召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第五章 空は近く、望は遠く

てれびでみた

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 銀竜は首を持ち上げ、片目を開けて周りを見渡した。
 綺麗な金の瞳だ。見た感じは、RPGゲームで出てくる洋風のドラゴンそのもの。鼻先に金属質の小さな角が生えている。
 竜か……間近でみると迫力あるな。

「ここは……どこ……だ? 室内?」

 まるでオレ達が目に入っていないかのように、呟く。

「初めまして、私はリーダと申します。召喚魔法を使ったのですが、上手く作動しなかったようでして……その、貴方様を召喚してしまったようです。申し訳ありません」

 まずは自己紹介と、謝罪をする。
 必要以上の事は言わないようにすることにした。

「召喚魔法……か。ここは何処だ?」
「ヨラン王国にあるギリアの町、その近くにある屋敷にございます」
「ギリア? 知ら……ぬ、我をすぐに元の場所にかえせ」
「それが……その、時間が経つと元の場所に戻るのですが、すぐは無理なのです」
「……そうか」

 そう答えたきり話は終わりだと言った風に、持ち上げていた長い首をさげ、開いていた片目を閉じた。
 ……やばい、どうしよう。
 下手に刺激したら殺されるかもしれない。
 皆と話しあうことにして、ジェスチャーで隣の部屋に行くことを提案する。
 全員が頷いたのを確認して、音をたてないように隣の部屋へと移動した。

「ごめんなさい……」

 隣の部屋に皆が異動した直後、ノアがボソリと謝罪し深々と頭を下げた。

「ノアちゃんは悪くないっスよ」
「大丈夫よ。今回の件は事故だと思うんです。思いません?」
「そうそう。リーダあたりが、なんとかするって」
「ノアちゃんは、俺の描いた魔法陣を使っただけだ。悪いのは俺の方だぞ」
「びっくりしただけでち」

 皆が口々にノアを慰める。ノアは下を向いたままコクコクと頷くだけだ。

「ほら顔をあげて。皆、ノアをぉ心配しちゃうわぁ。それに、リーダはこれからどうするか考えてるでしよぉ。いつもみたいにぃ」

 ロンロに促されるようにノアは顔をあげてオレを見る。
 他の皆も同様だ。
 正直なところ何も考えていなかったが、この流れでは、それを言うことがはばかられる。
 さて、どうしたものか。
 あの竜は、召喚された存在なので、つなぎ止める魔力が切れれば帰還する。
 どのくらいの時間が必要なのかは分からない。
 竜の正体も分からない。現状において判明していることはこれくらいだ。

「接待かなぁ」

 とりあえず思いつきを口にしてみる。
 目的は時間を潰すこと。他の手は思いつかない。

「せったい……でしたか」
「ノアちゃんは接待ってわかる?」

 プルプルとノアは首を振って否定する。

「つまりだ。あの銀竜を接待……おもてなし、お世話して気分よく過ごしてもらうんだ」
「そうね。召喚魔法で呼ばれた者は、時間経過で帰って行くから、それがベストだと思います」
「カガミ氏の言葉でようやく理解できた。俺も銀竜がでて気が動転していたようだ。それで接待か」
「それじゃ、あの銀竜の好みなんかを教えて貰って、楽しく暮らしてもらうのが当面の計画ってことでいいじゃん」

 オレの接待して、時間を潰す計画は特に問題なく受け入れられた。
 そうと決まればやることも明確になる。

「あの銀竜の好みなどを、どう調べるかだな」
「人間じゃないから、必要な物がわかんないっスよね。違う部屋がいいのか。そのままでいいのか」

 最初の一歩をどうするのかを皆で話しあう。
 あーでもない、こうでもないと、中々話はまとまらない。
 竜がどういう時に気分を害するか分からない。
 ロンロも、竜のことはあまり知らないそうだ。

「あのね」

 そんな時に、ノアがオレ達を見上げて声をあげた。

「ん? なんだい?」
「あのね、クローヴィス様がね、果物欲しいって」
「クローヴィス様……っスか?」
「うん。あの銀の竜って、クローヴィス様っていうんだって」
「え? ノアちゃん、お話したの?」
「うん……私が、間違えて召喚したから、謝りたくて……」

 オレ達が、これからどうするのかの話に夢中になっている間に、ノアは銀竜と話をしていたようだ。
 考えてみれば本人に聞くのが一番いいか……。
 接待するときに、相手の好みを直接聞くのは最後の手段。先手をうってこその社会人という社畜の考えが、駄目な方に作用していたようだ。

「そっか。ノア、ありがとう」
「えへへ」
「グラプゥと……リテレテ出しましょう」
「倉庫に、ブラウニー用にオレンジあるよ」
「それじゃ、オレンジも。その上で欲しいものを聞こうと思います」

 最初の一歩として果物をお供えしてみることになった。

「なに……いや、なんだコレは? リンゴは無いのか……」

 目の前に置かれた果物のはいった籠をみて、銀竜クローヴィスは質問してきた。
 リンゴが無いのが残念そうだ。

「えっとね、これがリテレテで、こっちがグラプゥ。あとはオレンジ」

 質問については、ノアが馴染んだ調子で、それぞれの果物を説明する。

「リテレテ? グラプゥ? どちらも、知ら……ぬ」
「どちらも美味しいの。私は、グラプゥの方が好きなの」

 銀竜クローヴィスは、ノアの話を聞くやいなや、バクリと一口でグラプゥを食べた。

「おいしい?」
「う……む、悪くはない」

 続けて、リテレテもオレンジも、パクパクと銀竜クローヴィスが続けて食べた。
 一通り食べると、頭の先を器用につかって籠をノアの方へと押しやると、目をつぶって寝てしまった。
 この調子で銀竜クローヴィスが帰還するまで、なんとか進めばいいな。
 そんな事を思っていた時。
 屋敷が小さく揺れた。
 ピリピリと小さな音を立てて窓ガラスが軋む。

「地震っスか?」

 プレインがそんな感想を漏らした、その時。

『ミツ……ケタ……』

 屋敷の揺れが一段と大きくなって、低く底冷えする声が頭に響く。

「あわわわ……」

 チッキーがぺたんと尻餅をつく。

「ヒィィィ……」

 銀竜クローヴィスも、小さく悲鳴のような声を上げる。
 揺れはすぐに収まったが、声と同時に感じた底冷えする感覚はまだ残っている。

「何だ、これ、この声?」
『あぁ、可愛そうなクローヴィス。すぐに……すぐに、この母がお前の元へ向かうから、まってておいで……』

 続けて、低く底冷えする声が再び頭に響く。
 母? この銀竜の母親か。

『許さぬぞ! 人間共よ!』

 いや濡れ衣。これは事故だ。

「あの、これは事故なんです」

 とりあえず反論してみる。

『このロウス法国の守り神にして龍神たる妾の子を拐かしたる罪、その大罪は、必ず償わせようぞ』

 どうにも一方通行の通知らしい。

『ほんの欠片ほどの時間……だ、自らの罪、後悔し、頭を垂れ、覚悟し、そして待つがよい』

 その言葉を最後に、底冷えのする感覚は消えた。

「なにこれ……どうしよう」
「なんか、かなりやばそうっス……」
「寒気がまだ残っている……気がします」

 確かに不味い事態だ。
 オレ達が銀竜クローヴィスを誘拐したと判断しているようだ。
 そして怒り心頭の母親が、こちらに来ると。
 銀竜の母親が迎えに……母親がぶち切れて迎えに……ぶち切れた親?
 親?

「なんとかなるかもしれない」

 閃きがあった。
 そうだ。このような事態を知っている。
 当事者になったことはないが、対策についての解説を聞いたことがある。
 専門家の意見だ。大丈夫だと思いたい。
 元の世界で、関係無い事柄にも興味をもっていて良かった。

「なんとか……できるっスか?」
「あぁ。こんな事態について、オレは知っている。対策も聞いたことがある」
「対策って何処で? 何処で聞いたんだ?」
「聞いた……違うな。テレビで……そう、テレビでみた」
 
 オレの言葉に、同僚もノアも、ロンロもチッキーも、ただ無言なだけだった。
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