召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第二章 屋敷の外へと踏み出して

しゅうのうのまほう

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「木から石への素材の変更は、特に問題なくいけました。でも、魔力が多く必要になりそうです。ついでに、魔力をつぎ込んでの素材の省略には限界だと思います」
「素材の変更でそんなに変わるの?」
「素材の変更で大幅に変わるという訳でなくて、大きさと強度の問題で変わるみたいなんです」
「昨日、石造りで1メートルくらいのゴーレムを作ってみたが、カガミ氏でもオレでも、一人の魔力だと形にするだけで精一杯だ。強度が足りない」

 この世界の魔法は、原則触媒が必要だ。
 ただし余分に魔力を使うことで触媒は省略できる。小さな木製の場合は、木片を準備するだけで他に必要なものは魔力でなんとかできた。ところが大きな石造りのゴーレムになるとそうはいかない。
 今回問題になっているのは、大きな石造りのゴーレムを作る場合は、最低限必要な魔力だけでも膨大になり、触媒を省略できる魔力的な余裕がないことだと、カガミとサムソンの二人は主張する。

「そうすると、石以外の触媒も必要になると?」
「そうだな。ゲームのように残りのマジックポイントが見える訳でないから感覚的な話にはなるが、石だけよりも、他の触媒があれば体感では半分くらいの魔力で賄えた。今後、さらに大きく硬くするには、触媒は必要不可欠だ」

 1メートルくらいのゴーレムを作ってみてわかったことは、ゴーレムの体を作るための石と、水と石灰。塩、火山灰が必要らしい。
 水と石以外は、この屋敷に微量だが置いてあった。それを複製の魔法で増やすことで利用する。
 街のそばにある湖から、水は汲めば良いだろう。

「トントン拍子で決まるなぁ」
「問題は石だと思います」
「石?」
「カガミ氏の懸念は、街で石が調達できるかということだよ。幸い、屋敷の周りにはポツポツとボロボロになった廃墟とすら言えない建物の成れの果てがあるから、石は大量に手に入るんだが……」
「ここにある石を、荷車に乗せて馬車で引かせたとして、6メートルくらいのゴーレムを作るための触媒を賄うには、100往復は軽くかかると思うんです」
「あー、納期までの14日では往復する時間すら足りないな。ここでゴーレム作って歩かせるってのは?」
「街まで結構遠いぞ。それに足場も悪く下り坂だ。無事つけるかどうか不確定要素が多い。下手に移動に時間かけてると、逆に魔法陣を作るだけの時間がなくなるだろ」
「ちなみに現地で石を魔法による複製というのも、複製によって増えた石は強度がなくなるので、ダメでした。大きいゴーレム作ると自壊してしまうかもと思います」

 結局のところ、街に触媒を置いておいて魔法陣でゴーレムを現地生成する必要があるということか。

「石を街で賄えないか、調べてみるよ。ロバで行くとして……そうだ、ノア、街まで一緒に行ってみる?」
「……行くのは、嫌です」

 サッと目を伏せてノアは小声で答えた。
 ノアは街には行きたくないようだ。そういえば、前も行きたがらなかったし、何か嫌な思い出でもあるのかもしれない。
 一人で街に行く。ちょうど町へと入る門の手前で、昨日ヘイネルさんと一緒にいた少年に声をかけられる。厚手のマントを羽織り乗った様子から、どこかに行く途中のようだ。

「リーダ様。今日も街に用事が?」
「ゴーレムを作るにあたって触媒のことでちょっとね」
「触媒……何かお力になれるかもしれません。私に教えていただけますか?」

 彼はヘイネルさんに魔法を習っているらしく、触媒の話などをすぐに理解してくれた。
 触媒の置き場所については、確認してくれると請け負ってくれる。
 ただし、石そのものについては力になれないと断られた。

「石は高いですからね。領主様もヘイネル様も、石まで用意はなされないでしょう。昨日の契約でも、全てリーダ様たちで用意するとなっていましたし」

 そういえば、昨日の契約内容の読み上げでも、そう言っていたな。
 ちなみにゴーレムに必要な石の量だと、金貨200枚はするらしい。

「たかが石と思っていたんですが、石って高いんですね」
「売り物にする石は、しっかりとした石切り場から持って来た物ですから。特に今は橋を新しくするために石を集めていることもあって、建築用途なのどの石が不足しがちなんです」

 売り物だから高いか……言われてみると納得する。
 収穫は、触媒の置き場所の確定だけ。
 門を入ってすぐの兵士の詰め所近くに、開けた場所があり、そこにロープで囲いを作って貰う。ここに大量の石を置くことになった。

 他には収穫がなく、トボトボと家路につく。

 帰り道、色々考えてみたが、用意された置き場所までの石の運搬を、何らかの手段で行わないとダメだという結論にしかならなかった。

 そんな訳で、この屋敷の近辺から街への石運びを考えることにする。
 ゴーレムの生成の魔法陣を研究しているブレーンの二人、カガミとサムソンをそこまで頼れない。残りミズキとプレインは、細々な作業の助手的なことをしているので、こちらもあまり邪魔をしたくない。
 まずは、自分でなんとかすることにした。
 蔵書の目録をあたってみる。すぐに念力の魔法というのが見つかった。

「調べ物?」

 保存の魔法陣が描かれた石畳の、ひんやりとした倉庫の床に座って本を広げていると、ノアがいつの間にかそばに来ていた。
 ロンロもその後ろに飛んでいる。

「石をね、街まで運ぶことにしたから、楽な方法ないかなって調べてるんだよ」
「私も手伝う」
「ありがとう。……そうだ、二人とも、ここから街まで沢山の石を運ぶんだけれどいい魔法知らないかな?」

 仲間の4人だけでなく、ここに2人もいるじゃないか。ダメもとで聞いてみる。ノアには難しいかもしれないが、ロンロなら知っているかもしれない。

「転移……はダメねぇ、領主に禁止されているだろぅしぃ……。少しだけ石を運んで複製……複製は石としての存在が希薄になるからダメよねぇ……」
「しゅうの……収納の魔法は? カバンにいっぱい石を詰め込むの」

 ロンロがぶつくさと悩んでいるうちに、ノアが収納の魔法は? と提案してくれた。
 なんとかポケットみたいな魔法がこの世界にはあるのか。早速目録を当たってお目当ての魔法を探し当てる。
 収納の魔法は、バッグに魔法の力を与えることで、魔力が許す限りいくらでも物を詰め込めるようになる魔法らしい。
 こういう物に特殊な効果を与える魔法を付与魔法と呼ぶとある。
 触媒は……必要ないようだ。効果が消えるときは、まず重さが戻り、大きさが戻るとある。バッグをお腹に抱えたまま寝るなどしないことと注意書きがされている。下手をすると解除されて放出された中身に埋もれてしまうことがあるそうだ。
 魔法陣は複数記載されている。よく見てみると、布製のバックや、皮製のバック、蓋のないバスケット状のカゴ等々、形や材質ごとに魔法陣が微妙に違う。

「ノアの教えてくれた収納の魔法を試してみたいとおもいます」

 そう宣言し、パチパチと手を叩く。
 ノアとロンロもそれに続く。
 それからすぐに、小さいポーチで試してみる。中身にはノアがおやつとして持って来たカロメーを詰め込んだ。詰め込んでもぺしゃんこのままのポーチが、魔法が切れた途端膨らんでパンパンになった。なかなか楽しい。「成功」といって、パチパチと手を叩いた。ロンロとノアもそれに続く。

「次は石を入れてみたいとおもいます」
「小さいのしか入らないね」

 袋の口に入る大きさが限界なのは魔法を使っても変わらない。ちょっとだけ、袋の近くに石を持っていったら石が小さくなったりしないかなと思ったりしたが、そこまで都合よくはなかった。仕方なく大きな開け口の袋を探すことにする。

「あれ、みんなで何してるの?」
「おーきな袋を探しているの。大事なの」
「収納の魔法に必要になるのぉ、ミズキはどこにあるか知らないかしらぁ」
「どんな袋でもいいの?」
「試してみないとわからないな。でも、いいんじゃないかと」
「じゃ、作っちゃえば? 布切れなら、あるわけだしさ」

 言われてみればそうだ。なければ作ればいい。
 早速、使っていないベッドのシーツをひっぺがして袋を裁縫する。
 古ぼけて少しだけ茶色く変色した布に、チクチクと布に糸を通す。

「あなた、器用なのねぇ」
「うあ……」

 ロンロは本心かわからない褒め方だったが、ノアは口をポカンと開けて見入っている。

「これは並縫い。あとでノアにも教えてあげようか?」
「うんうん」

 とても大きく頷くノアが面白い。

「せっかくだから丈夫に作ろうか」

 さっと糸を引き抜いて、縫い直すことにした。
 ノアの反応が面白いので、もう少しだけ出来るところを見せつけてみたい。

「これが返し縫い」
「いっぱいあるですか!」
「色々な縫い方があるんだよ」

 やっているうちに、これ以上なく褒められている感じがしたので調子に乗って作りこんでしまった。
 気がつけば、とても大きく、赤く鮮やかなチューリップの花の形をした刺繍つきの巾着袋が出来上がっていた。
 熱中していたので気がつかなかったが、様子を見に来たミズキは呆れていたらしい。
 出来上がった袋で収納の魔法を試す。石も予定通り詰め込めて嬉しい。
 ところが詰め込みすぎたせいか、すぐに魔法が切れて袋が破れてしまった。
 チクチク裁縫して直す。
 詰め込む石を減らして、街へ運搬する。運搬途中で袋が破れる。込める魔力や石の量を調節する。破れた袋を裁縫して直す……こんなことを繰り返して7日ほど試行錯誤することになった。
 安定して街へ石を運べるようになる頃には、最初の面影のない、継ぎ接ぎだらけの巾着袋になっていた。ついでに2・3分かかる収納の魔法の詠唱も、暗唱できるくらいにまで慣れていた。
 努力の甲斐があって、納期の前々日には所定の位置へ、触媒を全部用意することができた。街の入り口にオレの背丈ほどに高く積まれた石の山は、努力の成果に見えて、それなりの充実感を与えてくれた。
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