召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第一章 異世界バカンスのはじまり

じこしょうかい

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 地下室で、魔法の食べ物、カロメーをお皿に移し替える。
 大きなテーブルを皆で囲んで食べることにした。

 お皿に山盛りのカロメーを盛り付けて戻ってみると、テーブルの上に水の入ったコップが置かれていた。
 真新しい木製のコップで取っ手もついている。地下室にオレがもどっている間にノアがコップを用意してくれたらしい。外に井戸があるそうだ。
 気が利くな。
 さて、落ち着いて食べる準備ができた。
 もっとも、お腹が空いているわけでもないので、ちょっとしたティータイムといったところか。
 
 お茶が無いけど……。
 
 オレも含め自己紹介をすることにする。
 ノアはオレの事を知ってはいるが、名前すら教えていない。他の同僚も同じような状況だしな。
「じゃ、あらためて私は……」
 スーツの襟を整えながら、あらたまって名乗ろうと考えて言葉を発した時。
 
「リーダ」とノアがまっすぐこちらをみて声をあげた。

 リーダーってのは、今の立場がチームリーダーだったからであって、本名ではない。
 同僚が「リーダー」と呼んでいたのを名前だと誤解されてしまったらしい。
 しかも、あいつらも普段は本名で呼んでいるのに、今日に限ってリーダー、リーダーって連呼していたな……。
 それはともかく、どうしたものか。
 ノアのしてやったりといった顔をみていると、どうにも否定しかねた。

「あららぁ、本当ね。さっきまでは名前が読めなかったのに、今はリーダってはっきり読めるわ」

 不意に頭上から声がした。
 わすれていた。この場には、こいつもいた。フヨフヨ浮いている管理人のロンロ。

 彼女はなんて言った?
 名前が読める? 今はリーダってはっきり読める?

「あの、ロンロさん」
「んぅ、なにかしらぁ」
「名前が読めるってのはどういうことなんですか?」

「名前は魂に刻まれるでしぉ。魂に刻まれた事柄、名前だったり身分だったりは看破の呪文で読めるでしょ。わたしは魔法は使えないけれど、生来の能力として魂に刻まれた言葉が見えるのねぇ。さっきまでは、あなたの名前が何故かよめなかったのぉ、けれど今は読めるの」

 魂がどうとか、身分がどうとか、言っている意味がわからない。
 そもそも看破の呪文ってなんだ? 当然のように言われても困る。

 困惑する姿をみたからなのか「ちょっと待ってて」ノアはそういって、隣の部屋から一冊の本を抱えてきた。
 薄くて大きい本で、黄色と緑色をした花の飾りが刺繍されている綺麗に装丁された本だ。
 表紙の色のくすみ具合と、汚れから、ずいぶんと年季の入った本に見える。
 その本を丁寧に開けて1ページずつ丁寧にめくっていく。
 紙の1枚が厚い。
 文字は手書きのようにみえる。
 色とりどりの花や着飾った人の綺麗な絵や模様がたくさんある立派な絵本だ。

「これ!」

 ノアが、本の中から一つの模様のような魔法陣を指さした。
 そこには看破の魔法が図入りで紹介されていた。
 正体の把握、そして真意の解明と説明がされている。
 そのまま、ノアは本をなぞりながら何かをつぶやく。するとノアの胸のあたりがほんのりと光った。 続いて右肩から背中に、背中から腕に、腕から指先へと光が進み、花火のようにはじける。
 ふと目の前に透明な板のようなものが浮き上がった。
 ガラス板のように透明な板だ。
 回りを見るとオレだけでなく、同僚達の目の前にも同じような板が浮かびあがっている。
 その透明な板には、見たことのない文字で名前が書かれていた。見たことのない文字なのに、まるで使い慣れた文字のように簡単に読めた。
 自分の目の前の板には名前リーダと書かれていた。同僚には名前不確定と書かれている。
 なぜかノアも驚いて見渡しているけれど、それ以上に、ゲームのステータス画面みたいなものが、いきなり浮き上がってきたことに驚いた。
 これがあれば、派遣先で名前覚えなくてすみそうだ。
 実際のところ、現場が変わるたびに会う人が違うので、顔と名前が一致しないのだ。おかげで名前を間違えたときのフォローは手慣れたものだ。
 そんな感じに、いつも名前と顔を覚えるのに苦労していたからこの魔法は助かる。
 もっとも、元の世界に帰還しても使えるならば……という話だが。

「ノア、この人の名前はサウス・プレインっていうのよ」

 名前について考えていると不意に同僚の一人がわけのわからないことを言い出した。
「えっと、プレイン?」ノアは首をかしげながら聞き返す。
「そうなのよ。かっこいい名前でしょ」微笑みながら同僚は返答する。
 どういうつもりなのだろうか、サウス・プレイン?
 サウスが南だから、プレインってのは原という意味なのかな。直訳?
「思ったとおり……、みんな南原の名前をみて」と先ほど声を上げた同僚の一人は、ノアに軽くうなずいたあと別の同僚である南原の目のまえの板を指さした。
 そこには「名前プレイン」と書かれている。
 ノアが把握した名前で決定されるってことか……。
「鋭いっすね、さすが鹿賀見ねーさん!」さっき命名されてしまったプレインが横の同僚を褒めたたえる。
 彼は勝手に名前つけられて平気なのだろうか?
「カガミ・ネーサン!」すかさずノアが元気に反芻した。
「あ、ちょっと待って」先ほどプレインを命名した同僚は、あわてて否定しようとしたが遅かった。
 名前が、カガミ・ネーサンになっている。
「やばい、ちょっと何もいわないでね。なんかいい名前考えるから」すかさず4人の同僚のうち、一人が両手を前に突き出して掌を振りながら、牽制するようなことを言う。
「了解っす。ミズキねーさん」プレインが返事をした。

「「「あ」」」

 時すでに遅し、ミズキ・ネーサンで決定されてしまっていた。
「あぁ、ちがうのに……」と嘆くミズキ・ネーサンをみて、ノアは顔色を変える。
「あははは、まぁいいだろ。本名そのままなんだしさ」楽しそうに笑いながら、まだ命名されていない同僚の彼がミズキ・ネーサンに慰めにならないコメントを投げかけた。
「だまれ、ポチョムキン」すかさずミズキ・ネーサン……ミズキが、指さしつつ彼に言い返す。
 ポチョムキンって、戦艦の名前だっけかな。
 それからしばらくミズキとまだ名前の決まっていない同僚が、やりとりをして結局はサムソンに名前が決まった。どういう理屈かわからないがポチョムキンは回避したようだ。

 同僚達も、状況になじんできたのかいつものノリになってきた。
 サムソンに、ミズキに、カガミに、プレインか。
 ミズキとカガミは本名だし、サムソンはネトゲで使うあいつのハンドルネームだ。
 オレとプレインだけが思いもしなかった名前になってしまった。
 適当に決まってしまった新しい名前。
 まるでゲームのようだ。
 魔法の存在で現実感が薄れてきたのか、今決まった名前のほうが自分達になじんでいるように思えた。
 
 それにしても魔法か、オレにも使えるのだろうか。
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