召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第五章 空は近く、望は遠く

たましいとなまえ

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「名前、かわいそうだと思うんです」

 翌日、町へと修行に戻るトッキーとピッキーを見送ったあと、カガミがポツリといった。
 子犬ハロルドの名前についてだろう。確かに、負け犬ハロルドはかわいそうだ。

「ハロルドはいいんだが、確かに負け犬ってのはな……」

 オレも、負け犬って部分はなんとかしてあげたい。
 看破で読める名前は、改名可能なのだろうか?

「ロンロ、名前は変えられるのか?」
「ハロルドのぉ? 変えること、できるわよぉ……多分」
「出来ないこともあるんですか?」
「例えばぁ。お城に魂の記録を保管されている場合はぁ、簡単に変えられないわねぇ」

 そういえば、看破でみることの出来る名前は、魂に刻まれていると言っていたな。

「看破について書かれた本……あるんだっけ?」

 屋敷に山とある魔法の資料を当たることにしよう。ブラウニーに作って貰った目録をあたれば、すぐに見つかるだろう。

「看破の名前が入った本……これは……」

 資料はあっさりと見つかった。巻物に本、あわせて5つだ。メジャーな呪文なだけあって、解説する本も多いってことか。

「多分、この本に載ってるわぁ」

 ロンロが、そのうち一冊を指さした。

「看破の筆……有名な本なのか?」

 屋敷の管理人を名乗るわりに、屋敷のことをそれほど知らないロンロが載っていると断定した。おそらく名の知れた本なのだろう。

「さぁ。この本に載っていることを知っているだけぇ」
「ボリュームある本だぞ、これ」

 サムソンがページをペラペラとめくりながら言う。
 口調は嫌そうだが、表情は楽しそうだ。

「手分けして読むわけにもいかないし、まかせるよ」
「あぁ、自分の部屋で読んでくる」

 そそくさと部屋にもどるサムソンを見送って、とりあえずノアと遊んで読み終わるのを待つことにしよう。

「カガミお姉ちゃんに算数教えてもらうの」

 ところがノアは広間で勉強を始めてしまった。
 ハロルドはそんなノアに付き従っている。

「ボクは、お昼の仕込みでもするっスね」
「お手伝いしますでち」

 全員やることがあるらしく、オレ1人暇になってしまった。
 オレも看破について書いてある本を読もうとしたが、サムソンが全部持って行ってしまっていた。
 暇だ。
 うろうろしていたらカガミに睨まれたので、外へでることにする。

「あらぁ、リーダはお出かけぇ?」

 そういや、コイツもいたな。

「他の奴らは、やることあるし、オレが屋敷にいるとノアの気が散るようだしさ。外にでるしかないんだよ」
「ふぅん……で、なにをするのぉ?」

 ロンロに聞かれて、何をしようかと考える。
 やることは意外とある。
 ガラクタ市で買った物の整理。
 適当に買ったのはいいのだが、屋敷のスペースを圧迫している。
 同僚から、さっさと片付けて欲しいと要望があるものだ。
 冷静になって考えると、壊れたバリスタ、カタパルトといった兵器類はいらなかったかもしれない。
 狩りもしたい。
 黄昏の者スライフと約束した案件だ。鹿を狩る。そして内臓を触媒に、召喚について質問する。召喚魔法の本は一通り目を通したが、呼び出す際の注意点や魔法陣と触媒のことばかりで、知りたいことは載っていなかった。
 召喚された者が、戻ることができるのか、戻らないことができるのか等々、知りたいことは一杯ある。
 しばらくウロウロしながら考えたが、狩りをすることにした。
 ガラクタ市で買った物をいざ捨てるとなると悩んでしまうのだ。
 おかげで、捨てるものと残すものの選定作業がまったく進んでいない。
 どうせ今からやっても進まないだろう。

「ずっと魔法を起動し続ける事が出来ればなぁ」

 弓を手に森をうろついていたときのことだ。
 影収納の魔法を、ずっと起動できれば捨てなくてもいいのになと、考えていたら口に出ていた。

「すれば良いじゃないのぉ」

 軽い調子でロンロがそれに答える。

「寝たり、気絶したら解除されるじゃないか」
「訓練しだいだわぁ。王様の護衛だったりすれば常時起動は必須の技術らしいしぃ」

 え? 魔法って寝ている状態でも使い続けられるのか?
 いつも集中がきれると解除されるので、無理かと思っていた。

「寝ても魔法が解除されない?」
「だからぁ、訓練しだいだわぁ」
「どうやって訓練するんだ?」
「2人でペアになってぇ、1人が魔法を起動させるでしょ。寝てるときも起動させ続けることを意識してぇ、そして寝る」
「解除されるじゃないか」
「起動し続けることを意識して寝るのよぉ。それで寝てる間、見張ってもらってぇ、魔法が解除されたら、たたき起こしてもらうのぉ」

 寝てても起動しようと考えればできるのか……。寝ている間は魔法は使えないと思っていたが思い込みだったようだ。
 2人でペアになって、どちらか一方が寝ているときには片方が起きていて、魔法が切れていないか見張ってもらうか……同僚に頼むのも気が引ける。

「それじゃ、ロンロに見張り役お願いするよ」

 ロンロは睡眠を必要としないらしいから、寝ている間ずっと見張っていてもらうのに適材だ。

「魔法が切れたとしてぇ、どうやって起こすのぉ?」
「やさしく言葉で」
「起きるのぉ?」

 無理だな。声だけで起きる自信はない。しかし、ずっと影収納の魔法を起動したままにできれば便利なのは間違いない。なんとかして、練習方法を考えたいところだ。

「別の手段を考えるよ」
「がんばってねぇ」

 この話はこれでおしまい。ずっと弓を片手に狩りをした。
 成果はゼロ。視点の違いか、ロンロは結構サクサクと獲物をみつけてくれた。
 おかげで鹿がどのあたりを探せば見つかるのか分かった。
 あと足りないのは弓の腕だけだ。
 できるだけ魔法ではなく弓矢で仕留めたい。

「負け犬ってのは、名前じゃ無くて称号だったぞ」

 森での散歩から帰ってみると、サムソンから報告があった。

「称号?」
「適当な称号をつけられる魔法がある」

 そう言うと、本を手に魔法を詠唱する。空中に白くほんのり光る弓と、羽が浮かび上がった。
 サムソンは羽を手に取り、それを使い何やら空中に文字を書いた。
 羽から手を離すと、空中に浮かんでいた文字と羽が混ざるようにぐにゃりと歪み小さな矢の形となった。
 現れた小さな矢を、おもむろに掴むとサムソンは自分の手に突き刺す。

「オレの名前を看破でみてみろ」
「テハテーナを忘れないサムソン?」
「そうだ。こうやって称号を付けることができる」
「てはてーなって、なんスか?」
「そうだな。ユクリンが昔いたグループなんだよ。元はテハッテンという名前だったんだが、メンバーが2人抜けたのを期に、改名した。それから、テハテーナとして再スタートをしたんだが……」

 サムソンの語り口調が熱くなりかけたそのとき、カガミが手を叩いて話を遮った。

「つまりは先ほどのように称号をつけることができる。ハロルドの名前についていた負け犬ってのは称号のことなんですね」

 少しガッカリしたようなサムソンは首を縦に振った。
 それから、先ほどと同じように魔法を詠唱し、弓と羽を出現させる。
 今度は羽で文字を書くことなく横にスッと動かして手を離す。
 出現させた矢を手に取るとハロルドへ向かってヒョイと投げつけた。

「これで、負け犬って称号は消えるわけだ」

 みると確かに、負け犬ハロルドでなくなっている。ただのハロルドだ。

「よかったね、ハロルド」

 ノアが嬉しそうにハロルドの頭をなでる。

「キャン!」

 それに嬉しそうに答えるハロルドだった。
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