召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

文字の大きさ
77 / 830
第五章 空は近く、望は遠く

もんぺ

しおりを挟む
 そそくさと、皆を隣の部屋へと誘導する。
 あらためて作戦会議だ。

「モンペだ」
「モンペダ? なにそれ?」

 ミズキが理解不能という顔でオレをみる。他の奴らも同様だ。
 なんてことだ。
 ノアやロンロにチッキーはともかく、他の同僚が分からないのが情けない。
 いつも仕事のことばかり考えているから、世の中で起こっている事に気が回らないのだ。
 社畜というのは、悲しい存在だな。

「モンスターペアレントのことだ。学校などに対して、理不尽な要求をする親のことだ。親が怒り心頭で押しかけることも往々にしてあるらしい」
「それで?」
「いま、学校現場では、このモンスターペアレントに悩まされる事例が散見されるそうだ。そして専門家が、どう対処するのかについて解説していたのを見たことがあるんだ」
「……うん」

 この期に及んでもミズキは分からないといった調子だ。

「つまりだ。今回の件は、銀竜クローヴィスの親がブチ切れて苦情を言いに来るという話だ。つまり、これはモンスターの親が来襲する。リアルモンペ事案だ!」
「モンペ……」
「言われれば、まぁ……そうだな、モンスターのペアレントが来るには違いないが……」
「そんな場合の対策を知っているなんてぇ、リーダはぁ、博識ねぇ」
「で、どう対処するの?」

 そうだ。それが問題だ。
 真偽はさておき、専門家が言っていたことを忠実に実行することにする。

「まず傾聴だ」
「傾聴……」
「ケイチョウ……でしたか」
「そう。まず相手の話に耳を傾けて、じっくり話を聞くんだ。少なくても話が通じる相手だ。相手の話をしっかり聞いてから、弁明するべきだと思う」
「それは一理あると思います」

 カガミが同意してくれる。
 あの銀竜クローヴィスの親で、先ほどの声だ。
 戦って勝てる気がまったくしない。逃げることも多分無理だろう。それなら、あとは話し合いでの解決を求めるしかない。

「次は、誠意だ」
「誠意って、なにするんスか?」
「とりあえずは今と同じようにおもてなしだな。それから、今回の召喚は事故だという証拠に、できるだけ早く帰還させたい。帰還を早める方法があれば……だが」
「おもてなしは……ノアちゃんが、銀竜クローヴィスと仲いいみたいだから、お願いできる?」
「うん。頑張る」

 ノアは笑顔で頷いた。
 そうか、銀竜クローヴィスは子供だったから、ノアと馬が合っているのか。

「クローヴィス様は、リンゴが無いのを残念がってましたでち」
「そうっスね。ボク、買ってくるっス」
「だったら俺は、召喚魔法をもう少し調べてみる」
「私も手伝います。人手は多い方がいいと思うんです。思いません?」

 確かに。複数の方がいいだろう。

「それじゃ、サムソンとカガミは、至急に帰還できる魔法。強制送還の魔法を探してくれ」
「えぇ、強制送還かどうかはわからないけど、探そうと思います」
「モンペとか言い出したときは、どうしようかと思ったけどさ、案外まともじゃん。で、それで終わり?」

 案外まともなどと、上から目線の評価をミズキがする。なぜか、同僚が頷いているのが気になる。
 思いつかなかったくせに。

「いや、まだある。毅然とした対応だ」
「戦うんスか?」

 プレインが驚いた声を上げる。さすがに戦う気はない。

「戦いはしない。でも、防衛の準備はしておいた方が良いと思う。具体的には屋敷にためておける魔力を可能な限り貯めておきたい」

 この屋敷はいろいろな事が出来る。強化結界は、外部の攻撃からの強力な防御として機能する。
 ただし、屋敷の権能は、貯めている魔力に依存する。長い時間、強化結界を張れるように、できるだけ速やかに魔力を貯めたい。

「なるほど、それじゃチッキーも避難しておいた方がいいかもね」

 ミズキの言葉に、皆の視線がチッキーに集中する。
 確かに、レーハフさんの家にでも避難したほうが良いかもしれない。

「あたちは、お嬢様と一緒にいますでち。怖いけど怖くないでち」

 チッキーは首を大きく振り残ることを宣言する。
 力強い口調に、それを押して避難を促す気にはなれず、残ってもらうことになった。

「それじゃ、カガミとサムソン以外は、魔力を貯める作業すすめることにしよう。倒れるギリギリまで毎日魔力を貯めていきたい。少なくてもオレはそうするつもりだ」

 戦えば負けるだろうが、防御の準備に十分すぎるという事はないと思う。
 少なくても、最初から完全に降伏状態にあるより、抵抗の意思を見せられるようにはしておきたい。

「そういえば、ロンロ」
「なぁに?」

 一つ聴き忘れていたことを思い出した。母親竜が言っていた言葉だ。

「ロウス法国の守り神とか、龍神とか、あの母親竜の言っていた内容でわかることはあるか?」

 相手の情報が不足している。少しだけでも不足している情報を補っていきたい。

「そうねぇ。ロウス法国は、今いるヨラン王国の北西、海を渡った先にある国の名前よぉ。少し珍しい国ね」
「珍しい?」
「そうなのぉ。貴族より、王様より、法律が一番偉い国なのぉ。法律の下に王様がいて、他の国とは違って王様も法律に逆らえないのぉ」

 法治国家なのか。
 メジャーな存在だと思っていた法治国家だが、ロンロの口ぶりから大抵の国は、王様の考えのほうが法律より上の存在らしい。

「龍神ってのは?」
「なんだか聞いたことあるような、ないようなぁ……よく憶えてないわぁ」

 残念。そこまで何でも知っているわけでもないのか。

「ちなみに、この辺りからロウス法国まで距離はどれくらいあるんスか?」
「うーん……そうねぇ。はっきり分からないわぁ。たぶん、何ヶ月もかかると思うけどぉ」
「だったら、今日明日来るってことはなさそうっスね」

 移動に何ヶ月もかかる場所なら、すぐには来ないかもしれない。
 準備できる時間があるのはいいことだ。
 うまく行けば、銀竜クローヴィスを帰還させることも出来るかもしれない。

「そうだな。でも……だからといって油断せずに、とりあえず出来ることやろう」
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

【完結】身代わり皇妃は処刑を逃れたい

マロン株式
恋愛
「おまえは前提条件が悪すぎる。皇妃になる前に、離縁してくれ。」 新婚初夜に皇太子に告げられた言葉。 1度目の人生で聖女を害した罪により皇妃となった妹が処刑された。 2度目の人生は妹の代わりに私が皇妃候補として王宮へ行く事になった。 そんな中での離縁の申し出に喜ぶテリアだったがー… 別サイトにて、コミックアラカルト漫画原作大賞最終候補28作品ノミネート

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

婚約破棄? めんどくさいのでちょうどよかった ――聖女もやめて、温泉でごくらくしてます

ふわふわ
恋愛
婚約破棄を告げられた聖女リヴォルタ・レーレ。 理由は、「彼女より優秀な“真の聖女”が見つかったから」。 ……正直、めんどくさい。 政略、責任、義務、期待。 それらすべてから解放された彼女は、 聖女を辞めて、ただ温泉地でのんびり暮らすことを選ぶ。 毎日、湯に浸かって、ご飯を食べて、散歩して。 何もしない、何も背負わない、静かな日常。 ところが―― 彼女が去った王都では、なぜか事故や災害が相次ぎ、 一方で、彼女の滞在する温泉地とその周辺だけが 異様なほど平和になっていく。 祈らない。 詠唱しない。 癒やさない。 それでも世界が守られてしまうのは、なぜなのか。 「何もしない」ことを選んだ元聖女と、 彼女に“何もさせない”ことを選び始めた世界。 これは、 誰かを働かせなくても平和が成り立ってしまった、 いちばん静かで、いちばん皮肉な“ざまぁ”の物語。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

【完結】クビだと言われ、実家に帰らないといけないの?と思っていたけれどどうにかなりそうです。

まりぃべる
ファンタジー
「お前はクビだ!今すぐ出て行け!!」 そう、第二王子に言われました。 そんな…せっかく王宮の侍女の仕事にありつけたのに…! でも王宮の庭園で、出会った人に連れてこられた先で、どうにかなりそうです!? ☆★☆★ 全33話です。出来上がってますので、随時更新していきます。 読んでいただけると嬉しいです。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

異世界で貧乏神を守護神に選ぶのは間違っているのだろうか?

石のやっさん
ファンタジー
異世界への転移、僕にはもう祝福を受けた女神様が居ます! 主人公の黒木翼はクラスでは浮いた存在だった。 黒木はある理由から人との関りを最小限に押さえ生活していた。 そんなある日の事、クラス全員が異世界召喚に巻き込まれる。 全員が女神からジョブやチートを貰うなか、黒木はあえて断り、何も貰わずに異世界に行く事にした。 その理由は、彼にはもう『貧乏神』の守護神が居たからだ。 この物語は、貧乏神に恋する少年と少年を愛する貧乏神が異世界で暮す物語。 貧乏神の解釈が独自解釈ですので、その辺りはお許し下さい。

処理中です...