推しの兄(闇堕ち予定)の婚約者に転生した

花飛沫

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2. 現れる登場人物達

アルバートの文化祭事故

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 時は過ぎ、オズは中等部2年生になった。

 という訳で、ヒューバートの弟でオズの推しであるアルバートが、中等部に入学してきたのである。去年はアルが初等部だったので一緒に昼食を食べられなかったが、今年から同じ学舎で過ごせる様になったのでまた一緒にお昼を過ごす様になり、お昼のメンバーが元に戻った。
 今年のオズのクラスはというと、Bクラスである。ヒューバートとロニーも同じクラスで、逆にジャスパーとは離れた。ジャスパーは何だかんだずっと近くに居たので、寂しいものである。

 春と夏の合間にある体育祭ももう終えた。また体育場1と2に分けられたのでオズは去年と同じく2の方で試合をして、また最後は1の方へ観戦に行った。
 アルバートは試合でとても活躍しており、オズが全力で叫んで応援したので周りがドン引いていた。オズは静かでもないがうるさいタイプでもなく顔の印象でおしとやかに見られがちなので、ギャップもあって視線を集めてしまったのだ、多分。
 途中ヒューバートが「オズがアルしか見てない。」と拗ねたので、応援する数が二倍になり、翌日は声が枯れた。

 そうしていよいよ2年の夏!

 やってきた文化祭。
 
 去年も学祭はやったしもちろん楽しかったたが、推しがいる学祭は楽しみ度が桁違いだ。

(でも‥‥楽しんでばかりもいられないんだよな。)

 何故なら、学祭2日目にまた事件が起こるからである。そう言われるとヒューバートの顔が浮かんでくるかもしれないが、実は、この事件の被害に遭うのは彼ではない。
 今回事件に巻き込まれるのは、アルバートなのだ。事件名は‥‥『アルバート、劇の機材事故に遭う』としよう。その名の通り、舞台裏に置いてあった劇で使われる予定の機材が倒れてきて、アルバートが怪我を負うという内容である。

(推しの怪我‥‥何としても防がなければ!)

 オズは闘志に燃えていた。その勢いのまま、Bクラスの出店で出すクレープの生地を物凄い速さでかき混ぜる。

「なんか今年オズのやる気凄くね?」
「‥‥アルがいるからだろう。」
「?何故アルバートが居るとオズのやる気が出るんだ?」

 Bクラスの様子を見にきたジャスパーと、ヒュー、ロニーが何か話している。ヒューは「そんな事は知らん。」と言いながら、クレープを焼く鉄板の準備をする。
 ある程度準備が出来ると、オズたちはクラスを出た。ロニーはクラスに残ったが、ヒューとオズの店当番は午後からなので、午前中は自由だ。因みにジャスパーも自分のクラスの当番が午前中らしく、気が付いたらクラスに帰っていた。

「じゃあオズ、どこから回ろうか‥‥」
「オズー!兄さーん!」

 ヒューがオズをエスコートしようと手を差し出した時、後ろから二人の名前を呼ぶ声が聞こえる。アルバートだ。

「アル!」
「ね、僕も一緒に回りたい!ダメ?」

(は?上目遣い可愛すぎん?天使?天使か?)

 一瞬フリーズしかけたが、オズは危ない、危ない、と正気を取り戻す。アルを見てとびきりの笑顔になったオズに、ヒューが何か言いたげな目を向けている事には気がつかない。

「勿論いいよ。クラスの当番は午後からなの?」
「ううん。僕は今日何も当番が当たってないんだ!昨日めちゃくちゃ働いたから、皆んなが今日は休んで良いよって言ってくれてさ。」
「おお、いっぱい働いたの~?アル偉い!」
「まあ、手が空いていたなら当然と言えば当然だがな。」

 猫撫で声でアルを褒めちぎるオズの後に辛辣なヒューの言葉が続き、オズはヒューにじいっ‥‥と視線を送る。ヒューは「何だよ。」と少し怒った様な声で言い、オズは「ええっと‥‥別に。」と困惑しながら返した。

(じゃなくて、アルが1日フリーとなると、やばいんじゃ?)

 オズがそばに付いていられるのは午前中だけだ。午後は近くにはいられない。

(まあ、午後は気をつけるように言うしかないか。)

 兎に角、午前だけでも守り切らなければ!
 オズはアルの両手をガシっと握った。

「アル、今日は午前だけでもいいから、絶対に俺のそばから離れないで!ずっと一緒にいてほしい!」

(‥‥この言い方キモいか?)

「そんなの喜んで、だよ!やったぁー!嬉しい。オズ、ありがとう!」

 アルはオズの腕にギュッと自分の腕を絡める。オズは今の自分のセリフを「若干キモいか?」と思いアルに何と言われるかビクビクしていたので、その反応にホッとした。
 ところが横に立っていたヒューは、わなわなと肩を振るわせる。オズはその異様な空気に気が付き、ヒューの顔を見上げた。ヒューは怒っているような、拗ねているような顔をしている。

「オズはアル贔屓びいきすぎる。」

 そんなこと、とオズが言う前にヒューの言葉が続いた。

「もういい。そんなにアルが好きなら、今日は二人で回りなよ。」
「ヒュー‥‥?」

 そう言い切ると、ヒューはオズとアルに背を向けて歩き出してしまう。オズは直ぐにでも追い掛けて「そんな事ない!ヒューだって大事だよ。大好きだよ。」と言いたかったが、今日は本当に一瞬たりともアルバートから目を離したくない。

(ごめんヒュー。後で絶対全力で謝るから!)

 心の中で懺悔していると、アルが呆れたような溜め息を吐いた。

「もう、兄さん、心の狭い男は嫌われるよっていつも言ってるのに‥‥。」
「え?いつも?」

 聞き間違いだろうか。

「いや、何でもないよ。‥‥じゃあオズ、兄さんは一旦置いといて、そろそろ行こうか!」
「あ、うん‥‥。」

 アルがもう行こうと促す。オズはヒューが消えていった方向に少し視線が引っ張られていたが、二人はそのまま歩き出した。






















「はぁ‥‥。」
「どうした、溜め息なんかついて。」

 オズの溜め息に、ロニーが反応を示した。
 今は午後2時半、オズの店当番の時間だ。ヒューも午後担当だけれどオズとは時間が微妙にずれているので、あれ以来彼には合っていない。ロニーは午前中で仕事が終わっていて、今は普通に自分のクラスに遊びにきたところだ。

「いやー、なんて言うかねえ‥‥。」

(結局、午前中は何も起きなかった。)

 アルバートには一応今日1日は周りに気を付けて過ごすように何度も念を押したが、今この時もアルがどうしているのか気になってクレープのお会計の計算に集中できない。

(事件は午後に起こるのか?)

 思考を巡らせながら、お会計を進める。
 
「はい、120円で‥‥あっ、違った、130円‥‥と見せかけてからの135円ですね。」
「本当に大丈夫か?」

 ロニーが本気で心配の目を向けてくる。確かに今のはやばかった。しかし本当のことを言える訳もないので、ロニーには大丈夫だと言って送り出す。

(でも、俺が付き添ったから物語が変わって事件が起きなかったとか‥‥ないかなあ。)

「アル‥‥。」

 そうして、アルを心配して集中できないまま三十分が経った頃。

「‥‥オズ。」
「あ、ヒュー。」

 ヒューバートが交代にやってきた。売れ行きはいいかとか、忙しいなとか、どこのクラスの出店が良かったとか、世間話を挟みつつ役割を交代する。
 あんなに謝ろうと決めていたのに、案外ヒューの纏う空気が暗くてオズは言いたかった言葉が出てこなくなった。

「じゃあ、また‥‥。」

 オズがそう言って去ろうとした時、急に廊下がざわざわと騒がしくなる。

「何だ?」

 オズは首を傾げる。ヒューも訝しげな表情だ。
 騒ぎはどんどん大きくなって、ドタドタと学校指定のショートブーツが走る音が聞こえたと思ったら、一人の男子生徒がBクラスの教室に入ってきた。生徒は汗だくで、ものすごく焦った形相で室内を見回す。
 
「あ!良かった、二人ともいる!」

 オズとヒューを見てそう言った。オズはそれだけで嫌な予感が湧いてきて、その生徒に詰め寄った。

「僕達を探していたって、何かあったの?」
「そ、それが、あのヒューバート君の弟のアルバート君が、劇の機材が倒れるのに巻き込まれ‥‥。」

 そこまで言いかけたところで、ヒューも顔色を変えて教室出口の方まで駆け寄ってきた。オズは顔を真っ青にさせる。

(やっぱりずっと一緒に居るべきだったんだ。当番を誰かに押し付けてでもそうするべきだった。どうしよう!アルが‥‥!)

 男子生徒の言葉には続きがあった。

「‥‥そうになったのをすんでところで庇ったジャスパーが、腕と頭を打って保健室に運ばれたんだ!」

 オズは数秒沈黙する。

「‥‥え?待って、誰が何だって?」
「だから、アルバート君を庇ったジャスパーが怪我して保健室。」
「簡潔だな。」

 改めて尋ねたオズに生徒は答え、ヒューがそう感想を述べた。

(ん?なんか小説と違くね?)

 男子生徒はアルバートともジャスパーとも仲がいい二人を探していたらしい。て言うかヒューに関してはアルの兄だし。
 
(ジャスパーが怪我って、物語変わり過ぎでは!?)

 一応、ジャスパーは小説ではアルバートを殺そうとしてヒューバートを貶める悪役サイドの人間な筈だった。この世界ではオズが止めたから未遂になったものの、そう言う過去だってちゃんとある。
 今でこそジャスパーは親友と呼べるくらいの仲だからアルを助けたと言うのも納得でしかないが、小説をベースで考えると、これは物凄い展開なのではないだろうか。

 悪役サイドのはずの人間が、害を加える相手だった筈の人間を助けた。

(運命は変えられるのかもしれない‥‥変わってきているのかもしれない!)

「取り敢えず保健室!見に行こう!」
「ああ!」

 オズとヒューは頷きあって、共に駆け出した。
 午後の日差しは煉瓦れんが造りの校舎に優しく差しているが、気温は真夏らしくじりじりと暑い。廊下では「こら!廊下を走るな!」と先生に怒鳴られた気がしないでもないが、二人は止まらず走った。
 辿り着いた保健室の扉を、オズは容赦なくスパァン!と開く。

「ジャ‥‥。」

 大声で言いかけたが、続く言葉は自然と勢いを失った。
 並ぶベッドのうちの一つに寝ているジャスパーと、そのベッドの脇に椅子に座って寄り添うアルが視界に入ったのだ。角度的にジャスパーの顔は見えないので、起きているのかどうかも分からない。対して、アルは‥‥。


 アルバートは寝台に寝ているジャスパーを見つめ、顔を真っ赤にさせていたのだ。まるで、恋に落ちた人間のような表情で。


(‥‥‥‥あれ?)

 



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