錬金術が使えたり、全ステータスがカンストしてるなんてチートレベルが過ぎる設定だけど、『神様の加護が過ぎる精霊』くらいのもんだと思ってたんだよ。
最初の頃は『俺、神様だったりして』なんてことを薄っすら考えたことは認めるけど、まさか本当に神様そのものだなんて、聞いてないぞ。
ユキが言うには、この世界で信仰する神様は六柱いるそうだ。
その内の一柱に数えられるのが『精霊王』という存在らしい。
「やはり、ご主人様は神様でいらしたのですね」
ユキが身を震わせながら呟く。
「いや…。ユキ、すまないんだけど、俺は本当に自分が神様だなんて自覚は無いんだ」
ユキに向き直って説得するようにそう言う。
「では精霊王様。お聞き致しますが、貴方様の属性はなんでしょうか?」
レイリーズさんにいきなり鋭いところを指摘される。
「私の属性は…全属性です…」
「左様であられましょう!それこそが精霊王様であらせられる何よりの証でございます!」
何故かレイリーズさんはドヤ顔で嬉しそうに言う。
それは完全犯罪を完璧な証拠固めで見破った名探偵の台詞だよ…。
そこから数分間レイリーズさんの熱弁を聞いていたのだが、俺はやはり神になどなったつもりは無い。
ただただ、美少女たちと戯れたい…もとい、美少女たちを守って愛でるためにこちらに召喚されたおっさんであるというスタンスを崩すつもりはない。
まぁ…神様であるおかげでこのチート能力に恵まれているのなら、それはそれでありがたく享受させていただくとしよう。
「私が神の一人であるということは、どうかご内密にお願いしたい」
念のためだが、そう頼むことにした。
本物の精霊であるレイリーズさんでさえあんなにも取り乱したんだ。世間に知れたらもっと大きな騒ぎになってしまう恐れがある。
「解りました。この場に居る者たちだけの秘密としましょう」
お母上も了承してくれた。随分と垢抜けた性格の人のように見えるが、真面目な顔をしている時の表情や話し方からしても、この人は口が堅いであろう。
この場に居た唯一のメイドのエルザさんも
「職務中に知り得たことは他言致しません」
とクールに言ってたから信用できるだろう。
どちらかと言えば『精霊との結婚ならいいけど、神なんてダメ』とお母上に言われやしないかとドキドキしていたくらいなんだが、杞憂だった。
それどころか、砕けた表情に戻ったお母上は
「ユキちゃん、神様と結婚だなんて、本当にスゴイわね~。ママ嬉しい!」
とか言ってたもんな。
「ご主人様、エリスたちにも神様であることをお伝えした方がよろしいかと存じますよ」
「やっぱり、言った方が良いかい?」
神だと知られたら嫌われたりしないか、心配で仕方がないんだ。
「何を心配されているかは存じかねますが、そのご心配は無用かと。私もそうですが、エリスもミクも、そして妻になったサナちゃんも、ご主人様が神様であることを知って離れて行くなんてことは有り得ません。むしろ誇りに思う事でしょう」
そうか。ユキがそう言ってくれるのなら間違いないだろう。
サナは『私が神様の妻だなんて…そんな恐れ多いこと…』とか言いそうではあるけれど、それでも俺の愛は変わらないことを伝えたら、きっと受け入れてくれると信じている。
ちょっと想定外な事が起こった訪問だったけど、概ね良い時間が過ごせたと思う。
手土産も喜んでもらえたし、お母上とも打ち解け合えた。
妹ちゃんは学校に行ってたので会えなかったけど、いくらでも会う機会はあるだろう。
帰りは屋敷の前で、お母上と十人のメイドさん全員とレイリーズさんに盛大に見送られて、屋敷に転移した。
「お母上にも認めてもらえて安心したよ」
「反対される理由が見当たらないので、私は心配していませんでしたよ?でも、ご主人様が神様だったことが解かったので、私の見る目は間違っていなかったと確信できたのは収穫でした」
ユキは最初から『神様…』とか口走ってたもんな。
俺が『只のおっさんだ』と言い張ってたから、合わせてくれてたんだろうな。
転移魔法で屋敷に入ると、休日だと言うのに愛しいサナが食事の準備に勤しんでる。
サナ一人に頑張らせてたら可哀そうなので、イチャイチャしながら手伝おう。
先ほどのメイドさんとは違う、もう少し年下の少女っぽいメイドさんが紅茶を淹れてくれる。
昨日サナから教わった作法で、まずは一口。
美味しい紅茶ではあるが、サナの方がお茶を淹れる技術は高そうだ。
「ご主人様…そんなに緊張なさらなくても大丈夫ですよ」
ティーカップを持つ手が少し震えていのたを気取られたのか、ユキに緊張を見抜かれる。
「いや…流石に貴族様と話すのは緊張するだろ。まして、それが婚約者のお母上なんだから」
と素直な感想を告げる。
『大臣をしている』と聞いた時から貴族であることは想定していたけど、ここまで高貴なお家柄だったのは想定外だ。
ミクもエリスも普通の家柄と言っていたから、その二人とも身分の上下なんて感じさせない接し方だったからな。
「ご主人様、ご心配なさらなくても大丈夫ですよ。母は女伯ですから、ご主人様も精霊様ということで、爵位としては伯爵です。なので、そんなに気負わなくよろしいかと思います。それに…」
「それに?」
爵位については解ったけど、なんだ?その含みは?
「母はその…なんと言いますか…」
そこまで聞いたところで扉が開いたので、直立不動の姿勢で立ち上がる。
ユキのお母ちゃんはどんな人だろう。貴族だし『閣下』とか呼ばれるような大臣だし、すんごく怖い人だったらどうしようか?
が、扉の先に立っていたのは、すごく柔らかい笑顔を浮かべた三十代半ばくらいの綺麗な女性だった。
あれ?想像してた人物像と少し違うな。
「あらあらあら~。ユキちゃんおかえりなさ~い。お誕生日おめでと~。帰って来てくれてママ嬉しいわ~」
そう言って一目散にユキに抱き付きに行った。
ユキはすごくバツの悪そうな顔をしているが…
その雰囲気から察するに、このお母ちゃんはいつもこういう感じなのだろう。
恐らくだが、ユキとしては
『初めて男を連れて帰って来ているのだから、せめて貴族としてそれ相応の出迎えをしてくれることを薄っすらと期待していたが、その期待を見事なまで裏切られました』
ような顔…。だな、これは。
「母上様…今日は私と契約してくださった…」
「や~ね~。母上様だなんて!いつも通り、『ママ』でいいのよ~」
ユキはもう頭を抱えてしまっている。
先ほどユキが言いかけたことが、少し解かった気がする。
あと、クールビューティーユキは、お母ちゃんのことを『ママ』と呼んでることも。
「で、こちらの素敵な男性が、ユキちゃんの想い人なわけね~」
と俺を見てニコニコしている。
「母上…、こちらは安田 英喜様です。先日、私と契約して下さった精霊様です」
そのように紹介してくれたので、ここは普通に名乗っておこう。
「安田 英喜と申します。ユキさんに召喚されて、日本という異世界の国からやって来ました。こちらはご挨拶代わりの品で、私の世界の焼き菓子の詰め合わせです」
そう言って「お口に合うと良いのですが…」と買って来た菓子折りを渡す。
サナの実家に持って行ったのと同じで、店で売ってた一番大きいのを買ったんだが、メイドさんの数を考えたら、メイドさんたち用の菓子折りも買っておいた方が良かったかな?
「まぁまぁまぁ。それはご丁寧にありがとうございます。異世界のお菓子なんて楽しみね。エルザちゃん、早速皆でいただきましょう」
と、横に控えていた例のお堅い感じのメイドさんに菓子折りを渡す。
なるほど。このメイドさんはエルザって名前なのか。
「ユキちゃん、エルザちゃんから聞いたけど、英樹さんと婚約したんですって?」
いきなりぶっ込んで来るな。この母ちゃんは。
「はい。先日、契約の契りを結んで…その時に婚約もしていただきました」
ちょっと恥ずかしそうに、でも言い淀むことなく言っちゃった。
それってもう『この男とセックスしました』って言ってるようなもんじゃん。
「それもおめでと~!と言う事は、ユキちゃんの結婚相手は探さなく良いのね?ママ安心したわ~。英樹さん、ユキちゃんのことお願いしますね~」
サナの時も思ったけど、精霊ってだけでそんなに簡単に結婚を許しちゃっても良いのか?
俺なら自分に娘が生まれて彼氏を紹介されたら、二~三発殴るけどな?
まぁ、場の流れに任せて乗っかっておこう。
「ねぇねぇユキちゃん。二人はいつ結婚するの?もう結婚証明書は書いたの?」
お母上はそれはもう興味津々のようだ。
ユキはその事について
「私たちは魔王討伐が有るので、先にその使命を果たしてから結婚します。なので、私たちの仲間のサナちゃんとまずは結婚してもらいました」
と、それも伝えてしまう。
『他の女と結婚してる男に娘を嫁がせるわけにはいかない』
と言われるかと思ったが、これもあっさりと
「あらあらあら。そうなのね~。サナちゃんって、あの可愛らしいメイドさんよね?素敵ね~。お似合いの夫婦じゃな~い。それに、あんなに可愛らしいサナちゃんと家族になれるだなんて、ユキちゃん羨ましいわね~」
と言われてしまった。
そう言えば、気になっていたことが有る。
ユキのお母上もユキと同じ精霊術士で、森の精霊ドライアドと契約していると聞いた。
ユキが自分で召喚した精霊である俺と結婚したってことは、お母上もドライアドと結婚したんだろうか?
もしそうだとしたら、ユキは精霊と人間のハーフってことになるんだろうか?
まぁ…デリケートな話題だし、ここは黙っておこう。
と思ってたのに、お母上自らそのデリケートな話題に触れて来た。
このお母ちゃん、なかなかの爆弾魔だな。
お母上が契約している精霊ドライアドは、女性らしい。
初めて精霊を召喚した頃、お母上は男嫌いで、召喚中も『男はイヤだ。男はイヤだ』と念じ続けていた結果、女性の精霊を召喚できたらしい。
これについてはユキも初耳だったそうで、長年不思議に思っていたそうだ。
(後に聞いた話では、ユキは母親をレズビアンなのではないかと疑っていたらしい)
で、ユキの父親はと言うと、精霊術の研究をしていた学者さんだったそうだ。
同じ伯爵家の生まれだったが、次男坊なので婿養子としてこの家に入った。
が…、研究ばかりで家のことを一切しないので、離縁したと…。
なんか…日本でも似たような話を聞くことってあるよね…。
そんな話をしていたら、ふいに何かの気配がした。
魔物みたいに臭くはないから悪い物ではなさそうだが、なんだろう?森の匂い?
何にせよ、警戒するに越したことはない。
ユキを庇おうと体を動かした瞬間、鮮やかなグリーンのドレスを着た女性が現れた。
「まぁまぁまぁ。レイリーズ、いったいどうしたの?急に現れるなんて、珍しいわね~。あ、ユキちゃんが精霊の彼氏を連れて帰って来たから、見たくて来ちゃったの~?」
レリーズと呼ばれたその女性が、どうやら森の精霊さんらしい。
なるほど、それで森の匂いがしたのか。
「それもあります。ですが、貴方様は…」
俺を見るなり跪いた。
「貴方様は、精霊王様であらせられますね!」
「セイレイオウ…?レイリーズ、どういうことなの?」
さっきまでずっと笑ってたお母上が、真面目な顔になる。
「ミア…貴女ほど精霊術士が、このお方の真のお姿に気付かないだなんて…。ユキ、貴女も心してお聞きなさい。こちらのお方から溢れる魔力、オーラ、そして気品ある佇まい…、私たち精霊の長であり六大神のお一人である『精霊王』様で間違いありません」
なんだその『六大神』ってのは!?そんな設定初めて聞いたぞ!
「精霊王様、このような場所でお目に掛かれるとは恐悦至極にございます」
そう言って跪いたまま、さらに深々と床に頭を着けそうなくらい頭を下げる。
ちょっと待ってくれ!俺はそんな大それたモンになった記憶は無い!
そりゃ持ち物に『神の』なんて文言が付いたり、全属性魔法が使えたり、神術と言われる錬金術が使えたり、全ステータスがカンストしてるなんてチートレベルが過ぎる設定だけど、『神様の加護が過ぎる精霊』くらいのもんだと思ってたんだよ。
最初の頃は『俺、神様だったりして』なんてことを薄っすら考えたことは認めるけど、まさか本当に神様そのものだなんて、聞いてないぞ。
ユキが言うには、この世界で信仰する神様は六柱いるそうだ。
その内の一柱に数えられるのが『精霊王』という存在らしい。
「やはり、ご主人様は神様でいらしたのですね」
ユキが身を震わせながら呟く。
「いや…。ユキ、すまないんだけど、俺は本当に自分が神様だなんて自覚は無いんだ」
ユキに向き直って説得するようにそう言う。
「では精霊王様。お聞き致しますが、貴方様の属性はなんでしょうか?」
レイリーズさんにいきなり鋭いところを指摘される。
「私の属性は…全属性です…」
「左様であられましょう!それこそが精霊王様であらせられる何よりの証でございます!」
何故かレイリーズさんはドヤ顔で嬉しそうに言う。
それは完全犯罪を完璧な証拠固めで見破った名探偵の台詞だよ…。
そこから数分間レイリーズさんの熱弁を聞いていたのだが、俺はやはり神になどなったつもりは無い。
ただただ、美少女たちと戯れたい…もとい、美少女たちを守って愛でるためにこちらに召喚されたおっさんであるというスタンスを崩すつもりはない。
まぁ…神様であるおかげでこのチート能力に恵まれているのなら、それはそれでありがたく享受させていただくとしよう。
「私が神の一人であるということは、どうかご内密にお願いしたい」
念のためだが、そう頼むことにした。
本物の精霊であるレイリーズさんでさえあんなにも取り乱したんだ。世間に知れたらもっと大きな騒ぎになってしまう恐れがある。
「解りました。この場に居る者たちだけの秘密としましょう」
お母上も了承してくれた。随分と垢抜けた性格の人のように見えるが、真面目な顔をしている時の表情や話し方からしても、この人は口が堅いであろう。
この場に居た唯一のメイドのエルザさんも
「職務中に知り得たことは他言致しません」
とクールに言ってたから信用できるだろう。
どちらかと言えば『精霊との結婚ならいいけど、神なんてダメ』とお母上に言われやしないかとドキドキしていたくらいなんだが、杞憂だった。
それどころか、砕けた表情に戻ったお母上は
「ユキちゃん、神様と結婚だなんて、本当にスゴイわね~。ママ嬉しい!」
とか言ってたもんな。
「ご主人様、エリスたちにも神様であることをお伝えした方がよろしいかと存じますよ」
「やっぱり、言った方が良いかい?」
神だと知られたら嫌われたりしないか、心配で仕方がないんだ。
「何を心配されているかは存じかねますが、そのご心配は無用かと。私もそうですが、エリスもミクも、そして妻になったサナちゃんも、ご主人様が神様であることを知って離れて行くなんてことは有り得ません。むしろ誇りに思う事でしょう」
そうか。ユキがそう言ってくれるのなら間違いないだろう。
サナは『私が神様の妻だなんて…そんな恐れ多いこと…』とか言いそうではあるけれど、それでも俺の愛は変わらないことを伝えたら、きっと受け入れてくれると信じている。
ちょっと想定外な事が起こった訪問だったけど、概ね良い時間が過ごせたと思う。
手土産も喜んでもらえたし、お母上とも打ち解け合えた。
妹ちゃんは学校に行ってたので会えなかったけど、いくらでも会う機会はあるだろう。
帰りは屋敷の前で、お母上と十人のメイドさん全員とレイリーズさんに盛大に見送られて、屋敷に転移した。
「お母上にも認めてもらえて安心したよ」
「反対される理由が見当たらないので、私は心配していませんでしたよ?でも、ご主人様が神様だったことが解かったので、私の見る目は間違っていなかったと確信できたのは収穫でした」
ユキは最初から『神様…』とか口走ってたもんな。
俺が『只のおっさんだ』と言い張ってたから、合わせてくれてたんだろうな。
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