召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第三章 魔法仕掛けの豪邸と、その住人

おこないのせきにん

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 それにしても、なんで電撃の魔法でテントが倒れたのだろう。
 ヘイネルさんの前で使った電撃の魔法は威力が出なかった。それに声を奪う罰も、今は禁止されていると言っていたな。
 そもそも、ザーマがミズキを奪い取ったなんて言わなければ、こんなことにはならなかった。

「奴隷商人のザーマが、ノアお嬢様の奴隷を騙し取ろうとしたことは罪になりませんか? それでおあいこってことには?」
「それは君達が言っているだけではないかね。証拠もない。さらには、奴隷の売買にはお互いが魔力を流さなくてはならない」
「例外は?」
「普通の奴隷契約であれば、領主権限で所有者を変えることはできる。だが、この領地でそれができるのは、領主と、領主に権限を与えられた彼だけだな」

 ヘイネルさんが手を払うように指し示す先には、最初に現れた偉そうな男がいた。この領地に二人しかいないのか。

「あの人が奴隷商人とグルってことは?」
「彼は先ほどまで城で執務を行っていた。手を触れずに所有者を変えるといっても、視認していなければならない。故に彼にはできない」

 ザーマがオレ達を騙そうとした事すら無かったことにされてしまうと、オレ達が脈絡なく暴れただけになってしまう。弁明すらできない。これではただの危険人物の集団だ。
 これでは説明できないことだらけだ。説明できないことに共通点はないだろうか。

 ザーマが、ミズキの所有権を奪おうとしたとき、魔力を流さなくても成功すると確信していたこと。
 ザーマが、出来ないはずの声を奪う罰を行使したこと。
 オレが、電撃の魔法でテントを破壊できたこと。
 この3つについての共通点だ。
 
「さて、そろそろ獣人の手当も終わったようだ。城へと来て貰うとしよう。念のため言っておくが、私の命令を断る権利は君達にない。すぐに支度するように」

 考えがまとまらないうちに、ヘイネルさんに城へと向かうように言い渡される。城へと向かう道すがら考えてもいいわけだし、まだまだ時間はある。
 ヘイネルさんの言葉がノアにも聞こえていたのか、病気の獣人を布でくるみ直して、プレインが抱え上げていた。
 病人だけでも安静にしてあげたいと思うが、権利がないか……。

 権利がない。
 権利……。
 ふと手のひらをみる。そうだ、元の世界に置き換えて考えればいいのだと閃いた。
 ブラック企業の社畜でいて良かった。ややこしくて、複雑な立ち位置に居たからこそわかる。この状況を説明できる立ち位置に居たことがある。

「ヘイネル様、私の力が抑えられる領地ってどこから何処まででしょうか?」
「何かね? この城壁に囲まれた地域だ。君達がここで暴れたところで取り押さえるのもたやすい」
「本当にそうでしょうか? 私はテントを倒せましたが……」
「残念だ」

 ヘイネルさんは握った右手をやや上にあげる。
 兵士達がオレ達を囲むように動き出した。
 ザーマが、とても楽しげな笑顔で眺めているのが視界の角に写った。
 周りが色めき立っているのがわかる。どうにもオレが反抗すると思われたようだ。

「私は暴れませんよ。戦っても負けます。私の発言の意図が誤解されてしまい。残念です。城壁に囲まれていても、領地外の場所があったのではないでしょうか? だから、私はたったの一撃でテントを倒せたのです」
「城壁内に、領地ではない場所?」
「例えば、あのテントの中……」
「なるほど。それが本当なら大罪であるな」

 ヘイネルさんが振り返ってテントを凝視している。原理はわからないが、オレの推測は当たったようだ。
 続く指示がないまま置いてけぼりになって兵士達が困惑している。

「テントを片付けるのを待ちたまえ!」

 ヘイネルさんの怒号にも似た声が響く。
 すぐに奴隷商人と話をしていた偉そうな男がこちらへ向かってあるいてきた。

「この場については、私の仕事であると先ほどはっきりさせたのでは? いかにヘイネル様といえど越権ですなぁ」
「テントを調べたのかね?」
「調べる必要などないと判断しました! ただの奴隷市場のテントですぞ!」
「そんなに過剰な反応されなくても……ひょっとしてご存じだったのでは? あのテントの正体に……」
「お前のような奴隷風情に何が分かる!」

 偉そうな男がオレに向かって怒鳴る。大丈夫そうでも怒鳴られるのは苦手だ。
 反射的に「ご不快にさせて申し訳ありません」と返答してしまった。
 その答えが気に入らなかったのか、偉そうな男は怒りの形相をさらに強める。
 ただし、偉そうな男とヘイネルさんの態度で確信がもてた。思いつきで鎌をかけたが、やはり領地の中に別の領地をつくる方法があったのだ。あのテントの中が別の領地であれば、説明のできない3つの事を説明できる。領主の決めたことはあのテントの中では効果をもたない。だから電撃の魔法もテントを壊せるほどの破壊力があったし、禁止されていたはずの声を奪う罰も使用できた。
 そして、もしザーマが領主としての権限をもっていたら、魔力を流さなくても奴隷を奪いとれる。

「顔色がおかしいぞ。ふむ。顔色など、どうでもいい。速やかにテントを調べたまえ」
「だから越権だと言ってるだろうが! 領主についてきただけのお前は、呪い子に振り回されて失態を犯してここで終わりだろうが! そんなに仕事をしたいなら呪い子の不始末でも片付けていたらどうだ!」

 偉そうな男は必死といった様子でまくし立てる。
 そのみっともない様子に、完全に黒だと思ったと同時に、ほっといても大丈夫だと確信した。

「馬鹿が……」

 ヘイネルさんは、無表情でポツリと呟いて胸元から本を取り出した。収納の魔法を使っていたのだろうか、胸元には収まり切れないサイズの辞典のような分厚い本だ。
 パラパラとめくって詠唱を始める。あれは魔法陣の描かれた本らしい。まるで歌うように詠唱している姿をみて、最初はいきなり歌い始めたのかと思い笑ってしまった。
 詠唱が終わると、ヘイネルさんの足下から白い光が広がっていく。まるで色を塗られたかのように地面も建物も白くなった。ただし、テントだけは色が変わらない。橙色のままだ。
 とても派手な魔法だ。

「どういうことかね? 領地の中に、領地でない区域があるではないか。テントは調べたほうがいいのではないかね」
「こんな魔法が……」
「捜し物の魔法を応用したのだよ。こう見えても私はスプリキト魔法大学を卒業した身なのでね。この程度は容易い」

 白く塗られた空間でヘイネルさんが悠然とした態度で、領地内に他の領地が存在することを立証した。
 周りの様子で立場が逆転したのを感じる。
 行いの責任を取るのは、オレ達よりザーマ達だと確信した。
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